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憧れの異世界はやっぱりとても大変な世界  作者: 花聖
第一章 異世界生活と黒ローブ
1/132

01 異世界にやって来た

のんびりと更新していく予定なので、更新速度はそんなに早くはありません。

初めての執筆で伝わりにくい部分もあるかと思いますが、ゆるりと楽しんでいただけたら幸いです。

語彙力のない作者ですが、寛大な心でお読みいただければと思います。

 桜井美桜 23歳 OL

 趣味 読書

 特技 なし


 つまらないプロフィールだといつも思う。

 趣味が読書とはいえ、読んでいるのはマンガ本やラノベだし。

 異世界……憧れるなぁ…………現実的に行けるはずがないけど、本気で行きたいと思ってしまう。

 だから私は、小説を読みながら、登場人物と自分を置き換えてみたり、自分というキャラを投入してみたりして、妄想の中で異世界を堪能する。


 ……………誰にも言えないけど


 今日も、仕事から帰ってくると、夕飯代わりにお菓子をつまみながら、私は小説の中に入り込んだ。

 幸せだなぁ。

 異世界……ありふれた日常からの現実逃避。


 妄想に浸りながら、ふと思った。


 誰かが書いた素晴らしい物語の中はとても居心地が良い。

 もし、自分で物語を作ってみたら……楽しいのかな?


 今は、携帯さえあれば、インターネットを使って色々なことが簡単に自由に作れてしまう時代。

 なんて便利な世の中だろう。

 その分、ネット犯罪みたいなものも増えてはいるけれど。


「……きっとわかりやすく書いてはあるんだろうけど………使いこなせるのかな?私」


 いつも読んでいる小説のサイトで、小説の投稿機能というのを見てみた。

 きっと、ここに投稿している人達には難しくない内容なんだろう。

 でも、いつも読み手なだけで、こういうサイトを使ったこともない私にとって、完全に理解するには少し難しい内容だった。

 使ってみたら分かるのかな?


 投稿するしないは別として、書くだけなら自由だ。

 読むのは自分だけだし。

 よし、書いてみよう。

 とりあえず、自分のアカウントを作成した。






「えーと……何からすれば?」


 小説を書き始めるにも……どう書けばいいのか分からない。

 携帯のメモ機能を立ち上げて、設定とか色々書き出してみることにした。

 こうして考え始めると、何だか楽しい。

 自分だけの世界

 自分だけの物語


「……………なんか……私の世界って、ありふれてる世界だな…」


 所詮素人です。

 素人なのですよ!

 どこか今まで読んできた小説に似てるし、内容が浅くなってしまう。


「ま、まぁ……誰かが読む訳でもないし、とりあえず良しとしよう」


 こうして考え始めて程なく迎えた大きな壁。

 地名、人名、その他諸々の名称。

 ………思いつきません

 少し考えて、携帯で検索してみた。

 うん、本当に便利な世の中で良かったよ!


