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憧れの異世界はやっぱりとても大変な世界  作者: 花聖
最終章 魔王と異世界生活
100/132

90 シャトロワ王国第一王子の結婚式2

のんびり更新中♪

 シャトロワ王国の王宮の北側の城壁の向こう側には草原が広がっていて、所々に森が点在している。

 その奥には険しい岩山が連なり、閉ざされた町へと続いているため、王宮より北には町や村は存在していない。

 城壁を通り抜けないと草原には出れないようになっており、城壁の上には常に監視をしている騎士達がいる。

 人の出入りが難しいそんな草原の中で、王宮に最も近い森の中に黒ローブを羽織った人物達がいた。


「いよいよだな」

「今日は第一王子の婚姻の儀が行われる。各国の国王達が集まっている絶好の機会だ」

「いつも以上に厳重な警備となっているからな。細心の注意を払って準備を整えるぞ」


 黒ローブの数は10人。

 一体、何を企んでいるのだろうか?

 彼らがいる森は、王宮に最も近いとはいえ、城壁の上からは見えない距離だ。

 黒ローブ達の存在に、シャトロワ王国の騎士団はまだ気がついてはいない。






 ―――――――

 ―――――

 ―――






「……うぅ……寒っ!」


 あまりにもの冷え込みで目が覚めたミオは、身震いしながら布団にくるまりながらベッドから降りて、窓へと歩み寄った。

 カーテンを開けて窓を開けてみると……雪が舞っていた。


「雪?どおりで寒いわけよね……って、雪降るの早くない?」


 まさか雪が降るなどとは思っていなかったので、がっつりと防寒具なんて用意して来ていない。

 先日、ルグミアン王国から帰る際に訪れた時には、そこまで寒くなかったし。

 でも、世界地図を思い出してみると、確かにシャトロワ王国の王都はペリグレット王国よりも北に位置していた。

 ということは、冬の到来が早いということだ。


「マフラーだけでも持って来たのは正解だったな」


 10月の半ばということで、朝晩の気温差はあるかなと思い、マフラーは持って来てある。

 残念ながら冬用の上着は持って来ていないけれど。

 布団をベッドに戻し、顔を洗って着替えると、マフラーを巻いて部屋から出た。

 寒いけれど、雪が舞う庭園も綺麗そうだからちょっと見に行こうと思ったのだ。


「うーん……庭園はどっちだ?」


 ペリグレット王国よりも広い王宮に、部屋から出て来たもののどっちに進めばいいのか既にわからない。

 キョロキョロしていると、通りかかった使用人に声をかけられた。


「おはようございます。如何なさいましたか?」

「おはようございます。ちょっと目が覚めてしまったので、庭園でも見に行ってみようかなと思いまして……」

「雪が降っておりますが…」

「雪が舞う庭園も綺麗かなと思ったんですよ。大丈夫です、着込んでみたので」


 ミオがキリッとした顔で親指を立てて見せると、使用人は笑いながら庭園へと案内してくれた。

 使用人に礼を言って外に出ると……冷たい空気に包まれて身震いしたけれど、とても気持ちが引き締まりすっかり頭も目覚めた。

 まだ雪が積もる程の冷え込みではなく、フワフワと舞い落ちて来る雪は、地面に落ちるとスーッと消えていく。

 花のことはよくわからないので、咲いている花の名前などもわからないけれど、ペリグレット王国では見かけない花も多いようだ。

 こうして見ると、こんなに寒い冬でも咲く花は多い。

 温かい季節に比べると色とりどりとまではいかないけれど、薄紫やピンク、水色、白などの花が多く見られ、優しい色の花が多いように思えた。


 こうしてのんびりと庭園を散歩していると、後ろから上着をかけられて驚いて振り返った。

 そこに立っていたのはエリアスだった。

 部屋からミオの姿が見えて、あまりにも寒そうで慌てて降りて来たらしい。


