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憧れの異世界はやっぱりとても大変な世界  作者: 花聖
第一章 異世界生活と黒ローブ
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02 伝説の魔導師

のんびり更新の小説です。気長にお付き合いいただけると嬉しいです♪

語彙力も文章力もありませんが、楽しめる物語にしていけるよう頑張ります。

優しく見守ってくださいませ。

 ぺリグレット王国

 小さな国ではあるが、豊かな大地に恵まれていて、南の森を抜けると海が広がっていた。


 ここは異世界。


 そんな異世界にやって来たごく普通のOLだった桜井美桜が、ミオ・サクライとして生きていくことになった、異世界転生ファンタジー。











 ―――――――

 ―――――

 ―――





 ミオが目覚めてどれくらいたったのだろうか?午後にまた第一騎士団団長のシャルルが話を聞きに来ると言っていたけれど・・・いったい今が何時ごろなのかがわからず、何もすることがないミオには果てしなく長い時間に感じていた。


「エレーヌさん」

「何で御座いましょう?」

「あそこの庭園って、お散歩とかできるんですか?」

「こちらは王宮で御座います。ミオ様お独りでとなると、許可が降りておられませんので」

「なるほど」

「申し訳御座いません」

「いえいえ、大丈夫です」


 王宮……私、そんな凄いところで3日間も眠ってたんだ……











 森の奥で水竜を元に戻した後、ミオは騎士団や魔導師達と共に王都に向かった。

 その馬車の中でミオは意識を失い、この部屋で3日間も寝て過ごした。

 そして、今朝目覚めた。

 突然、理解が追いつかないような出来事に遭遇し、頭の中は混乱していた。

 それに、高熱で寝込んでいた訳だから、それなりに身体は疲れていたと思う。

 向こうの世界でも残業を終えて帰っている最中だったし……それにしても!


 宮廷医やシャルルにも、ゆっくりと身体を休めるように言われたので、食事を頂いて、紅茶を飲んで、日記を書いて過ごしていたのだけれど、さすがに暇なのである。


 身体が辛いのであれば、ベッドで横になる事も出来るのだけれど、残念ながら3日間も眠っていたので睡眠時間は足りまくってるし、蓄積された疲労やストレスも、全てリセットされている。


 携帯も使えない、テレビもない、マンガ本や小説もない、ゲームもない……一体、何をして過ごせと言うのですか?罰ゲームですか?


「何かお手伝い出来ることとかないですか?」

「何をおっしゃいますか。ミオ様に手伝いをさせるなど、私の首が飛んでしまいます」

「そ、それは大変ですね…」


 せめて自由に出歩ければ良いのだけれど、なんせここは王宮。

 庶民が自由にフラフラと歩ける場所ではない。

 午後にはシャルルが部屋に来るとの事だったので、それまでの時間が過ごせれば良い……あれ、今って何時頃なんだろう?


「今の時間で御座いますか?そうですね、間もなく食事の時間となりますが…御用意致しましょうか?」

「あー、いえいえ、まだ全然お腹がすいてないので!」

「左様で御座いますか?」


 ずっと部屋の中で過ごしていたし、やる事もないので動いていない。

 全くと言っていいほどに体力を消費していない。

 このままここで何日も過ごしたら……確実に太る!

 ミオは徐に立ち上がると、バッグから携帯を取り出した。

 動画でも見ながらエクササイズでも……携帯を操作しようとしたところで手を止める。


 ネット環境もない世界で、携帯なんてただのモノでしかないのですよ!


 ガックリと肩を落としながら携帯をバッグにしまった。

 ふとバッグの中のパソコンが目に留まり、取り出して電源を入れてみた。

 なるほど、電源は普通に入るんだ。

 まぁ、携帯も使えてるんだから当たり前と言えば当たり前か…などと思いながら、立ち上がったパソコンを操作してみる。


 ……ネットが使えないパソコンなんて、文字を打つ以外何ができる???


