第3試合 我がまま娘
『第3試合』
それから僕はまた彼女の指示通りに働かされ、山積みだった荷物を
なんとか片付けた。
「お疲れ様。あー疲れた。我ながらよく頑張った」
「頑張ったって君はあれこれ指示するだけでほとんど僕が片付けたんじゃ
ないか」
「だって見てないとまた開けちゃいけないものを開けてしまう可能性が
あるでしょ」
「まあもういいや。それよりもうすぐ夕食だし、食堂に行く準備しないと」
「ねえ・・・食事代出すから食堂じゃなく一緒に外に食べにいかない?」
「は?何言ってるの?せっかく用意されてるのに食堂に行かなくて
どうするんだよ、意味わかんな・・」
僕は少し暗い表情になっている彼女を見逃さなかった。
「もしかして、男ばっかりの食堂に行くのが嫌なの?」
俯いて小さく頷いた彼女がまた愛おしく思えた。
いけない!目の前にいるのは男だぞ、翼。
「でも食べないとお腹が空いてしまうよ」
「が、我慢できるもん」
「僕は我慢できない!君に働かされてもうお腹ぺこぺこだ。
行かないのなら一人で先に食堂行くから」
「やだ!一人にしないで!先になんて行かないでよ!」
もう完全に涙目になっている。
「なら一緒に行く?」
「ううう・・・」
今にも泣きそうな顔をして見つめられたらまた心が揺れてしまう。
「君と一緒に行ってあげるからまずその服を着替えよう」
「なんで?」
「なんでって、ただでさえ目立つのにそんなミニスカートなんか履いて
いったらますます注目されるに決まってるだろ。
まず目立たないようにジャージに着替えなさい」
「えー、ジャージ・・・ダサい」
「そんな事言ってる場合かよ、着替えないのなら一人で行く」
「解った!ちゃんとジャージに着替えるから」
「ならいい」
僕はなんで入学した初日からこんな女の恰好をした男の子に振り回され
なきゃいけないんだろうと大きく溜息をついた。
「あの・・・」
「なに?」
「ごめんなさい、そばに居られたら・・・着替えれないんだけど・・・」
「あ!ごめん」
食堂は5時半からだったが、スタートと同時に行くと腹をすかせた野郎どもで
間違いなく溢れているだろう。
そんな中にあくまで男子だけど見た目は完璧な女の子なんかを連れていくのは
ハイエナの群れのなかにウサギを一匹投げ込むようなものなので時間を一時間
ずらして食堂に行った。
しかしジャージなんかダサいと言ってたけど、どう見てもやはり可愛い。
たぶんこいつは何を着てもお洒落に着こなしてしまうんだろう。
僕の予想通り、食堂はすでにガラガラで10数人しか食べにきてなかった。
寮の食堂はバイキング形式で自分の好きなおかずや飲み物を取れるように
なっていて、もちろんご飯はお代わり自由だった。
こういうところは新設校らしい。
僕がお膳とお皿を取り、何を食べようかとおかずを見ていると、彼女は
僕の後ろにぴったりくっついてきていた。
「そんなにひっついてたら何も取れないよ」
「だ、だって・・・恥ずかしいんだもん」
「人も少ないし、誰も見てないよ、意識しすぎ」
とは言え、数人しかいない食堂の男子全員が明らかにこっちを見ていた。
そりゃそうだよな・・・むさ苦しいはずの男子寮に女の子がいたら
僕でも見るよな・・・。
たぶんこの数人によって今日中に寮の男子ほとんどに彼女の存在は
知れ渡ってしまうだろう。
「ほら、代わりに取ってあげるから。何食べる?これは?」
「それキライ」
僕達は食堂の隅っこの席で夕食をすませ、部屋に戻った。
部屋まで戻る時も彼女は僕の後ろに隠れて誰にも見つからないように
していたが部屋に入るとさっきまでのオドオドした態度は何処へやら
嘘のように元気になった。
「まあまあね。食堂としては予想してたより綺麗で味もいいほうなん
じゃない」