「風邪ひくぞ」

「エリアス様、おはようございます」

「あぁ。何してるんだ?こんな早くから」

「目が覚めたのでちょっと散歩を」

「寒くないのか?」

「めちゃくちゃ寒いです!」

「お前……やはり馬鹿だろう?」

「だから、私に対して失礼ですって」


 エリアスがフッと笑いながらミオの手を取ると、そのあまりにもの冷たさに驚いた。


「こんなに冷えてるじゃないか!」

「手袋は持って来てませんでしたもん」

「中に入るぞ」


 エリアスがミオの手を握ったまま王宮へと向かった。

 中に入ると、そこにいた使用人に温かい飲み物を用意するよう指示し、自分の部屋へとミオを連れて行った。

 すぐに使用人が温かい紅茶を持って来てくれて、ミオはカップを両手で包み込んで手を温めた。


「ありがとうございます。手が生き返りました」

「それは良かった」

「こんなに早く雪が降るとは思っていませんでしたよ。ここは、冬の訪れが早いんですね」

「そりゃあ、ペリグレット王国よりも北だからな」


 エリアスの婚約者は、この雪の中ここまで来るのか。

 ドレスって……寒そうだけど大丈夫なのか?

 まぁ、エリアスの話だと今降っている雪はもうすぐ止むらしい。

 日中は日が出て暖かくなるようなので、問題はないとのことだった。


「昨日は初めてお前のドレス姿を見たが……」

「あれ、そうでしたっけ?ドレスなんて着慣れていないので、似合わないんですよ私」

「は?」

「……え?」


 どういう「は?」なんだ?


「とても似合っていたが?」

「そ、そうですか?それは……ありがとうございます」

「思わず抱きしめてしまいそうになったが……あの場ではさすがにな」

「なななっ、何を言ってるんですか!?」

「大丈夫か?真っ赤だぞ」

「だ、大丈夫ですよ」


 全く、この王子様は……よくもまぁ、こんな歯の浮くようなセリフを平気な顔でおっしゃる。

 静まれ私の心臓。

 ミオは紅茶を飲んで自分を落ち着かせた。

 なるほど、ガン見していたのはそういう理由だったのか。


「そろそろ朝食の時間だ。行くぞ」

「あ、はい」


 エリアスと一緒に朝食が用意されている部屋へと向かい、父親が座っている席へと案内されてエリアスと一緒に座ると、シャトロワ国王もミオ達と同席した。

 こうして朝食を食べ終えると、それぞれ準備のために自室へと戻り、使用人が迎えに来るまでは部屋で待機となるらしい。

 ミオはエレーヌにドレスを着せてもらい、化粧と髪の毛のセットをしてもらった。

 窓から外を見てみると、朝降ってた雪はすっかり止んで太陽が顔を出していて、エリアスが言っていた通り、暖かくなりそうだった。






 ―――――――

 ―――――

 ―――






「よし、描き終えたな?決行は昼だ。それまで森に身を隠すぞ」

「了解」


 黒ローブ達は森から草原に出て魔法陣のようなものを描いていた。

 その魔法陣を見えないように魔法で消して行く。

 定期的に騎士団が見回るので、気がつかれないように森に姿を隠しながら、いくつもの魔法陣を描いて行った。

 草原に描かれたのは、何の魔法陣なのか……






 ―――――――

 ―――――

 ―――






「どんなお嫁さんなんでしょうね?楽しみです」

「そうだなぁ」


 使用人に案内されて、ミオは父親と並んで会場に設置された椅子に座っている。

 婚姻の儀の準備は整い、今は婚約者の到着を待っているところらしい。

 エリアスと結婚するのは、いったいどのような女性なのだろう?

 形式上の結婚だとエリアスは言っていたけれど……一緒に生活をしていくうちに、きっと愛情が芽生えていくわよね?

 自分の結婚式でもないのに、何だかドキドキしてしまう。

 そういえば、この世界の結婚式って神様に誓うのかな?立会人は神父さん?