 日記をパソコンで書くことも考えたけれど、バッテリーがいつまで持つのかがわからないので手書きのまま書き残すことにした。

 そんなわけで、利用価値のないパソコンはバッグにしまう。

 つまるところ……やることがない。






「エレーヌさんは、休憩しないんですか?」

「私ですか?ご心配には及びません。きちんと休息時間は頂いておりますので」


 エレーヌは、ミオの前に紅茶を淹れたカップを置きながら、笑顔で答えた。


 ミオの記憶では、エレーヌは一度も座ったりしていない。こんなに立ちっぱなしでは倒れてしまうんじゃないだろうか?


「一緒に座ってお茶しませんか?」

「お気遣い感謝致します。ですが、私は仕事中で御座いますので、お気持ちだけ頂いておきます」


 自分だけ座って紅茶を飲んでいるのが、何だか申し訳なく思いながら紅茶を飲み干すと、ミオは立ち上がって窓の前に立った。散歩は出来なくとも、ここから見るくらいなら許されるよね?


 窓から顔を出すと、心地良い風が頬を掠めた。






 ―――――――

 ―――――

 ―――






「俺は、王国魔導師団 師団長、カミーユ・グレイヤールだ」

「ミオ・サクライです」


 長い長い時間をどうにか過ごし、漸くシャルルが部屋にやって来た。

 文官と共に部屋を訪れたのは、シャルルの他にもう1人。

 紺色のローブを着た男の人だ。

 シャルルとローブ姿の人がソファーに座ると、文官は頭を下げて部屋から出て行った。

 ちなみに、文官の男性はエルヴェ・ブルノ―という名前らしい。

 とても誠実そうで、穏やかだけれどバリバリ仕事ができる人に見える。

 シャルルに促されてミオは2人の向かい側に座った。

 頃合いよく、エレーヌが3人分の紅茶をテーブルに並べ、真ん中に菓子を入れた皿を置くと、一礼して部屋を出て行った。


 シャルルに促されて自己紹介した師団長、カミーユは、シャルルよりは背は低いものの、整った顔のいわゆるイケメンの部類に入る。

 水色のやや癖のあるショートヘアと、キリッとした目が印象的だ。


「身体は休められたか?」

「はい。元々3日間も眠っていたので、そんなに身体は辛くなかったですし」

「そうか。ならば良かった」


 シャルルとカミーユは、紅茶を一口飲んだところで、本題に入った。


「まず、今後のことについてだが」

「……はい」

「ミオには、王国魔導師団に所属してもらう」

「王国……魔導師団ですか?」

「この国を守っていくためには、ミオの力が必要となる」

「私……何も出来ませんよ?」


 この世界に来た時に魔法を使えたのは、たまたまだったと思っている。

 あの時は夢だと思っていたし、人間、窮地に追いやられると不思議な力が使えたり…使えなかったり……


「水竜の目を醒まさせたあの力は、伝説の魔導師の力だった」

「あれは……たまたまです」


 母親の声が聞こえたから、あんな力を使えたのだ。

 ミオには、魔法の使い方など全くわからない。


「ミオだったか?お前、魔力はどんくらい使えるんだ?」

「魔力……ですか?使い方なんて全くわかりませんけど?」

「伝説の魔導師については?」

「知らないです」

「まぁ、俺も会ったことはないけどな。カエデ様は23年前に突然消えたらしい」

「そう……なんですか(お母さんと同じ名前ってのが気にはなるけど)」


 元の世界に魔法なんてものはない。

 小説とかだと、転生したら凄い魔法が使えるようになった……みたいなものが多かったけれど、それはあくまでも小説の中の話。

 現実には有り得ない話だ。


 だったら、なぜあの時、水竜の目を醒ますことができたのか……それは、ミオの中でも謎である。

 母親がいつも聞かせてくれた物語に、何か秘密がありそうではあるけど。


「その、カエデ様なのだが」

「……はい?」

「名を『カエデ・サクライ』と言ったそうだ」

「……………え?」


