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第三話 統也への試練 後編


 東北のとある県境。統也は一人、新幹線や普通電車、路線バス等を乗り継いで、目的の場所までやって来ていた。


 時刻は夕暮れ。季節は冬であるため、日の入りが早い。辺りは薄暗くなり始めている。


「こりゃ急いだ方が良いな」


 統也は着替えの入ったバックと、父より譲り受けた霊刀の入った筒を肩にかけながら、目的の場所へと急ぐ。


「しかし渡りに船だな。いきなり上級妖魔とやり合えるなんてな」


 統也はどう猛な笑みを浮かべながら、父との会話を思い出す。


 自身が宗家に名を連ねるための条件。単独での上級妖魔の撃破。付き人は無し。護衛も無し。応援者も協力者もない、孤立無援の状態での戦闘。


 十五歳の少年にさせることではないが、しかし今の統也に取っては実にありがたい事だった。


 父である冬真は苦虫をかみつぶし、今にも憤死しそうな程であった。実の息子を下手をすれば死地に送り込む事になることを何度も謝罪していた。


 母は今にも泣きそうで、気丈に振る舞おうとしていたが、どうにも出来ず統也に抱きついて仕舞いには泣き出してしまった。


 弟も心配そうに、統也に何度も絶対に帰ってきてくださいと連呼していた。


 何だろう。統也としては父に話を聞かされた時は、楽しみで仕方が無かったのだが、家族からすれば相でもなかったらしい。


「上級妖魔を一人で相手するなんて、もっと先だと思っていたからな。今の俺がどこまで出来るのか、実戦で試せる上に、相手は自分と同格以上。本当に楽しみだ」


 どんな相手なのか。どれだけの力を持っているのか。どんな動きや攻撃をしてくるのか。


 前世を思い出したからこそ、より戦いへの欲求が昂ぶった。転生してから、戦う相手はどれもこれも格下ばかり。しかも命のやりとりどこから、余裕で対処できる相手ばかり。


 先日やりあった中級妖魔も同じだ。一刀の下に切り伏せてしまった。楽しさも何もない。只の事務的な作業でしかなかった。


「違うんだよな。ああじゃないんだよな、俺がやりたいのは。俺がやりたいのは蹂躙じゃなくて戦いなんだよ」


 蹂躙ではなく戦い。駆除ではなく戦闘。試合ではなく死合。命のやりとりのある、緊張感のある戦いだ。


 戦いと言う意味では、創真の宗家には手練れが多い。特に宗家の現役世代の中でも三人は、今の統也ではどうやっても勝てないと断言出来る。


 宗主の春斗、雫と紫苑の父の秋久、統也の父の冬真。宗家の三強。前世を思い出した今の自分ならば、経験や勝負勘などは劣っていないとは思うが、如何せん元々の霊力値に差がありすぎるし、霊創器の増幅率の前では話にもならない。


 今は届かない。しかしいつかはあの領域に至り、超える。あの領域を超えてこそ、初めて前世の自分に並び立てるのだ。


「それにあの三人と、本気の殺し合いをするわけにもいかないからな」


 身内と言うこともあり、さすがに殺し殺されの殺伐とした戦いを行うわけにもいかない。そこまで統也も血に飢えていないし、狂人でもない。


 しかしそれでも命のやりとりのある緊張した戦いはしたい。なので、本当にこの話を聞かされた時は、うれしさのあまり内心でガッツポーズをしていた。


「さてさて。あんまり遅くなっても悪いからな。先方に挨拶をしないといけないしな」


 退魔士はれっきとした仕事であり、依頼を受ける業者なのだ。依頼人に挨拶に赴かなければならないし、妖魔の詳細なども聞かなければならない。必要最低限の礼儀作法も必要である。


