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憧れの異世界はやっぱりとても大変な世界  作者: 花聖
最終章 魔王と異世界生活
107/132

96 賢さと悪が背中合わせは何処でも同じ

のんびり更新中♪

 紫色と薄桃色、水色に染まった夜明け前の空。

 日に日に朝の空気が冷やされていき、そんな朝の空気はより一層空を綺麗にしてくれているようだった。


「……ん……寒っ!」


 前にもこんなことがあったような……そんなことを思いながらミオは起き上がった。

 椅子に掛けてあったカーディガンを羽織って窓に歩み寄り、カーテンを開ける。

 ミオの好きな空の色だった。

 思わず窓を開けたミオだったけれど、空気の冷たさにすぐに窓を閉めた。

 もうすぐ11月だ、そりゃあ寒いわけだ。


 冷たい空気に触れてすっかり目が覚めてしまったミオは、二度寝は諦めて顔を洗って着替えることにした。

 ふと、この時間ならシャルルが朝の鍛錬をしているかなと思い、渡しそびれていたシャトロワ王国でのお土産を持って部屋を出た。


 外に出ると鼻にツーンと来るほどに空気が冷え込んでいて、マフラーはして来たもののカーディガンじゃ寒すぎたと後悔する。

 部屋に戻ろうかとも思ったけれど、この空を見られる時間は限られているため我慢することにした。

 早起きすればまた見られるのだけれど。

 携帯で空の写真を撮ったりしながら騎士団の宿舎の方に向かっていくと、思った通りシャルルが訓練場で剣を振っているのが見えた。

 相変わらず早起きだなぁ……ミオは、鍛錬の邪魔にならないよう、静かに訓練場の中にあるベンチへと向かった。

 こうして、ベンチに座りながら剣を振るシャルルを眺めていると、しばらく剣を振り続けていたシャルルが手を止めた。

 そして、汗を拭きながらベンチに座っているミオに気がついて、驚いたような顔をした。


「ミオ」

「おはようございます、シャルルさん」

「おはよう。いつからそこにいたんだ?すまない、気がつかなかったよ」

「お邪魔にならないよう気配を消してましたから」

「別に声をかけてくれてかまわないのだよ?」


 シャルルは剣を鞘に収めると、ミオの前に歩み寄って来て、片膝をついてミオの手を取った。


「こんなに冷たくなって。寒かっただろう?おいで」

「え?」


 シャルルはミオの手をつないだまま、執務室へと連れて行き、ミオをソファーに座らせると温かい紅茶を入れてくれた。


「す、すみません。鍛錬の邪魔をしてしまって」

「謝ることはない。ちょうど終わろうと思っていたところだ。私は汗を流してくるから、それを飲んで待っていて」

「はい」


 シャルルが汗を流しに浴室に向かい、ミオは紅茶を飲みながら体を温める。

 ルシヨット魔導国から派遣された魔導師はまだここに滞在していて、シャワーだけでなく部屋の灯りなんかも設置してくれている。

 魔力を使って灯りをともすもので、スイッチで魔力のオン・オフを切り替えて灯りを付けたり消したり出来る。

 まるで電気を使った照明のようだ。

 定期的に魔導師が魔力を注ぎに来なくてはいけないけれど、そんなに頻繁ではないので問題ない。

 もう、ここに永住してくれないかなと本気で考えてしまう。


 そういえば、この紅茶……どうやってお湯を沸かしたんだ?

 元の世界にいた時は、電気ケトルなんていう便利な道具があったので、その時の感覚で普通に受け取ったけれど、この世界にはそんな便利な道具はなかったはずだ。

 食堂で沸かしてもらったお湯をピッチャーでもらってきて、部屋で紅茶を入れてはいたけれど……昨日の夜に貰ったお湯が、こんなに温かいはずがない。

 あとでシャルルに聞いてみよう、そんなことを考えていると、汗を流したシャルルが戻って来た。


「体は温まった?」

「はい、ありがとうございました。それと、この紅茶……どうやってお湯を沸かしたんです?」

「ミオはまだ見たことがなかったか?ルシヨットから来ている魔導師が、部屋でもお湯を沸かせるようにと作ってくれのだよ」


 シャルルがそう言いながら見せてくれた。

 これって……まるで電気ケトルじゃないですか!マジですか!?


「電気ケトルですか?」

「そのような名称なのか?魔力でお湯が沸かせる仕組みだと説明されたが……名称までは聞いていなかったよ」

「だったら、魔力ケトルですかね?この世界には電気ないですし。私の部屋にも設置してもらおう!」


 本当に、ペリグレット王国に永住してくれませんか!