 マジですか?母親と同じ名前なのですが…






 ―――――――

 ―――――

 ―――






「ここが、カエデ様が使っていた部屋で、コレがカエデ様が使っていた箒だ」

「……はい」


 箒……やっぱり魔法と箒はセットなのかなと思ったけれど、魔力操作で箒を操れる魔導師は殆どいないのだとか。

 箒で上空を飛べれば、討伐でもそれ以外でもとても重宝するのだが、現在の魔導師団には、師団長であるカミーユ以外、まともに使える魔導師がいないらしい。


「あとは……コレな。カエデ様の日記だ」

「えーと……人の日記を読んでも………良いんでしょうか?てゆーか……母親の日記とか…」

「ミオも伝説の魔導師だろうが。日記は後世に何かを伝えるためにあるものだ。そこから学べることも多い」

「そう……なんですか…?」


 日記は貴重な資料ってことか。


 伝説の魔導師『カエデ様』というのが、ミオの母親だという事は、シャルルやカミーユと話している中で何となく確定した。

 ミオが首に下げているネックレスが、カエデ様のものと同じというのだから、間違いないだろう。


 このネックレスは、母親に貰ったものなのだ。

 今となっては形見となってしまったけれど。


「カエデ様は……ミオの世界で元気にやってるのか?」

「………母は……………5年前に事故で亡くなりました」

「そうか」


 ミオの母親は、5年前に電車の脱線事故で帰らぬ人となった。

 この世界では伝説の魔導師だった母親も、元の世界ではただの人間。

 魔法など使えるはずもなかった。

 魔法が使えていたら……命を落とすこともなかったのかな……


 それにしても……母親の日記か、かなり抵抗あるんですけど。


「まぁ、母親なら娘に対して色々残してるんじゃないのか?」

「母がこっちの世界にいた頃、私はまだ存在してませんけどね」

「………そうだったな」


 こうして、不思議なもので、母親が使っていた部屋を、娘であるミオが使うことになった。

 ここは、王宮の一角。

 王国騎士団も王国魔導師団も、王宮の一角に、宿舎と訓練場を設けているのだ。


 という事は……


「あの庭園の散歩ができるのかな?明日聞いてみよう」


 ミオは、クローゼットの扉を開けて中を見た。

 こちらの世界に来るのに、着替えを持ってきているはずもなく。

 ある程度の服は、王宮で用意してくれた。

 その中から、部屋着として使えそうなワンピースを取り出して着替えた。

 そして、母親の日記を手に取り、ベッドに寝転がった。


「………お母さんの日記かぁ」


 ミオは、深呼吸をすると、日記の表紙をめくった。






 ―――――

 ―――


 7月15日 晴れ


 私の名前は、桜井楓 15歳

 もうすぐ夏休みだったのに、よくわからないけど異世界に来てしまった。

 帰る方法もわからない。

 今わかっていることは…


 私は魔法が使えるようになった!!

 ということ。


 しかも、私は伝説の魔導師と呼ばれ、何だかすごい魔導師らしい。


 明日から練習をがんばって、ここで一番の魔導師を目指すことにした。


 だって私は、伝説の魔導師なんだから






 母は、こちらの世界には15歳で来たんだ。

 しかも、最初から魔法が使えた……


「さすが伝説の魔導師」


 日記を読む限りでは、母親はこの世界に来た事を最初から受け止めて、ちゃんと自分がやるべき事を見つけていた。

 まだ、15歳だというのに。






 ―――――

 ―――


 7月28日 晴れ


 魔力操作をカンペキにできるようになったので、今日は箒を操作してみた。案外簡単に乗れるものだ。






 え……ちょっと待って。

 この日付だと、母はこの世界に来てまだ一ヶ月も経ってない。

 なのに……魔力操作が完璧に出来るようになって……箒に乗った!?しかも、簡単に!?