 統也は依頼人の住む神社へと向かう。鳥居のある長い階段を上り、薄暗くなった神社へとやってくる。


「ごめんください。創真から依頼を受けてやってきた者です。どなたかいらっしゃいませんか」


 管理事務所の建物の方へ赴いて、声をかける。すると中から声が聞こえてきた。


「おおっ、これはようおいでなさった。四季殿よりお話は聞いております」


 よぼよぼの、足腰もしっかりしない杖をついた老人が奥の方から出てきた。白いひげが長く、ついでに眉も太くて目が完全に隠れているお爺さんであった。


「お初にお目にかかります。このたび創真一族より要請を受けて派遣されました、創真統也と申します。ここに依頼書と身分証明書がございます。若輩ではありますが、依頼に関しては必ずや達成させるとお約束いたします」


 老人に頭を下げ、自らが創真から来た者と分かるように、依頼書と身分証明書を見せる。


「よろしくお願いしますだ。しかしまだ若いのに礼儀正しいのう。それにその年で上級妖魔討伐を単独で行う腕をお持ちとは」

「いえ。大したことはございません。それでは早速で申し訳ないのですが、件の妖魔についてお聞きしたいのですが」

「まあまあ立ち話もなんですじゃ。中に入ってくださいませ。茶でも飲みながら、お話をさせて頂きますゆえ」

「そうですか。それではお言葉に甘えて、お邪魔します」


 靴を脱いで家に上がる。通された居間で、出されたお茶とお茶菓子を摘まむ。


(この羊羹、上手いな)


 もぐもぐうまうまと、甘くそれでいて濃厚な羊羹を頬張る。素朴ではあるが、何故か癖になる味だ。


(ん?)


 ちらりと誰かに見られている気がしたので、視線がする方を眺める。そこにはまだ五歳ぐらいの幼いおかっぱの、赤いちゃんちゃんこを着た少女がいる。


 部屋の入り口から、頭を少しだけだしこちらをじっと見ている。統也が気づいたことに気がついたのか、彼女は驚いて隠れてしまった。


(座敷わらしか)


 座敷わらし。主に東北地方の特に岩手県に古くから伝わる妖怪である。悪戯好きではあるが、住み着いた家に富を与えると言う。


 霊感の強くないものでも、希に姿を見ることが出来るが、それは彼女、あるいは彼が油断している時にたまたま見えるだけだ。霊力が強く霊視能力も高い統也は簡単にその姿を見ることが出来る。


「どうかされましたか?」

「いえ、何もありません」


 座敷わらしがいることをこの老人が知っているのかはわからないが、下手なことは言わない方が良いだろう。


 座敷わらしは見知らぬ相手に警戒している。不用意に刺激する必要も無い。


「それでは依頼の件ですが」

「ええ。実はこの神社の奥の山の、山頂付近で事件が起きましたのじゃ。これが写真です」


 統也は拝見しますと、渡された写真を手に取ると、それらを眺める。あまり見ていて気持ち良いものではない。写真には獣か何かに食い殺されたと思われる人間の遺体が映っていた。


 これがただの獣の仕業なら、警察なり猟友会に相談すれば良い。しかしこれは只の獣の仕業ではない。


「この山には、かつてとある退魔士が上級妖魔が封印したと伝承が残っております。代々この周辺を治める退魔士の一族がそれらの封印を維持してきたのですが、昨今の少子高齢化や過疎化の影響で、その一族も廃業いたしまして」


 何とも世知辛い話である。現在、日本にはそれなりの数の退魔士がいるが、こんな地方では実入りが少なく、また過疎化のせいで人口も減り、後継者不足になり、途絶えてしまったようだ。


(退魔士はある程度は生まれ持った才能が物を言うからな。それに命の危険があるのに、零細退魔士は実入りも少ないから、そりゃ廃業もするか。もぐもぐ。それにしてもこの羊羹、ほんと上手いな。どこで売ってるか、帰りに聞いて帰ろう)


 退魔士は全国におり、依頼すれば妖魔退治の依頼は受けてくれる。今の退魔士は国が資格制度を導入して、この資格を取得できれば、退魔士として看板を掲げ依頼を受けることができる。


