106 犬猿の仲を取り持つのは疲れます
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ペリグレット王国の魔導師団に入団した、転生者のショウ。
今日はいよいよ騎士団との見回りデビューだ。
「おはようございます、ショウさん。見回りデビューですね」
「おぅ、よろしくなー」
「ミオ!……え、ショウも一緒なわけ?」
「おはよう、アリス。ショウさん、今日が初めての見回りだからよろしくね」
「げ、コイツも一緒かよ」
「ふんっ、こっちのセリフよ」
「2人とも仲良くしてね……」
今日の見回りは何かが起こりそうな予感しかしないミオだった。
―――――――
―――――
―――
先頭を走る副団長のシリルの隣で、穏やかに箒に乗っているミオ。
その後方からは、穏やかではない空気が漂ってきていて、ミオはため息をつきながら後ろを振り返った。
「アリス、後ろは気にしなくていいからね。ショウさんもアリスのことは気にしないでついて来て下さい」
「だってミオ、煩いのよコイツ」
「コイツとか言わないの。ショウさんはアリスよりも年上なんだからね」
「ほら見ろ。俺と代われ」
「ショウさん、アリスの方が魔導師としては先輩なんですからね」
「……わかってるよ、ったく」
とりあえずは静かになったけれど……きっとこの静けさも一時で終わるんだろうな。
「すみません、ルヴィエ副団長」
「お気になさらず。ミオ様もいつも大変ですね」
「本当ですよ。たまには師団長に代わってもらいたいです」
「でも、アリスはミオ様と一緒の時が一番楽しそうですよ」
「え、そうですか?」
「はい」
そんな話をしながらネーオールの森に向かって進んでいると、後ろがまた煩くなってきた。
くっついているわけでもなく、騎士団の隣で前・中・後にわかれて飛んでいるだけなのに、何をそんなに揉める必要があるのか?
ミオは盛大にため息をつくと、アリスの隣に移動して声をかけた。
「アリス、ルヴィエ副団長の隣を飛んで。私がここに入るから」
「え、いいの?わかったわ!」
アリスが嬉しそうに先頭へと移動して行った。
最初からこの配置にすれば良かったなと後悔する。
「ショウさん、大丈夫です?もうすぐ森の入り口ですけど、疲れたら少し休むので言ってくださいね」
「問題ねぇよ」
「凄いですね。私なんてけっこう落ちましたよ?見回りの時」
「マジで!?」
「あー、そう言えばそうでしたね。ミオ様よく落ちるんで、団長青ざめてましたもん」
「あはは……」
あの頃は本当に傷が絶えなかったな……今となってはいい思い出だ、うん、そう思おう。
こうして、ミオがアリスとショウの間に入ったことで、ネーオールの森に向かう道中がとても穏やかになった。
そんな中、森の手前でミオは見慣れない花を見つけて動きを止めた。
「どうしました?ミオ様」
「うーん……あんな花、咲いてましたっけ?」
「どれですか?……あれは……副団長、ちょっと止まってください!あ、ミオ様待ってください!」
ミオが花の方に箒を寄せて行くと、騎士が慌ててミオの名前を呼んだ。
その花はとても大きな花で、ミオの上半身よりも大きいのでは?と思うくらいだった。
一見ラフレシアに見えなくもないけれど、悪臭を放っているわけでもなく……ミオが箒から降りて、花に向かって手を伸ばしてみると、花の中央部分がぱっくりと開いて、ギザギザした歯が並んだ口のようになった。
慌てて手を引っ込めたミオだったけれど、何と、花はミオを食べようとするように身を乗り出して来た。
「ミオ様しゃがんで下さい!」
「っ!?」
騎士の声が聞こえてミオが咄嗟にしゃがみ込むと、騎士が剣を振り下ろして花を真っ二つに斬り裂いた。
大きな花は、キュルルルル……という声を上げながら消えていった。
「大丈夫ですか?ミオ様」
「あ……ありがとうございました」
「あれは、食人花のキラーフラワーという魔物ですよ」
「……人を食べるんです?虫とかじゃなくて」
「虫も食べますが、人も食べますよ」
「怖っ!」
騎士と一緒に隊列に戻り箒に乗ると、アリスとショウからめちゃくちゃ文句を言われた。
「ミオ!あんた変なものに近寄るんじゃないわよ!」
「お前、危ねぇだろうが!見たこともないもんに触んじゃねぇ!」
「……はい、すみません」
まさか、食人花などというものが存在するとは……異世界って怖い!
