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第44話 織田城への侵入者達



 織田信長、その名は日本人にとっては英雄だ。曰く、その先見の明でいくつもの先進的な政策を広めた。曰く、血筋ではなくその能力を見て人を采配した。曰く、無敵の三段撃ちで敵を蹴散らした。

 事実かどうかは関係なく、そのような〈素晴らしき支配者〉として知られている。その権威を借りるために己の名すら変えた者がいる。

 そいつは日本の首相の座まで昇り詰めた。名前の力だけではなく、実力もあった。滅びかけた今の世界の中でも前世代の栄華を残す日本を制覇した。


「――どうなっている!?」


 一度世界を救った魔法少女『ティアマト』、だがそいつの情緒はただの幼女で統治には役に立たなかった。どころか、御簾の後ろに神子として飼おうにもその浅慮で首を突っ込んで現場を混乱させるばかりだった。

 まっとうな方法ばかりではにっちもさっちも行かぬ、そんな状態であるからには悪事は”下の者”に自由にさせた。何のことはない、必要な成果を求めれば無能は努力ではなく不正や非道に走ると知っている。

 恨みなど、成果を出せない無能か何もできない自分に向ければいいものを、政府転覆にロマンを感じる愚者は多いことは弁えている。命を狙われる覚えなどいくらでもある。


「それが、いくつか音信普通になっているグループが……」


 ゆえに守りを怠ることはない。どころか、今日はクラックと話すのだからと防備を固めた。今日は常の三倍の警備体制を敷き、付近を封鎖していた。

 その広がった警備で、一部の通信が途絶している状況。彼らは城の奥底、金庫にも似た万全の防護の中に閉じこもっている。


「バカが! 襲撃を受けているのだとなぜ分からん! D、Fはすでに壊滅しているぞ。侵入者をただちに排除しろ!」

「は……了解! 侵入者あり、ただちに――」


 動こうとしたその瞬間にすさまじい爆発音が響き、ここにまで伝わってくる。


「どこだ!?」

「け、警備! どこに……」


〈こちらAグループ! 火球を放つ魔法少女が上空から――〉


 叫ぶような通信が入ってきた。背景に連続した銃撃音が響いてくる。これで完全に戦闘開始、憎しみに駆られた魔法少女達が攻めてきた。


〈こいつ、早い……! なんて攻撃範囲〉

〈うわああああ!〉


 人間大の火球が乱れ撃ちされる。砲撃にさえ耐える織田首相の部屋はともかく、城には大穴が開く。そいつの高笑いする声が通信に混ざる。


「ギャハハハハ! いい気味だぜ、クソどもが! 散々動物扱いして実験してくれたお礼変わりだぜえ! ぜェんぶ、ぶっ壊れちまいなあ!」


 小気味よく火柱を上げていく。彼の居城にと、特別に手配された城であるがそれでも魔法少女の猛攻はしのげない。


「チ――。何をいい気にさせている!? さっさと撃ち殺せ! 獣じみた特攻を行う馬鹿にどれほど手間取れば気が済むのか!」


 織田首相は机の下に隠れて喚き散らす。


「は……はい。少々お待ちください、もう少しで狙撃犯が」

〈こちらS班。対象の鎮圧に成功〉


 そうすると、すぐに撃破の報告が上がってくる。魔法少女に戦う力など与えていない。ただ魔法を使えるだけの少女が、罠を乗り越えて狙撃をかわす力を持つはずがない。


「おお! お喜びください、かの火球の魔法少女を討ち取りましたぞ!」

「愚か者が! すでに殺されていた警備員どもをやったのは別の魔法少女だ。手口が違う!」


「な、なるほど――探索しろ!」

〈Tチーム、壊滅したDチームを発見。近くの壁に大穴が開いています〉

〈Nチーム、Fチームを捜索中。GPS反応が途中で途切れています〉


「こ、これは……」

「侵入した魔法少女は一つではないということだ」


 織田首相はぎりりと歯を食いしばる。襲い来る魔法少女たちの、復讐の理由などに興味はない。ただ世を荒らす人民の敵として憎むのみ。


「さっさと侵入者どもを始末しろ!」

「は、ははっ!」


 敵に興味を抱くこともなく、ただ排除する――それが世の常なのかもしれないけれど。




「ね、ねえ……本当にやるの? 『ラフテル』ぅ」


 じゃらじゃらと輪っかのアクセサリーをバカみたいな数付けた魔法少女が、その派手さと裏腹におどおどした態度でリーダーに聞く。


「バカじゃないの、『フラフープ』。もう始めちゃったでしょ、やらなきゃうちらが殺されるの。保健所で、増えすぎた犬猫を絞め殺すみたいにね」


 そのふわふわしたゴスロリちっくなリーダーは自信満々な顔をしているが、まあ見る者が見ればカラ元気と分かるだろう。プライドが高くて己の不安が見抜かれるのを恐れている。


