序章「想ひ出色」
人生を振り返って、運命の悪戯によるドラマを味わう人間は果たしてどれだけいるのか。
亘理悠平は、恋心を幼き時に、白石晴乃によって初めて覚えさせられた。彼の通う小学校に或る日突然通うことになった白石晴乃はその周りが思わず目を留めて何か話題を作ってまで話しかけたくなるほど秀麗な容姿であった。亘理は一目惚れに落ちた。その気持ちを、彼は恋であると理解するのに時間を要しなかった。小学校三学年の頃であった。
白石が初めて来たその昼頃、
「悠平、先にグラウンド行ってるよ。」
と、荻沼慎二が声をかける。悠平達は昼食を済ますと必ずグラウンドへ出てサッカーで汗を流すのであった。
「ああ、うん。俺も直ぐに行くよ。」
二人は靴を履き替え、グラウンドへ向かう。その二人の姿に白石はふと視線を送った。白石はその二人が気になったのか、グラウンドでサッカーをする男子の集団を眺めた。亘理は男子達の中心であった。彼には何やら人を惹きつけるものがある。兎に角、彼が話せば周囲は常に笑いに包まれる。
そして、そんな彼に、白石も初めて恋をした。
亘理がいれば常に笑いが生まれる。そんな彼に白石は惹かれた。だが、亘理と違ったのは、それが恋だと自覚するのはもう少し後のことだった。