閑話 悩み事
閑話の内容と入れるタイミングがいまいちよくわかっていないけれど……一応閑話として書いてみました。
王宮の前で、綺麗な花を咲かせている庭園。
先程から降り始めた雨が、花々を揺らしている。
そんな庭園のガゼボの中で、ベンチに座りながらぼんやりと庭園を眺めるミオ。
国王への報告にやって来たシャルルが、そんなミオの姿を見つけてガゼボへと足を運んだ。
「ミオ」
「え?……あ、パトリエール団長、おはようございます」
「おはよう。どうしたんだ?こんな所で」
「庭園見てたら雨が降り出しちゃって。雨宿りです」
「なるほど」
シャルルは傘をたたんでミオの向かい側に座った。
こっちにも傘があったんだなとミオは思った。
そういえば……こちらの世界に来て初めての雨だったな……
「何か悩み事?」
「え?」
「そんな顔をしているよ」
「そ、そうですか!?」
ミオが慌てて両手を顔に当てた。
「私で良ければ話してごらん」
「いえいえ、そんな誰かに相談するほどのことでもないので」
「……そうか」
「そういえば、こっちにも傘ってあったんですね、知らなかったです」
「ミオがこちらに来てから、雨は降ったことがなかった?」
「はい、初めての雨です」
「そう言われてみれば、ずっと晴れていた気がするな……今度、一緒に傘を買いに行こうか?」
「え、いいんですか?」
「もちろんだよ」
「じゃあ、お願いします」
シャルルは優しい笑みを浮かべると立ち上がった。
「少し、ここで待っていて」
「え?」
傘をさして王宮へと向かったシャルルは、すぐにミオの所に戻って来た。
そして、手に持ったもう1つの傘をミオに差し出した。
「今日はこの傘を使って」
「……ありがとうございます!」
「それでは、私は国王への報告があるからそろそろ行くよ」
「そうなんですね。すみません、お話に付き合わせてしまって」
「私が声をかけたんだから、ミオが謝ることではないよ」
「えーと……行ってらっしゃい……じゃあ、何か違うなぁ…」
「ふふ、行ってきます。また後で」
「はい」
王宮に向かうシャルルを見送って、ミオは借りた傘をさしながら宿舎へと戻って行った。
―――――――
―――――
―――
王宮の中の執務室で、頭を抱えて唸っている国王がいた。
そんな執務室を訪れたシャルルが、少々戸惑いながら国王に声をかける。
「……どうされたんですか?陛下」
「シャルルよ……聞いてくれるか?」
「……私で良ければ伺います」
国王は、シャルルをソファーに座らせると、飲み物を用意させて話を始めた。
「実はな、シャルル……」
「はい」
「…………ミオが欲しいものはないと言うのだよ!」
「……は?」
国王が頭を抱えるほどに悩んでいたことというのは、毎日のようにミオに欲しいものがないか訊ねているが、毎日欲しいものは何もないと言われてしまうことだった。
シャルルは、ミオの悩み事も何となくわかったような気がした。
「やっぱり私はミオに嫌われているんだろうか?」
涙を流しながら話す国王に、さすがのシャルルもため息をつく。
「……陛下、ミオはあまり欲がなく、欲しいものがあっても自分から誰かにねだったりはしません。毎日欲しいものを訊ねられては、ミオも悩んでしまいますよ」
「何だって?だが、子供はいろいろとねだるものであろう?」
「幼い子供であればそうかもしれませんが、ミオはもう大人ですし……」
「私にとってはいくつになっても子供なのだよ」
「……まぁ、そうですが」
「親であれば何か送りたくなるというものではないか?」
「私は……まだ親ではないのでよくわかりませんが……それなら、ミオの好きそうなものを送ってみたらどうですか?ミオはウサギがとても好きですよ」
「え、何故シャルルはそんなことを知っているんだ?」
「ミオに聞きましたから」
「私もそんな話が聞きたい」
「……ご自分で聞いてください。ミオの好きな雑貨屋が街にあるので、その店で何か買ってあげたら喜ぶと思いますよ?」
「だがなぁ……カエデは必要のないものは受け取らなかったのだよ」
妻であるカエデのことを思い出し、涙ぐむ国王にシャルルは頭を抱える。
「だったら、傘を買ってあげたらどうですか?」
「傘?」
「先程、雨宿りしているミオに会いました。彼女がこちらに来てから初めての雨だったので、まだ傘は持っていませんよ」
「なるほど、それは良いかもしれないな。だが……どのような傘を選べば良いのだ?ウサギが描かれた傘か?」
「好みもあるでしょうし、一緒に選ぶのが無難だと思います」
「ならば、今すぐに街に出かけて来よう!」
「それだと、ミオが陛下の娘だと街中に知られてしまいますので……ミオと一緒に傘を選ぶなら、王宮に傘屋を呼ぶべきかと」
「おぉ、そうだな!わかった、すぐに傘屋を呼び寄せよう!」
この国王、国王としてはとても素晴らしい人物だとは思うけれど、親としては普通の親と変わらないなと思うシャルルだった。
国王が傘屋を呼ぶ前に、本来の目的であった報告を済ませ、シャルルは騎士団の執務室へと戻って行った。
「傘を買いに行く約束をしてしまったが……まぁ、目的などなくても一緒に街には行けるか」
―――――――
―――――
―――
「え、お父……王様がですか?」
「すぐに王宮に来るようにだって」
「えー」
「いや、何嫌そうな顔してんだよお前…」
ミオが洗濯をしていると、リシャールが侍女からの伝言を伝えに来た。
朝に行って来たばかりなのに何だろう?
