揀擇(カンテク)【その4】
投稿が随分と遅れてしまいました、申し訳ございません。
本日一話の投稿となります。
本話は初めての試みとして視点を変更しております。
お楽しみいただけたら幸いです。
王世子が部屋を辞したのを見計らって側付きの女官が声をかけて来た。
「中殿様、良かったのでしょうか??」
「……何がですか」
「王世子嬪様の事……許銘様のご息女の事で御座います」
この女官は言い難いこともハッキリと口にしてくれる、故に扱い易い。
王世子が決まった事で次にあるのは揀擇だとなった時に許銘を連れて来た。
許銘自身は小官だが、野心は人一倍大きい。
以前から仁嬪の取り巻きに近づき娘を信城君の正妻にと売り込んでいた様だ。
それがキム一族が失脚すると掌を返して王世子に近付こうとした。
王世子に近付くのが難しいと分かると私の女官に近づいて来た様だ。
私にしても親族を出す訳にはいかず、さりとて賭けに乗ってくる両班の見極めも難しい所だった。
互いに丁度良かったのだ。
「許銘も王世子の癇気に触れてまで王世子嬪には拘らないでしょう。あの者の願いは国母の父になる事ですからね」
「……確かに、王世子様の怒りを買えば、その先は破滅……」
「仁嬪の一族が良い例えになりました。皆もよく分かった事でしょう」
許銘は先々の事を考えて私の提案を受けたのでしょう。
私にしても、王世子嬪が扱いやすければそれで良いとの思いですから。
密陽孫氏……無官の両班の娘なら問題は無いでしょう。
ましてや、知らぬ娘でもありませんしね。
「許銘の娘も揀擇に残れば、それで良いのです」
「中殿様の仰せのままに」
しかし、考えれば考える程に王世子と言う子供の恐ろしさが身に沁みてくる。
幼い時はたいした才能も無く、ただ癇癪持ちの子供というだけだったのに、
いつの間にか恐ろしい程の才覚を表す様になっていた。
始めは四書五経を諳んじた事、そしていつの間にか資金を作りそれを莫大な資産に増やした事。
やがて、仁嬪の攻撃を逆手に取って資産を奪い、ついに一族を破滅に追いやった。
加えて、王宮の重臣達の支持を取り付けた才覚……
私に子供が居なかった事をこれほど良かったと感じたのは始めてだった。
子供が居たなら、王世子……珒に潰されていたでしょう。
それは私にまで波及する破滅でもあったはず。
また、あの子が才覚を発揮せずに埋れたままであったなら、
王世子は仁嬪の息子……信城君でしたでしょう。
そうなれば、あの強欲な仁嬪の事、王后の座を欲した事でしょう。
そうなれば、私は廃妃……
今、ここで王世子の怒りを買うことは出来ない。
まして、王世子は筋を通して私に話をもって来たのですから。
私にしても良い事でしか無い話でしょう。
許銘が国母の父となる事を願っていたとしても、王世子嬪に娘を送り出す事は賭けでしか無い。
その事を持って、私は許銘に貸しができる事になっていた。
それが、王世子嬪では無く後宮と言うなら、貸しにはならない。
揀擇に応えるのは両班の責務なのですから。
加えて、密陽孫氏は自身で莫大な資産を持っている。
それは、王世子の力となり、後見する私の力にもなる。
考えてみれば、王世子は良い娘を選んだと言えるでしょう。
政治の事を抜きにすれば、王世子と光海君には思い入れがある。
幼い頃から側に置き可愛がって来たのだ。私が王后では無くあの子らが王子で無かったなら、
母子として慎ましやかに暮らして行きたかったと言う位の思いはあるのです。
しかし、それは儚い思いである事も十分に分かってはいます。
私は王后であの子……珒は王世子なのです。
民の様に生きる訳には行かぬのです。これが王宮に生まれた者の定めなのでしょう。
さて、私も準備を始めなくてはいけないのでしょうね。
「許銘に来るように伝えなさい、急ぎます」
「仰せのままに、中殿様」
この者は本当に扱い易い。私の側にいる女官の中で唯一、仁嬪とつながりの無い女官なのですから。
さて、仁嬪に知られる事なく話を進めなくてはいけませんね。
まずは許銘との交渉、貸しが無くなったのでやり易いですが気を引き締めて行きましょう。
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