19 ある日クマさんに出会ってしまった
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「サンブリーにも魔法陣の書はないよー。あそこはホントもう無理だよぉ、勘弁して!」
「……ちゃんと探したんだろうな?ラウル」
「探した探したー。また探すんなら今度はロドリエルが行きなよねー」
薄暗い部屋の中で話す2人の黒ローブ。
1人は金髪ショートヘアで人懐こい笑顔が特徴的なラウル。
そしてもう1人は、ダークブラウンでウエーブがかった肩くらいの長さの髪の男性で、名前をロドリエルと言う。
2人はこの組織の中では幹部的な立ち位置のようだ。
「俺は総裁の傍を離れるわけにはいかないから、探しに行くことは出来ん」
「だったら、代わりに俺がここにいるよ」
「それは駄目だ。総裁が目覚めてもお前には何もできないだろう?」
「いくら俺でも話し相手くらいできるってー。てゆーかさ、本当に総裁は目覚めるの?」
「あぁ、必ず目覚める」
「ふぅん」
2人が視線を向けた扉の向こうに、眠り続ける総裁がいる。
どうして眠っているのか。
いつから眠っているのか。
「総裁っていつから眠ってんの?」
「以前この王国で戦争が起きた時からだと聞いている。総裁が作った魔法陣がどこぞの魔導師に破壊されて、それで昏睡状態に陥ったのだとか……両親はそう言っていた」
「ふぅん……ま、何でもいいけどさー」
総裁はかなり高齢……ということは、目覚めたところで何の力も使えないのでは?ラウルはそんなことを考えながら、ぼんやりと天井を見上げた。
「(次はどうやってミオちゃんと仲良くなろうかな……)」
―――――――
―――――
―――
「師団長」
「何だ、どうかしたか?」
現在、昼食の時間となっていて、食堂は騎士団と魔導師団でとても賑わっていた。
そんな食堂で、ミオはシャルルやカミーユと一緒に昼食を食べている。
「魔法陣って、魔導師じゃなくても描けるんです?」
「そりゃあ描けるさ。描くだけならな」
「だったら、魔法陣を使えば誰でも魔法が使えるってことです?」
「そんなわけないだろ。魔法陣を描いても、魔力をこめなければ発動はしない」
「あ、そうなんですね」
「そんな誰でも簡単に魔法陣が使えたら、魔導師なんか必要なくなるだろうが」
「なるほど、確かにそうなりますね」
「何でそんなこと聞くんだ?」
「うーん……黒ローブって、いつも魔法陣使ってくる感じじゃないですか。魔導師がそんなにいないんだったら、普通の人が描いてるのかなって。でも、魔導師しか発動できないんなら、黒ローブは魔導師の組織ってことも考えられるし……どこでそんなに魔導師を集めてるんでしょう?」
ミオの疑問にカミーユもシャルルも驚いたように顔を見合わせた。
魔導師団が探すのに苦労している魔導師を、黒ローブの組織はどうやって探しているのだろうか?
「そもそも、黒ローブの目的って何なんですか?お母さんの日記にも、その辺のことは何も書かれていなくて」
「さぁな、それは俺にもわからん」
「国王に聞いても……たぶんわからないだろうが、後で聞いてみるよ」
「黒ローブの組織に入っちゃう人が、こっちに来てくれるといいんですけどね」
人不足ではあるけれど、決してブラックではないところが魔導師団の良いところだ。
何でこんなにも職場環境はいいのに、魔導師はやって来ないんだろう?黒ローブの組織って、そんなに魅力的な組織なのか?
