第15試合 帰り道
『第15試合』
試合が終わると岬は完璧にヒーロー・・・ではなくヒロインに
なっていた。
多彩な技を決めてみせ、わずか10分の間にゲームの流れを変えて
みせたのだから当然といえば当然だろう。
チームメイトからも「すごいよ!」「なんで今まで隠してたの?」
「いつどこでサッカーやってたの?」などと質問責めになる中、岬は
「ごめんなさい、ちょっと疲れたからまた明日ね。翼、歩けないから
連れて帰って」ととんでもない事を言ってきた。
スパイクとストッキングを脱がせると左足が少し腫れていて、
アイシングして固定すると僕の首に手を回そうとしてきた。
明らかにお姫様抱っこを要求しているようだったが、さすがに
みんなが見てる前でそんなのできるわけがない。
ところが監督の井原が「ほら、今日の試合の立役者、お姫様の
云う事を訊いてやれよ。表彰式は出なくていいから二人で先に
帰りなさい。荷物は俺達が持って帰るから」などと言ってくれた
おかげで僕はお姫様抱っこはしないまでも彼女をおぶって
寮まで別行動で帰ることになってしまったのだった。
これは後から解ったのだが、こんな小さな大会でも新聞などの
マスコミが多少見に来ていて、女の子の恰好した岬を興味本位で
写真撮ったり取材しにくる可能性があるから監督が配慮してくれた
らしい。
スパイクから普通の運動靴に履き替えたけど汚れたユニフォームの
ままで車なら10分かからないところを歩いて市のサッカー場から
寮までどれくらいかかるのだろう?
いくら岬が軽いとはいえ、2試合フル出場した後の身体、特に足は
ガクガクでさすがに悲鳴をあげてキツかったが、ユニフォームしか
着ていない背中に密着してくる小さな胸の感触と、抱えている小さな
お尻と足の治療で脱いでしまったストッキング無しの太腿の感触が
ほんとの女の子のように柔らかくて心地よくてなんとか我慢する
ことができた。
それと普段気づかなかったけど岬のいい匂いがして・・
こんなこと呟いたら岬に完全に変態扱いされるだろうな・・・。
僕は背中で何も言わない岬に話しかけた。
「ねえ、岬?」
「なに?」
「なんで僕が昔口癖にしていた言葉を知ってたの?」
「口癖にしてた言葉って?」
「ピッチに入ってきた時、諦めたら終わりだよって言ったでしょ。
その言葉だよ」
「ああ、だって高校入って二日目に屋上に翼が追いかけてきてくれた
ことあったでしょ?」
「うん、あったね」
「あの時、諦めたらダメだよ!って言ってたから覚えてたんだよ。
忘れたの?」
「言ったかなぁ?」
「ヒドい!ヒドすぎるよ!私けっこう感動したんだよ」
岬が後ろから首を絞めてきた。
「ご、ごめん。それよりも別の言葉のほうなら覚えてたんだけど」
「別の言葉って?」
「絶対言わない、いや今更恥ずかしくて言えない」
「フフ、いいもん、ちゃんと私覚えてるから」
「お、覚えてるの?」
「私を絶対守ってくれるんだよね」
「・・・・」
「おお!翼が赤くなってる!照れてる!可愛い!」
「これ以上からかうとここで降ろして置いてくぞ!」
「やん、もう言いません!ほんとに歩けないから勘弁してください」
降ろすわけないよ。
自分で歩けるって言ってもこのまま連れて帰るから。
君が僕にかつて衝撃を与えた背番号17のレフティー、あの「太郎」
だった事ももう解ったからあえて詮索しようとは思わない。
それより僕は確信したんだよ。
衝撃を受けた背番号17のレフティー「太郎」よりも、今日感動を
与えてくれた背番号17のレフティー「岬」に、ポニーテールを
靡かせてピッチを舞う女の子としての君に恋してしまったことを。




