第4試合 BOYS BE A HERO
『第4試合』
翌朝、僕は自分がセットしておいた携帯のアラーム音ではなく、
二段ベッドの上で寝ている彼女のアラーム音で目が覚めた。
春眠暁を覚えず。
しばらくベッドで微睡んでいると5分後に再び鳴りだした彼女の
携帯の音で起こされた。
しかし時間まだ早いなぁ、まだ僕の携帯は鳴ってないし・・。
部屋にある洗面所に行き、顔を洗い歯を磨いたが、その間に彼女は
一向に起きてくる気配がないので、仕方なく起こすことにした。
「おはよう、山本さん。朝だよ!携帯の目覚まし鳴ってたよ!」
布団にくるまったまま、びくとも起きようとしない。
「朝ご飯、一緒に食べに行こうよ」
するとモゾモゾと少し動いて小さな声が返ってきた。
「・・・・・・いらない」
「朝ご飯食べないの?」
「・・・食べない。食欲ない」
「一人で行っちゃうよ」
「・・・いいよ、もう少し寝かせて・・」
晩御飯はともかく、実際朝ご飯は僕も食べない事のほうが多かった
ので彼女を寝かせたまま、僕は一人で食堂に行った。
食堂は始まったばかりで、朝にもかかわらずお腹をすかせた男達で
すでにいっぱいだった。
野獣だらけのその光景を見た瞬間、これは彼女にはとても無理だと
自分でも理解できた。
朝食もバイキング形式だけど、やはり夕食とは違い、軽いものが
多い。
僕もさすがにあまり多くは食べれないのでパンとコーヒーに玉子と
サラダなどを少しだけ取って空いている席に座り、食べようとすると
自分に向かって視線がかなり集まっていることに気づいた。
あえて無視して食べ始めると声が聴こえてきた。
「あいつだろ、昨日女連れ込んで食事してた奴は」
「一年のくせに入学した日に何考えてるんだ」
あー、やっぱり情報はあっという間に拡散してる。
こういうことってなんかネットよりも早い気がするなぁ。
すると近くの席に座っていた生徒の一人が立ち上がり僕のそばにきた。
「ちょっといいか」
「はい、なんでしょうか?」
見ると体格のいい見るからに柔道とかやっていそうな上級生と
思しき男子が僕を睨みつけていた。
「小耳にはさんだんだが、君は女子を男子寮に入れていたのか?」
はぁ、さっそくか・・・。
「いえ、入れてません」
「昨日食堂で一緒に居るのを見たものがいるんだが」
「一緒にいたのは男の子ですよ」
僕がそう答えると遠くから「何言ってるんだ!昨日見たんだぞ」
と目撃証言とも言える声が聴こえてきた。
やれやれ・・・どうしたらいいんだろう?
と思った時に「おはよう!」と大きな声で誰かが入ってくると食堂に
いたみんなが一斉に「おはようございます!」と叫んだ。
その人物は後で名前とか知ったのだが、男子寮を管理している体育
教師の井原で、僕のそばまで一目散に歩いてきて話しかけてきた。
「君が赤井君?だよな」
「はい、そうです」
「同室の山本さんは?」
「誘ったんですがまだ寝てます」
「そうか、わかった」
そう言うと僕の肩をポンと叩き、食堂の全員に向かって話し始めた。
「昨日の夜、ここにいる赤井君が食堂に女子と一緒にいたという
変な情報が出回っているがそれは間違いだ。
一緒にいたのは紛れもなく男子生徒だ。
訳あって見た目は女子、服装も女子の制服であったり、女子の恰好を
しているが君たちと同じ男の子だ。
最初はみんな戸惑うかもしれないが、どうか宜しく頼む。
出来れば本人が居ればよかったんだがどうも恥ずかしいみたいだ」
そう言って井原がみんなに頭を下げると食堂は静まりかえった。
「すまん、お前らの大切な食事の時間にこんな話をして。
というわけだ、野村」
僕に言い寄ってきていた体格のいい男子の肩をポンポンと叩くと
「解りました」と野村と呼ばれた人は席に戻っていった。
「赤井君」
「はい」
「同じ部屋でいろいろ大変かと思うが、困った事があったらすぐに
連絡してください」
「ありがとうございます!」
井原の登場で僕は何事もなく朝食を終えて部屋に戻ると山本さんは
すでに起きていて制服に着替えていた。
「あ、おはよう!起きてたんだ」