また欲しいものを聞かれるのかと思うと、少し憂鬱なミオだった。
「これ終わったら行きます」
「おぅ……いいなそれ、俺の洗濯物も乾かしてくれよ」
「王宮から戻ってからでも良ければ乾かしますよ?」
「頼む!」
ミオは、洗い終えた洗濯物をすべて乾かすと、さっき借りた傘をさしながら王宮へと向かった。
「ミオ!待っていたぞ!」
「えーと……どうしたんですか?」
「ミオと一緒に選ぼうと思ってな!ほら、中に入ろう!」
「?」
選ぶ?
ミオは首を傾げながら、国王に促されて部屋に入ると……そこには、ずらりと傘が並べられていた。
「え、傘?」
「ミオがまだ傘を持っていないと聞いてな。好きなものを選ぶといいよ」
ミオは少し戸惑った。
さっきシャルルと傘を買いに行く約束をしたばかりだ。
でも……父親の好意を無下にするわけにもいかないし……シャルルにはあとで謝ろう、そう思いながら並べられた傘を手に取った。
「これも可愛いけど……こっちもいいなぁ」
「ミオはどんな傘が好みなのだ?」
「うーん……こんなにあると悩みますけど……てゆーか、どうしたんです?この傘」
「傘屋を呼んだのだよ。街に一緒に行ったのでは、ミオが私の娘だと知られてしまうからな」
「なるほど……あ、これも可愛い」
傘を扱う店が街にあったなんて知らなかった。
しかも、かなりの種類があって驚く。
好きな柄の傘をいくつも手に取ってさしてみたりしていると、1つの傘が目に飛び込んできた。
なんと、持ち手がウサギになっていた。
手に持ってみると、ウサギの持ち手がとても手に馴染んで持ちやすかった。
傘を開いてみると、薄水色の生地に小さい白色のドット模様となっていて、所々のドットがウサギの形になっているのがとても可愛かった。
傘の裾がフリルになっているのが少し抵抗があったけれど……とても控えめなフリルだったので、それさえ我慢すればとてもミオ好みの傘だった。
しばらく悩んで他の傘も見てみたけれど、このウサギの傘以上に気になる傘は見つからなかった。
「どうだ?気に入った傘はあったかい?」
「うーん……ありましたけど……私がこんなフリルのついた傘なんてさしてたら引きませんか?」
「引く?引くとは……女性はそういう傘をさすものだろう?」
「え、そうなんですか?お父さんがそう思っているだけではなくて?」
「え、私だけなのか!?」
国王は慌てて侍女を呼びつけて聞いていた。
すると、侍女も国王と同じようなことを言っていたので、この王国では女性はフリルの傘を持つのは当たり前のことなのだとわかった。
「……でも、私には似合わなくないですか?」
「そんなことはないぞ!よく似合っておる!」
鏡の前でしばらく悩み……ウサギの傘を購入することに決めた。
国王が涙を流しながら喜んでいたけれど……こんなことで泣かないでください!
「ありがとうございます、お父さん。大事に使いますね」
「ようやくミオが欲しいものを買ってあげることが出来て、私はとても嬉しいぞ!うぅ…」
「だから、泣かないでくださいよ…」
涙を流す国王をなだめて、ミオはさっそく買ってもらった傘をさしながら宿舎へと戻って行った。
途中、シャルルの姿を見つけて駆け寄った。
「パトリエール団長」
「ん?ミオか、どうした?」
「さっき、一緒に傘を買いに行ってもらう約束をしましたけど、父に買ってもらったので、その……すみません」
「別に謝ることではないよ。国王がとても悩んでいたから、私がすすめたんだ。私の方こそ約束していたのにすまなかった」
「いえいえ、そんな」
「ミオらしい傘を選んだのだな。よく見るとウサギも描かれている」
「持ち手もウサギだったので、とても気に入りました」
「ふふ、それは良かった」
シャルルは、嬉しそうに傘をさしながら歩いて行くミオを見送りながらふと考える。
女性というものは、男性にいろいろとねだってくるものだと思っていた。
もしかしたら王都だけの風習なのかもしれないし、この王国の風習なのかもしれない。
それとも、育った環境で違ってくるのだろうか?
正直、シャルルは女性が苦手だった。
家柄や容姿を見て媚びてきたり、ねだられたりするのが昔から苦手だったのだ。
だから、女性とはあまり関わらないようにしてきた。
だが、ミオはそれまで出会ってきた女性とは何かが違い、シャルルにとってとても気になる存在だった。
ねだられることは苦手だったが……
「ミオへの贈り物は……正直私も悩んでしまうよ」
ねだられないということも、悩んでしまうものだとシャルルは思った。
誰にだって、悩み事くらいあるものです。
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