 この資格を取得するには、大前提として霊力が一定量なければならない。


 だが退魔士の多くは遺伝するとは言え、霊力が低い相手と交配を続ければ、霊力がだんだんと弱くなっていく。古い退魔士の家系でも、血が薄れれば退魔士としての才能も衰える。たびたび、才能が無いのに危険な家業を続ける必要は無い。そのため、現代では代々続いた退魔士が廃業する事も珍しくない。


「ところがですじゃ、その一族がきちんと申し送りと言うよりも、引き継ぎを怠ったおかげで、この地の封印の維持が途絶えておりました。それに気づいたので、至急別の退魔士の方に連絡を取り、来て頂いたのですが」

「その結果がこれですか」


 写真に映る死体は合計で三つ。一流とは言いがたいが、それでも封印などを任されるくらいの退魔士達だったのだろう。それが三人とも無残な死体となって発見された。


「ええ。目を覆いたくなるような光景でした」


 遺体は見るも無惨だった。原型を留めておらず、身体の大部分が消失している。おそらくは妖魔に喰われたものと考えられる。


「しかしこれはどのように撮影を。まさか貴方が一人山を登って行ったわけでは」


「最近ではドローンと言う便利な物がありますじゃ。ドローンを使い、様子をうかがい撮影したのですじゃ。あっ、ちなみに私の自作の自信作ですじゃ」


 割とよぼよぼのじいさんのくせに、割と機械に強かったようだ。式神とかを使うかと思いきやドローンとは。


「さすがにこのような状況で、警察を呼ぶわけにもいきませんからな」

「普通の獣の被害ならまだしも、妖魔が相手では余計な被害を出しかねないですからね」


 警官や消防団が山に入って被害が拡大すれれば、余計に大事になる。マスコミを抑える事も出来なくはないが、費用も馬鹿にならない。特に今はインターネットもある。事が露見すれば、即座に国内だけでなく世界にも広がりかねない。


 だからこそ目の前の依頼人は、これ以上被害が広がる前に伝を頼り創真四季に依頼を出したのだ。


「あの方がご指名されたのであれば安心ですな」

「先代宗主様とは旧知の間柄で?」

「いや、若い頃何度か酒を飲んだ程度の関係ですじゃ」


 それでも創真の宗家と個人的な交友があるのは凄いことだろう。いや、酒を飲んだとか、どう言う状況だったのか。その伝が今でも残っているとか、ある意味で凄い。


「とにかくあのお三方も、いつまでもあのままでは浮かばれますまい。早々に埋葬してやらねば」

「そうですね。今晩の内に、終わらせるように尽力いたします」

「今晩ですか? 夜の山に入るのは危険ですじゃ。それに相手は上級妖魔。ますます不利になるだけでは?」

「ですが、昼間に行っては相手も警戒するかも知れません。夜なら、相手も警戒はしても油断するかも知れません」

「それでもやはり危険なのでは?」

「大丈夫です。明日の朝には一度戻ってきます」

「わかりました。ご武運をお祈りいたします」

「はい。お任せください」


 統也は依頼人に頭を下げると、支度を調え山へと足を踏み入れる。


 彼は今、一族に支給される黒い装束に身を纏っている。耐刃、耐熱、耐冷、耐圧、耐霊、耐妖に優れ、気配を遮断する効果もある。この一着だけで豪邸が建つほどのものである。


 依頼人にGPS付きの端末を渡される。経路などが入力されており、目的地まで案内してくれるそうだ。


「ありがたいけど、何かすげぇ敗北感だ」


 端末を見ながら、こんな山奥の神社の老人が、ハイテクの機械を使いこなすとは。あまり機械に詳しくない統也としては、いたたまれない。


 当たり前の様にスマホを使いこなす幼馴染み達。最近では弟の方が詳しくなっている。機械音痴というわけではないが、必要最低限の機能しか使いこなせていない統也としてみれば、情けなくなってくる。


「こっちの勉強もするかな」


 暗く明かりもない山道を、統也は問題なく進んでいく。手には端末の光があるがそれ以外の光は月明かりぐらいだ。


 今の統也は霊力で視力などを強化している。昼間ほどとは言えないが、十分に周囲を認識できている。さらに気配探査と霊力探査も同時に行っており、周囲の霊的な存在を見逃さないようにしている。


