21 無邪気な水竜
のんびり更新中♪
「おはようございます、パトリエール団長」
「おはよう、ミオ」
今日はネーオールの森の見回りに同行する日だ。
ミオが準備を整えて騎士団のところに行くと、荷馬車に荷物を積み込んでいるところだった。
手伝おうと思ったけれど、案の定お断りされてしまった。
「私はメーヌの森の見回りだから、ミオとは一緒に行けないが……何かあれば騎士達にすぐに言うんだよ?」
「はい」
今回は、シャルルとは別行動らしい。
メーヌの森は団長であるシャルルが騎士団を率いて行き、ネーオールの森は副団長のシリルが騎士団を率いて行くようだ。
「団長、ミオ様のことはお任せください」
「ああ、よろしく頼む」
「よろしくお願いします、ルヴィエ副団長」
「ミオ、あまり無茶なことはしないんだよ」
「大丈夫ですよ、パトリエール団長」
本当にシャルルは心配性だなと思う。
国王ほどではないけれど……
今回のミオの目的は、水竜と会うことだ。
もちろん、ネーオールの森の見回りというのも、仕事としてキッチリと行うつもりだ。
水竜には、休憩中かなんかに会いに行こうと考えている。
お調子者か……お調子者の竜って、いったいどんな感じだろう?
まったく想像がつかない。
どちらの隊も準備が整い、王宮から各目的地に向かって出発となった。
「それではミオ、気をつけて行っておいで」
「パトリエール団長も」
王宮を出るとシャルル達は街に向かって、ミオ達はそのまま南下して別々の道を進む。
ネーオールの森は、王都からは近いため休憩なしで到着となる。
森を抜けると港町があるのだけれど、そこはまた別の機会に行けることを祈ろう。
ネーオールの森までの道は、こっちに来た時に森から王都まで戻るのに通ったけれど、ミオは途中から意識がなかったので、正直ほとんど覚えていない。
開けた場所ではあるが、メーヌの森に向かう草原ほどではなく、あちらこちらに木が生えていた。
「大丈夫ですか?ミオ様」
「はい、全然大丈夫ですよ」
「疲れたらいつでも言ってくださいね」
「ありがとうございます」
途中にわりと大きな川が流れていて、長い橋を渡った。
この川は、森の中を流れて港町へと下っていき、海へと繋がっているそうだ。
橋を渡って間もなく、ネーオールの森が見えてきた。
メーヌの森と同じように、馬は森の入り口で降りて置いていくらしい。
馬と荷馬車の番をする騎士が3人ほど森の入り口で待機となる。
「ミオ様、ここから森を1周して戻って来ます」
「はい」
「足元にお気を付けください」
「わかりました」
ミオはシリルと一緒に先頭の方を歩くことになった。
その方が、もしも魔物がいた場合に皆に知らせやすい。
十分に警戒しながら、森の中を進んで行く。
「どれくらいの頻度で見回りをしているんです?」
「この森とメーヌの森は、最近だとだいたい2週間に1回くらいです。森の見回りがない時は、近くの町やふだんは通らない平原などを見回りますよ」
「そうなんですね」
ミオは今まで見回りには同行したことがなかったけれど、箒の扱いにも慣れてきたし、魔法もだいぶ使えるようになったから、これからはもっと同行する機会が増えるだろう。
森の中を歩いていると、大きな湖が見えてきた。
この湖に、水竜がいる。
それにしても……綺麗な湖だ。
青寄りのエメラルドグリーンで透明度が高く、湖の底まではっきりと見える。
「ここでミオ様に出会ったんでしたね」
「はい。あの時は夢だと思ってましたけど」
