表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハットトリック  作者: 北野 ソラ
16/26

第16試合 岬の秘密

   『第16試合』



なんとか岬をおぶって寮まで帰り着いた。

普通に一人で歩いてたら早く戻ってこれたわけだが

やはり45分くらいかかってしまっていた。

おぶったまま部屋に戻ると入り口に二人の荷物が置かれていて、

バッグから鍵を取り出し、ドアを開けたところでようやく

我が家へ帰ってこれた気がして、岬を降ろすと僕は床に

しゃがみこんでいた。

「翼、お疲れ様」

「ほんと、疲れた」


僕は寮のお風呂へ、岬は部屋のお風呂に其々入って汗を流し

すでに6時を回っていたが夕食を食べに食堂へ行ったが、

もう満席ではなかったけどまだ食べている人が多くいて

その中の数人が僕達を見ると「お疲れ!」と大きな声をあげた。

それにみんなが反応して「お疲れ!」「優勝おめでとう」

「観に行ってたよ!感動したよ」と次々に声をかけてくれた。

「あ、ありがとうございます」

とはいうもののほとんどが僕よりも岬にだったが・・・。


バイキングの食事を取り、席に座って食事を始めていたら

すでに食事を終えて部屋に戻っていた寮長の野村がやってきて

「優勝おめでとう!二人ともお疲れ様」と声をかけてきた。

「ありがとうございます、観に来てくれていて嬉しかったです」

「それとこれは監督から岬ちゃんに渡してくれと頼まれた」

野村が手にしていたのは小さな小さな盾だった。

「これは何ですか?」

岬がきょとんとした顔で野村に尋ねた。

「優秀選手賞の記念の盾だ。まあ俺達にはどう見ても岬ちゃんが

 最優秀選手、MVPだと思えて納得いかないけどね」

そう言えば以前は「山本さん」と呼んでいたのにいつの間にか

野村さんも「岬ちゃん」と呼んでいるのが微笑ましく思えた。

「ええ!私なんかがこんなの貰っていいんですか!出場時間も

 少しだし、他にももっと上手い人いっぱいいたのに・・・」

「たった10分足らずだけど、それだけ人を魅了したって事だよ」

僕がそう言うとちょっと照れて頬を赤くして恥ずかしそうにした。

「そうそう、貰えるものは貰っておいたほうがいいよ」

野村のそばで一緒に話を聞いていた上級生がぽつりと言った。

「聞いてよ、岬ちゃんが出てきて活躍してるうちに寮長、涙ぐんで

 たんだよ」

「お前こそ、赤井君がPK決めた時泣いてたじゃないか!」

二人の会話を聞いていたら僕達は笑えてきたのと同時にみんなが

応援してくれていたことに心から感謝せずにはいられなかった。


食事を終えると僕達は部屋に戻り、さすがに疲れが出てきて

ベッドに横になると「ねえ、一緒に寝てもいい?」と

ベッドに入ってきた。

いつもなら「上に行きなさい」と言うのだが今日は「いいよ」

とすんなり答えてしまった。

嬉しそうに身体を密着してくる岬の胸が腕に当たった。


明らかに下着つけてないじゃない・・・。


ドギマギするのを抑える為、僕は話をした。

「こ、これでもう次の試合から岬はレギュラー確定だね」

「それは絶対ないよ」

「どうして?十分にチームの司令塔としてやれると思うよ」

「無理なの・・・体力的に・・・ありえないの」

「体力的って・・・そんなの練習すればいいじゃない」

「今回だって・・・あの・・ほんとは内緒にしてたんだけど

 翼には言うね」

「何を?」

「あのね、たぶんバレてると思うけど対抗戦に備えて密かに

 練習したんだ・・・」

「知ってる。いや知らないけど今日の試合であれだけ動けたのは

 練習してたからだと思ったし、なにより新品だったスパイクが

 いつの間にか汚れて傷がついていたのを見た時、岬がこっそり

 練習してた証だと思った」

「内緒にしててごめんね、実は一人で練習してたわけじゃないんだ」

「え?誰と練習してたの?」

「・・・井原監督」

「ええ!監督と!なんで?」

「いちおうマネージャーなんで監督といろいろ話する機会が多いんだけど

