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いきなり科挙? 【その3】

 普段は問題ばかり起こす劣等生が満点のテスト用紙を持って帰って見せた時の父親の顔だ。威厳を保とうとしているのにどこか顔がニヤケている。

あの……俺はそこまでの問題児だったのか?今更ながらに自身の評価の低さに凹んでしまう。王后ワンフ様は親父から耳打ちをされると本当に嬉しそうな顔をして下さった。


胸の中に込み上げるものがある。前世の俺はそれなりに母親の愛情に接して成人した。

しかし今世の臨海君イメグンは殆ど実母の愛情に触れる時間がなかった。そう考えると王后ワンフ様から向けられる愛情は俺や幼い光海君カンヘグンにとって得難い物のはずだ。大事にしたい。

伏魔殿と言われる王宮に置いてでも俺は自身が生き抜く事とともに光海君カンヘグンを守っていく事を目的の中に加えた。


 俺は一番の楽しみ、仁嬪インビンの方を伺った…正直言ってやめておけば良かった。

背筋を冷たいモノが走しる。眼力だけで鬼神でも殺せそうな顔をしていた。

夜の厠は光海君カンヘグンを起こす事にしよう。

 昭格署ソギョクソの長官が呼ばれ親父……宣祖ソンジョに報告をしている。やがて俺の周りに貼られている縄と結界が解かれた。俺の疑いは晴れた様だ。やっと外へ出られる。

 国王、俺の親父……宣祖ソンジョが立ち上がった。一斉に皆が頭を下げる。俺もそれに習って置いた。


臨海君イメグンの嫌疑は晴れたものとする。皆の者、大義であった」


 終わった……皆がそう思った時にまた一人声を出すものがいた。

今度は何だよ……もう良いだろ。そんな事を考えているとイ・イのよく通る声が響く。


「王様に申し上げます。過去、科挙殿試に受かった者はその席順によって官職を得、首席で合格した者の中には王宮で祝宴をいただいた者もおります」


チョン・チョルが小さく顔をそらす。チョン・チョルが首席合格した時に幼友達でもあった時の国王、明宗ミョンジョが大喜びで祝宴を開いたのは有名な話だ。


「イ・イよ、余にいかにせよと言うのだ」


イ・イはいつもの柔和な顔を俺の方にチラッと向けた。


「お恐れながら、それは臨海君イメグン様にお尋ねになるのがよろしいかと」


じいさん、いや、イ・イ感謝するぜ。親父…宣祖は俺の方へ目を向けた。


「……臨海君イメグンよ、何か望みがあるなら申してみよ」


一瞬「仁嬪インビンを指差して笑っても良いですか」と言いそうになったのを堪えた。


「王様に申し上げます。まず、此度は私の為に汚名を注ぐ場を設けていただいた事、感謝いたします」


親父……宣祖は黙って頷いた。掴みはOKの様だ。


「お言葉に甘えましてお願いしたい事が二つあります。一つは護衛を一人頂きたい事、今一つは軍資監クンジャガム(武器管理部署)より倭刀を数本頂きたくお願いいたします」


 俺の言った願いはどれも褒賞に値する物ではない。

護衛についてはあえて王族や高官が顔を揃えている場所で許可を取る事に価値があるので口にしたのだ。これで「王の褒賞」である護衛に口を挟む者は減るだろう。


「……臨海君イメグンよ、そんな事で良いのか」


いや、親父……宣祖「もっと高いおもちゃを買っても良いよ」なんて言っている世間の甘い父親と同じ顔をしているぞ、本当に。


「王様、私にはこれで十分でございます」


親父……宣祖ソンジョは黙って頷いた。俺には本当に十分ですよ、だって仁嬪インビンのあんな顔を見られただけで十分なご褒美ですから。


「……皆のもの、大義であった」


 今度こそ、本当に解散となった。その場の者全員が頭を垂れる中、親父……宣祖ソンジョと王后様が退場して行く。次に王族から順に流れ解散となった。俺も一旦帰るとしよう。

おっさん……チョン・チョルに捕まると本当に祝宴をやろうと言い出しそうだ、主に自分が呑む為にだが。前世の俺は決して下戸ではなかった。しかし今世ではまだ5歳足らずの体だ。酒なんて呑んだらひどい目にあう。

それでなくても前世の臨海君イメグンはアル中並みに呑んでいたらしい、俺に酒はまだ早い。


 俺は内殿に戻ると尚宮サングン承政院スンジョンウォン(公文発行部署)へ行くように指示をした。

パク別将プジャンを俺の護衛にする旨の命令書を貰って明日にでもパク別将プジャンにここへ出頭する様に伝えよとも指示する。別の者には軍資監クンジャガムへ行き明日には顔を出す旨を先触れして置くようにと指示をした。さあ俺の計画が動き出す、楽しみだ。


