第2試合 殺す
『第2試合』
担任の言葉に驚愕せずにはいられなかったが、何よりもそれを
容易に信じることは僕にはできなかった。
「先生、山本さんが男の子だなんて一体だれが信じるんですか?
どこをどう見ても女の子にしかみえないじゃないですか?」
「まあ、いきなりこんなことを言っても信じられないかもしれないが
山本さんは山本くんなんだよ」
あ・・だから自己紹介の時、山本・・く・・まで言いかけて、さんと
言い直したのか。
「ここではあえて彼女と呼ばしてもらうけど、小さい頃からスカートとか
髪を伸ばしたりしていたみたいで、まあご両親は当然男の子として
育てたかったからスポーツさせたり男の子の服を着せようとしたけど、
ある日部屋に鍵をかけて 閉じこもって出てこなくなり何も食べずに
いたのでついにご両親は観念して女の子として育てることにしたそう
なんだ」
「ふつう女装とか男装してる人って家族にばれないようにしてると
思うんですが、山本さんは家族公認ってことなんですね?」
「公認せざるを得ないし、なにしろ普通に女の子にしか見えないだろ?
お父さんはガックリしてたらしいけど、もともと女の子が欲しかった
お母さんは喜んで服とか買ってきて着せてたそうだ。
当然ながら学校もスカート履いていき、中学校でも女子の制服を
着てたらしいから」
「でも性別はあくまで男性だから学校での登録は?」
「当然男性だ。そしてうちの学校は一年間寮生活が規則になっている」
「そ、それでさっき職員室に入ってきた時、一人部屋がどうのとか
言ってたのはこの事だったんですね?」
「そうなんだ。彼女もお母さんも寮生活は女子寮を希望したけど
当然ながらそれは無理。だったら男子寮の一人部屋をと希望された
のだが、あいにく現状空きがなくて相部屋に入ってもらうしかない。
相部屋でも一人にしてほしいと彼女はさっき言ってたんだけど
そんな我が儘は通用しないし・・・それで実は赤井君に大事な話が
あったんだ」
ここまで話を聞いてすごく嫌な予感しかしなかったのだが、その予感は
手塚の一言で見事的中した。
「彼女と男子寮の相部屋になっているのは・・実は赤井君なんだよ」
「へ?」
僕は職員室を出て男子寮に向かっていた。
桜の木を見上げていた美少女が同じクラスだったまでは良かったけど
その娘が実は男の子で、しかもその娘と寮が同じ部屋・・・。
「え?先生今何て?」
「山本さんと赤井君は寮の同じ部屋。」
「こ、こ、困ります!女の子と同じ部屋だなんて」
「見た目は女の子だけど性別や身体は君と同じ。
なーに、男だと思えば変な気も起らないだろう」
あの後、言いくるめられる感じになってしまったけど、
一体どうなるんだろう?
考え事をしながら歩いていると寮に到着した。
部屋は2階の7号室、階段を登り廊下を進むと部屋の入り口に
そんなに多くない僕の荷物が置き去りにされていた。
ふっと部屋の号室を見るとそこが207号室、なんで荷物が廊下に
置いてあるんだろう?と思いながらドアノブを回そうとしたら
鍵がかかっている。
僕は渡されていた部屋の合鍵で鍵を開けてドアを開けると入り口まで
山積みのダンボールがぎっしり。
当然鍵がかかっていたという事は先に彼女=山本さんがいると
いうことなので、「失礼します!」と声をあげて中に入った。
するとダンボールの間からひょこっと彼女が顔を出した。
「誰?」
「あの・・・今日から同じ部屋になる赤井です」
彼女はガックリした様子で呟いた。
「結局私の意見は何も聞いてもらえなかったんだ・・・」
「あのさ、僕の荷物も入れてもいいかな?そんなに多くないし」
「どうぞ、好きにすれば」
「ありがとう、じゃあちょっとこのあたりのダンボール動かしても
いい?」
「ちょっと!人の荷物に触らないで!」
「触らないでと言われても動かさないと荷物入らないし、それ以前に
歩くスペースすらろくにないじゃないの」
かなり自分本位の彼女に僕もだんだんとイライラしてきた。
「わ、わかったわ、動かしてもいいけど中を見たりしたら殺すから」