 部活練習見てた時に監督があと一人でもいいから選手が欲しいなと

 切実に言ったのを聞いて、私が出ます!と言ってしまったの」

「監督驚いたろ?」

「こいつ何言ってるんだ?って顔してた。

 けど小さい時サッカーやってたって事話したら真剣に話を聞いてくれて

 まあ当然だけどどこまでやれるか見せないと納得してもらえないから

 監督の前でリフティングやドリブルしてみせたら相当驚いて、私を

 秘密兵器にすると言ったわけ。もしも出場するような機会があった時

 絶対女子じゃないかとクレームもあるだろうから学生証とかそれなりの

 準備もしておいたの」

「準備万端だったわけか、確かに秘密兵器だったよ、相手校も観客も

 それ以上に僕達が度肝を抜かれたからね」

「ただここからが翼にも内緒にしておいて欲しいことなの」

岬が真剣な顔をしていたので、黙って頷いた。

「翼はうちのお母さんから聞いて知ってると思うけど、小さい時からあまり

 身体が丈夫じゃないの。実は心臓が弱くて激しい運動は医者から止められ

 ているの」

「そ、そうなの?!それなのに小さい時サッカーやってたわけ?」

「うん。お父さんがサッカー好きで運動していれば心臓も身体も強くなる

 んじゃないかと考えたみたい」

「嫌じゃなかった?」

「一緒にボール蹴ったり、お父さんお気に入りの選手の試合をビデオとかで

 一緒に観たりして楽しかったのは楽しかった。その時に何度も繰り返し

 ビデオ観ていろんな技を練習したわけ」

「ビデオ何回も観ても僕にはマルセイユ・ルーレットは出来ないよ。

 それはやっぱり岬に天性の才能があったんだろうね」

「そんな事はないよ。ただ楽しかったのと同時にだんだん身体がきつく

 なってきて長時間運動ができなくなってきたの」

「だから、あのジュニアの試合、途中交代で出てきたんだ・・・」

「それもあるけど、もうひとつはその頃からもう女の子になりたいという

 願望が目覚めてきていて、男の子としてサッカーをするか、無理とは

 思うけど女の子になるという夢を追うかで悩み始めた時期だったの」

「それで結局サッカーやめて女の子になったんだ」

「簡単に言うとそういうこと。そんな簡単じゃなかったんだけどね。

 ちょっと話が逸れたけど、その時期から長時間の運動ができなくなった

 上に、中学の時女の子になる為にホルモン注射打ったり、手術したりして

 身体をいじった事が重なって、心臓にさらに負担がかかってしまい

 10分くらいしか運動しちゃダメと言われてるの」

「じゅ、10分っていったら、今日の出場時間だよね?」

「そう、10分が限界。少し頑張って長くても15分くらい」


だから岬は体育の時、途中で体調が悪くなっていたんだ。


「じゃあ・・・当然レギュラーなんて・・・」

「無理な話なの。それで監督にもこの事を話したら出場させるわけには

 いかない!って言われたわ。でも機会があれば10分でいいから

 出させてほしいとお願いして、なんとか説得し了解してもらえたけど

 無理な練習はさせられないという事で見守りも兼ねて練習につきあって

 くれていたの」

「なるほど・・・いい監督だなぁ」

「いい監督よ、もっと試合にも勝って名監督にしてあげないとバチあたる

 から。

 たぶん翼と同じようにみんなが私をレギュラーにって考えるかも

 しれないから、監督からいずれ話があるかもしれないな」

「無理は禁物だよ、僕は岬の身体のほうが心配だ」

「心配してくれるの?」

「あ、当たり前だろ、お母さんにも言われてるし」

「翼、優しい!大好き!」

岬が抱きついてきて僕の頬にキスをしてきた。


それ以上は何も起きずに岬は疲れて眠ってしまったけど

僕は一瞬の岬の柔らかい唇の感触が忘れられず、身体は疲れ切っている

のに眠ることが出来なかった。








 





 

 

 


 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