「そうなんですか?」
「だって、それまでいた場所と全然違う場所にいたし、目の前に竜がいたんですよ?私のいた世界では、竜なんて空想の生き物でしたから」
「え、竜いないんですか?」
「いません」
「魔物は?」
「いませんよ」
ミオがケラケラと笑っていると、そんな世界は想像できないとシリルは驚いていた。
こうして森を半周した辺りで一度休憩を取ることになり、騎士達が手際よく準備を始める。
近くにさっき渡った川が流れているので、そこから水を汲んで来るらしい。
よし、それなら手伝える。
「ミオ様、水運ぶの手伝ってくれよ」
「任せてください!」
「お前、ミオ様に何てことさせんだよ!?」
「まぁ、見てろって」
「水運ぶのなら私得意なので」
メーヌの森に調査に向かった時にいなかった騎士が焦っていたけれど、ミオの能力を知っている騎士とミオは、キラーンという効果音をバックに親指を立てた。
とりあえず、3人で川へと向かった。
「これくらいでいいですか?」
「まぁ、とりあえずそれくらいあれば足りると思う」
ミオが川から水の塊を浮かび上がらせると、ミオの能力を知らない騎士は口をあんぐりと開けて驚いていた。
これでようやく騎士団の役に立てた気がする。
空中に水の塊を浮かせながら運んで行くミオ。
「そ、それ……落ちてきたりしないんですか?」
「大丈夫ですよ、ここで突然魔物とか現れなければ」
「魔物が現れたら水よりヤバいですって!」
「魔物の気配は感じないので安心してください」
「お前はビビりすぎだって」
ミオは水を運んで行くと、用意されたバケツの中へと入れていった。
今回作ってくれた飲み物は、さっぱりとしたレモンのシロップ漬けを使ったレモンティーだった。
そのままでも美味しい飲み物だったけれど、小さくしたアイスブロックを入れると、冷たくて何倍も美味しい飲み物となった。
すると、他の騎士達もアイスブロックを求めてミオの前に列を作った。
「では、3人は入り口の騎士と交代してきてくれ」
ここで、休憩の道具を持って3人が森の入口へと向かった。
馬と荷馬車の番をしている騎士と交代して、昼食の準備をして待つらしい。
交代した騎士達が合流するまでもうしばらく休憩をする。
「疲れてませんか?ミオ様」
「大丈夫ですよ」
「少し遅くはなりますが、あと半周したら昼食にしますので」
「私、よく食事を食べ忘れちゃうんで、少しくらい遅くなっても全然平気ですよ」
「え、そうなんですか?」
「はい」
ミオがケラケラと笑いながら話すと、シリルも一緒に笑った。
こうして、3人の騎士が合流して残り半周見回って戻ると、もうすぐ昼食が出来上がるところだった。
何事もなく森の見回りは終わりそうで安心する。
この森には、普通のスライム、草(グラス)スライム、ベルフラワー、アロマフラワーなどの害のない魔物しか生息していない。
ちなみに、フラワー系は風に揺られると優しい音色を響かせたり、心地良い香りを漂わせたりする可愛らしい花で、他の植物に紛れてひっそりと咲いている。
今日の昼食は、さっと焼いたパンと、チキンソテー、野菜サラダ、スープ。
相変わらず外で食べるのに豪華な食事だ。
本当に騎士達は料理上手だなぁ。
ミオは、パンの間に野菜とチキンを挟んでバーガーを作った。
うん、美味しいぞこれ!
ミオの食べ方を見て真似る騎士達。
あちらこちらで美味しいという声が聞こえてきた。
あれ、こっちにもバーガーってありませんでしたっけ?