「なんか……お母さんって凄い人だったんだな」


 日記には魔力操作のやり方とか、母親なりのコツみたいなものが書かれていたので、少し真似てみた。


「……………ですよねぇ」


 母親のようには魔法は使えないらしい。

 まぁ、これが現実というものだ。

 明日からの修行で頑張って魔法を覚えていこう。






 ―――――――

 ―――――

 ―――






 朝日が窓から差し込み、ミオの顔を照らす。

 眩しさにゆっくりと目を開けて体を起き上がらせ、両手を天井に向けて大きく伸ばし、体をぐぅっと伸ばす。

 元の世界では携帯アラームで起きていたので、こうして自然の力で目覚めるのって、何だか気持ちがいい。


 ベッドから降りると、水でパシャパシャと顔を洗い、着替えて鏡の前に立つと、髪の毛をとかしていつものようにサイドにくるりと緩く纏めた。

 こっちの世界って………美容院とかあるのかな?

 バッグからハサミを取り出すと、少し伸びた前髪を切って整えた。


「よし」


 ひと呼吸して、食堂に向かう。






「おはようございます、グレイヤール師団長」

「おはよう……堅苦しいからカミーユで良いぞ」

「いや……さすがに名前を呼び捨てというのは…」

「俺は気にしないぞ」

「……私が気にします」


 テーブルにカミーユの姿を見つけて歩み寄って席に着くと、侍女が食事を運んでくれた。


「それより、気に入った服はなかったのか?」

「いえ……部屋着以外は私にはどれも大きすぎて…」


 クローゼットから出す服は、どれもロングスカートで、小柄なミオには長すぎた。

 ウエストで何回も折り返せば着れなくもないが……ちょっと見た目的に問題があった。

 ワンピースなんて、マキシ丈通り過ぎて、これで前側が短かったらロングトレーンに近い感じだった。

 そのため、結局のところ、一番動きやすいのが元々着ていたブラウスと膝丈のフレアスカートだった。


「よし、午前中は修行して、午後は買い物に行くぞ」

「え……いいんですか?」

「着替えは必要だろ?カエデ様が着ていた服のサイズが合わなかったんだから、買い揃えないとな」

「……お母さん、私と違って背が高かったですからね…」

「ほら、飯食って修行すんぞ」

「は…はい!」


 いつの間にか朝食を食べ終えていたカミーユに驚き、ミオは慌ててパンを詰め込んだ。

 このパン……ほんのり甘くて何だか美味しい………って、のんびり食べてる場合じゃなかった!


 朝食を食べ終えると一旦部屋に戻り、ローブを羽織って気持ちを引き締めた。


 私は、魔導師


 姿見に映った自分の姿を見る。

 羽織ったローブは、母親が使っていたもの。

 少し大きいけど……動きにくくはなさそうだし、大丈夫かな。


 箒を手に取り、王国魔導師団の執務室へと向かった。






 ―――――――

 ―――――

 ―――






「えーと…………師団長のお子さんですか?」

「違う!」


 副師団長と紹介されたのは、カミーユよりも淡い水色のサラッとしたショートボブの、やや小生意気そうな少年。

 アレかな?見た目は子供で中身は大人……的な?


