2020/4/1:入学式
初めまして、どうもおはこんばんはです。
たびたびうpしていくのでよかったらブクマお願いします。
非モテとは、
一般的には異性からモテないこと。 また、モテない状況にいる人のことを指す。
もともと「モテ」という言葉から生まれてはいるために誤解されやすいが、
「モテ」の対義語に「非モテ」が配置されている訳ではない。
「モテ」は第三者による評価だが、「非モテ」とは己、個人の自意識の問題といえる。
◆◇
早春、桜が散りきる季節。
今日、2020年、4月1日。都立第一高校の入学式が行われる。
「なあ、頼むよ佐久君…君が代表を務めないと困るんだ」
俺の目の前には桜並木とは程遠い、ただのおっさんのはげ散らかした頭がある。
「頼むと言われてもな。
俺にはやらないといけないことがある」
「カツカツ…」
はげ散らかした頭を一瞥した俺はスマホをタップする。
「やらないといけないことってゲームでしょ!
頼むって、君も毎年入学試験の最優秀者が代表しているのを知っているでしょ」
「だがやらなければならないという規則もない」
「それはそうだけど…」
無い髪を更にかきむしるおっさん。
こういう姿を見てしまうと同じ男としてなんだかいたたまれなくなる。
『イベント終了時刻まで残り59分』
おっと、こうしてはいられない。
今回のイベントは俺の押しキャラ、志島源蔵のランクアップイベントなんだ。
志島源蔵が何かって?
志島源蔵とは、幼い頃夢見ていた英雄になりたくて努力を重ねるが実らず、好きな彼女が出来るものの主人公に奪われるという立役者。
親は酒におぼれる。幼い兄弟のために必死に金を稼ぐために最奥の迷宮に挑み、やっとこさ冒険者としても名声が知れ渡り始めた所謂モブ中のモブキャラのことだ。
俺はこのゲーム「クロニクルヒーローズ」が配信されて以来このキャラに並々ならぬ親近感を抱いてきた。
@チャンネルで、「絶対にこのキャラはランクアップ来ない」と言われていた事実を知ったときの絶望感は計り知れなかった。
しかしその絶望から解放される時は来た!!
他のキャラは一月ほどイベントが開催されるのにもかかわらず、源蔵に限って一週間という鬼畜使用。
だがそれでも俺はこのイベントを回りきり、鬼神、志島源蔵を鬼神、志島源蔵・改へとランクアップを果たす!!
「と言うわけで、笹原先生。友人が待っているので私はこれで。」
「どういう訳だよ!!」
俺は後ろから声を張り上げる笹原を無視しして、数メートル先の木陰で待っていた友人の元へ駆けつける。
手を振る茶髪の青年。
彼を見る俺と俺を見る先生。
「ぐぬぬ…」
「あれ、ほっといてもいいの?」
「俺はそもそも入学式は仮病で休むつもりだったんだ。
お前に言われて仕方なく来ただけだ。
来ているだけで由としてくれ」
「いや、入学式ぐらいこいよ!!」
茶髪青年から盛大なツッコミが入る。
こいつの名前は三木拓人。
中学からの腐れ縁ってやつだ。
見た目はイケメン、誰が見たって好青年。
所謂クラスでいう所のカースト制度「バラモン。通称:リア充」に位置する様なやつだ。
最も俺から離れていて最も俺に近い存在。
微笑み返しただけで大抵の女は落ちるだろう。
そんなことを考えている俺の目の前を女の子が通りかかる。
胸にコサージュを付けているところ、入学生だろう。
拓人をチラ見する女。
当然コイツは悪気無く笑顔で手を振る。
ほらまた一人女がコイツの手中に落ちるぞ。
「―――てな事考えてるでしょサク」
「何故分かった」
はぁと顔に手を当てる拓人。
「顔がそういってる。
昔からサクは顔に直ぐ出る。
どうせ脳内で非モテの自分と俺を対局に比べていたでしょ」
「何故分かる。エスパーか」
「何年一緒に居ると思ってんの」
笑いながら拓人は体育館に向かう。
「いい加減高校生になったんだからサクも非モテから卒業しなよ。
じゃないとDT捨てられないよ?」
「やかましい。普通は高校生で捨てている人の方が少ないわ。
それに俺…」
「『俺は一途に愛する女性としかHは出来ないし、DTを軽々しく捨てられない。
お前みたいなリアルが充実している勢と一緒にするな。』
でしょ?」
驚くサク。
「まあでも薔薇色の高校生活だよ?
恋愛いっぱいして勉強もほどほどして部活して、遊んで彼女つくって。
こう男女が気兼ねなく和気藹々と出来る最後の学生生活。
人生の内、JKと簡単に遊べる時間はそうない。
だから遊ばないと損でしょ」
「お前時々腹黒さがにじみ出てるよな、隠せよ。」
「髪型整えて髭剃ればサクだってマシになるんだから。
一人や二人女を落とせる可能性もある。
それをしない意味が分からない」
「いいか、タクト。
お前みたいなイケメンは何もしなくとも女が寄ってくる。
それに比べ俺は努力しても女は寄りつかない。
努力しても可能性微レ存程度の希望的観測しか無いのなら俺はしない。
それに俺はゲームという娯楽がある。ゲームをしてそれなりに勉強してそれなりの大学に進学する。
これ以上高校生活には何も求めていない」
「お前な…」
俺が恋をしない訳はちゃんとある。
舞台を除いて暗くなっている体育館に着席する二人。
理由。
語るまでもない明白な理由。
そう・・・あれは小学生の時だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「俺はきっとかめはめ波を出せる」
そう信じてやまない小5の俺。
ずっと誰も居ない裏手の公園で練習をしていた。
「今日も練習するか」
ランドセルを放る俺。
一発目のかめはめ波を打ち終えた頃、
どこからともなくすすり泣きが聞こえてきた。
ブランコで泣く少女。
確か隣のマンションに越してきたつつ…つつなんとかさんの娘だ。
最初は何も感じなかった。
泣いてる人が居る~程度だ。
当時の俺は、この一仕事終えた後、ふう…と心なしか気分が良くなるこの時間を「賢者タイム」と呼んでいた。
かめはめ波を打つ度に訪れる静寂。
賢者タイムに対して大きく聞こえてくるすすり泣きが、妙に俺の心を拐かす。
いたたまれなくなった俺は彼女に近づいた。
「なんで泣いてるんだ」
彼女の名前は、勇気葵。
どうやら親の転勤でこっちに越してきたのだが、向こうの友達と離ればなれになり、こっちでは中々友達が出来ずに落ち込んでいたらしい。
「ま。そんなに落ち込むなよ」
俺は片っぽのブランコに座る。
「おめーにはわがんないべ…!」
「俺が友達になってやるよ」
剣幕で怒る彼女の言葉を少年は遮る。
「まあ、だから気にするな。
一緒に悪の組織を倒そう!!」
言葉の意味は分からなかったが、少女は少年の無邪気な笑顔につられて涙を拭う。
笑い返す少女。
今でも思い出せるとてもかわいらしい顔だった。
「お前凄い可愛いじゃん!!笑った方が良いよ!!
絶対友達出来るって!!」
こうして俺たち二人は小5の春に友達になった。
だがこの時の俺の軽率な行動が全て間違いだったことは、
今でも悔やみきれない大罪だ。