第13試合 対抗戦
『第13試合』
対抗戦の一週間前くらいから、岬の行動が怪しかった。
部活が終わるとちょっと用事があるといっていなくなり、
夕食時間が終わるギリギリに戻ってきて「あー、お腹空いた」と
普段は小食なのにお皿におかずを盛ってきてパクパク食べていた。
「何してたの?」と訊いても「内緒」と言って別の話をして話題を
すり替えてしまい、そしていつもなら寝る時に「一緒に寝ていい?」
と言い出すのにとっとと自分のベッドで寝てしまっていた。
まあ、夜中にトイレに起きた時には僕のベッドに入ってくるのは
相変らずのままだったが。
しかし一体どこで何をしてたんだろう?
その時僕は履かずに飾ってあった真新しいスパイクが部屋から
無くなっていることにまだ気づいてなかった。
そして対抗戦当日の6月の日曜日。
去年は公立校のグラウンドで開催されたのだが、今年からはなんと
市のサッカー場で開催されることになり、当然入場無料ということも
あり、各校の応援団、生徒はもとより、サッカー好きや近所の人まで
見に来ていて数百人の観客の前で僕達は試合することになった。
うちの学校も応援団をはじめ、各部員達のクラスメイトや寮生が駆け付け
僕と岬のクラスメイトも数人、それより寮長の野村をはじめ同じ寮の人達が
試合に出る僕より岬がいるからという理由で応援に駆けつけてくれたのは
嬉しい反面、なんとも複雑な気持ちだった。
試合は抽選の結果、まず公立校ともう一つの私立校が対戦し、負けた
高校とうちの高校が対戦、最後にうちと最初に勝った高校が対戦という
スケジュールで、二校は連戦になるけど最初に勝った高校だけは少しだけ
休息ができることになっていた。
部員が少ないうちとしては、できれば最初に試合をして勝ち、休息して
三戦目に戦いたかったが決まってしまったものは仕方ない。
最初の試合はやはり公立校が一方的な試合で3対0で勝利を収めた。
試合を観戦しながら「やはり上手いし強い」と思わざるを得なかった。
岬も監督のそばでノートに記録をとりながら熱心に両チームを観察して
いるようだった。
負けた私立校は連戦になるが、さすがにぶっ続けはなく、15分間の
休憩が与えられた。
「公立校は一試合分たっぷり休憩できるし、交代部員もいるから
かなり苦しいなぁ」
キャプテンの福田がぽつりと言った。
確かに3点取った後、中心選手を余裕をもって交代させていたし、
かといってうちには交代できる選手は2人だけ、高校サッカーは40分
ハーフなので80分動きまわった後にわずかの休憩をはさんでまた
80分動き回るのはハードだった。
そして15分の休憩が過ぎ、私立校同士の第2試合が始まった。
僕は中盤のミッドフィルダーとして先発出場していたが、連戦となる
相手校の動きの悪さが目に見えて次戦の自分達もこうなる事を想像すると
嫌になってきた。
昨年は0対2で負けたのだが、今年は辛くも1対0で勝利し、次の試合で
勝ったほうが対抗戦の優勝を勝ち取ることができる事となった。
ただ勝つには勝ったけど貴重な1点を取った3年生のFW前田が足を
負傷してしまい、本人は足が折れても出ると言ったが監督に止められ、
最後の試合はうちの得点源無しで戦う事になってしまったのだった。
おまけに交代要員はあと一人、と言ってもゴールキーパーの控えなので
実質交代要員は皆無の状況で公立校との試合が始まろうとしていた。
15分の休憩で監督は戦術を変更してきた。
基本うちのシステムは4-4-2で、前の試合はこのシステムで
戦ったが、次の試合は4-5-1にシステムを変更し、中盤を厚くして
守備を固めて一発のカウンター狙いのシステムになっていた。
まあ当然のシステムなのだろう。
試合開始のホイッスルが吹かれ、ベンチには井原監督と岬、足をアイシング
している前田とGKの控えである森が固唾を飲んで見守っていた。
試合は完璧に公立校の一方的な試合ペースでうちは自軍の陣地でひたすら
守り続け、前半を0対0でどうにかこうにかしのぎきった。
後半が始まり、僕も他のメンバーも守備に徹して疲労が蓄積してきて足が
思うように動かなくなってきた時に相手FWにペナルティエリアへボールを
持ちこまれ、正GKの3年の高橋が捨て身でシュートを防いだがPKを与えて
しまっただけでなく、肩を負傷してしまい控えの森が交代で出場する事態に
なってしまった。
突然の出番で森はPKを決められ、残り20分で1点を追いかける形に
なったが、もう交代要員はいなくなってしまった。
何が何でも点を取らなければという気持ちが空回りし、せっかくボールを
奪ってもパスミス、トラップミスなどを繰り返し、相手に攻めこまれ、
それでも交代した森がスーパーセーブをして得点を許さずにいてくれたが、
相手ゴールが遠いまま、残り10分弱になったところでウイングとして
走り続けていた牧田が何度目かの脚をつらせて立ち上がれなくなって
しまった。
もう交代はできないし、10人で戦うしかない。
なんとか立ち上がった牧田は足を引きずりながらまだ走れると言っている
が、もう無理だ・・・。
その時、監督の井原がメンバー交代を告げた。
ピッチに立っている誰もが残り時間を10人で戦う状態になり、絶望感が
あふれそうになってきた時に、ベンチの奥からユニフォームを着て現れた
人物に目を見開き、驚かずにいられなかった。
ベンチの奥から出てきたのは岬。
白い長袖のユニフォーム、白いパンツ、白いソックスを伸ばしてニーハイ
のように履き、髪はポニーテールにし、ゴムのヘアバンドをして、ピッチ
に入る指示を待っていた。
ちなみにうちのサッカー部のユニフォームは全身白で、基本この時期なら
半袖を着るのだが岬は日焼けしたくないから長袖を着て、ソックスも思い切り
伸ばし、ちゃんと日焼け止めも塗っていたみたいである。
な、なんで岬・・・ユニフォーム着てるの?
試合に出るなんて一言も言ってなかったじゃないか・・・
僕は流れる汗も拭かずに呆然と岬を見ていた。
ただでさえ白い岬が全身白を身にまとっていると、それはまるで天使の
ように見えた。
そして岬のスパイクが汚れて傷がついていることにようやく気づいたので
あった。




