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ハットトリック  作者: 北野 ソラ
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プロローグ & 第1試合 桜の君

   『プロローグ』



その光景は衝撃的だった。


僕の名前は赤井翼。


まだ僕が小学生の頃、ジュニアのサッカークラブに入っていた時の

ことだ。

僕の入っているクラブは地区のトーナメント戦に出場したが、あえなく

二回戦で敗退。

帰るにはまだ早かったので他の試合を何気なく一人で観戦していた。

その試合も強豪クラブが5点取ってワンサイドになっていたのだが、

後半途中で負けてるほうのクラブがメンバーチェンジをしてきた。

出てきた子はとても小さくて細くてもう負けてるから試合経験を積ませて

あげようと監督が親心を出して出場させてあげたんだろうと誰もが思って

いたに違いない。

そして彼が初めてボールを触った瞬間、誰もが彼のプレイに釘付けになった。

自軍のセンターサークルの下くらいからドリブルで次々と相手の選手を

抜き去っていく。

囲まれたと思ったら、クライフ・ターン、マルセイユ・ルーレットという

高度な技をいとも簡単に決めて相手を抜き去り、気づけばゴール前でキーパーと

一対一になっていて、前に出てきたキーパーの股間をあざ笑うかのようにボールを

転がしてたった一人でゴールを決めてしまったのだった。


試合を見ていたほとんどの人がその子に注目したのも束の間、次にボールを

持った時には相手選手の悪質といえるようなタックルで足を負傷し、

わずか5分足らずの出場で鮮烈な印象を残して足を引きずりながら退場して

いった。


相手選手ほぼ全員を一人で次々と抜き去り、あっという間にゴールまで

奪った姿はくっきりと僕の目に焼き付いた。

まるでボールが足に吸いついているようで、なんであんなプレイが出来るんだ

ろうと心が躍り、出来ればもう一度彼のプレイが見たい!叶うなら彼と一緒に

プレイをしてみたい!と思った。

彼は怪我をした時、チームメイトに「太郎」と呼ばれていたのだが

その後いくつもの大会にも「太郎」の姿はなく、僕は中学生になっていた。

当然サッカー部に入り、またどこかで「太郎」に会えるんじゃないかと思って

いたが全くその姿を見ることはなく、僕の頭の中に残っていた背番号17の

左利きの少年の面影はだんだんと薄れていってしまっていた。






   『第1試合』



さらに月日は流れ、僕は高校に入学した。

地元の公立高校ではなく、私立高校を選んだ。

その理由と言えば、家がただ近かっただけなのだが。

通うことになった高校は新設されたばかりでまだ卒業生がいないまさに

出来立ての学校で、ただ自分の思惑と違ったのは入学すると一年間全員寮に

入らなければならなかったことで、本人が希望すれば三年間居ることもできる

みたいなのである。


そして入学式。

校門を入るとクラス分けの名前が貼りだしてあり、B組に名前を見つけると

僕はさっさと講堂へ向かった。

中学校の同級生はほとんど地元の公立校へ行き、知ってる顔は全くと言って

いいほどいなかった。


講堂へ向かう途中に大きな桜の木があった。

通り過ぎようとした時、一人の女の子が桜の木を見上げていた。

風で桜の花が少し舞う中、わずかに微笑みを浮かべている女の子に僕は

目を奪われた。


退屈すぎる式が終わり、教室へ行くと席にはすでにみんな座っていて僕は

窓際の横の空いていた一番後ろの席に座り、教室を見渡すとやはり同じ中学

からやってきた知り合い同士が固まり、話に花を咲かせていた。

しばらくするとフワリと髪をなびかせシャンプーの匂いを漂わせた女の子が

入ってきて、窓際の一番後ろの空いている席に座りかけた時、小さく声を

かけられた。

「ねえ」

僕は声をかけてきた彼女を見て驚いた。

さっきの桜の君だった。

茶色がかった長い髪に驚くほど色が白く目が大きいそれはまさに美少女で、

返事も出来ずに見とれているとまた彼女が可愛い声を発してきた。

「ねえ、きいてるの?聞こえてないの?」

「は、はい。聞こえてます」

「窓際、光が入って眩しいからあなたの席と変わってくれない?」

「あ、いいですよ」

僕は席を譲り、窓際の席に移動した。

「ありがとう」

彼女は僕が座っていた席に着席した。


なんて可愛いんだろう・・どこの中学だったんだろう?