 こうして、何となく設定が決まったところで、書き始めてみることにした。

 主人公の名前は……自分でいいか。






 ―――――――

 ―――――

 ―――






「今日も残業かぁ…」


 退勤時間が過ぎたことを知らせる時計を見上げながら、はぁ…と溜息をつき周りを見回す。

 退勤時間にも関わらず、帰ろうとしている人は一人もいない。


 自分の仕事は終わってるのにな…


 別に帰ってはいけないルールなんかはない。ないのだけれど…


 とりあえず、明日のプレゼンの資料の確認でもしておこうと、パソコンに手を伸ばしたところで、先輩が声をかけてきた。


「よぉ。相変わらず仕事早えぇな。終わってんなら帰りゃいいだろ?」

「……えーと…何かお手伝いしましょうか?」

「お、良いのかよ?いつも悪りぃな。そんじゃ、これ、よろしくー」

「…………」


 先輩は最初から頼む気満々で書類の山を持っていた。

 こんなに?今日、何の仕事してたのよ…デスクの上に、書類の山がドサッと音を立てながら置かれた。


 あの先輩、いつも人に仕事を押し付けて、自分は早々に仕事を切り上げて帰るから、心の中でフツフツとした怒りを爆発させないように何とか抑え込む。

 盛大に溜息をつきながら、デスクの上に置かれた書類の山に手を伸ばした。











「んんーーーーーっ………疲れたぁ」


 結局、先輩はあの後30分もしないうちに帰って行った。

 書類の山が片付いたのは先輩が帰ってから約4時間後。

 毎日何をしに会社に来てるんですか?と声を大にして言ってやりたい。

 明日こそは定時で帰ろう……そんな勇気はありません。


「……帰って小説の続きを書こう」


 コンビニで夕飯と明日の朝食なんかを買い、自宅マンションに向かって歩く。


 こうして、深夜に近い時間にも関わらず、街灯によって明るく照らされた歩道を歩いていると、不意に地面が揺れだし立ち止まる。


「…地震?」


 徐々に揺れは大きくなっていき、美桜はその場に座り込んだ。

 何だこれ……もしかして震災?ヤバイやつ!?


 あまりにもの揺れに立ち上がることは出来ない。

 こんな時、周りに誰もいないって本当に心細く恐怖心も大きくなる。

 困惑しながら辺りを見回そうとした時。


「えっ!?」


 突然、眩い光に包み込まれ、目をギュッと閉じた。






 ―――――――

 ―――――

 ―――






 ペリグレット王国

 豊かな大地と、海に面した王国。


 そんな王国の一角で、人間と魔物の戦いが繰り広げられる。






「おい……あの光は…」

「あ…あれは!」


 魔物との戦いで窮地に追いやられていた王国騎士団と王国魔導師団所属の魔導師。

 もうダメかと思われたその時、空から一筋の光が降りてきた。

 それまで絶望的な光を宿していた騎士や魔導師達の目に、希望の光が灯される。


「伝説の魔導師様が戻られた!我々はまだ戦える!」

「勿論です、団長!」

「「「「おぉぉぉーーー!!!」」」」


 彼らが戦っているのは、水竜(ウォータードラゴン)と、上級に分類される魔物たちだ。

 ここは王都の南側に位置する森の奥。大きな湖の畔だ。


 本来であれば、この湖を守っている水竜なのであるが、1年前に突如として凶暴化し、湖に近づく者を襲うようになった。

 そして、ついには森の外に出て周辺の村や町を襲うようになった。

 同時に、森には沢山の魔物が出現するようになり、その被害も広がりつつあった。

 その為、王国騎士団と王国魔導師団は、定期的に調査及び魔物の討伐に訪れていた。











 ―――美桜


 誰かが呼ぶ声がする


 ―――目を開けなさい、美桜


「……ん………っ!?」


 聞き覚えのあるような声に、ゆっくりと目を開けた美桜だったけれど、あまりにもの眩しさにギュッと目を閉じた。


 ―――思い出して


 何を?


 ―――大切な物語を






「……お母……さん?」


 再び美桜が目を開けた時、それまで感じていた浮遊感は消え、座り込んだ足の下に地面の硬さを感じた。

 そして、美桜を包み込んでいた光が消える。


「……………え……どこ!?」


 さっきまで美桜は、マンションに向かって歩いていたはず。

 決してこんな湖の畔になどいなかった。

 てゆーか……湖!?あんな都会に、こんな大自然な湖なんかなかったわよね!?


 ま、まずは落ち着こう。


 正しく思考回路が回らない頭の中を一旦整理しようと、美桜は目を閉じて深呼吸してみた。

 そして、もう一度目を開けた時……


「………え?」


 巨大な何かの姿が目に入り、再び思考回路がフリーズした。


 アレは……ドラゴンという生き物で合ってますか?


 アニメやゲーム、漫画なんかで見たことがあるような、あの姿。

 現実に存在するはずもない架空の生き物………あ、そっか。

 これは夢の中。

 きっと小説なんか書き始めたからこんな夢を見ているんだ。

 夢の中なら、あのドラゴンも何とか出来るのでは?


 これは現実ではなく夢なんだと、どこか無理やり納得しようとしていると、大きく翼を羽ばたかせた水竜が、美桜に向かって近づいてきた。

 後ろから大騒ぎする人達の声が聞こえる。

 夢なら……夢ならば、死ぬことは…ないわよね?


