102 城壁の向こうはシャトロワ王国
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今日は、メーヌの森の見回りへと同行しているミオ。
いつものように、泉の傍で野営の準備をしている騎士達を眺めていると、シャルルが歩み寄って来て隣に座った。
「お疲れ様、ミオ。冷え込んできているが大丈夫か?」
「お疲れ様です。大丈夫ですよ、冬用のローブを作ってもらったので」
「そうか、それは良かったな。だが、日中は暖かいとはいえ12月だ。夜はさらに冷え込むから風邪を引かないようにするんだよ?」
「たくさん着込んで寝ます」
この世界に来て2回目の冬を迎えている。
この王国の12月は、中旬くらいまではポカポカと暖かい日が多いけれど、朝晩の冷え込みは半端なく、寒暖差で風邪を引きやすいのだ。
冬用のあったかローブに変えて来たし、マフラーや手袋も持って来た。
それに、あったかモコモコ靴下も持って来ているので、夜はそれをはくだけでもかなり暖かくなるだろう。
「そうだ、明日の森の見回りの時に、国境の城壁も見てみたいんですけど」
「あぁ、かまわないよ。そういえばミオはまだ見たことがなかったな」
「そうなんですよ。私、まだまだ知らないことばかりで……もっと王国のことを知っていかないとなって思ってます」
「ゆっくりと知っていけばいい。焦ることはないよ」
「はい、ありがとうございます」
こうしてシャルルと話していると、ミオのテントが出来上がったと騎士が知らせに来てくれたので、荷物を置きにテントへと向かった。
本当にいつも手伝いが出来なくて申し訳ないと思う。
荷物を置いて、夕食の準備を始めている騎士達のところに行くと、ミオが唯一出来る水くみの手伝いが既に終わっていて、両手と両膝を地面について項垂れる。
「す、すみませんミオ様。今日はルシヨットの魔導師も同行しておりましたので……」
「いえ……大丈夫です。こちらこそ何もお手伝い出来なくてすみません……」
「ミオ様は焚火の所で温まりながらお待ちください」
「……はい」
今日の見回りには、ルシヨット魔導国の魔導師も3人程同行してくれている。
しかも男性なので、力仕事も出来るのだ。
そんなルシヨットの魔導師が魔法で火起こしをしているところに通りかかり、ミオは足を止めて見ていた。
火起こしか……これならミオでも出来るのでは?
「どうかしました?」
「あ、いえ……魔法で火を起こすのって難しいのかなと思いまして」
「簡単ですよ。やってみます?」
「いえいえ、私まだ火属性魔法使えないので」
どういうわけか、火属性魔法がなかなか習得できないでいるミオ。
火起こしなら出来そうなので、火属性魔法を何とか習得したいと思う。
「何か焼くんです?」
「魚を焼きますよ」
「ふぅん、そうなんですね」
今日は焼き魚か……焼くくらいなら手伝えるのでは?
「お手伝いしましょうか?」
「え、いいんですか?王女様に手伝わせても」
「今はただの魔導師なので」
「えーと……それじゃあ…」
「ミオ様!何やってるんですか!」
ミオが手伝おうとしていると、後ろから騎士の声が聞こえてきてビクッと肩を震わせた。
「ちょっと、魚を焼くのをお手伝いしようかと……」
「ミオ様は何もしないで下さい!」
「でも、包丁は使いませんよ?」
「火傷したらどうするんですか!」
「ヒールで治します」
「駄目です!」
「えー」
騎士に連れて行かれるミオを、苦笑いしながら見ていたルシヨットの魔導師だった。
こうして焚火の所に連れて行かれたミオは、焚火の番をしている騎士と一緒に夕食が出来上がるのを待つことに。
これって……見張られてるのとは違うんですよね?
―――――――
―――――
―――
朝食を食べてメーヌの森へと向かったミオ達は、今回は午前と午後で森を半分ずつ見回る。
午前中は二手に分かれて森の半分の見回りを終えたところで合流し、森の中央の開けた場所で昼食となった。
午後の見回りの時に、ミオはシャルルと一緒に城壁に行くことになっている。
メーヌの森はネーオールの森の2倍程の広さがあり、城壁はメーヌの森の南端からモンルトワ大雪原まで伸びている。
万里の長城ですか!……なんて思ってみたけれど、万里の長城はここの何倍も長い気がする。
確か、日本を囲むくらいの長さだったかな?
