第9試合 自宅にて
『第九試合』
五月になり、ゴールデンウイークを迎えた。
連休を利用して帰省する寮生も多く、寮はいつもの賑わいが減り
少し静かになっていた。
「翼は家に帰らないの?」
食堂で食事をしながら岬が訊いてきた。
「練習あるけど明後日、市明後日は休みだからその時帰るつもり。
帰るっていっても僕は家近いからな。岬はどうするの?」
「翼帰るんだったら私も同じ時に帰ろかな・・翼いないと
つまんないし・・・」
2日後、僕が僅かの荷物をバッグに詰めて帰る支度をしていたら
岬も同じように帰宅準備を完了していた。
ミニスカートを履いて女の子らしい恰好をし、普段は化粧っ気のない
顔にほんのりメイクをしていて少し目のやり場に困った。
「準備できた?一緒に出ようよ」
岬は家に帰れることでウキウキしているように見える。
しばらくして僕達は寮を出た。
「岬は電車で二駅だったよね、僕は歩いて帰るから」
電車の駅と僕の家は反対方向だったので「じゃあ」と別れようと
したら岬が僕についてくる。
「どうしたの?こっちは駅じゃないけど・・」
「翼の家が・・・見てみたい」
「え?」
「翼の家が見たいの!だめ?」
そう言うと岬は手を繋いで来た。
「まあ・・いいけど」
「行こう!」
満面の笑みを浮かべた彼女は嬉しそうで、繋いだ手は同じ男性とは
思えないくらい小さくて細くてほんとに女の子にしか見えなかった。
僕の家は学校が近いから選んだというだけあって歩いて5分くらいの
ところにあり、あっという間に到着した。
「へぇ、ここが翼の家かぁ。普通の家だね」
「どんな家を想像してたの?」
「さあ、中に入ろ」
「中に入ろって、見に来ただけじゃないの?」
「ここまで来たら翼の部屋も見たいじゃん」
いちおう家族には近いといえども帰ることは連絡しておいたが
友達を連れてくことはもちろん伝えてない。
ましてどう見ても女の子にしか見えない男の子を見たら
どう思うのだろう?
仕方ないと思い、僕は玄関のドアを開けた。
「ただいま」
「あ、お兄ちゃん、おかえりなさ・・」
たまたま玄関付近に妹がいたのだが、僕の後ろにいる岬を見て
言葉を失い、家の奥に走っていった。
「お、おかあさん!大変!お兄ちゃんが、お兄ちゃんが女の人、
か、彼女連れてきた!!」
はぁ・・と溜息をつかずにはいられなかった。
後ろで岬がクスッと笑いながら小さく話しかけてきた。
「彼女だって・・・」
あわてて母ともう一人の妹が顔を出した。
「た、ただいま」
「お、おかえり」
突然女の子を連れてきて明らかに母も動揺している。
「あ、同級生の山本さん」
「山本です、突然押しかけてきて申し訳ありません」
岬はお辞儀をしてきちんと挨拶した。
僕達は靴を脱ぎ、リビングに行こうとすると母に呼び止められ
「彼女連れてくるならちゃんと言っておきなさい」
「だって突然行きたいって言うから、それに彼女じゃないよ、
同級生だってば」
「そうだよね、あんな可愛い子が彼女なんてありえないね」
母は完璧に岬を女の子と認識している。
それより僕が可愛い女の子を連れてくるのはありえないって
発言がちょっと悲しかった。
まあ今まで交際経験はあるけど女の子を家に連れてきたことなんて
なかったし、仕方ないといえば仕方ない。
「お父さんは?」
「翼帰ってくるからお寿司買いに行ってる。もう少ししたら
帰ってくると思うよ」
僕の家族は父と母に妹二人の五人家族で、妹は中学一年と小学
六年。
リビングに行くと岬が妹二人と話をしていた。
「お姉さんはお兄ちゃんの彼女なの?」
下の妹が直球ストレートで訊いている。
「私は大好きなのに、翼お兄ちゃんが振り向いてくれないの」
おいおい。
「えー、お兄ちゃん頭おかしいんじゃないの!お姉さん色白くて
細くてこんなに可愛いのに、もったいないよ、ほんと馬鹿!」
「人それぞれ好みがあるからね」
「大丈夫、私達が説教しとくから」
「ありがとう、宜しくね」
そりゃ岬がほんとの女の子なら彼女として申し分ないのは
解ってる。
もしそうなら僕には勿体ないくらいなんだけど・・・。
父が買い物から戻ってきて当然ながら岬を女の子と認識し
異様なくらい緊張してるのを見たのは笑えてきた。
岬を交えて昼食を食べたのだが、昼間は飲まないビールを
飲みながら「学校はどうだ?」「部活はどうだ?」とか
ありきたりの会話をしてきた。
その点、母と妹達はすっかり彼女と和んで和気あいあいと
会話を弾ませて食事をしていた。
「お姉さん、左利きなんだ」
「うん。書くのも投げるのも左」
「山本さん、下の名前は何ていうの?」
「岬です。」
「岬ちゃん!可愛い!」
岬という名前で父が食いついてきた。
「翼と岬か、キャプテン翼だな」
それに岬が思わず笑った。
「翼くんと同じ事言ってますね」
さすがに翼と呼び捨てにはしなかった。
昼食を終え、少し休憩したところで岬は「そろそろ行くね」と
切り出した。妹達は「もう帰っちゃうの」と少し淋しそうに
したが母が「また遊びにいらっしゃい」というと岬は「はい」
と嬉しそうに答えていた。
玄関で見送ろうとすると父と母が口をそろえて言った。
「翼、何してるの?岬ちゃん、家まで送ってきなさい」
「え?」
「女の子を一人で帰らせるつもり?」
「はい、送ってきます」
「送って変な事するんじゃないぞ」
「解ってるよ」
岬はそばでクスクスとずっと笑っている。
駅まで歩いてると岬は当然のように手を繋いできた。
「素敵な家族ね、羨ましい」
「普通だよ」
「妹いいなぁ~ うちはお兄ちゃんだけだし」
「うるさいだけだよ」
「ねえ、私の事ばらす?」
「最初は後でホントの事、話そうかと思ったけどすっかり
信じ切っているから言わない」
「やっぱり翼は優しいな!大好き!!」
腕を組んできた岬の小さな胸にドキッツとせずには
いられなかった。