 そうは思ってみたものの、流石に怖い。

 夢の中とはいえ、ドラゴンが向かってきたら恐怖心半端ないです!!

 てゆーか、よくこんなにリアルなドラゴンを夢の中で描けたね、私。






 ―――美桜、思い出して


 また、あの声だ。


 ―――あなたが小さかった頃、いつも話してあげたでしょう?


 私が小さかった頃?


 ―――思い出して、魔法の言葉を


 魔法の………言葉…






 美桜の胸元で、母親の形見であるネックレスの石が眩く光を発した。


「ホーリー シールド!」


 美桜が両手を翳しながら言葉を紡ぐと、水竜と美桜との間に大きな光の盾が現れた。

 水竜は盾に阻まれてこちらには近づけない。


 美桜は困惑しながら、ネックレスと自分の両手と光の盾を交互に見る。


「えーと…」


 まぁ…夢だからね。

 魔法が使えても……おかしくはないわよね?






 ―――ドラゴンはね、皆を守ってくれているのよ


 あぁ、そうか


 ―――ドラゴンは、とっても優しい生き物なの


 子供の頃、お母さんが話してくれた物語


 ―――もしも悪い人達が、ドラゴンに悪いことをしたのなら……






「ドラゴンを、助けてあげて」


 美桜は、子供の頃に母親がいつも話してくれた物語を思い出した。

 大きく深呼吸をすると、シールドを抜けて水竜の前に立った。


「……誰かに操られているの?大丈夫、今、助けてあげる」


 水竜は、一際大きく咆哮し、真っ赤に染った瞳で美桜を見据え、翼を大きく広げると、天を仰ぎながら口を大きく開けて巨大な水の塊を出現させた。

 そして、その水塊を美桜に向かって吐き出そうとした時、水竜に向かって差し出された美桜の両手から白金色の光が放たれ、水竜を包み込んだ。


「古の理に、我の御霊を捧げん。ディスペレーション」


 美桜は胸の前で両手を組み、目を閉じながら膝を着いた。


 水竜を包み込んでいた白金色の光が、キラキラと粒子を拡散させながら消えていく。


 真っ赤に染った水竜の瞳は、サファイアブルーへと変わった。


「ふぅ………終わった」


 美桜は立ち上がって水竜を見上げる。

 ネックレスの光はいつの間にか消えていた。


 水竜は、ゆっくりと美桜に顔を近づけると、ジーッと美桜の目を見つめて、元の姿勢に戻った。

 そして、ゆっくりと翼を羽ばたかせ、湖の上を1周すると、森に現れた魔物を一掃して、湖の中へと消えていった。


 湧き上がる歓声。


 ………えーと、どちら様でしょうか!?


 そう言えば、ここに来た時に、ガヤガヤと声が聞こえていたような気もする。

 美桜は後ろを振り返った。


「貴女が、伝説の魔導師『カエデ様』か?お戻り頂き、感謝する」


 歓声を上げている騎士?達のリーダーだろうか?綺麗な白金色の長めの髪の毛を後ろで一纏めにした、身長が185くらいあるんじゃないかという高身長のイケメンが美桜の前に膝をついた。


「えーと……私は『カエデ様』ではないですね(何でお母さんの名前?てゆーか…伝説の魔導師?)」

「違う……と」

「……はい……私は、美桜と言います。桜井美桜……ミオ・サクライと言った方が良いですかね?」

「すまない、申し遅れた。私は、この騎士団『王国第一騎士団』団長、シャルル・パトリエールだ」


 いつまでも膝をついて美桜を見上げる騎士。

 これって…立って頂いた方が良いのかな?


「だが、あの光は確かに言い伝え通りだった」

「言い……伝え………ですか?」

「……一先ず、王都に戻ろう。日が暮れてしまうと森は危険だ」


 あれ?私も一緒に行く流れですか?まぁ……夢なんだし問題ないか。


 こうして、美桜は騎士達と共に森を出ると、魔導師と一緒に馬車に乗り、王都へと向かった。

 森を抜ける途中で魔法陣のようなものを消してきたけど…あれは何だったんだろう?