昼食を食べて片付けると、それぞれ見回りの準備を整えて整列した。
「では、私とミオは城壁を見て来るので、見回りをよろしく頼む。夕方に森の入り口で合流だが、何かあればミオのクリスタルに連絡をしてくれ」
「了解です」
騎士達が二手に分かれて見回りを開始し、ミオはシャルルを箒の後ろに乗せて城壁へと向かった。
森の中は木が生い茂っていて飛びにくいため、木々の間をくぐり抜けて上空へと箒を浮上させた。
こうしてしばらく飛んで行くと、遠くに城壁が見えて来た。
「あ、見えてきましたよ。本当に長い城壁ですね」
「オルレーヌの城壁よりも、かなり長い城壁だからな」
「だいぶ昔に建てられた城壁なんですよね?」
「そうだよ」
「昔の人って凄いですよね。よくこんな城壁作ったなと思います。材料運ぶのも大変だったでしょうに」
城壁の上に降りてみると、想像以上の幅があって驚いた。
まぁ、城壁の幅が狭かったら、あっという間に魔物達に破壊されていそうだけれど。
城壁の東側にも森が広がっていて、メーヌの森以上に木々が生い茂っているように見えた。
富士山のふもとに広がる樹海ってこんな感じなのだろうか?
「この先に魔物がたくさん放たれているんですよね?」
「そうだよ」
「ここからは……何も見えませんけど」
「この城壁には時々点検に訪れるのだが、今まで魔物の姿は見たことがないな」
「そうなんですね」
ミオは城壁の下を覗き込むと……箒に乗って降りてみた。
「ミオ!?」
「大丈夫ですよ、シャルルさん……少し先まで見て来ますね」
「ミオ!危ないから戻って来るんだ!」
「大丈夫ですよ」
「……まったく」
森の中に消えていったミオに、シャルルは盛大にため息をついた。
森の中を進んで行くミオ。
少しずつ魔物の気配を感じたけれど、魔物達は襲ってくる様子はなく、遠くからジーッとミオのことを観察でもしているようだった。
さすがに木が多すぎて飛びにくいため上空へと上がってみると、空にはたくさんのロック鳥が飛んでいた。
ロック鳥って……もしかして上級の魔物だったのか?
などと思っていたら、ここを飛んでいるロック鳥はミオが召喚するロック鳥よりも大きく、羽の色やくちばしの色が違っているようだった。
試しにヒールを使ってみると、他の魔物と同様に手懐けることが出来た。
凄いな、ヒール!
こうして快調に箒を飛ばして行くと、向こう側に城壁が見えて来た。
あれ、何処かでUターンしてしまいましたか?
ミオが城壁の上に降り立つと……そこにいた騎士達に取り囲まれてしまった。
「……え?」
「お前!いったいどこから入って来た!?」
「もしかしてお前……黒ローブ達の仲間か!」
「ち、違いますよ!私は……」
「あれ?もしかして……ミオ様じゃないですか!?」
「え?」
1人の騎士がミオの姿を見て驚いて駆け寄って来た。
何と、この城壁はシャトロワ王国の城壁だったのだ。
「俺ですよ!王宮の城壁の上でミオ様が脱いでいった靴を持って行った騎士です!」
「……あ、あの時の?」
「皆さん、この人はペリグレット王国の王女様ですよ!」
「「「何だって!?」」」
「てゆーか、どうやってここに来たんです?」
「ちょっと、向こう側から飛んで来たら、ここに辿り着いてしまって……」
「向こう側?……え、ペリグレットの城壁ってことです?」
「はい」
「いやいや、ここ、結界ありますけど!?」
「え?……あ、本当だ。すみません、私……結界すり抜けちゃう体質で……ほら」
「マジですか!?」
結界の中に手を入れて見せると、騎士はとても驚いていた。
やっぱり、結界をすり抜けられる人っていないんだろうか?
「とりあえず、団長呼んできますね!」
「団長って……エリアス様です?」
「そうです!今日はここに偵察に来ているんですよ。すぐ呼んで来るんで、ここで待っていて下さい!」
騎士が城壁の階段を駆け下りて行き、城壁の上には固まっている騎士達とミオが残されてしまった。
何だか……気まずい。
「オ、オイ!椅子をお持ちしろ!」
「あ、大丈夫ですよ、すぐに帰るんでお構いなく」
「さ、先程は大変失礼いたしました!」
「こちらこそ、突然来てしまってすみません」
お互いに頭を下げていると、とても慌てた様子のエリアスが階段を駆け上がって来た。
「ミオ!」
「……エリアス様……えーと……お疲れ様です」
「お前!魔物の森を抜けて来たとは本当か!?」
「魔物の森?……あ、この森ですか?そうですよ?」
「襲われたりしなかったのか!?」
「大丈夫ですよ、皆大人しい魔物ばかりでしたし。まぁ、木が多すぎたので途中から上空を飛んできましたけど」
「大人しいわけあるか!」
「本当ですって……ほら、あそこ飛んでるロック鳥みたいなのも仲良くなりましたし」
ミオが結界の向こうの空を指差すと、エリアスや騎士達が驚愕の表情を浮かべた。
ロック鳥は上級の魔物だけれど、ミオが指差したのはロック鳥の上位種で炎帝ロック鳥というらしい。
魔物は下級~上級に分類されているけれど、それぞれの等級の中でもランクのようなものがあり、炎帝ロック鳥はロック鳥と同じ上級だが桁外れに強いのだとか。
帰りに、契約してみよう……そう思うミオだった。
「それじゃあ、私そろそろ帰りますね。シャルルさんを待たせてるので」
「待たせているだと!?死ぬほど心配しているだろうが!今すぐ帰れ!」
「か、帰りますって……」
「向こうの城壁に戻ったらすぐに連絡しろ。いいな」
「はい……え?」
不意にエリアスがミオを抱き寄せた。
ちょっと!?騎士の皆さんが見ているのですが!?
