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第24話 生徒会の裏


 白木院が演説を始める前。体育館に集まってきた関係者たちを見て、クラックは思う。


(――のうのうとアホ面晒して。能天気なことで羨ましいよ、まったく)


 フォース・インパクトによって死んでいった者たちを悼む気持ちなど毛頭ない。悲しそうな顔をしている職員たち……その実、彼らは魔法少女のことなど実験動物程度にしか思っていない。しかも護送任務の時に難癖付けて失敗扱いにした政府の犬どもだ、クラックにしては同情する理由がない。

 まあ、この災害に対応しきれなかったか弱い魔法少女達が死んでいったことを聞けば悲しそうな顔くらいするかもしれないが……今はそんなものを知らなかった。全校生徒の”数”は国家機密に含まれていて、クラックも無理に調べていない。


(こちらは学院の諸々をイエローシグナルに担当してもらっても、やることが残っているっていうのにさ……休ませてもらいたいものだよね。僕の身体は本来、終末医療で手の施しようがないからって家で寝かせてもらっててもおかしくないんだぜ?)


 この先を思うと気が重くなるのだった。フォース・インパクトの元凶であるアリスを生かすのはあまりにも険しい道のりだ。なにせ、単に世界を救っただけのクラックですらあれだけ命を狙われている。元凶側のアリスは言わずもがな。

 ティアマトはあくまで例外だ。彼女が居なくなれば人類の9割が死亡する――その事実によって強大な権力を得ているに過ぎない。人質……しかも、彼女が死亡した瞬間に道連れと言う最も嫌らしいやり口だ。魔法の性質がそうなっているだけの話なのだけど、苦労している当人たちには本人がどうのは関係なくただ恨むだけである。

 トーチライト? あれは諦めるまで山ほど暗殺者を積み重ねただけだろう。外国さんはもしくは諦めていないのかもしれないけれど、日本はもはや静観の構えだ。


(とはいえ、アリスが死ぬとティーちゃんは悲しむしね。僕ももう放っておく気がしないし……向こう次第とはいえ、日本を潰すような事態にはしないでほしいんだよね。小細工はするけど、結局のところ決めるは向こうさん……織田信長君とかだしね)


 クラックはあくまで”みんなのため”とかいう思想を嘲笑う。要するに同情圧力だろう。単に他人の物だから簡単に捨てられるだけ、と思っている。

 そして、それは歪んだ思想だが……一片の事実は含んでいる。アリスを殺せとほざく連中は、正義を口にできても代わりに自分の大切なものを捧げることはできやしない。


(さてさて。……見物だね。まずは見せてもらおうか、白木院。魔法少女と人類が手を取り合う最初の一歩を、な)


 魔法少女と人間の関係は権力なくしては語れない。ティアマトという絶対存在があるからこそ、優遇をしているという雰囲気をわずかでも出している。信用という言葉よりも先に殺せるか殺せないかが先に出る。


(生徒会メンバーは魔法少女だが、その活動は職員との協働なくてはあり得ない。これはおそらく初めての協働ということになるだろう)


 始まりは生徒会などと言うちっぽけなものでも、これだけの含意は含んでいる。もっとも、魔法少女による人類社会の侵略という捉え方もあるから、反発は必死だが……


(ま、敵への対処は得意だ。そこらへんは僕がやってあげようかな。白木院は守る必要はないと思うけど、手加減は苦手だろうし。暗殺者で一人ずつ職員を皆殺しという手を打たれては、こっちで手を回すしかないだろうし)


 


 考えをまとめたクラックは改めて前を見る。その前には暗幕が降りていたが、その程度を見通すことは容易い。


(……あ、香坂先生だ。生きてたんだ)


 少し驚いてしまった。


(へえ、生徒サイドにいるね。横にいる魔法少女たちに助けてもらったのか。人徳と言うやつだね。うん、納得納得……彼女はそういう人物だと思ったよ)


 まったく別世界に居る人間への第三者じみた感想だが、その通りだ。クラックは自分が人徳とかそういうものが語られるのとは別の世界に生きていると思っている。異世界とかそういう話ではなく、クラス内ヒエラルキーとかそういう話で。


(……ほお。なるほど。へーえ)


 つい聞き耳を立てた。泣いている香坂先生を周りの生徒が励ましている。なるほど、そういうものなのか。と少し感動してしまった。まるきり映画の感想だが。


(とはいえ、さすがに彼女みたいなのは少ないか。ま、そりゃそうだよね。教師の質とか色々言われてはいるけど、そんなものの以前に少女に同情するような不都合な人物、そうそう採用するわけないよね。大半の職員は研究者だし)


 ざっと確認しても生徒側の列に紛れ込んでいるのは彼女しかいない。まあ、彼女はむしろその生徒よりも小さくて上級生に保護された下級生みたいに見えるが。


(さてさて、研究者たちの様子は……と。生徒会活動に当たって、有能なのが一人もいないとなると困るんだよね。どうせどっかのいい大学でも出てるんだろうから、人並みにくらいは働いてほしいものだ。ま、資料整理なんかはお手の物だろうから、使えなくなっていないかだけ心配すりゃいーか)


 そして、その結果は。


(ま、上々。救護所と勘違いした馬鹿がいなかっただけかもしれないけど、とりあえず五体満足で働けそうなのばっかだな。そこから良さそうなのを選ぶのは白木院がやるだろう)


 一通り、確認が終わった。そこで幕が開く。


 白木院は最初から壇上に居る。アリスとティアマトはクラックがどこかの埋もれたオフィスから無断で持ってきたソファに一緒に座っている。


 演説が始まる。


(うん。――いいね。これは別に扇動ではないし、学生がする授業の一環でもない。必要に迫られてするただの仕事。淡々としたくらいで丁度いい)


 白木院に余計な高揚も不安もないのを確認して安堵する。そう心配してもいなかったが、だからといって確認が不要と言うわけでもない。


(これなら白木院はうまくやるだろう。さすがに限界――はもう超えているか。不要な限界突破は控えておこう、僕はあのトーチライトでもないしね)


 壇上に立つイエローシグナルを最後に一瞥して。


(では、後は任せたよ)


 クラックは空間移動でこの場を去った。ダメージがいまさら全身に来て、震えることも冷や汗を流すこともできずに止まっている音遠もついでに部屋に放り込んでおく。




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