臨海君(イメグン)流ケジメの付け方 【その 1】
遅くなって申し訳ありません。
本日は4話投稿させていただきます。
俺は仁嬪が隠した財産をどうやって差し出させるかしばらく頭を捻る事になった。
ソン・ヨナから仁嬪が隠した財産がすぐに処分できる物は何もない事。現金を早々に生み出すのは平壌の妓房くらいだと言う事の二点を教えられた。
松都の人参畑は昨年植えたばかりで後三年は現金化出来ない事の説明も受けた。
妓房の収入くらいなら暫く目を瞑ってやってもいいかなと思うし、人参畑も下手にこちらの物にしても後三年も世話がいる。その二つを相殺したら正直「ま、いいか」になった。仁嬪の隠した財産は暫く目をつむる事で自分自身が納得した。
それよりも早々に取り掛かかる必要があるのは今手元にある財産の利殖だ。
残念ながら朝鮮王国には投資銀行もなければ、ファンドマネージャーもいない……
いや、いるじゃないか「ファンドマネージャー」
「ソン・ヨナ、お前の将来の夢は何だ」
キム一族から出された資産目録をめくっていたソン・ヨナが怪訝な顔をして俺を見る。
「……臨海君様、何ですか藪から棒に」
「いや、だからお前の将来の夢だよ、夢」
サボれるグッドチャンスと気づいたのかソン・ヨナは話に乗って来た。
「まあ、無難なところで尚宮様まで昇格して無事に務めあげる事ですかね」
普段のお前の行動にしては穏便な夢だな。前世日本の公務員みたいじゃねえか。
確かにお前は今世の「公務員」だけどな。
「なんか普通の夢だな、もっとでっかい夢はないのか」
「でっかい夢ですか…」
ソン・ヨナの頬が薄っすらと赤くなる。
「……国王様の……承恩(寵愛)を頂いて……後宮に入る事……でしょうか」
「……聞いた余も悪かったが……仁嬪に聞かれたら殺されるぞ」
「違います!今の王様じゃありません!」
じゃあ次の国王の後宮を狙ってるのか?王世子もまだ決まってないぞ。
いや、女性は堅実だとは聞いていたが……ほんと堅実だね。
「もう!知りません!」
ソン・ヨナは外方を向いて目録をめくり出した。
「いや、悪かった。余の聞き方が悪かったな。では女官になってなかったら何か夢はあったのか」
ソン・ヨナはそ〜とこちらに向き直って口を開いた。
「……臨海君様、笑いませんか?」
「内容にもよるが、人の夢を笑うほど落ちぶれてはいないつもりだぞ」
俺は表情を真剣な物に変えて答えた。これは俺の本音だ。夢はそれぞれ違う他人の夢を笑う奴は所詮そこまでの人間だ。
「……行首になりたかった。自分の商団を作りたかったのです」
決まった!大行首爆誕の瞬間だ。
「その夢、忘れるな。絶対だぞ」
「はあ……まあ、忘れませんけど。臨海君様何か悪巧みをしている顔になっていますよ」
その「悪巧みしている顔」て、どんな顔だよ。俺は、中身は別としてまだ8歳児だぞ。
世間では可愛い盛りだろう。
俺とソン・ヨナは目録と品物や証書を付き合わせるのに三日かかった。
結果、仁嬪の実家と兄弟の財産が結構漏れ落ちていた。俺はソン・ヨナに命じて仁嬪の『実家』の分だけ抜いて一覧表を作らせた。
利殖計画は予定変更、財産の回収と言うか「ケジメ」が先だ。
翌日、俺は使いをやって捕盗大将を呼び出した。
「先日は苦労をかけた。ところでキム・トンスは全てと言っていたが結構漏れ落ちがあるようだ。これは何か、捕盗大将の取り分か?」
直立不動で話を聞いていた捕盗大将がいきなりジャンピング土下座をして床に額を打ち付けると言う新しい技を見せてくれた。やっぱりお前大道芸人が向いてるわ。
「私は何も得ておりません!全て、キム・トンスの持って来た物は全てお持ち致しました!」
「そうか。それはすまなかった。余の勘違いであった。許せ、捕盗大将」
「勿体無いお言葉です、臨海君様」
「……さて、ではどうするか……」
俺はそこで言葉を切って捕盗大将の方をチラっと見る。丁度頭を上げかけた捕盗大将と目が合う。
「私めが、キム・トンスを捕えて全て差し出させます」
「まあ待て。キム・トンスは『自分』から差し出すと言ったのだ。その言葉、余は信じたいと思うが捕盗大将はどう思う」
「臨海君様のご温情を踏み躙る行い、腑が煮えくり返る思いでございます。是非、私めにお任せを」
そこまで言うなら任せるわ。いやあ、捕盗大将がいい人で良かった。
「すまぬな、捕盗大将。さすがに屋敷まで持って来いとは余も言えぬ。丁度、今夕に捕盗庁の側に行く予定がある。その折にでも寄らせてもらおう」
さて、タイムリミットも決まったし。捕盗大将、後はよろしく。
捕盗大将が部屋を出て言った後、ソン・ヨナに冷たい目で見られた。
「臨海君様は本当に人をこき使うのがお上手ですね」
サボりのプロのお前にだけは言われたくないわ。
夕餉までの時間をソン・ヨナとワイワイやりながら過ごした。
光海君と夕餉を取った後に俺はパク・シルとソン・ヨナの三人で出かける事にした。
事、帳簿類に関してはソン・ヨナが俺達の中で一番知識がある。特別手当だと言って餅代を請求されたので少し余分に渡してやった。キム・ゲシや他の女官たちの分も買ってやれと言っておく。
「いやあ、臨海君様、太っ腹ですね」
「別にこれ位なら大した事はない。これからも時折、出すようにしよう」
これは本音だ。女官たちの収入は若いうちは殆どないに等しい。見習い女官に至っては無給だと聞いている。俺達兄弟付きになった女官達は可哀想だと俺は感じていた。
彼女達は本来なら恭嬪たる母の「化粧代」や母の実家からの差し入れで小遣いや装身具、化粧品を手に入れる。しかし母が早逝したため「化粧代」は降りてこない。
母の実家も家門の権勢が下がっている。
俺はこの一ヶ月足らずでかなりの金を手に入れた。それを身の回りの世話をしてくれる者達にも配分する事に決めている。これがその事始めだ。
ここまでお読み頂き感謝致します。
評価、ブックマークが励みになっております。
よろしくお願いいたします。