「それとですね、師団長」
「何だ?」
「スージーさんにカレー粉がもうすぐなくなるって言われたんで、これ食べたらササッとマルセーヌの町に行ってきてもいいです?」
「駄目だ」
「えー、何でですか…」
「1人で出歩くなと何回も言ってるだろうが」
「それはモンフォワールの街で、マルセーヌじゃないですよね?」
「同じことだ!」
「そんなに時間かからないですよ?たぶん」
「駄目だと言ったら駄目だ」
「明日でも良ければ、私が休みだから一緒に行ってあげるよ」
「よし、ミオも明日は休みにする。シャルルと一緒に行ってこい」
「え、いいんですか?ありがとうございます!」
こうしてミオは、思いがけずシャルルと一緒にマルセーヌの町へと出かけることになった。
そういえば、また一緒に行こうと約束していたな。
「じゃあ、リリアンナちゃんのお土産を買いに、ちょっと街に行ってきてもいいですか?」
「だーかーらー、1人で出かけるのは駄目だと言ってるだろうが!いい加減反省しろ!」
「反省はしましたよ?でも、次は大丈夫な気がします」
「何を根拠に言ってるんだ?いいから、アルが学校から帰ってきたら一緒に行ってこい」
「……わかりました」
昼食後、ミオは訓練場で魔法の練習をしながら、アルバンが帰って来るのを待つことにした。
―――――――
―――――
―――
「すみません、パトリエール団長。付き合わせてしまって」
「前にまた一緒に行く約束をしただろう?」
「そうでしたね」
マルセーヌの町に向かって走る馬車に乗る、ミオとシャルル。
箒の方が早く行って帰って来れるのだけれど、さすがにシャルルを後ろに乗せて飛べる自信はない。
マルセーヌの町であれば、馬車でも日帰りが出来る距離なので、のんびりと馬車の旅を楽しむことにした。
残念ながら酔い止めのポーションはまだ出来ていないため、酔わないように気合を入れる。
マルセーヌの町に向かう道は、サンブリーまでの道よりも揺れが少ないため、少しは楽な気がした。
「お土産は何にしたの?」
「えーとですね……これです。ウサギのぬいぐるみ」
「ふふ、ミオらしいな」
「喜んでもらえたら嬉しいです。あと、マリーさんには手荒れのクリームを見つけたので買ってみました。とても香りがいいんですよ」
「それは喜ぶだろうな」
こうして途中で休憩を挟んで向かった馬車は、ちょうどお昼時の時間にマルセーヌへと到着した。
馬車は帰りにも乗せてもらうため、それまで待機していてもらう。
ミオとシャルルが、マリーの店に向かうため路地に入ろうとすると、街の中心の方から騒がしい声が聞こえて来て立ち止まった。
「何だか騒がしいですね?」
「何かあったのだろうか」
「ちょっと行ってみましょうか」
「そうだな」
2人が騒ぎ声が聞こえる方へと走って行ってみると、町の広場のような場所に人だかりが出来ていた。
人混みをかき分けて前に出て行くと、そこには血まみれで横たわる人達が。
胸や背中や腕など、何か鋭い爪のようなもので切り裂かれているようだった。
かなりの出血量で、倒れた人達の周りはまるで血の海のようだった。
「ちょっとヒールで回復してみます」
「わかった」
血まみれになっている人は6人。
1人ずつヒールを使っていたのでは間に合わない。
ミオは胸の前で両手を組んで詠唱を唱えた。
「ホーリーヒール」
6人の体が光に包み込まれる。
ホーリーヒールは新しく覚えた回復魔法で、使う前は凄いヒールか何かだと思っていたのだけれど、使ってみたら範囲回復の魔法だということがわかった。
ただ、魔力の消費量は多いらしく、使ったあとの疲労感が凄いのが難点だ。
まぁ、倒れなくなっただけ良しとしよう。
6人の体を切り裂いていた傷が少しずつ癒えていき、全員の意識が回復した。
周囲から歓声の声が上がる。
フラフラと足元が揺れたミオの体を、シャルルが支えてくれた。
「大丈夫か?」
「はい、何とか」
「ここに座っていて」
「……はい」
シャルルはミオを噴水の縁に座らせると、倒れていた人達に事情を聞きに行った。
そんなミオに、町の人が飲み物を持って来てくれた。
「凄いねお嬢ちゃん。もしかして王都の魔導師さんかい?これでも飲みな」
「あ、ありがとうございます」
「あれはもう助からないと思ったけどねぇ。ありがとうね」
「いえいえ、間に合って良かったです」
頂いた飲み物は、いちごとミルクと砂糖をミキサーでジュースにしたような、甘くて濃厚でとても美味しい飲み物だった。
こっちの世界には本当に美味しいものがたくさんある。
「ごちそうさまです」
「おかわりはいらないかい?」
「頂きます!」
あまりにもの美味しさに、即答でお代わりを頂いてしまった。