 騎士達は、総勢20~30人くらいいるだろうか?それに対して、魔導師はたった2人。

 この世界に魔法はあるものの、使える人間はほんの一握りしかおらず、討伐には、回復魔導師と攻撃魔導師の2人、若しくは両方の魔法を使える魔導師1人だけしか同行しないらしい。


 てゆーか、夢の割に設定が細かくないですか?

 そもそも、夢の中なのに今日着ていた通勤着の膝上フレアスカートとブラウスのままなんですけど?

 それに……通勤バッグも持ったままだし。

 目の前に座っている魔導師の2人や、馬車の外で馬に乗って走る騎士たちとはあまりにも装いが違い過ぎる私は、この世界ではとても浮いているように思う、まぁ、夢だから良いのだけれど。


 夢の中とは言え、初めて乗る馬車は想像以上に揺れる乗り物だった。

 舗装されている道路なら、こんなには揺れないのかな?などと考えながら、とりあえず酔わないように、流れる景色へと目を向けた。


 都会の景色とは違う、ヨーロッパの風景画のような景色が、何だかとても心地良い。

 心が洗われるって、こんな感じなのかな?この景色は好きだ。

 馬車に揺られてどれくらい経ったのだろうか?少しずつ日が傾き始め、夕暮れ時という時間帯が、より一層幻想的な景色へと変えた。


 美桜は、バッグから携帯を取り出すと、カメラを起動して写真を1枚撮った。


「それは一体…」

「え?」

「貴女の世界の道具なのですか?」


 向かい側に座っている魔導師が、物珍しそうに携帯を見ていた。

 そうか、この世界に携帯なんかないわよね。


「これはとっても便利な道具で、見たものをそのまま収めておくことができるんですよ」

「見たものを……ですか?」

「はい」


 美桜は、携帯の画面にさっき撮った写真を表示させて、魔導師達に見せた。

 驚きで目を見開く2人。

 美桜はクスリと笑いながら、携帯をバッグにしまった。


 電波も電気もないこの世界では、携帯なんて写真を撮るくらいしか活用方法が思い浮かばない。

 バッテリーが切れてしまったら、もう使い道なんてなくなるけど。


 馬車に乗って1時間くらい経っただろうか?向かい側に座った魔導師の1人が、もう間もなく王都に到着すると教えてくれた。

 その直後。


「うぅ……」

「どうかなさいましたか?」


 激しい頭痛に襲われ、美桜は両手で頭を抱え込んだ。

 ダメだ、頭が割れてしまいそう…


 頭痛と共に息苦しさも覚え、座っていることさえ困難となる。

 頭を抑えながら崩れるように横たわる美桜。

 魔導師達の声が、だんだん遠のいていく…






 ―――――――

 ―――――

 ―――






「ミオ様!?大丈夫ですか!?ミオ様!!」

「パトリエール団長!!大変です!!」


 魔導師は、馬車の小窓から顔を出し、大声で第一騎士団団長、シャルル・パトリエールを呼んだ。

 声を聞き付けた騎士が、シャルルを呼びに馬を走らせる。

 程なくして、シャルルが馬車の隣に馬を付ける。


「何があった?」

「ミオ様が突然頭を抱えて苦しみ出し、意識を失いました!」

「何だと!?馬車を止めろ!!」


 シャルルは馬車を停止させると、馬から降りて馬車に乗り込んだ。


 苦しそうに呼吸をしながら横たわるミオ。

 シャルルが額に手を当てると、尋常ではない熱さだった。


「酷い熱だ。王都はすぐそこだ、急いで戻るぞ」


 こうして馬車を急がせ、王都に入り王宮に着くと、シャルルはミオを抱き抱えて王宮内へと急いだ。

 一体、何が起こっているのだ?馬車に乗る時は、特段変わった様子はなかったが…


 廊下で会った文官に事情を説明し、休ませられる部屋に案内してもらった。


「すぐに宮廷医を呼んで参ります」

「あぁ、宜しく頼む」


 シャルルはミオをベッドに降ろし、傍にあった椅子に座った。

