14 雪の町フェルドー
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北の雪原に向かって走る、1台の馬車。
中に乗っているのは、シャルルとミオの他に騎士が1人。
馬車は騎士2人が交代で操縦する。
これから向かうフェルドーの町とサンブリーの町は、それぞれ王都からも距離があり、気候も違っていて荷物が多くなってしまうため、馬車での移動となった。
ミオは酔わないように外の景色を眺めていた。
「フェルドーには明後日到着だ」
「遠いんですね」
「王都は、ぺリグレット王国の南側寄りに位置しているからな。途中で何回か休憩を取るが…具合が悪くなったらすぐに言うんだよ?」
「はい」
ポーションで酔い止めとか作ってくれないかな……今度、相談してみよう。
フェルドーに向かう道は、メーヌの森に向かう道とは違って木が多かった。
森の中を抜けて行く感じだ。
元の世界では、公園の広い芝生は見たことがあったけれど草原はなかなか見れない風景だったし、森なんてテレビでしか見たことがなかったので、こちらの世界での遠出はとても新鮮な景色に出会える。
これぞ森林浴…なんて思いながら、窓から吹き込む風を浴びてミオは外の景色を眺めていた。
「何か面白いものでも見つけた?」
「え?あ、いえ……こっちの世界の景色はキレイだなと思って。森の中を馬車で移動するなんてこっちでしか経験できないですし」
「そうか。そう言えばミオのいた世界は建物が多かったな」
「え、団長はミオ様の世界を見たことがあるんですか?」
「前に見せてもらったんだ」
「えーと……こんな感じです」
ミオはバッグから携帯を取り出すと、元の世界の写真を表示させて騎士に見せた。
「な、何だこの道具!?え、この中にいるのミオ様じゃあ…」
「写真です。これはスマホと言って、まぁ…便利道具です。離れた人と連絡を取り合ったり、いろんなことを調べたり、こうしていろんな画像を保存したり出来るんですよ。こっちだと画像の保存くらいしか使い道ないですけど」
ミオは携帯のカメラ機能を立ち上げると、騎士の写真を撮って見せた。
「え、これ俺か!?凄いな!」
こうして馬車での移動も楽しく……なんて、修学旅行のようなノリでいけるはずもなく。
馬車の揺れはやっぱり体にこたえるのですよ。
途中で休憩を挟むとは言え、3日目ともなると本当に体が辛い。
フェルドーに到着した時の開放感は本当に凄かった。
「んーっ……体がバッキバキ…」
「大丈夫?」
馬車から降りて大きく伸びをしていると、シャルルが心配そうに声をかけてきて、ミオは少し疲れたと苦笑いしながら答えた。
それにしても…
「雪!」
寒いとは聞いていたけれど、まさかの銀世界!
都会だとなかなか雪なんて見る機会もないので、とても新鮮に感じる。
体は疲れているけれど、何だかテンションが上がるような気持だった。
踏み慣らされていない場所に足跡をつけてみると、何とも言えない快感に包み込まれた。
まるで子供のように、足跡をつけて快感に浸っていると、シャルルがこちらを見ながら微笑んでいるのに気がつき、恥ずかしさに頬を赤く染めながらシャルルの所に駆け寄った。
「す、すみません……はしゃいでしまいました」
「かまわないよ。雪を見るのは初めて?」
「いえ、何回かは見たことがありますけど……1年に1回降るか降らないかみたいな感じだったので」
「そうか」
「はい、これミオ様の荷物」
「ありがとうございます」
騎士が馬車の上から荷物を降ろしてくれた。
全員の荷物を降ろし終えると、宿舎へと向かう。
「ミオ、荷物は私が持つよ」
「いえいえ!パトリエール団長も荷物ありますし、自分の荷物くらいは自分で運びますよ!」
「そうか……雪で滑りやすいから気をつけて」
「はい。あれですよね、ペンギン歩き……」
「ペンギン?」
「……わっ」
雪道の歩き方は難しい……雪道用のブーツを履いているとはいえ、やっぱり滑ってしまう。
シャルルが咄嗟に支えてくれたから転ばずにはすんだけれど……恥ずかしい!