(半径五十メートル内には反応無し。もう少し範囲を広げるか? いや、霊力の消耗はできる限り抑えるべきだな)


 左手には端末、右手には術式を展開し、霊力消耗を抑えるようにしている。背中の刀はいつでも抜けるように筒から出して背負っている。第三者に見つかれば大騒ぎだろうが、人間の気配も周辺にはないので、問題ないだろう。


「問題の場所までもう少しか」


 山の頂上付近にぽっかりと空いた洞窟がある。その奥に妖魔が封印されていたようだ。気配を探るが、そこには残留妖気はある物の、上級妖魔と思われる妖気は無い。


 洞窟の前には、殺された三人の退魔士の死体がある。死体と言っても、原型を止めいない上に腐敗が進んでおり、異臭が漂っている。


 血の臭いや腐敗臭は前世でも散々経験しているが、あまり気持ち良いものではない。


 統也は死体に近づくと、そのまま片手で略式の合掌を行い死んだ退魔士達を弔う。霊力を用いて、この周辺を清め浄化して、彼らの残留思念や妖気を祓う。


「これでよし。あとは妖魔を討伐して、この遺体を運ぶだけだな。しかし妖魔の奴、どこにいる。こんだけ霊力を出して、気配も消してないんだ。そろそろ来ても良いんだけどな」


 上級妖魔に取って、統也は餌として極上だ。霊力は抑えているが、これだけあから様に気配を出しているのだ。気づかないはずがない。


「おっ、来たか」


 妖気が近づいてくる。木々の間をもの凄い早さで進む巨大な何か。統也は端末を仕舞うと、刀を右手に取り構える。


 巨大な何かは樹から飛び降りると、ドンッ! と轟音と土煙を巻き上げながらその巨体を着地させた。


 統也の前に現れたのは巨大なゴリラのような妖魔だった。


 体長は三メートルほどだろうか。全身毛むくじゃらで、腕も足も太い。目は真紅に輝き、鋭い牙と爪が見える。ゴリラのくせに尻尾は長く太い。


「猩々、あるいは狒々の類いか? 妖力値は、だいたい七万くらいか?」


 相手の妖気の総量を大まかに読み取る。統也は測定器を用いなくとも、大まかな数字を把握できる。相手がよほど巧妙に隠していない限りは、読み間違いはないだろう。


「少しは楽しめるかな」


 ニヤリと笑みを浮かべると、刀を握る手に力を込める。霊力を刀に伝える。この刀は霊刀。霊力を流せば霊創器ほどではないが、霊力を増幅してくれるし、切れ味も増す。


『GROOOOOOOOOOOOO!』


 咆吼を上げ、ドラミングのように胸を激しく叩く。耳障りな声を音が統也の耳に入ってくるが、霊力を用いて衝撃を軽減する。


「やかましいぞ、このゴリラ!」


 霊力による身体能力強化。主に脚力などを重点的に高めると統也は一瞬で妖魔の正面に移動する。


『!?』

「遅えっ!」


 一閃。刃が煌めき、妖魔の左肩付近から右の腰辺りまでを切り裂く。


『GAAAAAAAAAAAAA!』


 悲鳴のような叫びが漏れる。妖魔の身体からは血は流れない。流れるのは黒い妖気である。


 特級以上の妖魔は別として、それ以下の妖魔は核と呼ばれる肉体を構成する重要な部位以外は、妖気で出来ている。彼らは死んでも肉体は残らない。ただ消え去るのみ。統也の先制の一撃は、妖魔に大きな傷を与えた。


 妖魔は目の前に突然現れた統也を怒りに満ちた目で睨むと、右腕を振り上げ勢いよく叩きつける。


 だがすでにその場に統也はいない。妖魔の左横を滑るように移動すると、すれ違いざまに左脇腹を切りつけた。


『!?』


 妖魔は驚きを隠せない。


「遅えって言ってるだろうが!」


 大ぶりな攻撃だった。この妖魔は見た目同様に、パワータイプであった。豪腕から繰り出される一撃は、大地を抉り、地面を揺らす。俊敏性においても、決して低いわけではない。


