第6試合 翼と岬
『第6試合』
授業も始まり、高校生活が本格的にスタートし、僕はサッカー部の
練習にも参加して多忙な日々が続いていた。
山本さんも日に日に落ち着いてきて、寮でも他の男子とも挨拶を交わしたり
会話できるようになり、僕がついてなくても寮の中を一人で歩けるように
なっていき、学校では女子として過ごし、寮では男子として問題なく
過ごしていた。
女子からは「山本さん」ではなく、「岬ちゃん」とか「ミサリン」と呼ばれ
寮でもやはり「岬ちゃん」と呼ぶ男子が増えてきて親しみをもたれていた。
ただ唯一トイレについては担任が職員トイレを使うように言ってたのだが、
なにぶん教室から遠い。クラスの女子達は一緒に女子トイレに誘ってくれて
いたが、そこは気が引けるのか何故か僕を見張りにして「いい、誰か入れたら
殺す」と言って教室から近い男子トイレを利用していた。
他の人とは普通に接しているくせに、入学当時から下僕のように扱われている
僕への態度は全然変わらなかった。
入学から10日あまりが過ぎたある日、部活を終えて寮に戻ってきた僕に
彼女が封筒を見せつけてきた。
「じゃーん!これがなんだか判る?」
「は?封筒でしょ。」
「君は馬鹿か。封筒は封筒でもその中身が何かって事」
「知らない。判らない。興味ない」
「なんとラブレターみたいなのです」
「え?」
彼女曰く、「初めて見た時に好きになりました。明日××で×時に待って
ますからお返事をきかせてください」と書かれていて差出人の名前は
なかったみたいだ。
「どうしようかなぁ・・・♪」
「なんか嬉しそうだね、つきあうの?」
「それは会ってみないと解らないし、どんな人なのかなぁ」
「そもそも名前書かないなんて失礼じゃないの?」
「きっと恥ずかしがり屋なんだよ」
「それに君は女子の恰好してるけど男の子なんだよ、解ってる?」
「私の事は学校中の殆どの人が知ってるからそれを承知で手紙書いて
くれたんじゃないかなぁ」
こいつはすっかり舞い上がってる・・・
「君の好きにすればいいんじゃないの」
「赤井君は私が他の人とつきあっても構わないの?」
「はぁ?なんで!そんなの山本さんの自由でしょ!」
僕が少し突き離すように返事をすると
「ふーん、解った、勝手にするから」
そう言ってカーテンを閉め、その日はそれから顔を見せなかった。
翌日、授業が終わると僕はサッカー部の練習に行った。
部室に行って練習着に着替えながら、今頃彼女は告白されている頃かな
とふと考えた時、教室に昨日持ち帰ったスパイクを置いてきた事に気づき
取りに戻った。
取りに戻る途中、すれ違った女子達の会話が耳に入った。
「例の女の子、さっき男三人に囲まれてたけど大丈夫かな?」
僕は思わず立ち止まり、
「すみません!例の女の子って?」
すると女子達は少し驚きながら返事をしてくれた。
「あの・・一年の女装して・・」
そこまで聞いただけで「ありがとうございます!」と答えて僕は
彼女が手紙で読んでいた場所へ全力で走り出した。
絶対ヤバい状況に違いない!
サッカーの練習を始めてるので体力には自信があり、目的地に
あっという間に到着したが彼女と男達の姿はなかった。
どこだ?山本さん。
周辺を走り回っていると、悲鳴のような声がかすかに聴こえてきた。
彼女だ!
僕は聴こえてきた声の方向へ走り出すと体育倉庫室があり、もう一度
助けを求める声が聞こえてきた。
間違いない、彼女だ。
プレハブの体育倉庫のドアに触れると案の定鍵がかけられている。
僕は一度後ろに下がり、助走をつけて思い切りドアをキックした。
スパイクじゃなく、普通のスポーツシューズだったのでさすがに
足への衝撃はキツかったがドアを破壊することができた。
中を見ると男二人に手足を抑えられ、ブラウスのボタンを外されて
下着が見えていて、もう一人の男が携帯で写真を撮ろうとしていた。
「お前ら、何やってるんだ!」
そう叫んで瞬時に頭の中で三対一だと勝てないかもと考え、誰もいない
外に向かって大声で叫んだ。
「先生!こっちです!体育倉庫にいます!」
僕の叫びで男達はヤバいと察知し、急いでその場から逃亡していった。
僕は顔面蒼白ですっかり怯え切っている彼女に近づいた。
「山本さん、大丈夫?」
僕の顔を見て安心したのか、彼女は抱きついてきて大声で泣いた。
「こ、恐かったよ・・・」
「もう大丈夫だから」
抱きつきながらも震えている彼女を僕もぎゅっと抱きしめた。
また戻ってこられたら太刀打ちできないので彼女を抱えて立ち上がらせ
たが、はだけたブラウスから見えるあまりに白い肌に僕はドキッとした。
兎にも角にも彼女を寮の部屋に連れ帰り、すぐ戻ってくるからと一旦
部屋から出ようとしたが抱きついて離れない彼女をなんとか説得し、僕は
職員室に行き、担任の手塚に話をした。
手塚も驚いていたが冷静になり、とりあえず彼女のそばにいてくれと言われ
僕は寮へ戻った。
彼女は部屋の隅で毛布をかぶって怯えていたが、僕の姿を見ると安心した
ようでまた抱きついてきて泣きだしたが、落ち着いてきたところで部屋の
お風呂に入れさせ、その間に僕は寮長の野村に話をすると井原にも伝えると
言ってくれたので僕は部屋へ戻った。
お風呂に入ってかなり落ち着いたとはいえ、彼女は僕のそばから離れようと
せずにずっと手を繋いできた。
あえて何も訊かずにいると彼女が小さな声で話してきた。
「ごめんね・・・心配かけて・・・助けに来てくれて・・・ありがとう。
やっぱり君・・赤井君・・は私のヒーローだった」
そう言った彼女の瞳はキラキラしていて恋する少女のように見えた。
その後連絡を受けた井原と野村が部屋に来てくれ、彼女が話せるように
なってからで構わないので今日起きた事を聞くように言われ、特別に
部屋で夕食を食べる事を許可され、二人だけで食事をした。
あまり食べようとしない彼女に話しかけながら、なんとか完食とは
行かないが食べさせる事ができ、食事が終わると僕は彼女をベッドに
横にさせ、カーテンを閉めようとすると彼女の声が聞こえてきた。
「お願い・・・カーテン・・・閉めないで・・・もう少し・・・
あと少しでいいから・・・そばにいて」
切ない表情で目を潤ませながらそんな言葉を言われるとドキッと
してしまう。
僕は仕切りのカーテンをそのままにしてベッドのそばに戻った。
「ありがとう・・・あのね、お願いしてもいい?」
「なに?」
「赤井君じゃなく・・・名前で呼んでもいい?」
「翼?別にいいよ」
「じゃあ・・・翼」
「いきなり呼び捨てだと照れるな」
「私も名前で呼んでくれる?」
「み、岬ちゃん」
「私が呼び捨てにしてるんだから同じにして」
「み、岬」
「なーに?翼」
「なんかおたがい呼び捨てだと恋人同士のじゃれあいみたいだな」
「私・・・翼のこと・・・好きだよ」
「へ?」