そんなことをしていると、宿舎のドアが開き数人の騎士が出てきた。
「パトリエール団長!到着していたんですね、すみません気がつくのが遅くなってしまって。荷物お持ちしますよ!」
「私は大丈夫だから、この子の荷物をお願いする」
「了解です!」
「え?……あ、あの…ありがとうございます」
こうして荷物を運んでもらい、ミオは何とか転倒することなく宿舎へと入ることが出来た。
宿舎の中には数人の騎士がいた。
他の騎士やこの騎士団の団長は、周辺の見回りや町の人の手伝いに行っているらしい。
手伝いというのは、雪かきや屋根の雪下ろしのようで、ここでは当たり前の作業なのだとか。
雪国って大変よね。
「お嬢さんの部屋は、パトリエール団長の部屋の隣でいいですか?」
「かまわないが…ミオはそれで大丈夫か?」
「あ、はい。全然大丈夫です」
「それじゃあ、荷物運びますね」
2階がそれぞれの部屋になっているようで、皆で2階へと上がる。
「疲れただろう?部屋で少し休むといいよ」
「はい、ありがとうございます」
「何かあればいつでも私の部屋においで」
「はい」
シャルルが部屋に入り、ミオはその隣の部屋に案内された。
「荷物はここに置いておくよ」
「はい。あの…荷物運んでいただいて、ありがとうございます」
「どういたしまして」
騎士が部屋から出て行くと、ミオはベッドに腰を下ろしてブーツを脱いだ。
足の開放感が半端ない。
そのままベッドに寝転がって天井を見上げた。
やっぱり騎士団の宿舎は、魔導師団の宿舎とは雰囲気が違うなと思う。
そういえば、第一騎士団の宿舎って入ったことがなかったな……こんな感じなのだろうか?
しばらくぼんやりと天井を眺めていたミオだったけれど、上着を着たままだったことに気がついて、起き上がって上着をハンガーにかけた。
大変大変、シワになるところだった。
再びベッドに寝転がると、だんだんと睡魔が襲ってきて……ミオは起き上がった。
今眠ってしまったら、絶対に夜眠れなくなるヤツ!
かといってやることもないしな…
ミオは窓を開けて外を見下ろし、すぐに窓を閉じた。
馬車から降りた時には、外の空気の冷たさが疲れた体にとても気持ちよく感じたけれど、こうして改めて外の空気にさらされると、その寒さに体が震えた。
ま、まぁ…こんなに雪が積もっているんだから、そりゃあ寒いですよね…
「雪かぁ……あ、雪だるま作ろ」
ミオは、カバンからマフラーと手袋を取り出すと、上着を着てマフラーを巻いて手袋をつけて、よしっと鏡の前で準備を整えて部屋を出た。
―――――――
―――――
―――
「悪い悪い、まさか魔導師だったとはな」
「あ、あはは…」
見回りや手伝いに行っていた騎士達が戻って来て、ミオ達は宿舎の1階のリビング兼ダイニングのような場所で話をしていた。
ミオが雪だるまを作っている所に戻って来た第二騎士団団長が、ミオをどこかの家の娘だと勘違いして、騎士に送り届けようとさせていたのを、たまたま部屋で見ていたシャルルが慌てて出てきてミオのことを説明し、ようやく魔導師だと納得してもらって今に至る。
他の騎士達も戻って来たため、夕食前に情報共有をすることになった。
夕食後だと、お酒が入ってしまって話し合いにもならなくなるからという理由だ。
「それでは、改めて紹介する。皆も伝説の魔導師のことは知っていると思うが、この子はその伝説の魔導師カエデ様の娘だ。ミオ、自己紹介を」
「あ、はい。えーと…ミオ・サクライと申します。よろしくお願いします」
「へぇ~、あのカエデ様の娘か。俺は第二騎士団団長のランディ・プーレだ」
ランディはシャルルよりも少し背が高く、大柄で圧が凄い印象だ。
そして、豪快に笑う。
見た目は少しいかつい感じだけれど、とても陽気で気の良さそうな感じの男性だ。
団長がそんな感じだからか、第二騎士団の騎士達はとても陽気で明るい雰囲気の人が多い。