 などと思っていたら、神様には誓うけれど、立会人は神官代理として国王や領主が務めるらしい。

 国王ってそんなこともするんだ。

 ルグミアン王国には神官がいるので、立会人は神官が務めるようだ。


「王様の隣に座っているのが王妃様ですか?」

「あぁ、そうだよ」

「お綺麗な方ですね……でも、ちょっと顔色悪くないです?」

「エリアス王子が招待状を持って来た時に、最近あまり体調が良くないのだと話しておったよ。病気というわけでもないようだがなぁ」

「ふぅん、そうなんですか……」


 エリアスの母親である王妃様は、化粧でごまかしているようだけれど、顔色が優れないように見えた。

 辛そうな顔はしていないけれど……何だか気になる。

 ミオが王妃様のことを気にかけていると、空いていたミオ達の前の席に男性と女性がやって来て座った。

 この2人はエリアスの婚約者の両親らしい。

 ということは、いよいよ式が始まるのか?

 ミオはドキドキしながら後方にあるドアを見つめた。


 しばらくするとドアが開かれ……エリアスと腕を組んだ婚約者が入って来た。

 入り口で一礼した後、招待客による拍手の中ゆっくりと通路を進む2人。

 純白のタキシードと純白のドレスに包まれた2人は、何だか神々しくも見えてとても美しかった。

 それにしても……エリアスは緊張しているのだろうか?隣で愛想よく笑顔を振りまいている婚約者に対して、エリアスはとても硬い表情でただ前を見つめていた。


「とても可愛らしいお嫁さんですね」

「そうだなぁ……だが……」


 父親が言いにくそうな顔でミオの耳元に口を寄せると、彼女は性格に難ありだと聞いていると教えてくれた。

 そんな風には見えないけれど、まぁ……外見からは分からないのが人間というものだ。


 2人がちょうどミオの傍を通りかかった時に、何となくエリアスと目が合ってしまい、気まずさを感じながらも笑顔が引きつらないように見送った。

 立会人であるシャトロワ国王が2人の前に立ち、婚姻の儀が始まった。

 やっぱり当人達は相当緊張するものなんだろうな……ドレスなんか着て緊張しまくりながら立っていたら、自分だったら倒れそうなどと思いながら見ていたミオ。

 ふと、王妃様がスーッと倒れて行くのが視界の端に入って、え?と思いながら視線を向けると、床の上に倒れたところだった。

 慌てて立ち上がって駆け寄ったミオ。


「どうなさいました!?」

「…………」


 意識がないらしく返答がない。

 冷や汗だろうか?額には汗が吹き出していて、とても辛そうに見えた。

 病気だったらヒールでは治せないけれど、とりあえずヒールを使ってみた。

 ほんの少し表情が和らいだように見えるけれど、効果は薄いようだ。


「母上!」


 エリアスが駆け寄ろうとしたけれど、婚約者が腕を引いて止めたらしく、エリアスが眉間にシワを寄せて険しい表情になったのが見えた。

 え、母親に駆け寄ろうとしたのを引き止めた?どういうこと?

