5話 ソロの限界を悟ったら…
「はぁはぁ…」
今までずっとソロで戦って来た彼は、古城ダンジョンで苦戦を強いられていた。
「まさかここまで強いなんて…」
彼が戦っているのは古城ダンジョン2階、【朽ちた騎士】だ。1階はそれほど苦戦しなかったように思う。しかし、朽ちた騎士は兵士と違って馬の機動力と強靭な体力が彼をいつも以上に疲弊させていた。
【魔法付与・デュアルファイアⅧ】
「やあぁぁ!」
デュアルファイアをエンチャントした剣で朽ちた騎士を斬りつける。切った痕から2つの火柱が巻き上がり、朽ちた騎士にさらなるダメージを与える。
【魔法付与・アクアバレットⅧ】
次の一撃を受けた騎士からは水が弾ける。多彩な魔法を付与しながら戦う彼の名は「シン」。ウィザードの職につくも、杖を装備せず、剣の腕を磨いてきた彼は、上位職であるハイウィザードにクラスアップした。その後もソロを続ける事で、剣と魔法で戦い、【魔法剣士】というエクストラジョブを入手したのだ。そんな彼が新しく実装された古城ダンジョンに挑むきっかけになったのは…
「新ダンジョンにソロで挑んだ奴らが全滅したらしいぜ」
「はは、今時ソロ攻略なんて馬鹿だよ。パーティの方が効率がいいに決まってるじゃん」
シンが酒場で情報収集をしている時にそういう会話が耳に入った。
「ソロだって強いやつはいるんだぞ」
思わず、そう言ってしまった。
「有名なプレイヤーはほとんどがギルドに入ってるし、パーティでプレイしてるんだよ」
「なんだお前?今時、ソロやってるやつは何のためにゲームしてるんだろうな?」
その有名プレイヤーの中にもソロから始まったプレイヤーもいるのだが…
「じゃあ証明してやるよ」
シンはそう言うと酒場を飛び出し、気づいたら古城ダンジョンまで来ていた。
【魔法付与・ファイアランスⅩ】
「おらぁあ!」
シンの攻撃で、朽ちた兵士のHPが一気に減る。
「さすがに一撃とはいかないみたいだな?」
朽ちた兵士がシン目がけて剣を振り卸おろす。それを剣で弾くとシンは次のスキルを発動した。
【魔法付与・デュアルファイアⅧ】
「せいっ!」
朽ちた兵士を切り捨てると、モンスターは火柱に消えていく。
「こんなんで全滅なんて、よっぽど弱い奴だったんだろう。余裕じゃないか」
シンはそう言うと、どんどん奥に入っていった。奥に進むにつれ、兵士は2人、3人のグループで襲ってくるようになったが、シンの高い回避能力と、無詠唱で使える魔法付与を駆使し、剣技で朽ちた兵士を圧倒していた。
そして、2階への階段を見つけた。
「この調子なら大丈夫。余裕でやれる」
そう思ったのは最初だけだった――
2階のモンスターはすべてが名将レベルの敵で、囲まれると逃げるしか出来なかった。1対1でも、兵士の5倍近くあるステータスに翻弄され、最初は戦うのすら難しかった。今は、攻撃パターンがある程度分かってきたので、その隙をついて攻撃を繰り出している状況である。
【ダークブレイドⅧ】
朽ちた騎士の攻撃をかわす。
【魔法付与・デュアルファイアⅧ】
何度目か分からない攻撃を受けて、朽ちた騎士は倒れていく。
「ふう。確かにこれは…」
「きついなぁ」
シンは実感するのだった。自分の非力さを。MPもかなり消耗しており、少し休憩して回復する。ポーションも持ってはいるが、1体倒すのにかなり使ってしまった。できる限り温存しておきたい。
そして…足音が聞こえてくる。
「しまった…。囲まれたか」
シンが休んでいたのは十字路に近い場所で、ここならどの方向にでも逃げられる。そう思っていた。しかし、足音はどの方向からも反響して聞こえてくる。それも1つや2つではなかった。
(どうする…)
騎士と戦って勝ちを拾う事はできる。しかし、それは単体の話だ。この状況だと、確実に挟み撃ちになり、倒されてしまう。
シンは動くことができずにいた。
【パニッシュメントⅢ】
【ホーリーライトⅩ】
一つの通路から光が溢れ、足音が聞こえなくなる。
(誰かが戦ってる)
シンは光った通路に向かって進むが、そこにはすでに敵もプレイヤーもいなかった。
「何だったんだ…今のは?」
シンがそう呟いている間にさらに別の通路が光った。
(あっちに誰かいるのか)
シンは気になって進む。しかし、シンが光った通路にたどり着く時には敵の姿はなかった。今度はプレイヤーの姿だけがちらりと見え、別の通路に消えていった。
(ソロ…?)
シンはそのプレイヤーを追いかけていく。そして、それを目撃してしまった。
【パニッシュメントⅢ】
【ホーリーライトⅩ】
2発の光を受けた朽ちた騎士が消滅していく。ソロの実力なら最強だと思っていたシンは、その光景が信じられずにいた。
(強い…!)
シンですら何度魔法を使い、剣を振るったのか数えられない程の手数でやっと倒せた相手を…
そのプレイヤーはたった2発で倒しているのだ。
その光景に高揚したシンはそのままあとを付けていく。やがて、大広間に出た。そこには数体の騎士が並んでいるのが見えた。その騎士が一斉にプレイヤーに向かっていく。
(さすがにこれはまずい)
助けに行こうか迷い、躊躇した一瞬で決着がついた。
【神聖なる閃光】
一層大きな光が騎士達をすべて呑み込み、敵がすべて消滅していたのだ。
「っ!?」
目の前で行われている戦闘に目を奪われてしまう。そのプレイヤーはボスモンスターを倒すとその奥に消えていった。
「す、すげえ…」
しばらく余韻に浸ったシンは敵がリスポーンする前に古城ダンジョンを後にするのだった。
次回の更新は4月9日の予定です。
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