顚末、そして
本日、一話の投稿です
内殿に帰っても中々寝付けなかった、今日は色々な事がありすぎたからだ。
代訴人の真似事をして氷雨商団の無実を訴えたり……氷雨商団の面々が捕まったのは管轄違いの左捕盗庁だった……いざ審判が始まると、左捕盗庁の役人がほぼ全員捕まったり、チョン・チョルと闘銭房の行首が旧知の仲だったり……
そう言えばどういう関係か聞いていない。まあ、その内誰か聞いてくるだろう。
そのうちに……と思っていたら早速、翌日には情報が入ってきた。
内容を聞いて俺は正直驚いた。
行首……ユン・ミョンテは先代国王の継妃尹氏の弟で権勢をほしいままにした、ユン・ウォニョン(尹元衡)の庶子だそうだ。行首は両班だった。
本妻に男子が居なかった事とユン・ミョンテ自身が幼児期から才覚を表した事でユン・ウォニョンは本気でユン・ミョンテを跡取りにするつもりであったらしい。ユン・ミョンテは妓生の子でありながら、両班の教育を受け早々に頭角を表した。その頃から同門下で同い年のチョン・チョルとも面識があったそうだ。ただ、国法が邪魔をして科挙受験が叶わない事が確定すると家を飛び出し、あとは転落の人生だったそうだ。
ユン・ウォニョンは国法を改正して庶子でも官職につけるようにしたが、ユン・ミョンテは官職にはつかなかった。庶子でも活躍できる事を見せつけたかったのか、一時期は外知部の代訴人もしていた。外知部が前の左捕盗大将に勝訴したのは事実で代訴人はユン・ミョンテだ。ただ、その事が後々外知部から裏社会へ彼が転落していく切っ掛けになったと言うから人生は解らない。叔母であった継妃が亡くなって父の権勢も終わりを告げた。そしてそのまま裏社会で生きて頭角を表して来たらしい。
一つだけ言えること、氷雨商団は有力な顧問弁護士を抱えているのと同じ事になったと言う事だ。本人の希望もあるが行首が了承してくれるなら、氷雨商団の仕事に外知部の部門を造ってもいいと思う。いつの時代にも訴訟は多いからね。
そうこうしている内に今度は左捕盗庁事件のあらましがわかって来た。
要は前任の左捕盗大将以下がチェ部将に買収されていたと言う事だ。
事のきっかけは ユン・ミョンテが左捕盗大将と訴訟をしていた人物の代訴人になった事だ。民事的な話であり非はどちらにもあったに違いないが的確な訴訟対応で ユン・ミョンテの依頼人が勝った。結果、かなりの負債を前の左捕盗大将は負ったようだ。
それを全て建て替えたのがチェ部将だったと言う訳。
これを足掛かりにチェ部将は東人派へ喰い込んで行き息子を科挙に通したらしい。腹が収まらないのは前の左捕盗大将だ。ユン家の関係者と言う事で最初は黙っていたがユン・ウォニョンの失脚後に、かなりの嫌がらせをしたらしい。それもあって、ユン・ミョンテは裏社会へ入って行ったと言う事だ。元々頭が切れる人物だから頭角を表すまでに日は掛からなかった。そして、キム一族の資金調達部隊になっていたと言う訳だ。
本人としては何か物足りなかった様で、キム一族の件の失敗が無かっても近々行首を子分に譲って自分は田舎へすっこむ積りだった様だ。根が学問肌の人物だから、田舎で素性を隠して書院でもやろうと考えていたのだろう。
最近は闘銭房の運営はほとんどを子分に任せて氷雨商団の仕事を手伝っている。
それだったら元不良少年達の教育もユン・ミョンテに任せたらいいだろう。ただし、下手をすると奇人変人が多い商団になり兼ねないが。
話がそれたな、左捕盗庁の件だ。
チェ部将は自身の出世は考えずにひたすら息子に投資して行った。紛いなりにも殿試に通った(事になっている)人物だ。本来なら六曹か三司でそれなりの地位になければおかしい。それが氷屋のおっさんだ。
投資をしたチェ部将にしてみれば、文句の一つも言いたくなるだろ。
それが高じていつのまにか左捕盗庁を支配する様になっていたと言う事だ。
イ・イが情報を聞きつけ内偵を進めていた。そして人事権を奪い返したタイミングで自身の信頼の置ける人物を左捕盗大将に置いたと言う事だ。それがあの左捕盗大将、シム・チョンギョム(沈忠謙)だ。面識はなかったのだが王后様の下の弟に当たる。
上の弟、シム・ウィギョム(沈義謙)と共にイ・イと志を同じくする者達だ。
イ・イは昨夜、ユン・テス達が賊を捉えた情報を入手すると、時を待たずに尋問したらしい。
俺が寝ている間だ。
ユン・テスは理由は聞かされていなかったが、イ・イが自ら尋問するとの事だったので、俺への報告は後からにしたらしい。まあ、内殿で爆睡中だったけどね。
そして、あの捕物騒ぎにつながって行った。
義禁府が動いたのだ、当然に親父……宣祖の耳に入る。
チェ別将とその一族は族滅に近い裁きを受けるだろうね。
儒教の影響が強いこの国で上下関係をひっくり返した事件は厳罰。
それが国家機関だとすれば特にだ。
さて、今朝も恒例行事から参りますか。
最近、親父……宣祖が色々と話をしてくる。季節の事柄から時には政治までそれこそ何でもありだ。8歳の息子との話題ではないと思うのだが仕方ない。時には真剣に話し込み、時には光海君も巻き込んで軽い話にして行く。徐々に仁嬪の眉が釣り上がるのがわかるのでそれで判断して退出する。
王后様の元では相変わらず、光海君自慢をしていつも笑いを誘ってしまう。
願わくはお元気で過ごして欲しい。
朝餉は時間のぶれはあるモノの光海君と一緒に取る。
側付きの女官二人にも一緒にどうかと進めたがそれは禁忌だそうだ。
まあ、側にはいるのでそれなりに賑やかな食事になる。
後は光海君と別れて俺は鍛錬と自身の学習の時間に当てる。そろそろ、イ・イ、チョン・チョル二人の賜暇読書も終わる。それまでに色々と資料に目を通しておきたい。
時間はまちまちだがパク・シルに鍛錬をつけてもらいその後に宮殿の外にでる。
俺の日常は緩やかに流れていると思っていた。
仁嬪の力を削いだ事で命の危機も遠のいた。
少なくとも俺はそう考えていた。
しかし、現実は甘くは無かったようだ。
トラブルが向こうからやって来てくれる。
この時の俺はまだ、歴史のうねりが変わりつつある事を実感できていなかった。
自身で歴史を変えると決めながら、変わっている事が実感出来ていなかったのだ。
反面、大きな流れは未だに前世の歴史をなぞっている。
大きな災厄が迫っていた。
宣祖17年(1584年)に起こった海州飢饉。
旱魃が原因のこの災厄は朝鮮全土に被害をもたらした。
その兆しが始まっていたのだ。
第二章 完
ここまでお読み頂き感謝です。
ここで第二章を区切りとさせて頂きます。次章で臨海君は内政に励む事になります。
暫くの間、書きだめ期間を頂くこととなります。年末を目標に次章を始めたいと考えております。
この様な作品ですが、引き続きお読みいただければ望外の幸せです。
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今後ともよろしくお願い致します。