「僕はアルバン・エルー。ここの副師団長だよ」

「ミオ・サクライです。宜しくお願いします」

「ねぇ、ちょっとここに膝ついて」

「え?」


 アルバンが自分の足元を指さしながら言うので、ミオは首を傾げながらアルバンの前に立ち膝で座る。


「こうですか?」

「うん」

「……………え?」


 ニッコリと笑ったアルバンは、両手をミオの頬に当てると、顔を近づけて………額にキスをした。

 子供とはいえ、突然の出来事にミオは耳まで真っ赤に染まった。

 カミーユに至っては、持っていた書類を床に落とし、氷漬けのように固まっていた。


「なななな、何をしてるんですか!?」

「何って、挨拶さ」

「………挨拶……ですか…」

「あはは、ミオってばそんなに赤くなっちゃって」

「うぅぅ……」

「ミオは可愛いから、特別に僕のことアルって呼んでいいよ」

「……えーと……さすがに副師団長なので…」

「僕がいいって言ってるんだからいいの!ほら、呼んでみて」

「……………アル…君」

「えーーー?うーん……ま、いっか。いつかアルって呼んでよね」


 最近のお子様は……てゆーか、この世界の子供って、皆こんな感じじゃないわよね!?

 熱った顔を冷ますように手であおいでいると、氷漬けから解凍されたカミーユがミオの前に立った。


「俺の事はカミーユと呼べ」

「それはちょっと……」

「何でだよ!」

「………師団長ですので」

「アルだって副師団長だろうが」

「それとこれとは…」

「どう違うんだよ」

「あはは……」






 ―――――――

 ―――――

 ―――






「じゃあ、魔力操作からなー」

「はい」


 ミオは、執務室で魔法について資料を見ながら教えてもらい、その後カミーユと訓練場にやって来た。

 アルバンもついてきて、近くのベンチに座って見ている。

 訓練場には他にも数人の魔導師がいた。

 それぞれ自分の能力の向上のために訓練したり、新しい魔法を習得するために訓練したりしている。

 現在、王国魔導師団に所属しているのは、カミーユとアルバン、私、他に7人の魔導師。

 魔法を使える人は少ないと言われたけど……王国中を探したらもっといるのでは?さすがに少なくないですか?


