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第77話 最期の反抗



 そうして、日本はディストピアとなった。魔法少女のいない世界というIFを持ち出さなければ、ほぼユートピアと言ってもいいだろう。もっともそれは”日本人”に限られ、さらに言えば暗示による生徒会という上位存在が作った支配構造でしかないけれど。

 しかし、美味しいご飯が食べられて寝床もある。働かなくていいし、逆に意欲があれば働いてもいい。人間も動物という視点ならば、これ以上はないだろう。魔法による無限の恩恵が、ようするにベーシックインカムを賄っているのだ。


 そして切り捨てられた辺境と外国人。

 まあ辺境に関してはそれは無理だ。魔法少女の居なかった時代に完璧なインフラを築いてくれていたのなら、イエローシグナルならいくらでも最善の時代に巻き戻せたけど。が――そうではなかったし、そもそも施設だけ復活させても仕事をする人間が居ないからどうしようもない。そこはかかる手間を見比べての切り捨てだ。

 別に故郷を離れないモノ好きな人間でも、畑仕事をしながらのんびりと暮らしていけている。見捨てられたからと言って、それこそ旧時代からの今さらな話だから。


 ただ、日本に住んでいる外国人となると呑気にしていられない。故郷に帰る? 日本以外はどこだって内戦続きの地獄だ。まだ力のある米国なら――そこは、クラックも大統領と日本語でおしゃべりをする仲だしアメリカ国籍持ちなら配慮している。

 つまりそこ以外だ。帰れないからといって、本国の指示を無視もできない。家族を人質にとってでもスパイとして動くことを強制されるかわいそうな人々は針の筵だ。日本も守ってくれないし。

 嘘を吐いて潜り込む、なんてスパイの常套手段は不可能だ。なにせふわりんの魔法は洗脳。人種に関係なく心から自分のことを日本人だと思っていれば良いのだが、そうなれないから苦しんでいるのだ。

 というか、日本人化の洗脳ですらふわりんが目の前に姿を表せば可能だがやっていないだけである。


 考えれば考えるほどに外国人は絶望的だ。というか、織田信長が立った時代からナショナリズムが沸騰して立場は狭くなっていた。生徒会による支配構造に変わったことで、もはや弾圧にまで悪化したという話だ。

 他人がそいつにアドバイスするなら簡単だろう。もう諦めて日本人になってしまえばいい。本当に諦めたのなら、そうなれる。だからといって国や家族を忘れられる者などそうはいないと、簡単にアドバイスしてしまえる類の人間に理解できるはずもないのだから。


 そして、その分かり切った前提など話すことなくクラックは唐突で直截に問いかける。


「で、どいつだ?」


 問いかけられたのは織田信長。数人の美女に世話をされる羨ましい男だが。クラックにNOを突き付けられた結果、人並の生活を送るためにはそれだけの医療を投入しなくてはならなくなったと知れば感想も変わるだろう。


「……手を切られた結果、暴走したのだろう。天綯に聞け」


 だからこそ、彼の態度も変わった。以前はクラックの問などシラを切るだけだった。その天綯とて、勝手にやったという責任転嫁の準備は万端だった。テレビの悪役ならともかく、真の悪は言質など取らせない。勝手にやるように誘導するだけだ。『責任を取らない』というのが政治家の最たる才能であるのだから。

 旧東京への襲撃、生徒会への反抗作戦が起こっても「おお恐ろしい、そんな狂人どもは首を切ってしまえ」と臆面もなく言える面の皮の厚さを有していた。

 漫画のように偉い者が表に立つ必要などどこにもない。武器を持って襲い掛かる――窮地に陥った集団のやることなどいつの世も変わらない本能的な反応だ。


「ふうん、そいつに任せてたんだ。まあ人間達の無能ぶりは知ってるからまあ良いのだけど。……しかし、考えてみれば面白いね。以前は東京からの脱出を封鎖していた。だが今は東京への侵入を封鎖する有様だ。別に僕らはそんなこと言ってないのにね」


 そして、東京への侵攻が起こっているのにクラックが呑気にしている理由。まあ人間ごときが障害になることなどないのだけど。

 のんべんだらりとおしゃべりしているのは、境界線上で人間同士が相争っているからなのだった。侵攻は遅々として進んでいない。


「そんなもの、やってる人間が違うだけだろう。人間は簡単に主義を変えられるほど器用ではない、が――表に出る人間の種類が入れ替わるのはままあることだ」

「なるほど。魔法少女を敵視する集団は劣勢に追いやられ、今や神聖視する人が音頭を取っているのか。まあ別に役に立ってないんだけど。なにせ、クティーラが吐いた火の玉にビビって動けなくなるくらいだものね」