 そんな事を思いながら窓から外を何気なく覗くと、俺の指示が矢継ぎ早にでた事でみんながバタバタと走り回っていた。その中で一人だけ立ち番やっていますよ〜と言う雰囲気を醸し出して上手にサボっている奴がいる。あの若い女官だ。ちょうど良い此奴もメンバーに加える予定だ。俺は窓に近づいてその女官……名前は知らない……に声をかけた。


「おい、ちょっと余の部屋へ来い」


女官は俺の声を聞くと本当に飛び上がって振り返った。


「臨海君様のお部屋へですか」


「そうだ、早く来い」


女官は一礼すると入口の方へ回って行った。入口の立番が声を掛けてくる。


「臨海君様、ソン女官が参りました」


「ああ、余が呼んだのだ、入れて良い」


 ソンと言う名だな覚えて置こう。ソン女官は入口で礼をして頭を下げている。


「そこでは話しができない、こっちへ来い」


「はい」


まどろっこしい話しだが礼節と言うものがあって一度呼んだだけでは少し近づくだけだ。


「構わん、余の側へ来い」


「はいっ!」


なんで声が裏返っているのだ?ソン女官は今度こそ、俺のすぐ側まで来た。


「座れ」


「はいっ!」


また声が裏返っている。なんなんだ此奴は。するとソン女官は徐々にそわそわし始める。厠へでも行きたかったのか?なら、先に済ませてから来いよ。


「……あの……臨海君様、その……」


「厠へでも行きたいのなら、先に行って来い。構わんぞ」


「そんなのじゃありません!」


びっくりした、大声で無い怒鳴り声なんてどうやって出すのだ?女官の採用基準に入っているのか。


「じゃあ、どうしたのだ」


「……臨海君様と二人切りですよね」


「そうだが、尚宮や他の女官は出かけてもらっている」


王子と行ってもそんなに沢山の担当の家臣が付く訳じゃない。今のところ、ほとんどが出払っている。


「……あの、臨海君は嫌いじゃありませよ……ただ、私は女官ですし」


なんの話だ、第一お前が女官なのは俺が一番よく知っている。

何が言いたいんだ。


「……第一、臨海君様はまだ、5歳になられたばかりですよね」


だから、一体何の話をしたいのだこいつ。そう言えば、さっきからソン女官の顔が薄っすらと赤くなっている。分かった……このバカ盛大な勘違いをしてやがる。

せっかくだからもう少しからかっても良いが、こいつには後々役に立ってもらわなくてはいけない。俺はこみ上げる悪戯心を心の奥に押しやった。


「何を勘違いしているが知らないが、俺はお前に市井の事を聞きたいのだ」


ソン女官は急に顔をさらに赤くして平伏して来た。


「臨海君様、どうぞお許し下さい!」


本当に……5歳児が女に手を出すか?バカが……このままではいつまで経っても話しが進まないのでソン女官の頭を上げさせた。すると、恥ずかしさもあってか、地が出て来たのかよく喋る。


「いや、そうですよね〜5歳児ですものね、いくら私が見栄えがよくてもありえませんよね〜」


「もういいから、少し市井の事を教えてくれ」


俺はほって置けば一日でも喋ってそうなソン女官の話を止めて話題を戻す。


「市井の話しと申しましても…どんな事がお聞きになりたいのです?」


「そうだな、ソン女官。お前の生まれや家族はどんな生活をしている」


ソン女官、名はヨナ(氷雨)。小さな商家の生まれで兄弟姉妹が多く才能があった事から女官になったとの事だ。年は俺よりも7つ上の12歳。

何の因果か前世の姉貴と同じ歳の差だ。まだ、正式な女官ではなく見習い期間だと言う。


俺は市井の生活について、質問して行った。そしてはっきりした事はこの国は両班ヤンバンでない限り、成功は有り得ないと言う事だ。実力主義と思える商売の世界にしても両班ヤンバンの営む商団サンダンは何かにつけ優遇される。下級官吏から上級官吏まで賄賂を渡さないと極端な話し道すら歩けないと言う。町家に育ったソン・ヨナは農家の暮らしぶりは知らないらしいが税が厳しく貧しい生活だと言う事だ。


この辺は俺の知識とも一致する。当時の朝鮮王国と倭国……日本とを比較すると、貨幣経済への移行が早かった日本の方が庶民でも豊かになるチャンスはあったと言う事だ。

俺はやっとスタート地点にたった気がした。しかし、時間は待ってくれない。

明日、パク別将プジャンが来たら行動を開始だな。


ここまでお読みいただき感謝です。


本日投稿3話目です。


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