大同契 【その4】
本日、一話の投稿になります。
以前から、鳥銃の練習は氷雨商団の護衛団にさせていた。
はじめは、護衛団は腕に覚えのある希望者を使っていたけど、
正直、全然使えないので入れ替えた。
今の護衛団は、私奴婢で構成されている。
奴婢……奴隷の存在に俺ははじめ、強い忌避感を覚えた。
しかし、彼らと接する内に考え方が変わって来た。
俺が持っていたのは、奴隷制に対する忌避感と言うよりも奴隷に対する嫌悪感だった。
それは、自身では絶対に無いと言い切れた筈の、奴隷に対する差別意識だった。
自身が持つ差別意識に気づいた時、俺は激しい嫌悪感に襲われた。
それが、過ぎると俺は奴婢を普通に受け入れていた。
商団の者や護衛の中には、
王世子である俺が奴婢と親しげに話す事を咎める者もいる。
しかし、それはこの時代の価値観としては当然の事なので致し方無い。
ただ、俺はその者にはこう言っている。
「ここでは余は王世子では無い、出資者の一人ソン・ジンだ」
奴婢達は生きる為に、必死で鳥銃を覚えている。
飛び散る火花で顔が少々火傷をしても、平気な顔をして訓練をしている。
俺が求める鳥銃部隊の姿がここにあった。
訓練を始めてしばらくの時が過ぎ、何とか形になって来た頃にチャンスが回って来た。
格好の実践の機会が訪れたのだ。
あくまでも訓練は訓練でしか無い。
実践に勝る訓練は無い。
ただし、実践に出せば間違いなく怪我人が出る。
場合によっては、死者も出るかも知れない。
もしかすれば、全然歯が立たずに全滅するかも知れない。
それでも、実践のために訓練を積んでいる以上、戦いは必須だ。
俺は彼らを実践に……巽竹島の倭寇討伐に送り出す事にした。
前世では、巽竹島の倭寇は大同契に追い払われた。
しかし、今世の倭寇は大同契を退け、居座っている。
当然に現地の軍も負けたようだ。
漢陽から官軍が派遣される事になった。
今回は国家として見過ごす事の出来ない事件の筈だが、漢陽は静かだ。
当然に危機感が薄いのだ。加えて情報の伝達速度も遅い。
俺の元には寺党達から精度の良い情報が早く入る。
親父……宣祖の元へも体探人から情報が入っている筈だが、
どうも情報を隠している様だ。その上で、公式の情報で対応している。
派閥間の牽制はいいが、時と場合によると思うのだが。
「官軍が派遣されると聞き及んだのですが」
「……流石に良い耳をしておるな」
「恐れ入ります」
「倭寇などに後れをとりよって…」
駐留の官軍はあっさりと退けられたからな。
士気では官軍を上回る大同契も負けたし。
「かなりの数が入り込んでいるのですか」
「数もだが、中々にシツコイ様だ」
流石に力量が上回っているとは、
親父……宣祖の口からは言えんわな。
数もだが、ただの倭寇にしては武装や軍略で異なる様だ。
まさかとは思うが、正規軍もしくはそれに近い連中か……
そうなると、厄介ではあるな。
「ところで、父上。誰を送るおつもりですか?」
「……咸鏡道富寧府使を招聘する」
「咸鏡道富寧府使?……元均ですか」
「あの者は武勇に優れておる、倭寇など一捻りであろう」
前世では評価が最悪な将軍だが、
親父……宣祖の評価は前世でも高かった。
しかし、やり難い相手だ。
李舜臣を讒言で嵌めた手法と言い、只のイノシシ武者でも無い。
さて……護衛団だけを送っても下手に使い潰されるだけかも知れない。
「……王室から誰も向かわなくても良いのでしょうか」
「??なぜ向かわねばならぬ」
「此度、一度は官軍が引いております。加えて義兵とも言える者達も負けたとか。
民の安寧のため、王室から誰かが赴くべきかと」
親父……宣祖が考え込んだ。
誰を行かせるか、考えているのだろう。
もう一押しだな。
「力不足かも知れませぬが、私が参りとうございます」
「何!」
「元均将軍が居られるのです、危険はありますまい」
「……王世子がわざわざ行く場でもあるまい」
「王世子が主上の名代として参るからこそとも言えます」
「……よかろう、ただし護衛は十二分につけるのだぞ」
「氷雨商団の護衛団を連れて参ります」
「鳥銃持ちどもか、義禁府からも連れて行け」
「感謝致します」
兵力増強ゲット!
加えて、正式に護衛団を連れて行くから諸経費も国庫持ちだ。
さて、出陣の準備を致しますか。
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