 この巨体で木々の間を軽快に飛び移っていたのだ。鈍間な訳がない。


 しかし統也から見れば遅い。霊力で強化した動体視力と脚力、反射速度を合わせれば、この程度の早さなど、早い内に入らない。突き出される右手を、肘の上辺りから一刀両断する。


『GAAAAAAAAAAAAA!!!!!』


 痛みを感じているのか、先ほどよりも大きな悲鳴のような雄叫びを上げる。


 妖気が切断面から漏れ出す。妖魔の血肉でもある妖力が傷口から流れ出ていく。


 時間が経てば立つほど、統也が有利になる。


「………上級妖魔って言ってもこの程度か」


 心底落胆した風に統也は呟く。刀を肩に乗せ、妖魔に対して詰まらなさそうに呟く。


 妖魔は統也の表情に怒りを抱く。ふざけるな。何だ、その顔は。自分が、退魔士とは言え、こんな小僧に侮られているとは。プライドを傷つけられる。憎い、腹立たしい。


 だが力量差は歴然だった。勝てる気がしない。それが妖魔の偽わざる本音だった。


 妖魔の本能が叫ぶ。目の前の相手は今の自分がどう足掻こうが勝てない相手であると。


 じりじりと無意識に自分が後退していることに妖魔は気づいた。


 馬鹿な。恐怖を感じるというのか。この相手に。


「もう少し楽しめると思ったんだが、期待外れだったな。まあいい。逃がすつもりもいたぶるつもりもないから、すぐに終わらせてやる」


 刀を正眼に構え、統也は一気に駆け出す。狙うは首。首を刎ねられれば、大抵の妖魔は滅せられる。


 だが、統也が妖魔の首を刎ねる事はなかった。


 その前に、彼の動きを止める事態が起こったのだ。


 ゾクッ!


 統也の身体が震えた。統也だけではない。妖魔の身体もだ。


 動きを止め、統也は即座に飛び退いた。


(なんだ、今のは?)


 感じたのは妖気だった。それも目の前の妖魔と比べものにならない程の強く、刺すような妖気。


 出所は洞窟の奥からだ。何かがいる。いや、何かが突然出現した。


 がしゃ、がしゃ、がしゃ


 何かが洞窟の奥からやってくる。音が段々と大きくなる。


 闇の中から、不気味に輝く一対の蒼い光が見える。光はゆっくりと洞窟の出口に近づいてくる。


 統也は光の正体を、光の発する物の正体を確かめる。


 それは鎧だった。正確に言えば、血のように赤い鎧を纏った鎧武者だ。顔には漆黒の仮面を着けている。目の部分には蒼い光が灯っている。腰には日本刀を刺している。


『UUUUUUUUUUUUUUU』


 唸るような声を出すゴリラ型の妖魔。すると鎧武者がゆっくりと視線をそちらに向けた。


『!!!!!!??????』


 視線が交差した。只それだけなのに、ゴリラ型の妖魔は全身を切り裂かれたかのような錯覚に陥った。


 次の瞬間、ゴリラ型の妖魔は脱兎のごとく尻尾を丸めて逃げ出した。恐怖に駆られるかのように、ゴリラ型の妖魔は森の中へと姿を消した。


 統也はそれを見送ることしか出来なかった。本来なら手負いの妖魔を逃がすなど大失態も良いところだ。


 しかし統也は追撃すると言う選択肢は取れなかった。


 目を離せば、目の前の鎧武者は統也に襲いかかる。その確信があった。


 統也の頬を一筋の汗が流れる。


 目の前の鎧武者は、逃げたゴリラ型の妖魔より遙かに格上。


 クラスで言えば、最上級妖魔。その中でも上位に位置する力を持つであろう個体。


 統也に対し、強者がその牙を向けるのだった。



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