過去編
これを繰り返して、どのくらいが経ったのだろうか。
軽く数百年は経っているだろうか。それとも、まだ数十年しか経っていないのだろうか。
ベッドで眠るアリーを見ながら私は深くため息をついた。
何度これを繰り返してもアリーはアルハーンに惹かれ、そして私は心を止められずにアリーを殺してしまう。
アルハーンに取られるくらいであれば、自分の手で殺してしまった方が楽なのだ。
一度目は、市場でアリーと買い物をしている時にアルハーンがアリーへ剣を向けた。
二度目は、真夜中屋敷を囲む塀の上にアルハーンが立っており、弓矢で私を殺そうとした。
三度目は、民衆を巻き込んで私を領主から引き摺り下ろそうとし、屋敷に火を付けてアリーを焼死させようとした。
四度目は、銃でアリーを殺そうとした。
五度目は、猛獣をけしかけてきた。
ああ、そうだった。今回は六度目だ。
いつもいつも、私の人生は魔女に会うところから始まる。
魔女はどうしてか、私たちが無限ループに入っていることに気づいているようで薬を求めるたびに「もう、そんなことはやめたらどうだ」と言ってくるが、アリーを失いたくない私は魔女の言葉を聞き入れられなかった。
今回は、どうするつもりなのだろうか。
アルハーンは既に牢獄に入れているので手を出せない。
このままアルハーンを殺してしまえれば良いのだが、アリーの心が離れていきそうで怖い。
「ねえ、アリー。私はどうするべきなんだ」
眠っているアリーの頬に手を滑らせて問いかける。
勿論、返事を望んでいたわけではない。
「万能薬をつかっても、人の心は動かせないのか」
こんなにも、愛おしく思っているのに、薬の効果が切れてしまった途端に貴女はアルハーンを求める。
泣いて、私から離れようとする。
「どうして」
今回は上手くいったと思っていた。最近は薬を飲んでいないのに、私への拒否反応がなかった。だから、もしかしたらと思ってアルハーンのいる牢獄にアリーが入るのを許した。
なのに、アルハーンのことを思い出して、また……
「もう、良いだろう」
気付けば、隣に魔女がいた。
「もう、疲れただろう」
魔女の手には、剣が握られていた。
一度目にアルハーンがアリーに向けていた剣だ。
「既に、アルハーンは死んでいる。アルハーンはそれを望み、この世界から解き放たれた」
そして、魔女はアリーの方へ剣を向けた。
「アリーを殺せば、これは終わる。薬の効果が完全に切れる」
私が望んだ効果は、完全にアリーの心を手に入れるまで死ねないこと。そして、アリーが私を好いてくれること。
魔女が最初に渡してきた薬はとても強力な物で、アリーと私を強く繋げたのだ。
その後にアリーに飲ませていたのはただの媚薬。
「アリーを殺すのだけは、やめろ」
アリーを殺して良いのは私だけだ。
「いいや、やめない」
そうして、眠っているアリーに剣を向け、心臓を刺した。
その瞬間、私の体が崩れる。
サアア、と砂になり、地面にはらはらと落ちたのだ。
「哀れな事だ」
最後に見た魔女の目から涙が落ちているように見えたのは、きっと気のせいだ。