ネーオールの森に到着すると、入り口で少し休憩を取り、二手に分かれて森の中を見回りを始めた。
ミオ達はどう分かれるか悩んだ末、シリルの方にアリスを同行させ、もう片方にミオとショウが同行することにした。
「すみません、ルヴィエ副団長。アリスのこと、よろしくお願いします」
「わかりました。何かあればすぐにお呼びしますね」
「はい。アリス、ちゃんと言うこと聞きなさいよ」
「わかってるわよ」
―――――――
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―――
ネーオールの森では特に変わったことはなく、アリスも問題を起こすことなく見回りを終えた。
けれど、昼食を食べた後のオルレーヌまでの見回りが、草炎スライムがよく出現するようになっているため要注意だ。
「うーん……たぶんですけど、草炎スライムが5体と、あと何かわかりませんが巨大な魔物?がいますね」
「巨大な魔物?何でしょう……草炎スライムが5体は少し厄介ですね」
「まずは、手前側にいる草炎スライムから倒しましょう」
「わかりました」
巨大な何かは一番奥の方にいるので、警戒しながら先に草炎スライムを討伐する。
日頃の訓練のおかげで、アリスの動きも良くなっていた。
アリスは水属性が得意で草炎スライムの弱点で攻撃できるのだから、焦らずに冷静に戦えばそんなに苦戦する魔物ではないと思う。
「ショウさん、あれはめちゃくちゃ動きが早くて、頭の花から火を放って来るので気をつけてください。あと、弾き飛ばされます」
「お、おぅ……うわぁーっ!?」
ミオが上空に上がって1体を仕留めている間に、ショウが別の草炎スライムに弾き飛ばされたようだ。
魔物との戦闘が初めてのショウにとって、草炎スライムの動きを追うのは困難だろう……まぁ、これも経験だ。
ショウを弾き飛ばした草炎スライムが、上空へと上がって回転し始めた。
大量の炎が降り注ぐ。
「ショウさん!今なら撃ち落せますよ!」
「わ、わかった!」
ミオは降り注ぐ炎を凍らせながらショウに向かって叫ぶと、ショウがメテオを放って何発目かで草炎スライムを撃ち落とすことが出来た。
落ちて来た草炎スライムを騎士が斬って消滅させる。
アリスも2体を相手に苦戦していたけれど、何とか倒せたようだ。
残り1体を倒して、草炎スライムの討伐は終わった。
「あとはよくわからない魔物ですね。あの森の中にいるんですけど……」
「攻撃してみたら出て来るんじゃないの?」
「え、アリス!?ちょっと!?」
ミオが止める間もなくアリスが森に向かって攻撃をしてしまい……森の中から巨大な魔物が飛び出して来た。
シルバーの毛で覆われた狼……っぽい熊!?
その動きはとても俊敏で、とても目で追い切れなかったけれど、草炎スライムのように上空を飛び回るということはなさそうだった。
剣を構えていた騎士達が次々と蹴り飛ばされ、鋭い爪で引っかかれていく。
倒れた騎士に大きく口を開いて牙をむいたところに、ミオがフロージングランスを放った。
「ミオ様!あれは雪熊狼(スノーベアーズウルフ)です!氷属性の攻撃は効きません!」
「え、そうなんですか!?」
雪熊狼は、本来はモンルトワ大雪原に生息している魔物だそうで、どうしてこんな場所に出現したのかはわからないらしい。
雪原では、剛速球の雪玉を投げての攻撃もして来るとか……雪合戦で仲間にいたら絶対に勝てそうだ。
なんてことはさて置き、ミオが放ったフロージングランスは、雪熊狼に当たって砕け散った。
どうにかして騎士の上から雪熊狼をどかさないと攻撃が出来ない。
ミオは、雪熊狼に向かって弓を構えるようにして狙いを定めた。
「サンダーアロー!」
ミオの手から雷を帯びた矢が放たれ、雪熊狼に命中すると、雷属性は大ダメージを与えることが出来るようで、雪熊狼は矢が刺さった衝撃で弾き飛ばされて地面に転がった。
騎士達が取り囲んで剣で斬りかかろうとしたのを、ミオが慌てて止めた。
「ち、ちょっと待ってください!それ、契約するんで!」
「契約?」
ミオは倒れた雪熊狼に駆け寄ると、ヒールで傷を回復させて契約を交わし、雪熊狼は魔法陣の中へと消えて行った。
「あのぅ……ミオ様?」
「ほら、雪熊狼……ちょっとカッコいいじゃないですか!」
「え、カッコいい?雪熊狼がですか?」
「はい!」
とりあえず、この辺りにいる危険そうな魔物の討伐は終わり、負傷した人達をミオはヒールで回復した。
そして、少しオルレーヌの港町に立ち寄らせてもらい、ケートスの様子を見に行ってから王都へと戻ることにした。
ケートスは元気そうにしており、観光客からも可愛がられているようで、オルレーヌの人気マスコット的な存在になりつつあったけれど……人間と仲良くする魔物か、共存できるっていいな。
―――――――
―――――
―――
「私が先よ!」
「年上の俺が先だ!」
「魔導師としての先輩なのよ私は!」
「うるせー!」
アリスとショウが何を揉めているかと言うと……
王都へと向かいながらネーオールの森を出たところで休憩となり、その間に水竜のところに行きどっちから乗るかで揉めている。
「一緒に乗れば?」
「嫌よ!」
「嫌だね!」
「だったらジャンケンで決めなさいよ……」
ミオの言う通りジャンケンをした結果、勝者はアリスだったのだけれど……
「ふんっ、私の勝ちね!」
「今のは無しだ!もっかい勝負しろ!」
「はぁ!?何でよ!」
「……ショウさん、大人気ないですよ」
「うるせー!」
「……マジカルシーリング」
「何だよコレ!外せ!」
「いつまでもケンカしてるなら、水竜には乗せないし、このまま荷馬車にぶち込みますよ」
「……わ、悪かったよ、外してくれ」
とりあえず大人しくなったので、水竜を呼び出して1人ずつ乗せてもらうことにしたけれど……初めて水竜に乗ったショウは、いつかの騎士と同じように湖へとダイブした。
「アリスはだいぶ慣れてきたみたいね」
「当たり前よ!」
「俺は……アレを乗りこなすのは無理だ」
「ショウさんは初めてだったし、かなり大人しめの飛び方でしたけどね?」
「アレでかよ!」
「元の世界のどのジェットコースターも比べ物にならないくらい、激しいですよ」
「マジか!?」
休憩が終わり、片付けをして帰路に就いたミオ達だったけれど……アリスとショウ、この2人がいると、王宮に着くまでの間に1つや2つ、何か騒動が起こるのではないかと気が休まることがなかった。
疲れた、本当に疲れた見回りだった、そう思うミオだった。
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