 執務室で教わったことと、母親の日記に書かれていたコツを思い出しながら、何とか魔力操作をすることができた。


「初めてにしては上出来だな」

「母の日記に、コツみたいなものが書かれていたので……コレで合ってました?」

「とりあえず初日なんだし、そんだけ出来てたら十分だ。じゃあ、次は魔法だな。属性は何だ?」

「属性……ですか?ちょっと私にはわからないですけど…」


 属性とか、どう調べるんですか?あの時は、声に導かれるように記憶の中から見つけた言葉を口にしただけだし…


「全属性だよ」

「……アル君?」

「お前……また勝手に属性鑑定したのかよ」

「別に、見られて困るもんじゃないからいいじゃん」

「あのな」


 アルバンは鑑定魔法が使えるのだとか。

 鑑定魔法はかなり高度な魔法らしく、ここで使えるのはアルバンだけ。

 この歳で副師団長になるだけのことはある。


「ミオは、全属性使えるけど、その中でも光・氷・雷が得意だね。あと支援系」

「ふぅ~ん、そうなんですね」


 光魔法は、ここに来た時にそんな感じの名前の魔法を使ったから、使えると思っていた。

 でも、まさか全属性使えるとか……想像もしていなかった事だ。


「じゃあ、雷やってみろ」

「えーと…ちょっと待ってくださいね…」


 手をかざしながら、目を閉じて記憶の中の言葉を探す。

 確か……雷ぽい言葉が………

 日記に書いてあった魔法を使うコツを思い出しながら、手のひらに魔力を集中させる。


「サンダーボルト!」


 はい、何も起こりませんでした。


「あ…あれ?」

「ちゃんと魔法陣をイメージしたか?」

「……魔法陣とかよくわからないんで」

「基本の魔法陣はしっかり覚えろ。あとは魔法に合わせて変換するんだ」

「カミーユってば、ホント教えんのへたくそなんだからさ~」

「何だと!?」

「ミオ、座って目を閉じてごらん」

「え?」


 アルバンがミオの前にやって来て、ミオの頭に手を翳した。

 すると、ミオの頭の中に魔法陣が浮かび上がった。


「これが雷属性の基本的な魔法陣だよ。そんで、サンダーボルトはこう」

「……うーん…何となくはわかったような気もしないでもないです…」

「じゃあ、もう1回やってみてよ」

「はい、やってみます」


 ミオは目を閉じて意識を集中させながら、さっき頭の中に浮かび上がった魔法陣をイメージすると目を開けて両手を翳した。


「サンダーボルト!」


 すると、ミオの手から発せられた稲妻の光が地面に直撃すると同時に、土埃が舞い上がった。

 土埃が消えていくと……地面が削られていた。


「あ……あれ?」

「………少しは手加減しろ」

「すみません…」

「別にいいだろう?こんなの僕が元に戻せるんだし。カミーユのバーカ」

「何だとコラ!」

「あ、あはは…」


 削れた地面は、アルバンの魔法で元に戻った。


「じゃあ……次、氷な」

「はい」


 ミオは目を閉じて、もう一度記憶の中から言葉を探す。

 そして、氷魔法の魔法陣を思い描き……


「スノーフロスト」

「おぉ」

「うわぁ、キレイだしなんか涼しい!」


 細かい霧状の雪が3人の周りを囲んだ。

 空気がひんやりと冷たくなる。


「確か攻撃魔法だったはずだが……視界を奪う系だったか?」

「あー、たぶん違いますよ?」

「違う?」


 カミーユが霧状の雪を手で触れると……一瞬で手が凍った。

 アルバンが笑いながら魔法で元に戻す。

 スノーフロスト……使いこなせるようになれば、辺り一帯を霧状の雪で包み込み、触れた者を瞬く間に凍らせる。

 ………恐ろしい攻撃だ!

 ミオにはまだまだ修行が必要だけれど。


「ミオの魔法攻撃力は、使いこなせればかなり強いものになるな。あとは、発動までの時間短縮だ。これだと長すぎる」

「はい、頑張ります」

「そんじゃ、昼飯まではその訓練だ」

「はい」

「アルは俺と一緒に執務室戻るぞ」

「えー、嫌なんだけど」

「煩い」

「何だよ!わかったから離せよ!」


 カミーユがアルバンを脇に抱えながら執務室に戻って行った。

 苦笑いしながら見送り、ミオは魔法の訓練を開始した。

 とりあえず……今使えるのは、ホーリーシールド、サンダーボルト、スノーフロストの3つ。

 他は記憶の中から探さないといけないから、この3つの訓練をしよう。

 魔法陣を思い描くことと、魔力操作を完璧にする事で、魔法の発動時間は短縮されて威力が上がる。

 母親の日記にコツが書いてなかったら、こんなにすぐ魔力操作が出来るようにはならなかった。

 母親に感謝しながら、魔力操作の練習と、魔法の練習を始めた。






 ―――――――

 ―――――

 ―――






「店主、こいつに何着か似合うやつ見繕ってくれ」

「これはグレイヤール様。こちらのお嬢様にですね、少々お待ちくださいませ」


 昼食を食べ終えると、カミーユはミオを連れて街の衣装屋を訪れた。

 小さな城下町だけれど、それなりに賑わっている。


「お待たせいたしました。ご用意が出来ましたのでこちらへどうぞ」

「あ、はい。ありがとうございます」


 店主に呼ばれてミオは試着室のような場所に入った。

 壁に並べてかけられていたのは、どれも豪華なドレスばかりで少々困惑する。


 これが……この世界では普通の服なのだろうか?