さすがに溜息をつかずにいられなかった。
「人の後ろに隠れてあんなに小さくなってた人間からよくそんな言葉が
でるもんだ。教室や職員室で見せていた態度でいたらここでも
平気なんじゃないの?」
「無理!!絶対無理!こんな野獣だらけの男の中にこんなか弱い乙女
一人で何が出来るの!たぶん一人で廊下を歩いただけで部屋に無理矢理
連れ込まれて何されるか判らないわ」
被害妄想も甚だしい・・・。
「じゃあ同じ部屋に今いる僕はどうなの?野獣かもしれないよ」
「君は安心できる。そんな勇気があればもう何かしてるでしょ。
でもベッドで寝てる時に変な事しようとしたら殺す」
「はいはい、誓って何もしません」
少ししてから僕は寮の中にある共同のお風呂へ行った。
その間に彼女は部屋にあるユニットバスへ。
それからベッドに横になり、あまりに長かった一日が終わろうとしていた。
ちなみにベッドは寝相がいいと言い切った彼女が上、寝相の悪い僕が下に
寝ることになった。
目をつむるとすぐに眠れそうな中、上で横になっている彼女が話しかけて
きた。
「まだ起きてる?」
「うん」
「あのさ、同じ部屋になったってことは当然担任から私の事いろいろ聞いて
いるんだよね?」
「うん、聞いた」
「どう思ったの?」
「どうって?」
「・・・男なのに・・・女の恰好して・・・平然と学校に・・来たりしてる
こと」
「最初聞いた時はそりゃ驚いたよ、だって全然女の子にしか見えないし」
「変なやつだと思った?」
「そうは思わなかった。僕の周りに今まで君みたいな子はいなかったけど
世間には男なのに女装してる人、女なのに男装してる人、同性しか好きに
なれない人などいっぱいいるじゃない、でもそれは自分が望んで生まれて
これなかったってのもあるんだし、別にこういう生き方があっても
不思議じゃないし、もっと堂々としててもいいんじゃないかな。
あ、あまり上手く言えなくて気分悪くしたらごめんね」
「ううん、君ってやっぱり優しくていい奴だね。
そういえば名前だけど赤井なに?」
「赤井翼」
「翼くんか」
「山本・・さんは、下の名前は?」
「山本・・・岬」
「ええ!!岬!マジ!」
「なんで、そんなにビックリするの?」
「僕が翼で山本さんが岬、マンガのキャプテン翼って知ってる?」
「知ってるけど・・・ああ確かにそうだね」
彼女はあまり興味がなさそうだったけど、僕は運命的な出会いの
ように感じた。
「だってさ、父親がなんか好きだった歌を歌ってたグループの人の
苗字が山本で、ヒットした曲に岬ってついてたから岬になった
らしいから」
「あ、それ僕も同じ。苗字が赤井でオヤジが赤い鳥ってグループの
翼をくださいって曲が好きだったから翼にしたらしいんだ」
「キャプテン翼全然関係ないね」
彼女の可愛い笑い声が上から聞こえてきた。
「そう言えば赤井君自己紹介の時、サッカー部に入るって言ってたね」
彼女が僕の自己紹介に言った事を覚えていたのに驚きつつ、少し
嬉しくなった。
「うん、小さい頃からずっとやってるから入部するつもり。
いつまで経っても下手だけどね」
「そうなんだ。スポーツ少年なんだ」
「山本さんは部活やらないの?」
「やらない!スポーツなんてやったら日焼けするし、筋肉つくから
やりたくない」
確かに誰よりも色白だし、腕も足もとても男には見えないくらい
筋肉がついてない細さだもんな。
「でもうちの学校って部活必須じゃなかったかな?」
「そうなの?知らなかった。もしそうなら私は帰宅部かな」
またケラケラと笑う無邪気な声が聞こえてきて、一日振り回された
けどこの山本っていう娘に少し興味が沸いてきた。
しばらくベッドの上と下でたわいのない事を話しているうちに
僕達は深い眠りにおちていった。