 苦しそう呼吸するミオに、シャルルの顔が歪む。


 程なくして、文官と共に宮廷医がやって来て、ミオの診察を行った。


「こちらの世界に来た影響なのか?」

「それも考えられますが………見たところ、御病気などではないようです。お目覚めになられるまで様子を見ましょう」


 宮廷医に指示され、侍女が熱を下げるための道具を持って、部屋を訪れた。


「後のことは侍女にお任せ下さい。パトリエール様は、宰相へのご報告を」

「あぁ、そうさせてもらう」


 シャルルはもう一度ミオに目を向け、部屋を後にした。






 ―――――――

 ―――――

 ―――






「……………んー……」


 窓から差し込む眩しい光を受け、ミオはゆっくりと瞼を持ち上げた。

 ようやく夢から覚めたのだろうか?


「………目が痛すぎる!」


 激しい目の乾きと痛みに、慌ててカラーコンタクトを外す。

 やってしまった……目は大丈夫だろうかと、鏡を見ようと手を伸ばし、そこでフリーズする。


「……………私の……部屋じゃない?」


 結局のところ、まだ夢の中らしい。

 てゆーか……そもそも、本当に夢なのか?ベッドの上で困惑していると、部屋のドアがノックされ、メイド?のような女の人が入って来た。

 彼女はミオが目覚めているのを見て、目を丸くして駆け寄ってきた。


「お目覚めになられたのですね!お加減はいかがでございますか?今、お医者様を呼んで参りますので、このままお待ち下さいませ!」

「あ………行ってしまった」


 ミオが言葉を発する間もなく、侍女は部屋から出て行ってしまった。

 仕方がないので、戻ってくるまでこのまま待っていよう。


 その後、侍女と共に宮廷医が部屋にやって来て、ミオは診察を受けた。


「どこか痛かったりなさいませんか?」

「えーと……大丈夫です。頭痛も治まったみたいですし」

「左様でございますか」


 宮廷医の診察を受けていると、部屋のドアがノックされ、シャルルが入って来た。

 シャルルはミオの顔を見ると、安堵の表情を浮かべながら歩み寄る。


「漸く目が覚めたか」

「あ、はい……ご心配をおかけしました」

「高熱に浮かされていたが……」

「あー……だからあの時凄い頭痛がしたんですね。風邪かなぁ…」


 高熱と聞いて、あの時の激しい頭痛に納得していると、不意に近づいたシャルルの顔に、心臓が飛び出しそうになった。


「瞳の色が……変わっているようだが?」

「あー、えーと……私が住んでいる世界だと、この色の瞳は存在しないので、いつもカラーコンタクトをつけてたんですよ」

「カラー……コン?」

「カラーコンタクトです」


 ミオは、さっき外したコンタクトを、掌に乗せて見せた。


 ミオの瞳の色は、生まれた時からラベンダー色をしていた。

 髪の毛の色もミルクティー色なので、日本ではかなり浮いてしまう見た目だった。

 髪の毛は黒く染めたこともあったけれど、自然な色にはならないため、特には手をかけないことにした。

 母親も、ミオよりは濃い色だったけれど、似たような髪色だったし。

 ただ、瞳の色は周りに好奇の目で見られたり、イジメの対象になったりしたので、カラーコンタクトで隠すようにしていた。


「ミオのいた世界には、瞳の色を変える道具もあるのか」

「そうですね………っ!?」


 一旦離れたシャルルの顔が、再び目の前に近づき、ミオの顔が一気に熱を持つ。


「熱は下がったようだが……顔が赤いな」

「そそそ、それは貴方の顔が近いからですよ!」

「……それは、失礼した」


 シャルルの顔が離れ、ふぅっと息を吐く。


「思いの外元気そうで安心した。3日も眠り続けていたからな」

「3日ですか………は?3日!?」


 私……3日も眠ってたんですか!?