「1年ほど前から凶暴化していた水竜は、魔法陣によって操られていたことがわかった。水竜にかけられていた魔法はミオが解除したため、現在は元に戻っている」
「おぉ、凄いじゃないか」
歓声の声と視線がミオに集まり、ミオは恥ずかしくて俯いた。
私のことはいいので話を進めてください…
「最近では、メーヌの森で魔物が操られて凶暴化したり、生息していないはずの魔物が出現したりしていて、その原因となった魔法陣を描いたと思われる人物を捕えた。だが、残念ながら移送中に死亡していたため、詳しいことを聞きだすことが出来なかった。また、メーヌの森に向かう途中の草原では、上級に分類される魔物の大量発生にも遭遇した。この時に使われていた魔法陣は、魔法でしか消せないものだった」
「この辺りではそういったことは起きていないがな。まぁ、ここは雪に覆われているし何か企むにしても難しいんだろうが……全部黒ローブの仕業なのか?」
「それはわからない。だが、メーヌの森で捕らえた黒ローブは、かなりの魔法攻撃をしてきたそうだ。ミオが戦っている」
「魔導師団以外にも魔法が使える奴がいるのか」
騎士達がざわついた。
「魔法を使える奴らを相手にするんじゃあ、俺達には厳しいよなぁ」
「もしも王都近辺のような事態になれば、騎士団だけじゃあ対応できないだろ」
「魔導師の応援要請出しても、ここに到着するまで時間がかかるしな…」
確かに、この世界には通信手段もないし、移動は馬車や馬だから時間もかかる。
現在の王国魔導師団の数では、常時派遣するにも人数不足だ。
「パトリエール、魔導師団をここと西にも配属できないのか?」
「その件についてはいろいろと考えてはいるが、すぐには難しい。それに、今のところその特殊な魔法陣を消せるのはミオだけだ」
「おいおい、他の魔導師は何やってんだ?」
「えーと…魔法陣に関しては図書室で調べたりしてるんですけど…ちょっとよくわからなくて。魔法陣を消すための魔法については、師団長も見たことがないと言っていて…」
「でも嬢ちゃんは使えるんだろ?」
「私は……お母さんに教えられていたみたいで…」
「とにかく、魔導師については検討中だということと、黒ローブのような怪しい組織があるということを把握しておいてほしい」
「怪しいと言えば…」
「どうした?ミオ」
「何か、魔法陣の書?について探ってくる人がいました。あと、伝説の魔導師についても…その人は黒ローブは羽織っていませんでしたよ?」
「なるほどな……黒ローブとそいつが同じ組織なのか別の組織かはわからんが、怪しい奴を警戒しろって話か。そりゃまた難しい話だな」
確かに、黒ローブを羽織っていればわかりやすいけれど、何の特徴もなければ警戒のしようがない。
それに、両方が同じ組織とも限らないわけだし。
「とりあえず、物騒なことが起きていることは把握した。それにしても王都周辺は大変だなぁ。こっちにいる間だけでものんびりとしていけ」
「私も仕事で来ているんだ、のんびりするわけにはいかないよ」
「相変わらず真面目な奴だな。少しは肩の力を抜けって」
こうして話は終わり、ちょうど夕食の時間となったようで、テーブルに料理が運ばれてきた。
ここの料理もとても美味しそうだ。
そして、お酒も入ってさらに陽気になった騎士達と食べる夕食は、とても賑やかな食事だった。
いつもの食堂とはまったく雰囲気が違って圧倒される。
「同じ騎士団でも、随分と雰囲気が違うものですね」
「そうだな。第二騎士団は団長があのような感じだから、騎士達も陽気な者が多いんだ」
第一騎士団の2人の騎士も一緒に飲んでいたけれど、第二騎士団の騎士ほど陽気にはなれないようだった。
きっと根本的な性格が違うのだと思う。
シャルルもランディに勧められて酒を飲んでいた。
ほんのりと頬を赤く染めているシャルルが、とても新鮮だったけれど…そういえば、シャルルが酒を飲んでいるところは見たことがなかったなと思うミオだった。