 凄いな、魔力って。

 シャルルは、ミオの紅茶を入れ替えるついでに、自分の紅茶も入れてミオの隣に座った。


「ありがとうございます。それから、これをお渡ししたくて」

「これは?」

「シャトロワ王国のお土産です」

「開けてもいい?」

「もちろんです」


 ミオは手に持っていた小さな紙袋をシャルルに手渡した。

 シャルルが驚きながら開けてみると、皮の紐のペンダントで、シャルルの目の色に似たアクアブルーの石が中央にはめ込まれた飾りがついていた。


「防具屋で見つけたんですよ。魔法攻撃を跳ね返す防具だそうです。こういうのあんまり付けないかなとは思ったんですけど、お守りとして使ってもらえたらいいかなって」

「ありがとう、ミオ。つけてみてもいいかな?」

「はい、もちろんですよ!」


 シャルルがペンダントを首から下げて見せた。

 やっぱり、この石はとてもきれいな色だなと思う。

 シャルルにも良く似合う。


「大切に使わせてもらうよ。本当にありがとう、ミオ」

「いえいえ、喜んでもらえて良かったです」


 シャルルはペンダントを服の下に入れると、ミオに向かって微笑んだ。

 防具と言うからには、ちゃんと守ってくれるのではないだろうか?小さいものだけれど。

 こうして2人で話をしているとあっという間に朝食の時間となり、シャルルは食堂に、ミオは王宮へと向かった。






 ―――――――

 ―――――

 ―――






 ルシヨット魔導国から派遣された魔導師・サラに、ミオの部屋にも電気ケトルならぬ魔力ケトルを設置してもらった。

 これで、食堂に持って行かなくても好きな時に紅茶が飲めるし、パトリックの所にまた紅茶を買いに行こう。

 それから、雑貨屋でマグカップも見て来ようかな。

 そんなことを考えながらミオがカミーユの所に行くと、シャルルも来ていたのでミオは隣に座った。


「私の部屋にも魔力ケトル設置してもらいましたよ」

「そうか、良かったな」

「魔力ケトル?何だそりゃあ」

「魔力でお湯を沸かすやつですよ。ここには設置してもらってないんです?」

「あぁ、あれな。そんな名前だったのかアレ」

「まぁ、私がつけた名前ですけどね」

「お前がか!」

「私がいた世界に似たようなものがあったんですよ、電気ケトルって言うんですけど。こっちのは魔力でお湯を沸かすから魔力ケトルです。そもそも、ケトルってお湯を沸かす道具の名前なんですよ」

「なるほどな」


 シャルルとカミーユは、魔王と黒ローブについての話をしていたらしい。

 シャトロワ王国で黒ローブが現れたということは、魔王とは無関係ではないのではないか?そうすると、ペリグレット王国で竜を狙っていたことにも、魔王が絡んでいるのかもしれない。

 ミオに黒ローブのことを聞いてから、いろいろと調べているのだとか。

 ただ、有力な情報は何も集められていないけれど。

 それはそうだろう、ミオが報告をしたのは10日程前のことだ。

 こんな短期間でたくさんの情報が集められたら苦労はない。

 ましてや、魔王の記録など残っていないに等しいのだから。


「魔王の核の封印の解き方って、どこにも記されていないって言われてますけど、だったら毎回どうやって封印は解かれてるんでしょうか?」

「そういう連中は、変に頭は回るからな」

「何ででしょうね?」

「せっかくの賢さを、もっと良いことに使えばいいのだがな」

「私がいた世界でも、悪いことする人って凄い頭のいい人達でしたよ」


 とりあえず、魔王に関してはここだけでは調べるのが困難なため、何か黒ローブと魔王の接点がないかと、以前拘束した黒ローブからの調書をシャルルが持って来たらしい。

 おかしな発言しかしていなかったようだが、読み返したら何か発見できるかもしれない。

 シャルルもミオも今日は見回りに同行しないので、カミーユと3人で読み返してみることにした。


「すまないな、ミオ。手伝ってもらうことになってしまって」

「何を言ってるんですか。私だって魔導師団なんですから」


 ミオは調書を1冊手に取って、ページをめくった。

 やっぱりこの世界の人って凄いな、びっしりと手書きで書いてあるし、その上読みやすい字だ。

 何だろう、この世界の人って皆字が綺麗なのか?凄いな!