―――――――
―――――
―――
「ルヴィエ副団長」
「ん?どうしました?」
「ちょっと湖に行ってきてもいいです?」
「湖ですか?それなら俺も一緒に行きますよ。ミオ様に何かあったら大変です」
「悪い魔物もいなかったですし、別に何もないと思いますけど……それに、少し水竜に会いに行くだけですから」
「水竜!?」
シリルの声に騎士達の視線が集まった。
「それこそ1人でなんか行かせられませんよ!俺も行きます!」
「そんな危険な生き物じゃないですよ?」
「ダメです」
本当にこの世界の人達って心配性だな。
こうして、シリルと一緒に湖へと向かうことになったのだけれど……何ですか?この集団移動は。
水竜が見れるかもしれないということで、馬と荷馬車番の騎士以外はぞろぞろとついて来てしまった。
見回りの時とは違って、森の中を通って湖に向かうと、思いのほか近かった。
さて、水竜を呼んでみるか。
氷竜は自分の方から会いに来てくれた。
炎竜はインターホン。
水竜は……見回してみたけれど、インターホンのようなものは見当たらないため、とりあえず声をかけてみることにする。
「あのう、水竜さーん!ちょっとお話がしたいので出て来てもらえませんかー?」
「え、そんなんで出てくるんですか?」
「えーと……ちょっと水竜は呼び方がまだわからないので、とりあえずって感じで……」
しばらくすると、水面が盛り上がってきて……これは何だか嫌な予感が…
バッシャーンという激しい水音とともに、巨大な竜が水の中から飛び出してきた。
嫌な予感はしたけれど、この水しぶきは避けることが出来ず。
騎士達とともに、滝のような水しぶきを盛大に浴びることとなった。
―――なになに?僕のこと呼んだ?
あ、はい。呼びました。
―――あ、君は僕のことを助けてくれた小さなカエデだ
えーと……私はカエデではなくて、娘のミオです
(小さなカエデって……)
―――え、そうなの!?僕、てっきり小さなカエデかと思ってたよー。どおりであの時話せなかったわけだ
本当に姿を現した水竜に、騎士達は全員驚きながら見上げていた。
―――何で僕のこと呼んだの?遊んでくれるの?
お母さんがあなた達と話していたみたいだったから、私も話せるのかなって思って会いに来たんです。てゆーか、遊ぶって……?
―――会いに来てくれたらいつでも話せるよ!それと、遊ぶって言うのはね……
え?
水竜がミオを口でくわえると頭の上にポーンと放り上げた。
え!?ちょっと私にどうしろと!?
焦るミオだったけれど、水竜は器用にミオを頭の上に乗せて上空へと飛び上がって行った。
下の方で、騎士達がミオを呼ぶ声が聞こえてくる。
水竜は、ミオを乗せて湖の上を旋回しながら飛んだ。
―――ね、楽しい?
ま、まぁ、楽しいです……はい
―――本当に?嬉しいなぁ、それじゃあ、もっと飛んじゃうよー!
え……わあぁ~っ!
まるでジェットコースターのように飛び回る水竜。
ミオは振り落とされないように頭の角にしがみついた。
ち、ちょっと何ですかコレ!?
お母さんはこんなことしてたんですか!?
下の方で騎士達が青ざめながら見上げている。
―――久しぶりに遊べて、僕とっても楽しいよ!
そ、そうなんですね……私も楽しいけど……そろそろ降ろしてもらえると助かるかな
―――え、もう?うーん……仕方がないなぁ、また遊びに来てくれる?
また来ますから
―――本当?約束だよ?
はい、約束します
水竜はミオを地面へと降ろした。
炎竜が教えてくれた通りお調子者のようではあるけれど、とても素直な竜だと思う。
末っ子気質が半端ない気もするが……
―――ここでミオの声が聞こえたら、僕、いつでも出てくるからね!
ここで呼べばいいんですか?
―――うん、そうだよ!ミオの声は覚えたから、ミオの声が聞こえたら出てくるよ!たまに出てくると知らない人でさ……そうすると僕、何かされちゃうみたいなんだよねー
……私の声以外は無視してください
―――うん、わかったよ!それじゃあ、僕は家に戻るね!またね!
