2020/4/1:春
「なんだハルカか」
「なんだとはなんだ!元クラスメイトに向かって!」
彼女の名前は木瀬春花。
彼女の言う通り元クラスメイトだ。
「あはは、相変わらずだねハル」
「あ、タクト!」
久しぶりーとたわいもない会話をする二人。
見て分かる通りふたりとも中学同じクラスで知り合いだ。
「佐久の挨拶見た?」
「みたみた!!あれはひどかったよね」
俺の黒歴史になり得るであろう恥で会話をし始める元クラスメイト。
コイツらの中には、優しさという思いやりの欠片など微塵もありやしない。
「うるせー」
どこか心なしか周りの入学生達にもかわいそうな目線を向けられているような気がする。
「俺はもう帰る」
俺が後ろを向くと声を大にしてせがむハルカ。
「え!早いよ!!一緒に写真撮ってよ!」
俺はめんどくさそうに顔をゆがめる。
この女、一度言ったら終わるまで離してくれないのだ。
仕方ない。ここはさっさと写真を撮って帰ろう。
俺はすぐさまタクトの肩に手を回す。
ハルカの背中を押しつつ校門前、入学式の看板へと移動する。
「さあ、撮ろう。直ぐ撮ろう。さっさと撮ろう」
直ぐに行動に移す俺にムッとするハルカ。
「なんでタクトと一緒なのさ―――!!」
「簡単だ。後でタクトに写真をせがまれても面倒だ。これが理にかなっている」
「おい。誰がお前なんぞにせがむか」
「どうせ後で、『やっぱり撮っといた方が青春だったのにな~・・・』とかなんとか言い出すのは目に見えている」
ぐぬぬと言いながら俺を睨む二人。
対して俺はというと、順番待ち長いなと思っていた。
そうして数十秒の時が流れ、桜が木の枝から数枚、虚空へ散った頃。
俺たちの番が近づいてきた。
前に進もうとしていた俺たちの耳に、氷菓子のように透き通る声が聞こえる。
『あ、あの!』
なんだろう、この感じ。
俺は特に気にしては居なかったが、初めましての同級生と話すときはこう、妙な緊張がするのかもしれない。
振り返るとそこには、ザ・お嬢様の姿があった。
誰が見ても眉目秀麗、才色兼備。言ってしまえばタクトに似ている、人外の人間。
少なくとも俺からすれば住んでる世界も、目線も違う。
綺麗な紫の瞳に、長い黒髪。
白く、大福の粉のようにきめ細かい肌。
端から見ても分かるほどの、華奢な身体に似つかわしくないほど実る二つの大福。
なぜ俺が今、彼女を大福に見立てたのかはよく分からん。緊張していたのは確かだろう。
その場にいた皆の思惑は静かに一致していた。
皆の視線を一目に集めた彼女が、次に何を発するのか。
何かを思い詰めるようにじっと見つめる彼女は、その場で一度もじもじすると、再びこちらを振り向く。
『は、話があるんです!』
なるほど。状況整理は大まかに付いていた。
彼女の表情、言葉により更にそこに終止符を打った。
この場合簡単だ。
俺はタクトの背中を叩いた。
「?!」
「お前に用があるんだろう、行ってこい」
いさぎよく親友を送り出した俺は、ハルカが、美男美女、二人の謎の空間に釘付けにされている姿を見た。
よし、これならいける。帰ろう。
俺はゆっくりとその場を後にする。
『あ、あの!まってください!!』
お嬢様に止められた気がした。
もしかして、俺のことか?などと、ここで止まるような期待勘違いチェリーボーイはもう既に中学で卒業済みだ。
確かに俺はチェリーボーイのままだが、一皮むけたチェリーボーイと言うことだ。
なに、気にすることはない。帰って源蔵を愛でよう・・・。
歩き出す佐久。
『比茂手佐久くん!待ってください』
少年は振り向かざるを得なかった。
自分の名前が呼ばれたのだ。
は?
疑念と思考の一時停止の最中、少年の身体は思考とは勝手に、彼女の方へと振り向く。
顔を真っ赤にする少女。
『す、
す、
す、
好きです!!付き合ってください!!!!』
いいか、俺よ。耳を疑うのはまだ先のことだ。
先ずは冷静に、タクトの方を見よう。
唖然としている親友の顔。
ただその事象だけが脳に入ってくる。
知り合いの顔で冷静さを取り戻そうと思っている時点で、自分は既に冷静ではないことぐらい分かる。
だがそれでも親友に何か答えを求めたり、現状打破の改善策の提示を要求するために見ざるを得ないのかも知れない。
只分かることが一つだけある。少し期待してしまった自分はどうやらまだ皮がむけていないチェリーなのかもしれないということだ。
ざわざわとする周囲の声と切り離される佐久。
崩された時は、彼女の頬色と共に、春の訪れを告げていた。
おっと佐久の元に春の訪れが・・・?
続きはテスト後の来週、12/12以降に投稿したいと思います。
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