それにしても美味しい、またここに来た時に立ち寄る店リストに入れておこう。
美味しいジュースを飲んで、体力も少し回復したように感じていると、話を聞いたシャルルが駆け寄って来た。
「体は大丈夫?」
「はい。何だかとても美味しい飲み物を頂いたので、回復しました」
「そうか。あの者達は、大きな黒っぽい何かに襲われたらしい。また襲われる人が出るかもしれないし放ってはおけないから、私は様子を見に行ってくるよ」
「私も一緒に行きますよ!」
「ミオは危険だからここにいて」
「パトリエール団長こそ1人じゃあ危険です!私がサポートしますよ」
「……それじゃあ、私は武器を調達してくるから、少し待っていて」
「はい」
今日は仕事で来たわけではないので、2人とも何も持って来ていない。
ミオは魔法があるので、箒はなくてもどうにかなるけれど、シャルルはそうもいかないから、武器屋で手頃な武器を調達する。
武器屋の主人が状況を理解していて、無償で武器を提供してくれたようだ。
シャルルが戻ってくると、ミオはお土産が入ったバッグを近くのお店に預けて、現場へと向かった。
―――――――
―――――
―――
「この辺りだと思うから気をつけて」
「はい」
ミオ達が入って来た入り口とは反対側の門から出ると、牧草地帯となっていてあちらこちらに牛などの動物が放牧されていた。
それぞれ柵で囲われた広い牧草地で、思い思いに草を食べたりしている。
何かに襲われた人間がいたとは思えないような、のどかな光景だった。
「動物たちは荒れてませんね」
「そうだな。少し静かすぎて違和感がある」
「うーん……特に魔物の気配も感じませんけど……あの木が生い茂っている所に行ってみます?」
「そうしてみよう」
見渡す限りでは、大きな黒っぽい物体は確認できない。
とりあえず、近くにあった、木が密集した場所に行ってみることにした。
大きな木々が日の光を遮り、暗くひんやりとした空気で満たされたその場所は、森と言っていいのだろうか?
警戒しながら進んで行くと、木々の間をくぐり抜けたところに小さな小川が流れているのが見えた。
そしてその小川の中に、黒い毛でおおわれた大きな生き物を見つけた。
クマ?
「えーと……クマですかね?」
「そのようだな」
「私、野生のクマって初めて見ましたけど……山にいる生き物じゃないんです?」
「私も山の生き物と認識していたが……この近くに山はないよ」
「どこから来たんでしょうね?」
ここから見ている限りでは、荒々しい気配などは感じない。
でも、クマがどういったタイミングで襲ってくるのかはわからないから、下手に動くことも出来ない。
「クマに見えて実は魔物ってことは……」
「あれは、どう見てもクマだな」
「……どうします?」
「魔物でないならば、無下に殺すわけにもいかないだろうしな……」
「とりあえず、足元だけ凍らせて動けないようにしてみますね」
ミオはクマの足元を狙って、フロージングランスを放ち、クマがその場から動けないようにした。
こうして恐る恐る近づいてみると……
「……酷い」
「何だこれは」
クマは傷だらけになっていて、所々毛が刈られ、手の爪は何本も剝がれかけているのがわかった。
これは、人間を襲ったからできた傷ではない。
人間に襲われてできた傷だろう。
それじゃあ、さっきのケガ人達は……
「とりあえず、回復させてみます」
「あまり近づくな、危険だ」
「えーと……じゃあ、こうして…」
ミオは、ホーリーシールドを張ってからクマに向かってヒールをかけてみた。
クマに回復魔法が効くのかはわからなかったけれど、このままではクマが死んでしまうかもしれないし、痛みで気性が激しくなって人間を襲ってしまうかもしれない。
光に包み込まれたクマの体は、徐々に傷が癒えていくのがわかった。
回復魔法の効果はあるらしい。
人間よりも少し回復速度が遅いけれど、このままヒールを使っていればいずれすべての傷が癒えるだろう。
「ミオ、少し休もう。さっきも回復魔法を使ったばかりだ」
「大丈夫です。あと少しで終わるので…」
ミオの額に汗がにじみ、少しずつ呼吸が荒くなっていき……ようやくクマの傷をすべて癒すことが出来た。
大きく息を吐き出して、シールドとクマの足元を固定していた氷を解除する。
クマは、激痛だったであろう苦しみから解放され、ゆっくりとミオの方に顔を向けた。
クマと目が合い逸らせずに固まるミオ。
そんなミオに、クマはゆっくりと歩み寄った。
「(わ、私死んだかも……)」
「ミオ!」
剣を抜こうとしたシャルルだったけれど、クマがミオに顔を寄せて止まったのを見て、剣に手をかけたまま動きを止めた。