「当たり前でしょ!女の子は色々準備が必要なんだから起きてて
当然でしょ」
「朝ご飯はいいの?まだ間に合うよ」
「いらない。けどコーヒーが飲みたい。買ってきて」
「は?」
「買ってきて」
「食堂に行ったら飲めるよ」
「行きたくないから買ってきて!喉乾いて死にそう」
昨日の夜すっかり打ち解けたつもりだったけどやっぱり駄目だ。
と思いつつ、彼女に言われるがまま寮の中にある自販機にコーヒーを
買いに行ってしまう自分がだんだん彼女の下僕にしか思えなかった。
コーヒーを買ってきて僕も制服に着替えながら食堂での出来事を彼女に
話すと「ふーん」と返事をしただけで、食堂にいる全員を敵に回していた
僕の気持ちは一言で一蹴されてしまった。
それでも僕が話した事をちゃんと聴いてたみたいで彼女は男子寮から出る
時は堂々と隠れずにいたのはほめてあげたかった。
入学2日目もまだ授業はなくて、HRがあり、その後講堂に移動してクラブ
紹介が予定されていた。
昨日職員室で担任と彼女の話だけで終わってしまい、帰り際に「何か用が
あったんじゃないか?」と訊かれたが、もうめんどくさくなり「いえ」と
答えたのだがこうやってクラブ紹介があるのを知ってたら職員室に出向く
必要もなかったのだ。
予定表をしっかり見ていない自分もいけないのだが。
HRが始まり、担任の手塚が「高校生活初日はどうだったかな?」とか
世間話をした後に、本題に入った。
「実はうちのクラスの山本さんの事でみんなに話しておきたい事がある」
何だろう?とちらほらと数人が僕の後ろに座っている彼女を見た時に
彼女がいきなり立ち上がった。
「先生、私がいないほうが話し易いと思うので外に出ています!」
そう言うとスタスタと教室の戸を開けて出て行った。
みんなが唖然とする中、彼女を一人にしておくのはどうかと考え
僕も立ち上がった。
「先生!僕はもう事情知ってるので彼女を見てきます!いいですか?」
手塚が頷いたので僕は彼女を追って教室を出た。
廊下を急ぎ足で歩いていくと階段を登っていく足音が聞こえてきたので
迷わず階段を登ると3階を通り越して屋上へ彼女は辿り着いていた。
屋上のドアを開けると彼女はゆっくりと金網のほうへ歩いていて
僕も彼女にゆっくりと近づいていった。
時折春風がスカートを揺らして、いたずらをしている中、彼女は
振り返らずに話しかけてきた。
「どうして追いかけてきてくれたの?」
「いや、なんとなく・・・一人にしたらいけないような気がして・・」
「屋上から飛び降りるとでも思った?」
「それは考えなかったけど・・なんて言えばいいのかな」
「心配してくれたんだ、やっぱり君は優しいね。
朝男子寮で私の事について報告があったって君が言ってたから
きっと学校でもそうなるだろうとは予想できた。
ただ自分が居るところで直接そんな話は聞きたくはなかったの」
彼女は金網越しに景色を見ながら続けた。
「先生が話しすると当然みんなの視線が私に集まるでしょ。
言葉と視線ていう攻撃を受けるとなんか完璧に武装していた鎧が
いとも簡単にズタズタに剝がされていって丸裸にされていくような
感じがして、とてもじゃないけど耐えられないと思った」
「そうか」
彼女はようやく振り返り僕のほうを見たが、悲しそうな表情をしていた。
「先生もう話し終わったかな?教室に戻ってみんなの反応次第で今後
どうするか考えようかな?」
「どうするって学校やめるつもりなの?」
「受け入れてもらえなかったら仕方ないじゃない!」
彼女の目に溢れている涙を見た瞬間、僕は叫んでいた。
「諦めたらダメだよ!僕が保証する!君は、山本さんは女の子だ!
それを受け入れない奴は僕が許さない!
それに何かあったら絶対僕が守ってあげるから!」
僕の突然の言葉にびっくりしながらポツリと彼女は言った。
「ほんとに?」
「絶対の絶対!」
と言ったが自分でもとんでもない事を言ってしまった事に気づいていた。
「だ、だからさ、こんなところにいないで教室にもう戻ろう」
「君は・・やっぱり私のヒーローだね」
そう言って微笑んだ彼女の顔は最高の笑顔になっていた。