「触らぬ神に祟りなし。だが、触らせぬようにするのも大事だな。――実を結ばなかったが。さっさと皆殺しにしたらどうだ?」

「ははは、そんな野蛮なことをこんな可憐な少女ができるわけないだろう?」


「……魔法少女が、よくもぬけぬけと」

「下手な流血などない方がいいさ。僕がナショナリズムを受け入れているのは、管理しやすいからの理由以外はないんだよ? あちらに関してもラミエルに任せておけばいいさ。……ああ、君の玩具に機会を与える必要もあるか。フォックスフェイスに管理させるとしよう」


「その無責任さが、今このような状況を生んでいるのではないか?」

「僕が責任もってやったから日本人は皆よろこんでいるだろう? この僕がこうも働いてやっているんだ。居なければ欧州のように泥沼の内戦を繰り広げていたに違いないね」


「酷い傲慢だな」

「君が”そう”なって、国民の皆は喜んでるよ? ふわりんの洗脳に大した効果はない。いや、距離の概念を覆すほどの力はないという話でね。あれは本来会った者を虜にする魔法だから。偶像(アイドル)ではなく人を繋ぐ力だよ」


「――」


 悲し気な顔をする彼に、クラックは嗜虐的な笑みを浮かべて近づく。密着するほど近づいて、下からねめつけた。


「ああ、変わったね。確かに君は自分の罪を棚上げにして他人を責める人間だった。真実、殺人鬼に落とした彼女たちのことを自分とは無関係と思ってる。それどころか、誰かのせいにして――いや、僕のだけど。ぶん殴ってやろうと、その気概があった。自分の罪を他人に押し付けて恥じない気概……丸くなったものだ」

「ふん。私を責めているのか? そのような心配を回さずとも、このような報いを受けさせられているのだから忘れられるはずがないだろう」


「うんうん、いい感じだね。内心ではまったく思っていないだろうが、そんな言葉が出るようになったのは進歩だ」

「……ッ! 貴様は。――げほっ、ごほっ!」


 彼は拳を握りしめるのと同時、激しく咳き込み始めた。彼は生命力そのものを大きく制限されている。怒りとは、身体を戦闘態勢に移行させる行為である。だが、彼の身体はその負荷にすら耐えられない。


「まあ教育の成果は見れたし。あとはふわりんと天綯とやらに会うだけかな。別に無理に内心を引き釣り出す必要もなさそうだけど、あの子の同席を特別にするのもよくないしね」

「――ッ!」


 睨みつけるだけだ。が、その最悪さは理解している。クラックはどこまでも省エネで”日本の支配”を行う気だ。世界征服なんて面倒なことはしない、ダウンスケールした上でそれなりの手間で済まそうとする。

 ――そうなると打つ手がない。逆転の目はない。このガキの思い通りになってしまう。なにせどこかでゆがみが出たとしても気にも留めないのだから。こんな余裕があっては、隙は突けない。


「……ッ!」


 そんな憎らしいクラックの表情が変わる。すっと手を耳にやるといつのまにかスマホが握られていた。通話している。


「電話をかけてくるなんて、どうしたんだい? 大統領、君のことだから不要な話とも思わないけどね」


 そして、話を聞いてうんうんと頷く。しかも、話しているのはアメリカの大統領らしい。おそらく一国の存亡に関わることだと分かっているけど、織田信長としては聞きたくはない。利用しようなどという野心は足と一緒に挫けた。


「ふうん。面倒なことになっているようだ。で、トーチライトは? あの悪の敵ちゃんはそいつらを皆殺しにしないわけ?」


「ああ、ああ――へえ。正義を世に問う、ならそうかもね。僕としてはどうでもいいと思うけど。そんなもの、ショートケーキが好きか聞くようなものさ。人それぞれの好みがあるけれど、それ以上に例えばケーキ屋さんなら好きでいてもらわなきゃならない立場があるというだけ。善悪も似たようなものさ、ただのポジショントークだよ。それをあいつは分かってない」


「ああ、分かった。じゃあそちらに行こうじゃないか。……ふふ。友達の君を救うよりも緊急の仕事などないからね――」


 最後に一瞥だけ寄こすと、クラックは指を鳴らして姿を消してしまった。

 織田信長の方は王どころか神に等しき権力者がやっと去ってくれて、ほっと一息を吐くしかなかった。



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