「そうそう。あたしたちを犬猫みたいに扱ってた学園、その総本山がここにいる織田信長とか言う野郎だろ? 研究者どもは他の奴らが殺しちまったから、もう残ってるのはそいつだけじゃん」


 けらけらと笑う、無数のレースに彩られた魔法少女。おどけた表情とは裏腹に、抱えきれないほどの憎しみが漏れ出ている。

 だからこそ、ここまで来た。それを飲み込めたのなら、他にいくらでも道があったのに。


「う、ううん。でも、ほら。あんまり人を殺すのはどうかと」


 フラフープはやはりおどおどした態度で消極的なことを言う。


「私たちを人間扱いしなかったのはあいつらでしょ? それに、今なら一般人は居ないしさ」

「『コーンヴェール』もそう言ってる。嫌なら付いてこなきゃ良かったでしょ。あいつらの犬になれば良かったじゃない」


 もっとも、他の二人は恨み骨髄。ここで止める様子はなく、ずんずん奥に進んでいく。


「でも、私が居なきゃ奥に進むこともできないのに」

「「何か言った?」」


「い、いえ。はいはい。やりますよ。やればいいんでしょ」


 おどおどした魔法少女は、しゃがみこんで壁に両手を当てる。手を当てたまま両手を逆側に広げて立ち上がりながらぐるりと円を描く。

 円を描いた場所、その人間大の面積が消失した。それが彼女の使う壁抜けにも似た魔法。


「こういう時には便利だね。他に使い道なんてないけど」

「フラフープはこれだけやってくれればいいわ。それとあなたの魔法なら、軍人だって対応できないもの」


「ええ、あたしの無音の魔法なら奴らの警戒を抜けられる。ほら、あちらさんにおるで。頼みますわ、ラフテル」

「……ええ」


 ショートカットした先には警戒する軍人が見える。ここで人間というものは気配を察知するときにはまず音を聞いて、そして視界で探す。間違い探しにしたって、注視できる部分は広くない。

 だから、このチームなら簡単に奇襲ができる。


「おい、あれ……!」

「穴? 敵の魔法少女――ッ!?」


 気づいたようだがもう遅い。機先を制されて勝てるはずがない。


「死ねよ、人殺しども」


 凄まじい速さで接近する。その二人の首を撫でると、そこが崩れて頭が落ちる。まるで断頭台だ。


「な……野斗! 相駆!」

「呑気にお仲間の心配か?」


 仲間の名を叫んだ男に張り手をかます。まるで削り落とすように顔を抉り取った。


「うわ……あああ!」

「だから遅いっつの!」


 構えていた銃を敵に向けて引き金を引く。銃弾を手で受けて消し飛ばしながら首を撫でる。それで首が落ちる。


「コイツは……触れたものを泡にする……『ラフテル』か!」

「だが、こんな身体能力などデータには!」


「うちについて詳しいみたいだなァ! だが、うちをニンジンをぶら下げられて本気で走る馬と同じにすんなよなあ!」


 報告書にあるのとは別次元のスピード。魔力を身体に込めれば身体能力が上がる、そんな当たり前のことすら研究者は把握できていない。

 魔法少女達を実験動物として扱うがゆえに結果はバラバラ。何かを論じることができるレポートなどない。ラフテルはかなり戦える方だが、その能力を隠していたのだから。

 軍人6名のチームなど、簡単に殺し切れる。


「おら、お前たち。さっさと行くぞ」

「おう」

「ええ……本当に行くのぉ?」


 でこぼこの三人コンビは先に進んでいく。学園での生活を清算しない限り、未来を夢見ることもできないから。これは踏みにじられた尊厳を取り戻すための戦いだった。




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