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仁嬪が来た!

本日は1話の投稿をさせて頂きます。

 次の日、俺の予定は朝からいきなり狂わされてしまう。

何処からか見た事のある尚宮サングンが走って来てキム・ゲシに何か告げている。

俺は恒例の朝の挨拶に行かなくてはと、起き抜けの頭で窓からその様子をぼんやりと眺めていた。と、キム・ゲシが部屋の外から声を掛けてくる。


臨海君イメグン様、仁嬪インビン様が御出でになるそうです。先触れが参りました。」


俺は瞬間に頭が覚醒した。


「パク・シル!パク・シルはいるか!」

「ここに」


扉を開けてパク・シルが入って来た。


「パク・シル、今いる護衛ですぐに内殿を固めよ。女官をすぐに逃せ。ソン・ヨナは義禁府ウィグムブまで兵を呼びにやれ!」


パク・シルに指示を出していると部屋の外からキム・ゲシとソン・ヨナが入って来た。

二人とも呆れを通り越した様な顔をしている。


臨海君イメグン様、私は仁嬪インビン様が()()()()なると申したのであって()()()()()とは申しておりませんが」


キム・ゲシの目が冷たい。そんな事があるかあの仁嬪インビンだぞ。

呼びつける事はあってもこんな朝っぱらから来るはずがない。


「……臨海君イメグン様、一つお聞きしてもよろしいですか」


ソン・ヨナの目が座っている。

まるで今食べようとした餅を横取りされた時の様な目つきだ。


「女官は全て逃がすのに、なぜ私だけ義禁府ウィグムブへ走るのですか」


いや……その、何だ……人間慌てると日頃思っていることが出てしまう。


「……余がそれだけお前を信用していると言うことだ、ソン・ヨナ」


ソン・ヨナが小さくため息をつく。


「今はそれを信じて差し上げます、それより早くお着替え下さい」


 三人の目が冷たい……分かった、部下の言葉を信じるのも上の役目だ。

俺はソン・ヨナに着替えを手伝って貰いながら、気になる事を訪ねた。


「……ソン・ヨナ、外の天気はどうだ。槍が降ってないだろうな」

「雲ひとつないお天気です。臨海君イメグン様のお気持ちは私も分かりますけどね」


良かった、仲間がいた。着替えが済んで程なく仁嬪インビンの到着を告げる声が外から聞こえた。

俺は呼び入れるのではなく自分から迎えに出た。

光海君カンヘグンもキム・ゲシに連れられて外へ出て来る。

朝の早くから、頭の先から足の先までしっかり決めた仁嬪インビンが行列を連れて立っていた。


「「仁嬪インビン様、おはようございます。」」


俺達兄弟が挨拶をした途端、仁嬪インビンが崩れ落ちた…その場に土下座をしたのだ。


「「仁嬪インビン様!」」


 仁嬪インビンの行列から悲鳴の様な声が上がる。何だ?仁嬪が壊れたのか?


臨海君イメグン様、私の従兄弟、キム・トンスの為した事を穏便に済ませていただき感謝いたします。」


一瞬、幻聴が聞こえたのかと思ったが……そう言う事か。

あの豚、昨夜の内に仁嬪インビンに相談に来たな。いや……来たのは仁嬪の父親か兄弟だろう。

今朝の挨拶の席で俺の口からその話が親父……宣祖ソンジョに聞こえる前に先手を打って来た。

要は謝罪と言う名の口止めだろう。

その上、お付きの女官の前で俺にひれ伏して許しをこうたとなれば、親父……宣祖ソンジョもそれ以上追求はしない。相変わらず悪知恵が働くババアだ。


仁嬪インビン様、お立ち下さい。キム何某の件は全て終わった事でございます」

臨海君イメグン様、ありがとうございます。この仁嬪インビン、ご恩を肝に刻みます」


ひれ伏す仁嬪インビンに俺が手を差し出すと仁嬪インビンはこう抜かしやがった。

しかし、仁嬪インビンの顔には「必ず倍にして返してやる」と書いてある。

仁嬪インビン、お前の肝は刻んだ途端に自動消去する特別機能付きか?全く。

 俺はそこで仁嬪インビンを立たせると心にはないが、おあがり下さいと告げる。

当然、仁嬪インビンは辞退して行列を率いて帰って行った。

行列が見えなくなるとその場の全員がため息をついた。

ただし、キム・ゲシを除いて。


 俺は一休みして恒例の朝の行事をこなして行く。

挨拶に行った時には仁嬪インビンは何事もなかったかの様に振舞っていた。

当然に何か聞きたそうな親父……宣祖ソンジョには何も言わない。俺もそれに合わして話しをそらしておく。


そして王后ワンフ様の元で兄弟揃って癒されてから朝食となった。

今日は朝っぱらから疲れた……1日分のHPを全て削られた気分だ。

こんな時には街にでも出て、気分転換をしたいがそうも行かない。何とかサボろうとするソン・ヨナの尻を叩きながら二種類の目録と品物を照らし合わせる。


 ソン・ヨナはどうやってここまでの目録を作れるのだろうか。

本人曰く金の流れには一定の法則があってそれを追っていけば判るそうだ。

前世の日本や先進国の様に女性でも官吏になれるなら俺はソン・ヨナを暗行御史アメンオサ(国王の密偵)筆頭に任命する。国中の役人の不正が減るだろう。ついでに各地の餅屋も繁盛するはずだ。


俺はソン・ヨナと二人で二種類の目録と品物や証書を検品していた。

すると、ソン・ヨナが首をかしげ出した。


「どうした、ソン・ヨナ。若いのに肩こりか?」


俺の言葉にソン・ヨナも「最近ちょっとっ……て違います!証書が足らないのです」と返してきた。


「どれが足らないのだ?」


俺はソン・ヨナが用意した目録をめくって行く。


「全部、仁嬪インビン様のご実家の分です。漢陽ハニョンにある財産は全て、家屋敷以外全てあるのですが、漢陽ハニョン以外の財産の証書が農地以外には一枚もないのです」

「ババア、やりやがったな!!」


思わず心の叫びが口から溢れてしまった。

ソン・ヨナが「臨海君イメグン様、言葉、言葉」と言ってるが気にしない。

仁嬪インビンの奴、全部差し出したと言って漢陽ハニョン以外なら分からないと思って隠したのだろう。

目録を見ると人参畑に妓房キバンもある。どちらも結構な金を生み出す。

キム・トンスを締め上げて集めさせる手もあるがイタチごっこになる気もする。

さてどうするか……


ここまでお読み頂き、感謝致します。


頂きました評価、ブックマークが励みになっております。

今後ともよろしくお願いいたします。

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