昇る太陽
「ヘイ、ドライバー。俺たちどこへ向かってるんだ?」
夜明け前。傭兵を乗せたジープが荒野を走っていた。
「メンフィス」と、ドライバーは答えた。
「メンフィス?今激戦区じゃないか」
「とうとう死ぬのを覚悟するときがきたか…」
傭兵たちがざわつく中、ヨウは、テネシー、テキサス、アラバマ…。一体どこの州のメンフィスだろうか?とぼんやり考えていた。
子どもの頃両親と旅行したメンフィスはエジプトだったぞ?
だが、自分たちは傭兵だ。戦闘に駆り出されるのが一番妥当な線だった。
ライラ、ライラ…。
小声で歌う。その歌はMove to Memphis. 何キロも離れたキミの住むドアへ僕はゆこう。キミに会うために夜を越えて行くんだ…。
「お前はこんな時にのんきな奴だな」
「まあね」
おざなりに返事する。
「死にに行く気はしないんでね」
他の傭兵たちがヨウに注目した。
「俺らは仕事に行く。それだけの話」
ちょっとだけほっとした空気が流れた。
「見ろよ!太陽が昇るぞ」
明るい陽光が彼らを包んだ。
激戦地にたどり着いた頃には、戦いに決着がついたあとの瓦礫が広がっているばかりだった。
拍子抜けと助かったという思いで傭兵たちはいたが、油断しているところを伏兵にとっ捕まってあっという間に捕虜にされてしまった。
まあ、無事は無事だから、文句は言うまい。
捕虜を放り込んでいるバラック小屋の中で、傭兵たちはのんびり歌っていた。
やがて数日で彼らは解放された。
「こうなるって知ってたのか?ヨウ」
「いんや」
傭兵としてなにもしなかったから、報酬は無しだ。
いや、報酬は自分の命かもしれない。
平和が一番だけど、傭兵の仕事では食ってけないなぁと誰かがほざいた。
太陽が道を照らしていた。
いつでも前に進むしかないだろう?
ヨウは微笑んだ。