 ミオは何だかモヤモヤした気持ちになったけれど、今はそんなことを考えている場合ではない。

 ヒールが効かないわけではないのね……ミオは少し考えて、ヒールの上位魔法を使ってみることにした。

 初めて使うけれど、害はないはず。

 胸の前で両手を組み合わせて、祈りを捧げるように額をくっつける。


「光の精霊よ、我が祈りに癒しの力を。我が名はミオ、ヒーリングサークル」


 王妃とミオが光に包み込まれる。

 しばらくして光が消えていくと、王妃はゆっくりと目を開けた。

 額に浮かんでいた冷や汗も引き、顔色も良くなったように見える。


「大丈夫ですか?」

「私……また倒れてしまったのね。あなたは?」

「私はミオ・ペリグレットです。起き上がれます?」

「ええ、ありがとう」


 ミオが王妃の背中に手を添えて起き上がるのを手伝うと、体の具合は良くなったようですぐに立ち上がった。


「体がとても軽くなったわ。ありがとう、ミオさん」

「いえいえ。でも、まだ無理はなさらないで下さいね」


 王妃を椅子に座らせると、ミオは自分の席へと戻って行った。

 とりあえず事なきを得て、婚姻の儀が続けられた。

 その後は王妃の具合が悪くなることもなく、婚姻の儀は終了し、エリアスと婚約者はめでたく夫婦となった。

 エリアスの顔には相変わらず笑顔がなかったけれど。

 こうして、会場に入って来た時と同じように、2人は腕を組みながら盛大な拍手の中を退場して行く。

 エリアスはミオの前で足を止めると、「礼を言う」と軽く頭を下げて退場して行った。

 2人が入り口で立ち止まり、こちら側を振り向いて一礼して出て行くと、ドアが閉められて会場内の緊張した空気が和らいだ。


「めちゃくちゃ緊張したぁ」

「ミオの結婚式でもないのにか?」

「そうですけど……こんなに偉い人に囲まれてるし、何だか凄い式典みたいだし、緊張しますよ」

「そのようなものか?」

「そのようなものです」


 この後は午餐会という、いわゆる昼の食事会というものがあるらしく、準備が整うまで寛いでいて下さいとの国王からの話があり、庭園や休憩スペースのようなところで過ごすこととなった。

 王宮に宿泊している人の中には、自室に戻って休む人もいるようだ。


「どうします?庭園でも見に行きます?綺麗な花が咲いてましたよ」

「そうか、それなら庭園を少し歩いて来ようかの」


 ミオと父親が庭園に行こうと立ち上がると、シャトロワ国王と王妃が傍に歩み寄って来た。


「先程はすまなかったな、ミオ王女」

「いえいえ。たまたま倒れたのが見えたので。ヒールが効いて良かったです」

「ここ最近、体調が優れなくてな。どの治療も全く効果がなかったのだが……どのような魔法を使ったのだ?」

「どのようなって……何でしょう?少し強いヒールと言いますか、そんな感じのものです」

「今まで、どの薬を飲んでも、回復魔法を使っても効果がなかったのよ。でも、あなたが使った魔法で、嘘みたいに体が軽くなったわ。本当にありがとう」

「それは良かったです」

「エドワール、お前達はどうするんだ?」

「今から庭園でも散歩しようと思っていたところだ」

「そうか。ならば私が案内してやろう」

「私も御一緒しますわ」

「え、まだ無理はなさらない方が」

「大丈夫、とても気分がいいのよ。たまには外の空気も吸わないとでしょう?」


 かなり心配ではあったけれど、本人が行きたいと言うのだし、シャトロワ国王もいるので大丈夫だろう。

 ミオと父親は、2人に案内されながら庭園を回った。

 朝とは違って日が差しているため、ポカポカとしていて散歩日和だ。

 ガゼボに入ると、使用人が温かい紅茶を用意してくれて4人で頂く。

 こうして、のんびりと会話を楽しんでいると、エリアスが駆け寄って来た。


「母上!外に出て大丈夫なのですか?」

「ええ、もうすっかり体調が良くなったのよ。ミオさんのおかげね」

「そうですか」


 エリアスは、ミオに目を向けると隣に座ったけれど……何故に両親の隣ではなくミオの隣に?


「エリアス様の奥様、えーと……コレット様は?」

「あいつは疲れたから部屋で休むそうだ」

「主役は疲れますもんね」

「そういう奴だ。このような日でも、勝手な奴なんだよ」

「ま、まぁそんなこと言わずに……エリアス様は休まなくていいんです?」

「私が休むわけにはいかないだろうが」

「そういうものなんです?」

「そうだ」


 やはり、式では緊張していたのだろうか?ミオの隣に座ったエリアスの表情は柔らかくなっていた。

 それにしても、結婚式の主役は大変なんだなと思う。

 気を使い過ぎてやつれてしまいそうだ。


「とても可愛らしい方でしたね、コレット様」

「そうか?お前、騙されやすいだろ」

「し、失礼ですよ!騙されませんよ!……たぶん」

「結婚するなら、騎士団の団長のような男が良いぞ」

「どの団長ですか」

「先日一緒に来ただろう?」

「……シャルルさんですか?そ、そんな……シャルルさんにだって選ぶ権利ってもんがあるんですよ!」


 突然何を言い出すんだ、この王子様は!

 ミオが耳まで真っ赤になっていると、エリアスは真顔で言った。


「お前……面白い奴だな」

「どどど、どこがですか!」


 その時、ミオはとんでもない数の魔物の気配を感じて立ち上がった。

 気のせいだと思いたかったけれど、どうやら気のせいではないらしい。


 え、マジですか?



 .

お読みいただきありがとうございました!

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