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終末世界、ふたりきりスローライフ  作者: 海月崎まつり
9/10

09 ワンダフル・ラバーズ・ユー

目の前を半透明のドラゴンが飛んでいって、それを追いかけて鎧の少年たちが駆け去っていった。幾らかノイズが混じっているが、はっきりとそう見えた。

「はー、あるところにはあるんですねえ、まだ」

ボクはそう言って、駆け去っていく少年たちの後ろ姿を見やった。銀髪の彼が主人公だったのだろうか?走っていく彼らの後に続いて、金色の文字が飛んでくる。lastfantasy19、という仰々しい飾り文字と、調子っ外れに流れる音楽。


「リリ、いつまでそこで立ち止まってるの」

「ヴァーチャルの広告を見てたんですよ、ゆーさん。昔はこういう広告が町中飛び交ってたみたいですよ?ちょっとの魔力で印象的!立体広告!って」

「そう……」


ゆーさんは全然興味がなさそうだ。そもそもあまりゲームとかが好きな人ではないから、当たり前かもしれない。ここはもう誰もいない都心のデパートだ。昔に流行った、アニメだとかゲームだとかのものが売られていたフロア。だからか時々こうやって幽霊みたいに広告が現れては目の端を横切っていく。

美少女アニメのセーラー服姿のヒロインが桜の下で振り返る。魔法少女が黄色のドレスをひらひらさせて飛んでいく。歩くボクらの頭上でロボットがやりあって爆発が起こり、弾け飛ぶ。どれもこれもノイズが混じっている、過去の亡霊。


ボクらが側を通り過ぎると、キンキンと耳に響く声をたてて、少女型ロボットが宣伝をする。こっちはどうやらヴァーチャルではなくて、実体があるようだ。


「ガガッ、ピー、体験型、全感覚ヴァーチャルゲーム、ガガガ……発売チュウ!全身デ、夢ノセカイに飛び込もう!現実と変ワラナイ夢ノ……」


耳障りだなあ。目の前に透明な何かの装置の残骸みたいなものが見えたが、無視して通り抜ける。ぎしっと軋む音。ガガッと何かが動く音。壊れてるなあと思う。

先にいくゆーさんを追いかけて歩いていると、いきなりゆーさんが立ち止まってボクは思い切り背中に突っ込んでしまった。さらさらの髪が鼻先をかすめて、ふわっと石鹸みたいないい匂いがする。


「ゆーさん?」

「リリ、……」


何かを言おうとして、ゆーさんの表情が止まる。なんだろう、何を言おうとしているんだろう。ボクは彼女の表情をよく見て、感情を読み取ろうとしたけれど、ゆーさんは流石のポーカーフェイスでボクに感情を気取らせない。っていうか、いつも通りの顔をしている。


「リリ、……」

「はい?」


ゆーさんは動かない。固まっている。ボクを熱っぽい目で見ているような気がするのに、何もしてこない。なんだろう。ゆーさんは暫く黙り込んだあと、ボクを見て黒髪をさらりと揺らした。女の子らしく、首を少しだけ傾けて。熱っぽい、乙女みたいな目で。

なんだろう。違う。ゆーさんはこんな顔しない。ボクのゆーさんは。


「リリ、お願いがあるんだけれど」

「お願い……?」


ガー、と、どこかで何かを読み込むような音がした。


「私と※△○×$*#」


ゆーさんが壊れた。

ボクはぱちりと瞬きをする。瞬きをした瞬間に、世界がぐらりと反転した。





「リリ、」


ぺしり、と頬を叩かれてボクは目を覚ました。

体の下に硬い床の感覚がある。デパート……の、内部だ。あの少女人形が立っていたのとは少しだけ離れたところ。ゆーさんが心配そうにボクを見ている。その目はいつも通りだ。手のかかる弟を見るような目。熱っぽさなんて欠片もは孕んでない。


「ゆーさん、ボク、どうしたんですか……?」

「……多分、あれだと思う」


あれ、とゆーさんが指差した先に、少女人形が宣伝していた『ヴァーチャルリアリティ・ボックス』とやらが見えた。そうか、ボクは無意識にあの透明な箱の中に踏み込んだのだ。

よく見たら、それは体験型広告マシンだった。中で稼働しているゲームはなんだかわからなかったが。


「あれ、なにのゲームの体験型広告だったんです?」

「ワンダフル・ラバーズ、……という、ヴァーチャルリアリティ・ゲーム」


ゆーさんが近寄っていって商品説明を読んだ。

「『あなたの理想の恋人が目の前に!憧れのあの人と夢のような甘い時間を堪能しよう』……だ、そうだけれど。」

ゆーさんは振り返らずに言う。


「いい夢は見れた?」


その声は、少しだけ拗ねたように聞こえた。

ボクの大好きなゆーさんは、甘い言葉を言ったりしない。ボクに熱っぽい目を向けたりしない。恋人みたいなことを自分からしてこようとしたりしない。そんな理想だったから、機械がエラーを吐いたのかもしれない。上手くボクに、『理想の恋人の広告』を見せられなかったのかも。だとしたら。

「いいえ、悪夢でしたよ」

ボクはにっこり笑って、ゆーさんに後ろから飛びつく。ゆーさんは何も言わない。


「ボクにとっては、こうしてゆーさんといる現実の方が夢みたいなものですから」


ゆーさんはやっぱり何も言わない。

黒髪から少しだけ見える耳が、薄ら桜色に染まっていた。


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