ジーッとミオを見つめるクマ。
ミオの顔から変な汗が噴き出してくる。
ほんの数秒だろうけれど、とても長い時間止まっていたような感覚に包まれたあと、クマはミオから顔を離して北の方に向かって走って行った。
へなへなと座り込むミオ。
「大丈夫か!?ミオ!」
「し、死んだかと思いました……」
「私もさすがに動けなかったよ」
全身汗でビショビショなんですけど……お風呂入りたい。
少し休んでから、2人は町へと戻って行った。
町に戻って、シャルルが6人にもう一度話を聞こうとしたけれど、6人の姿はどこにもなかった。
町の人に聞くと、6人はこの町の住人ではないらしい。
シャルルは、おそらくあの6人が先にクマを襲い、返り討ちにあったのだろうと町の人達に説明をした。
そして、クマはもうこの辺りからはいなくなったので、町の人を襲うこともないと付け加えた。
こうして、ミオ達はようやく目的の場所へと向かうことが出来た。
―――――――
―――――
―――
「まぁ、そんなことが。大変でしたねぇ……さ、たくさん召し上がってください」
「わぁ、美味しそう!いただきます」
「いただきます」
やっぱりマリーの料理は最高だ。
疲れ切った体に元気が満たされていく。
お土産を渡すと2人ともとても喜んでくれて、ミオも満足だった。
食事を食べ終えてしばらく談笑し、ミオはカレー粉を分けてもらってその代金を支払った。
かなりお断りされたけれど、ただで貰うわけにはいかないから、マリーを説得して代金を受け取ってもらった。
「ごちそうさまでした。また来ますね」
「私もまた立ち寄らせてもらうよ」
「本当にありがとうございました。また、いつでもいらしてください。リリアンナも喜びますので」
「またね、お姉ちゃんとお兄ちゃん!」
「うん、また来るね」
「また、たくさんお話を聞かせてくれ」
「うん!」
もう少しゆっくり話をしたかったけれど、クマ騒動で時間を費やしてしまったため、もうそろそろ帰らないと遅くなってしまう。
また今度、ゆっくりとお邪魔することにしよう。
帰りの馬車に乗り込んだ時には、町の人達が見送ってくれた。
カレー粉を貰いに来ただけなのに、何だか大変なことに巻き込まれてしまったものだ。
「何だか疲れましたね」
「そうだな。まさかクマと対峙することになるとは思わなかったよ」
「私、最後は本当に死んだかと思いましたもん」
「私もだよ」
顔を見合わせて笑った。
こうして笑って話せるようなことで良かったと、本当にそう思う。
「それにしても……まさかマリーさんが転生者だとは驚きました」
「そうだな。2人の会話はなかなか面白かった」
食事を食べ終えた後の談笑で、マリーが実は転生者だということが判明した。
しかも、住んでいた所もミオとはかなり近い場所だった。
ミオと違うのは、マリーは元の世界で死んでしまい、こちらの世界に転生してきたということ。
でも、元の世界にいた頃の記憶はあるらしい。
「転生者ってけっこういるものなんです?」
「どうだろうな?私はミオが初めてだったから」
「もしかしたら、探せばいるのかもしれませんね」
「そうかもしれないな」
「まぁ、私は死んだわけじゃないので、転生とも違うのかもしれませんが」
異世界とは本当に不思議な世界だなと思う。
もしかしたら、こちらの世界からも向こうの世界に行った人がいるのかもしれない。
いろんな世界と繋がっているのかな……などと考えだしたら、果てしなく考えてしまいそうだ。
「ミオは……元の世界に戻りたくなったりはしない?」
「元の世界ですか?そうですね……朝から深夜まで働いて、家に戻っての繰り返しだったし……またあの生活に戻るのかって考えたら、戻りたくはないかもです」
「深夜まで仕事?」
「そうですよ。嫌な上司がいて、山ほど仕事押し付けて自分は帰っちゃうんです」
「そうなのか……大変な仕事だったんだな」
「こっちの世界の仕事はかなりホワイトなので、楽しいですよ。まぁ、不便なこともたくさんありますけど」
「ミオのいた世界は、便利なものがたくさんありそうだったからな」
「向こうの便利グッズが全部こっちで使えたら最高ですね!」
こっちの世界は不便なことが多い。
でも、それもこの世界の良さなのかもしれない。
馬車が王都に近づくにつれて、太陽は少しずつ沈んでいき、空が夜の空へと変わっていく。
見慣れてきた景色だけれど、飽きることのない景色だと思う。
1日の疲れを洗い流してくれるような、そんな景色だった。
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