また来ます
水竜は、嬉しそうに空中を旋回すると、湖の中へと戻って行った。
どうやら、人間に何かされてるって意識はあるようだった。
ミオの言う通り、ミオ以外の声は無視してくれるといいけれど……
「ミオ様!」
「大丈夫ですか!?」
騎士達が血相を変えて駆け寄って来た。
そりゃあそうだろう、突然ミオは水竜に連れて行かれたのだから。
「あ、大丈夫ですよ。ご心配をおかけしました」
「水竜に食べられたかと思いましたよ!」
「本当に!」
「水竜的には、遊んでくれてたみたいです。ちょっと怖かったですけど……」
「あれが!?」
「はい。まぁ……とても楽しいって言ってたので」
「え、水竜と話してたの?」
「はい」
「竜って……話せるもんなんですか?」
「話せるものでした」
それよりも……
「ビショビショになっちゃいましたね。すぐに乾かすので」
「あれは凄かったな!」
「滝に打たれたのかと思いましたよ」
ミオは魔法で、全員の体から水を取り除いて湖へと戻した。
ミオ自身の体からも。
今度来る時は何か対策を考えて来なくては。
「私の用事はんすだので、引き返しましょうか」
「わかりました」
「何だか付き合わせてしまって……すみませんでした」
「何を言ってるんですか。これは俺の仕事ですから」
「休憩中なのに」
「これも休憩の一環です」
この世界の人達はなんていい人達ばかりなんだろう、ミオはいつもそう思う。
こんな素晴らしい人達がいるこの王国は、絶対に守っていかなければと改めて思うミオだった。
―――――――
―――――
―――
「水竜には会えたのか?」
「はい、ちょっとだけ遊んできました」
「は?遊んだって……水竜とか?」
「はい、そうですよ」
今日はカミーユと2人で夕食を食べている。
シャルルは今頃、メーヌの森に向かう途中で野営をしているところだろう。
「どうやって遊ぶんだ?」
「えーとですね……口にくわえられて上空に放り投げられたあと、水竜の頭に乗せられて飛び回られます」
「それ……危険じゃないのか?」
「まぁ、ジェットコースターみたいな感じですかね?」
「ジェッ……何だそれ?」
「私がいた世界にある乗り物です」
「そんな危険そうな乗り物なんかあるのか!?どんな世界だよお前の世界って…」
「うーん……スリルを楽しむ乗り物なので」
「何言ってるかさっぱりわからん」
ジェットコースターに乗っているカミーユを想像すると……ちょっと面白いかもと思うミオだった。
「師団長」
「何だ?」
「ネーオールの森って、箒だととても近いんですよ」
「……駄目だ」
「え、まだ何も言ってないですけど」
「お前の言いたいことはだいたいわかる。ネーオールの森に1人で行くって話だろうが。俺が許可すると思うか?駄目に決まってんだろ」
「でも、本当にすぐでしたよ?」
「駄目だと言ったら駄目だ。俺も行く」
やっぱりそうなるのか。
まぁ、仕方がない。
今度水竜と遊ぶ時は、カミーユも一緒に乗せることにしよう。
「パトリエール団長って、明日メーヌの森に着くんでしたよね?」
「そうだな。今頃野営してるだろ」
「だったら、森で合流するってことで私も行ってきていいですか?」
「まぁ、シャルルもいるしな……って、道中1人だろうが。騙されるところだった」
「別に騙してなんかないですよ…」
「明日か……午前中なら一緒に行ってやる」
「え、本当ですか?」
思っていたよりも早く、4体の竜に会うことが出来そうだ。
風竜は極度の恥ずかしがり屋だと炎竜が言っていたから、もしかしたら会えないかもしれないけれど、そうだとしても他の竜には会えたのだから良しとすることにしよう。
風竜か……
氷竜は真っ白、炎竜は赤、水竜は水色……風って何色だ?
透明……なわけはないだろうけど……え、透明なのかな?
―――――――
―――――
―――
「ねぇねぇ、聞いてよ!小さいカエデかと思ったら、カエデの娘のミオが遊びに来たよ!」
「俺の所にも来たぞ。カエデが小さくなったのかと思ったら、娘だった」
「水竜よ、私がミオには礼を言っておいた。二度と操られたりしないよう注意しろ」
「大丈夫!ミオの声以外は無視するよう言われたもん!ミオじゃなかったら僕、出て行かなーい!」
「わ、私の所にも来る?」
「行くんじゃねぇか?別に怖がらなくていいぞ、小さかったし」
「うんうん、小さかった!」
「これで、また元通りだ。王国のことはミオに託す」
4体の竜達の会話。
ミオのことを話す竜達は、どことなく楽しそうだった。
.
お読みいただきありがとうございます!