 衝撃的な言葉に固まっていると、宮廷医と何やら話をしていたシャルルが、優しく微笑みながらミオに目を向けた。


「目が覚めたばかりで辛いだろう。ゆっくりと身体を休めてくれ。だが、色々と話もしなければならない。また、午後にこちらへ足を運ぶことになるが……大丈夫か?」

「あ、はい。別に身体が辛いこともないので、大丈夫ですよ?」

「そうか。だが、無理しない方が良い。辛い時は隠さずに教えてくれ」

「わかりました。ありがとうございます」


 シャルルは、姿勢を正して宮廷医に会釈をすると、ミオに柔らかい笑顔を向けて部屋から出て行った。


「それではミオ様。身の回りの事などは、この侍女にお申し付けください。こちらの世界に来たばかりです、どうか身体をお休め下さいませ」

「私はエレーヌと申します。それでは、お食事の用意をして参りますね。3日間も何も召し上がっていないのですから」

「あ、ありがとうございます」


 宮廷医と侍女・エレーヌも部屋から出て行き、ミオは宮廷医の言葉を口にする。


「……こちらの世界」


 こちらの世界?こちらとは?

 この、夢の割に細かすぎる設定や、リアルすぎる出来事は……もしかして夢ではないってこと!?


 向こう……元の世界での私の存在は?


 これってもしかして、私は本当に異世界に転生してしまったということ?あ、でも私まだ死んでないし、転生とは違う?

 小説を書き始めたから夢を見ているんじゃなくて、これが現実?

 そもそも、小説を書き始めたと言ってもまだ物語を書き始めたわけじゃなくて、設定とか名前とか考えていただけだし。


 少し頭の中を整理しよう。


 これは、たぶん、恐らく、夢ではない。

 私の目の色や髪の毛の色も現実の話だ。

 それに何よりも、今着ている服はあの日会社に着て行った服だし、通勤バッグも中身がそのままでここにある。

 夢にしてはリアルすぎる。

 夢でないということは、現実として起きている事だ。


 異世界転生


 ………………頭の中の整理も何も。

 全くもって理解は出来ないけれど、この現実を受け入れる以外、今の私に出来ることなんかないよね!?


 ミオは、ふぅっと息を吐き出すと、ベッドから足を下ろして立ち上がった。

 3日間も眠っていたせいで凝り固まった身体を、深呼吸と共にぐーっと伸ばすと、急に立ち上がったためかクラクラとめまいに襲われて、慌ててベッドに座り込む。


 改めて周りを見てみると、まるでアニメとかで見る、お城かなんかの部屋のようだった。


 めまいが落ち着くと、ゆっくりと窓に近づいて窓を開けて顔を覗かせた。

 窓の下には綺麗に整えられた庭が見えた。

 まるでヨーロッパの庭園のような景色に、少しだけ胸がワクワクした。


「お待たせ致しました」


 エレーヌが食事を乗せたワゴンを押しながら部屋に入って来た。

 促されるまま、椅子に座る。


 3日ぶりの食事という事もあってか、テーブルの上に並べられた食事は、お腹に優しそうなものばかりだった。


「いただきます」


 スープをすくって口に入れた。


 ……美味しい


 濃い味ではないけれど、素材の味が生かされていて、とても上品な味がするスープだった。


 こうして食事を終えると………することもなく暇だった。

 少し考えると、ミオはバッグから手帳とペンを取り出した。


 ―――4月25日 概ね晴れ

 私、桜井美桜は、これから起こることを日記に書きとめていこうと思う。


 この世界にやって来た日付の欄に、その日の出来事を書き込んだ。

 欄が小さくて書ききれない感じだったけれど、はみ出しながら何とか纏めた。

 そして、今日の日付の欄には…


 ―――4月29日 晴れ

 三日間も眠っていたらしい。そして、今起きていることは………夢ではなく、現実だ。

 私がこの世界


 そこまで書いて手を止める。


「エレーヌさん」

「如何なさいましたか?」

「ここって……なんて言う場所なんです?」

「ここは、ペリグレット王国でございます」

「ありがとうございます」


 ―――私がこの世界……ペリグレット王国にやって来たのには、きっと理由があるはず。私のやるべき事を、見つけよう。











 ―――――――

 ―――――

 ―――






 憧れていた異世界にやって来た美桜。

 ペリグレット王国での、ミオ・サクライとしての新しい人生の物語が始まった。


 .

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― 新着の感想 ―
[良い点] 初めて書かれた作品なのに文章力バツグンですね! ミオの能力が気になり、今後の展開に期待がもてます!
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