「あまり皆を心配させるな」
「……すみません」
ミオは耳まで真っ赤になりながら、箒に乗ってフラフラと浮上させた。
「大丈夫か?フラフラしているが」
「エリアス様のせいですよ!」
「は?何故だ?」
「じ、じゃあ、帰りますね……」
ミオは結界をすり抜けて城壁から森に入ると、箒を浮上させていき炎帝ロック鳥と一緒にペリグレット王国へと戻って行った。
炎帝ロック鳥とは難なく契約することができ、ミオの召喚魔物へと加わった。
ミオが、シャルルが待つペリグレット王国側の城壁に向かって全速力で箒を飛ばしていると、炎帝ロック鳥が背中に乗せてくれてあっという間に城壁へと戻ることができ、城壁の上に降りるとミオは手を振りながら炎帝ロック鳥を見送った。
「ミオ!」
「すみません、シャルル……さん?」
名前を呼ばれて振り向きざまにシャルルに抱き寄せられた。
いつになくミオを抱きしめる腕に力が入るシャルル。
これは……相当心配させてしまったんだろうか……
どうしたらいいのかわからなかった両手を、シャルルの背中に添えた。
「なかなか戻って来ないから、死ぬほど心配したよ」
「……ごめんなさい」
「ミオ」
「はい?」
シャルルはミオを抱きしめる腕を緩めると、顔を寄せて額をくっつけた。
「お願いだから、1人で行かないでくれ」
「……はい、本当にごめんなさい」
とりあえず……シャルルに悪魔が降臨しなかったことは幸いだった。
ミオは、エリアスに言われたことを思い出し、慌ててクリスタルを取り出してエリアスに連絡した。
「もう着いたのか!?」
「はい。炎帝ロック鳥が乗せてくれて、めちゃくちゃ速く飛んでくれたので」
「は?」
エリアスの驚愕した顔が映し出された。
「団長もいるのか?」
「いますよ?ほら、ここに」
ミオがシャルルの前にクリスタルを移動させた。
シャルルの顔を見ると、エリアスがため息交じりに言った。
「お前も大変だな。気苦労がたたって倒れないよう祈っている」
「お気遣い……感謝いたします」
「……気苦労って何なんですか」
「いいか?次に来る時は連絡してから来るんだぞ」
「今日はたまたまで……」
「いいな」
「……はい」
エリアスとの通信を切ってクリスタルをしまうと、シャルルが眉間にシワを寄せながらこっちを見ていた。
あれ……怒ってます?
「ミオ」
「……はい」
「もしかして、シャトロワ側の城壁まで行ったのか?」
「……気がついたら結界すり抜けてました」
「当分の間、1人での外出は禁止だ」
「……え?」
それって……モンフォワールのことでしょうか?
マジですか?
これって、罰を受けてるってことですか?
「そろそろ戻らないと。皆が心配している頃だ」
「はい」
ミオが後ろにシャルルを乗せて城壁から降りて行くと、シャルルがミオの肩に顔をうずめて耳元で囁くように言った。
「私は時々不安になる」
「え?」
「ミオが、遠くに行って戻って来なくなるんじゃないかと」
「……私はどこにも行きませんよ。何があっても、必ずシャルルさんの傍に戻って来ます」
「約束だよ?」
「はい、約束します」
ミオとシャルルがメーヌの森の入口へと向かうと、既に見回りを終えた騎士達が集まっていて、帰りの遅い2人を心配しているところだった。
ミオは箒から降りると深々と頭を下げて謝罪した。
こうして、メーヌの森の見回りは、ミオがシャトロワ王国まで行ってしまったことを除けば、特に問題もなく終了となった。
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お読みいただきありがとうございました!




