ジャムは塗るもの乗せるもの
昨年からジャムを好むようになった。
それまではトーストにはマーガリンを塗っており、ジャムと言えばバイキングなどで見られる1回分がパックになっているものか、スーパーで1瓶200円未満で売っているものをたまに買うぐらいだった。
ところが、ちょっとしたことで手に入ったフランス製のジャムがやたら美味くて、それからいろいろなジャムを試すようになった。とはいえ、地方の名産展やフリーマーケットで売られるものでちょっと気になったものを買う程度なのだが。
スーパーのジャム売り場でもよく見られるリンゴ、桃、イチジク。たまに見るパイン、キウィ、あんず、ゆず、みかん(皮抜きのマーマレードみたいなもの)、マンゴー、メロン、バナナ、サクランボ、各種ぶどう(デラウェア、巨峰、マスカット)、結局買わなかったのもあるし、中にはコッペパンのトッピングとしてパン屋のメニューにあるだけで市販品を見たことがないというのもある。
特産品展で見つけたブラックベリーは結構美味しかった。
変わったものとしては、松本駅地下で買った見た目がピーナツバターと同じなミルクジャム。何でも煮詰めて煮詰めて煮詰めて煮詰めて作ったとかで、妙に甘いミルクバターといった感じ。
いろいろ買った感想としては、やはり御三家(イチゴジャム、ブルーベリージャム、マーマレード)は強いということ。さすがその力は伊達じゃない。他も不味くはないのだが、これらに比べると1歩及ばない。何か物足りない。
そんなある日、父からジャムをもらった。私がジャムを好むようになったと話したら、買ってきてくれたのだ。
なんとホテルオークラのジャム3点。イチゴジャム、ブルーベリージャム、マーマレードの御三家そろい踏みである。しかも原材料名の中に「ブランデー」とある。ブランデー入りとは豪華である。
家庭用サイズなのに1個1,000円前後という、普段なら「こんなものは人間の食べ物ではない!」と負け惜しみを言って背を向けるところだが、もらい物なら話は別である。たまの贅沢を味わうことにしよう。本当に親というのはありがたいものだ。
だが、ここで問題が起こった。
私はパンにジャムやマーガリンを塗るあの作業が何か好きだ。トーストした直後に乗せ、熱でとろっとしたところを左官屋のようにすっと塗っていく。白いパンの表面がジャムの色に染まっていくあの様子がたまらなく嬉しい。完全な均一でなく、多少ムラがあってもOKである。
ところが、このジャムはどうも上手くパンに塗れない。果肉が塊となって残っているため、スムーズに塗れないのだ。塗ろうとすると塊がゴロゴロして妙にいらつく。
ブルーベリージャムなどは、たまに買うちょっと高めのジャムにも実が形を残したまま入っていることがあるが、ここのは大きさ、固さが全然違う。無理に塗ろうとすると実がパンにめり込んでしまうのではと思うほどだ。
イチゴジャムなど、果肉が形を残したままのは初めてである。はじめに述べたフランス製のジャムにもこんな目立つ塊はなかった。
マーマレードは皮は多めではあったが、それほどの塗りづらさは感じなかった。
とにかくこの塗りづらさは困る。特に角の部分。耳によるわずかな段差など、果肉には通じない。へたに塗ると、果肉がぽろっとこぼれ落ちてしまう。私も何度落としたことか。
かといって、耳まで距離を開けて塗っては手抜きの掃除ではないが「四角いパンに丸く塗る」である。そんなことをしては人間の敗北だし、どんなに味が良くても魅力半減である。
このことを会社で愚痴ったら
「仲山(執筆名)さん、ジャムは塗るんじゃなくて、乗せて食べるんですよ」
と言われた。
立食パーティーなどで、クラッカーにいろいろなものを乗せたものがでるが、あんな感じらしい。
確かにそれなら果肉が塊になっていてもOKだ。
ものは試しでやってみた。ジャムを塗らず、トーストの端に乗せてかぶりつく。
……味は悪くない。当たり前だ。
だがしかし、これは違う! 私が求めるパンとジャムの関係とは違うのだ。先にも述べたように、私は塗る作業も楽しみたいのだ。トム・ソーヤーの口車に乗せられた友人がオヤツと引き換えにしたように、北島マヤがキッスは目にしてをBGMに演技したように、楽しく塗りたいのだ。
ジャムはパンにのせて食べるという「乗せ派」を否定する気はない。確かに果肉ゴロゴロのジャムならば、その方が食べやすいし、見た目もなんか豪華そうだ。
しかし、やはり私は「塗り派」である。
あの塗り塗りの楽しさはどうしても捨てられない。