「嬢ちゃんも飲みな」
「いえ、私は…」
「ここの酒は美味いぞ。少し飲んでみなって」
「いやいや、私はお酒は…」
ランディに強引にグラスを持たされてしまい、ミオが眉間にしわを寄せながら匂いを嗅いでみると……とてもアルコール度数が高そうな匂いがして頭がクラクラした。
恐る恐る口に運ぶと……一瞬で顔が熱り目が回る感じがして、ミオはテーブルに突っ伏した。
慌ててミオの名を呼ぶシャルルの声が聞こえてきたけれど、ミオは動くことも言葉を発することも出来なかった。
この酒は……危険な飲み物だ。
その後、シャルルがミオを抱き上げて部屋まで運んでくれたらしい。
そして、ミオに酒を飲ませたランディは、第二騎士団の騎士達にめちゃくちゃ責められていたとか。
―――――――
―――――
―――
「………ん…?」
「目が覚めた?」
ミオが目覚めると、真っ暗な部屋ですぐ傍からシャルルの優しい声が聞こえてきてドキッとした。
「パトリエール団長?……うぅ…頭が痛い…」
「大丈夫か?少し、水を飲んだ方がいい」
「あ、ありがとうございます…」
ベッドから起き上がると酷い頭痛がして、シャルルに手渡された水を飲む。
気温が低いからか、とても冷たい水だった。
「すみません……私、お酒はあんまり得意じゃなくて…」
「ミオが謝ることではないよ。あれはプーレ団長が悪い」
「でも…皆さん凄いですね。あんな強いお酒飲んでも平気なんて」
「ここの騎士達は飲み慣れているからな」
「パトリエール団長も何気に強いですよね?」
「そうか?まぁ、私も付き合いで酒を飲むことはあるからな」
ほんのりと頬を赤く染めたシャルルが、とても色っぽかったとは口が裂けても言えない。
思い出しただけでもドキドキしてしまう。
「長旅の疲れもあるだろうし、水を飲んだらもう休んだ方がいい。もし眠れないようなら傍についていてあげるよ」
「そ、それは緊張して眠れなそうなので遠慮しておきます!」
「ふふ、そうかい?」
ミオは、一気に頬に熱を帯びたような感じがしてドキドキしたけれど……この暗がりだったら赤くなってるのは見えないだろうし大丈夫よね?
「それじゃあ、おやすみ。また明日」
「おやすみなさい、パトリエール団長」
―――――――
―――――
―――
「……うーん」
昨晩、とても早く眠ってしまったミオは、案の定とても早起きだった。
王都とは違って雪が積もるこの町で、こんな早朝から散歩なんてする気にもなれない……だって、早朝の外は極寒ですから!
しばらく悩んだ末、昨日はお風呂にも入らずに眠ってしまったことを思い出して、お風呂に入ることにした。
準備をして部屋を出てみたものの…
そういえば、お風呂の場所を聞いていなかったな。
とりあえずうろうろして探してみることにした。
さすがに、お風呂には入っておきたい。
この宿舎はそんなに複雑な造りでもないため、浴室はすぐに見つけることが出来た。
問題は……この時間でもお湯が使えるのかということ。
「……あ、湯舟がためられてる!」
先日覚えたライトニングで浴室を照らしてみると、湯船から湯気が上がっているのが確認できたので、急いで服を脱いで入ることにする。
脱衣所はとても寒かったけれど、体を洗って湯船に入るとまるで天国のような暖かさだった。
天国がどんな気温かは知らないけれど。
「あったかーい…」
一度温まってから頭を洗い、湯船につかりながら髪の毛から水分を取り除く。
これで湯上りも寒くないはず。
本当に魔法は便利だ。
こうして体の芯から温まってポカポカになったミオは、ベッドに寝転がって再び眠りへと落ちていった。
銀色に輝く雪原に、真っ白な竜の姿があった。
ふだんはあまり姿を現すことのない白い竜。
何故、今ここに姿を現したのだろうか…
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