 調書には、黒ローブが語った言葉がそのまま書き記されていた。

 確かに、読んでいるとおかしなことばかり言っているなと感じる。


 竜を操ってこの王国を支配すれば、世界をも支配することが出来る……こんな小さな王国を支配したところで、世界を支配することなんて出来るはずがない、何を言っているんだ黒ローブは。

 言い方や言葉の違いはあるけれど、どれも内容としては同じような感じだ。

 その言葉の中に、何かヒントになるようなことが隠されていないかと思ったけれど……どう考えてもわからなかった。

 コ○ン君、転生して来てくれないかな……


「お前……その格好、窮屈じゃないのか?」

「え?」


 自分の机で調書を読んでいるカミーユに声をかけられて、ミオは調書から顔を上げた……というか、調書を下におろした。

 ミオは、ソファーの上で膝を抱えたような姿勢になり、背もたれに寄りかかりながら、膝の上に調書を立てて読んでいたのだけれど、え、これってそんなに窮屈そうに見えますか?


「膝の上に調書を乗せられますし、腕が疲れなくてとても読みやすいですよ?」

「……そうか、窮屈でないならかまわん」


 ミオは、再び膝の上に調書を乗せて読み始めた。

 こうして読み進めていくと、内容は同じようなものなのだけれど、何となく気になるものを見つけた。

 でも、何が気になるのかがわからない。

 ミオはその文章をジーッと見続けて……空いている向かい側のソファーにうつ伏せで突っ伏して調書をかぶって目を閉じた。


「……今度は何やってんだ?」

「さぁな、考え事かも知れないよ」

「どんな考え方だ」


 ミオには2人の会話は聞こえていない。

 見事なまでの集中っぷりだ。


 ミオが読んでいるのは「竜を操りこの王国を支配すれば、ここはあのお方の居場所となる。あのお方がお目覚めになる前に、ここを支配しなくては。あのお方がここを拠点として動き出せば、いずれ世界はあのお方の支配下に置かれるのだ」という調書だ。

 あのお方というのが、眠り続けていると信じられていた総裁のことなら、別におかしな言葉ではない。

 黒ローブ達は、総裁のことをとても崇めていたようなので、あのお方というのは総裁だと考えるのが当たり前だろう。

 でも、ミオの中で何かが引っかかるのだ。

 いったい……何が引っかかるんだ?


「うーん……」


 駄目だ、わからない。

 とりあえず保留にしておこう。

 ミオは起き上がるとテーブルに調書を置いて、携帯を取り出して気になるページの写真を撮った。


「……何してんだ?ミオ」

「何か気になる文章なんですけど、何が気になるのかわからないので、とりあえず保留にすることにして写真を撮っておきました。これで、あとで見返しやすくなるんで」

「ミオの道具はそんな風にも使えるのか、便利だな」

「写真撮るくらいしか出来ませんけど、なかなか使えますよ」


 ミオは、再びシャルルの隣に座ると、膝の上に調書を乗せて読み返し始めた。

 こうして読み進めていって、ミオが気になった調書はもう1つあった。

 それは、その調書の中の一文で「我々は、総裁の意志を継ぐ者。あのお方は、間もなくお目覚めになる」というものだ。

 とりあえず、この文章が書かれているページも写真に撮っておく。


「何かありました?シャルルさんと師団長の方」

「俺にはよくわからん」

「私が読んだ調書も、どれも同じ内容に思えたな」

「ですよね。おかしな人達だなってことはよくわかりましたけど……」

「そんな簡単に何か見つけられたら、苦労しないって話だ」


 焦りは禁物だ、見えるものも見えなくなってしまう。

 時間がどれくらいあるのかもわからないけれど、冷静さを欠かないように調べていこう。


「少し休憩しよう」

「それじゃあ、紅茶でも入れますね……あ、食堂に美味しい紅茶預けてるんで、もらってきますね」


 前にパトリックのところで買った、ベリーとハチミツの紅茶をスージーに預けていたことを思い出し、ミオは食堂へと向かった。

 するとスージーが、茶菓子にと美味しそうなスコーンを3人分包んでくれた。

 執務室に戻って、紅茶を入れてスコーンを頂くと、何とも美味しいスコーンだった。






 ―――――――

 ―――――

 ―――






 閉ざされた町の枯れ木の森―――


 吹き荒れる吹雪の中を進んだ黒ローブ達は、目的の場所に辿り着くことも、引き返すことも出来ずに彷徨っていた。

 吹雪は止まない。

 方角を示すコンパスも、正しい方向を指すことが出来なくなってしまった。

 水も食料も残りわずか。


「一度戻った方がいいのではないか?」

「……戻る術がない。我々は進むしかないのだ」

「この吹雪で何処に向かうと言うんだ?」

「このままでは全員戻れなくなるぞ。食料も残りわずかだ。戻って立て直すのが最善なのではないのか?」

「進むにも、戻るにも、この吹雪では困難なのでは?動かずに吹雪が止むのを待つべきだと思うが」


 黒ローブ達の意見が割れ始めた。

 彼らはそこから生還出来るのだろうか……



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お読みいただきありがとうございました!

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