横目でチラッと座っている彼女を見ると、ハイソックスを履いていても足の

細さが解った。胸は・・・ちょっと小さい・・かな。


だめだ、あんまり見ているとストーカーに思われる。


そして担任がやってきて少し話をした後、恒例の自己紹介が始まった。

僕は「赤井」なので大抵出席番号は一番のことが多かったが、「青山」って

子がいて珍しく二番だったのは少し嬉しかった。

担任が「赤井君」と呼んだので立ち上がり、名前と出身中学を言い、サッカー

部に入る予定であることを話して着席した。

その後、次々と自己紹介があり、担任が「次は・・山本・・く・・さん」


く・・さん?


どういう意味だ?単にくんとさんを間違えたのか?

明らかにさんだろ?

ていうか、山本さんっていうのか・・・


名前を呼ばれた彼女は「はい」と小さく返事をして立ち上がった。

僕のすぐ横に立った彼女はやはりとてもスタイルが良く、短いスカートから

見える足はほんとうに細くてきれいだった。


「山本です。宜しくお願いします」


それだけ言うと彼女はすぐに椅子に座った。

担任の教師は何か言いたげだったが、すぐに次の生徒の名前を呼んだ。


全員の自己紹介が終わると、くじを引いて席替えが取り行われた。

彼女とは束の間のお隣さんだったと少し残念に思っていたら、なんと彼女は

今座っている席を引き当て、そして僕は彼女の前の席を引き当てて、お隣さん

から前と後の関係に昇格?した。

とりあえず今日はこれで終了となったけど、せっかくまた近くの席になった

のだから、せっかくだから振り返って挨拶でもしとこうかと考えていたら

教室を出て行く担任を追いかけるように彼女は席を立って出て行ってしまった。

少し唖然としたが気を取り直し、帰る準備をしていると近くにいた男子達が

彼女の話をしているのが聞こえてきた。


「あの娘、めちゃくちゃ可愛いなぁ」

「確かに断トツで可愛いけどなんか愛想なさそうというか、冷たそうだな」

「そうだな、可愛いのを鼻にかけて取っつきにくい感じがするな」


確かに自己紹介も素っ気なかったし、見た目は可愛いのにあまりいい印象は

無いように感じる。

でも・・・近くで見るとほんとに可愛いんだよなぁ・・・


そんな事を考えながら教室を出た時に、クラブの入部届けとかどこでもらえば

いいのかと思い、とりあえず担任に確認してみようと職員室へと向かった。

まだ慣れない校舎で迷いながらも職員室に辿り着き、「失礼します」と

挨拶をして中へ入ると担任の前で山本さんが凄い勢いで話しているのが

目に入った。


「なんで一人部屋じゃないんですか!約束と違います!」

「その予定だったんだけど一人部屋に空きがでなかったから仕方ない

 じゃないか」

「一人じゃないと私困ります!先生も理解してくれてますよね!

 もし相部屋だとしても私一人だけにしてください!」

「そんな事言っても・・・ん?赤井くん、どうした?」

担任の男性教師、手塚が呆然と立っていた僕に気づいてくれた。

「あ、その、お取込み中だったら、また後でも構いません」

僕は可愛いイメージしかなかった彼女の怒りに溢れた話しぶりに

すっかり気後れしてしまっていた。

「もう話は終わりました!先生、絶対一人の部屋でお願いします!」

そう言い放つと僕の事など見向きもしないで彼女は出て行ってしまった。

呆気にとられていると手塚がボソっと呟いた。

「やれやれ・・・・とんだ問題児だな・・・これは」

「山本さん・・・って問題児なんですか?」

途方に暮れかけている担任に僕は話しかけると、手塚は溜息をついた後

話し始めた。

「問題児と言えばそうなるけど、実は赤井君にも山本さんの件で

 話があって後で呼び出そうと思ってたんだけど丁度いい」


山本さんの件で僕に話って・・・なんだ?


立ってるのもなんだからと僕は椅子に座らされた。


まさか高校デビューの初日から職員室で説教・・・かと思ったら

手塚は真面目に語りだした。

「赤井君は、性同一性障害って知ってるかい?」

「ええ、知ってます」

「自分の周りにそういう人って今までいたかな?」

「いえ、いません。ただそういう人って知られたくないからそれを

 隠したりするらしいのでもしかしたらいたのかもしれませんね」

「もしすぐ近くにそういう人がいたらどう思う?」

「う~ん、何とも言えないです」

「男性なんだけど見た目は完全な女性だったりしたら?」

「先生、すみません。この話がなんで山本さんと僕に関係があるんです?」

手塚は一呼吸置いてから言った。

「さっきここにいた山本さん、実は男の子なんだよ」


「えええええええええええええ!!!」












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