 さすがに…動きにくそうだ。

 ミオはカーテンを開けて店主に声をかけてみた。


「あのぅ……もう少し動きやすい服ってないですか?これだとちょっと魔法の練習には…」

「おや、魔導師様でしたか。てっきりグレイヤール様のご婚約者様かと思っておりました」

「ち、違います!」


 いったいどんな勘違いだ。

 店主は急いで別の服を何着か用意して持ってきてくれた。

 膝丈のワンピース、ミニスカート、ロングスカート、ショートパンツ、レギンス、ブラウス……意外に種類豊富なんだ、この世界の服って。

 着心地の良かった服を何着か選んでお会計となり、レジで問題が発生した。


 元の世界のお金が使えない…


 まぁ、当然のことだけれど。

 固まっているミオを見て笑いながら、カミーユがお金を払ってくれた。


「お給料が入ったらお返しします…」

「別に返さなくていい。最初っから俺が払うつもりだったしな」

「いやいや、それはさすがに……」

「いいって言ってんだろ。ほら、帰ったら箒の練習すんぞ」

「……ありがとうございます」


 ここは素直に受け取っておくことにしよう。

 そしてこの借りは、王国魔導師団として立派に仕事をしてお返しすることにしよう。






 ―――――――

 ―――――

 ―――






 訓練場に戻ったミオは、母親が使っていた箒を持ってカミーユに扱い方を教わっていた。


「………とまぁ、こんな感じだ」

「えーと……ちょっとよくわかりませんけど」

「とりあえず、やってみろ」

「……はい」


 箒を自在に操るには、魔力操作が重要になる。

 それは、何となくわかるのだけれど……どうやって箒に魔力を流すんだ?

 カミーユ曰く、感覚なのだそうだ。


 ミオは目を閉じて、箒を掴んでいる手に魔力を送る………イメージを浮かべた。


「うーん……」


 確かに手に魔力は移動する。移動はするのだけれど。


「うぅぅ………うーん…」


 手から箒にはどう移動させれば良いんでしょうか???

 目を閉じながら、眉間のシワがどんどん深くなっていく。


「ミオ~!」

「え?……あ…アル君」

「ただいま」

「えーと…おかえりなさい?」


 アルバンは執務室とかで仕事をしているものだと思っていたので、思わず疑問形になってしまった。


「アル君……どこか行ってたんです?」

「学校だ」

「学校?」

「アルはまだ13歳だからな。子供は学校で勉強しないとだろ?」

「子供扱いすんな!」

「お仕事しながら学校も行くんですね」


 王国魔導師団に所属、しかも副師団長という立場なので、学校に行ってるなど考えもしなかった。

 でも、考えてみれば13歳という年齢なのだから、やっぱり教育も必要よね。

 仕事と学業なんて、まるで芸能人かなんかみたい、偉いなぁ……とミオが感心していると、アルバンが面白くないような顔をしながら見上げてきた。


「えーと……アル君?」

「何で敬語なの?」

「え?」

「普通に話してよ」

「でも……副師団長ですし………ほら、他の魔導師さん達も敬語だし、一番下っ端の私が敬語使わないのは…ダメだと思うんですよ…」

「ミオは下っ端じゃないよ」

「え?」

「大魔導師なんだからね!」

「えーと……大魔導師の名に恥じないよう頑張ります」


 ミオはもう一度箒に魔力を送った。






 ―――4月30日


 魔法の練習と、箒の練習をした。


 魔法は使えるし、魔力操作も日記に書いてあったコツを真似たら何とか出来た。でも、箒はまだ使えなかった。


 これが簡単に出来てしまったお母さんは、本当に凄い魔導師だったんだなと改めて思う。


 私も頑張ろう!


 今日練習した魔法は、ホーリーシールド、サンダーボルト、スノーフロストの3種類。

 まだまだコントロールが難しくて練習が必要だけれど、私の攻撃魔法の威力の凄さはわかった。

 他にも魔法の言葉があったと思うし、記憶をたどって思い出してみよう。











 ―――――――

 ―――――

 ―――






 始まったばかりの異世界生活。

 まだ、この世界に来てしまった理由はわからないけれど、自分の役割をしっかりと果たせるように、今はとりあえず魔法をマスターすることに専念する。

 この先に何が待ち受けているのか……まだ何もわからない。


 .

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