高校入学初日に殺されては敵わないので、山積みのダンボールを中を
見ないようにしながら彼女のスペースへ移動し、廊下にあった自分の
荷物を入れると1時間もしないうちに片付けは終わった。
しかし彼女のほうは相変らず段ボールに囲まれていた。
「ねえ?手伝えることあれば手伝おうか?」
「余計なお世話!」
「あ、そう」
桜の木を見上げる彼女に一瞬でも心をときめかせた自分を悔いた。
この娘というか、もうこいつ呼ばわりしかないな、絶対性格悪い。
「そうだ!ちょっと買い物つきあってくれない?」
片付けをしていた彼女が突然立ち上がった。
長い髪を後ろで結び、長袖の白いパーカーにチェックのミニスカートに
黒のニーハイソックス。
ミニスカートとニーハイの間の絶対領域の色の白さと細さ、それと
わずかに膨らんだパーカーの胸・・・さっき悔いたばかりの僕はまた
彼女の私服姿に胸がときめかずにはいられなかった。
彼女に付き合わされたのはホームセンターで、部屋に仕切りをつけると
言い出し、カーテンレールとカーテンを購入し、僕はその荷物を持たされて
寮へと戻った。
ダンボールの片付けは後回しにし、彼女は部屋にカーテンレールを付け始めた
のだが、なにぶん背が低いので椅子に乗っても天井に届かない。
その様子を見ていると彼女が気が付いた。
「何ぼーっと見てるのよ?落ちないように椅子でも押さえたらどうなの?」
「はいはい」
僕は言われた通りに椅子を押さえようとしたら
「スカートの中、覗いたりしたら殺すわよ!」
「女の子があんまり殺すとか言わないの、じゃあ僕が代わりに取り付ける
から君が椅子を押さえてて」
「わかった」
僕は椅子に乗り、彼女の指示に従い、仕切りのカーテンレールとカーテンを
取り付けた。
「OK、サンキュー、これで境界線の完成ね。いい、カーテンの向こう側が
君の部屋というか陣地、こっち側が私の陣地。もし勝手に入ってきたら
殺すから」
「ちょっと待った!ベッドがそっち側にあるけどどうするんだよ」
各部屋に備え付けのベッドは二段ベッドで、仕切られた彼女の側にあった。
「んん・・と床で寝てって言ったらやっぱり怒るよね・・・」
「当然」
「仕方ないからベッドで寝る時だけ、こっちに来るのを許してあげる」
許してあげるって自分一人の部屋じゃないのになんて自己中なヤツ。
「でももし変な事しようなんて考えたら・・」
「殺されるような事は絶対しない!」
そう言い放つと僕は自らカーテンを閉めた。
こいつはとんだ悪魔いや小悪魔だ。
あまり関わらないほうがいい。
「とりあえず段ボールの荷物片付けたらどう?早くしないと夕食までに
終わらないよ」
カーテン越しに話しかけた。
「だってこんな狭いところに入りきらないんだもん」
「色んなものをいろいろ持ってき過ぎなんじゃないの」
僕は自分の陣地からあらためて部屋をじっくり見た。
1ルームだけど担任の手塚曰く彼女の事を考慮して数少ないユニットながら
バストイレ付の部屋を用意してくれていた。
女子寮は無理としてもなんだかんだと学校も気を使ってるじゃないかと
思ってたらカーテンが少し開いて彼女が顔をのぞかせた。
「ねえ?暇してるならこっち来て片付け手伝ってよ」
「はぁ?さっきそっちに入ったら殺すって言ってなかったか?」
「あれは・・ほら、言葉の綾ってやつよ。お願い」
「それ、使い方間違ってると思うよ」
可愛い顔をしてお願いされたら断れない自分が情けなかった。
実際こうやって近くで彼女を見るととんでもなく可愛いくて
とても同じ男なんて信じられなかった。
「それじゃ手伝うから。片っ端から段ボール開ければいいんだな?」
少し軽かった一つ目のダンボールを開けようとしたら
彼女が「それはダメ!」と叫ぶのと僕が開けるのが同時で
その中には女性用の下着、いわゆるブラやパンツが入っていた。
僕は一番見てはいけないモノを見てしまい、すぐに蓋をしたが、
彼女は恥かしさで顔を真っ赤にして小さな声で言った。
「見た?」
「あの・・少しだけ・・見てしまいました・・・」
「殺す」




