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闘銭房乗っ取り 【その 2】

本日二話投稿させて頂きます。二話目です

 闘銭テジョンなどのカードゲームでやるイカサマには大体パターンがある。

一番単純なのは数人で組んでやる「覗き」だ。見物人の振りをした「覗き」役がカモの手を覗く。それを仲間に合図で送るのだ。様子を見ていると高級卓に座ったカモは、一度はこの手でやられている。気付いたカモは札を上手く隠そうとするが天井裏や壁板の隙間からも覗いている。さすがにそこまで気付く奴はいないようだ。

 胴元もバカではない。カモが気付くと暫くは勝たしてやっている。

後は札の入れ替え。袖の中や卓の下に都合のいい札を隠して置いて素早く入れ替える。

これは隅の方の庶民クラスでお互いにやりあっている。何人かがサクラとして紛れ込んでいるのだろう。


それでは今日は半分程度返してもらうか。俺はパク・シルを俺の右後ろに立たせて覗きの目を遮る。天井裏の覗き対策として、当初に札のキズなどを全て覚えたので数字の部分を手で最後まで隠して勝負を進める。見るからに「両班ヤンバン」の服装をしたチンピラ達の顔色が悪くなって行く。当然だろう。昨日までは銭を蒔きに来ていたガキが突然に勝ち出したのだ。おまけに身内からの『応援』が一切ない。今日も俺をカモにするつもりか勝負レートはかなり高い。普段であれば場代が10銭、勝負の天も5両だ。今日は俺の提案で場代を1両、勝負代に俺は20両を賭けている。

そりゃ顔色も変わるだろう。一勝負で最大35両が動く。


最初に俺が口にした時には「後で文句はなしですよ」と確認までしてくれた。

覗き役との連絡役か、単に気が小さいだけかは分からないが、一人の男がしきりに目をキョロキョロさせている。パク・シルに視界を塞がれた奴も場所を変えて覗こうとしているが無理だ。第一俺は手で数字を隠して自身ですら見ていない。そうこうしている内に勝負は進んで行く。今日はご大層な事に俺以外は全員「偽両班ヤンバン」のチンピラの様だ。


個室の卓と言う事もあり「札の入れ替え」もできないようだ。

 俺はここ数日分の負けを回収すると席を立った。賭博場の中に緊張が走る。

奥の方から身なりは良いが品のない奴が出てきた。


「……坊ちゃん、今日は調子が良い様ですね」


闘銭房トウジョンバンの支配人だろうか、さりげなく帰り道を塞いでいる。勝ち逃げは許さないってか。笑わせるな、まだまだだよ。


「……いや、まだまだ負けが混んでいるのでな。明日もまたくるよ」


支配人の目がパク・シルの方へ向けられる。正確にはパク・シルのもつ倭刀にだ。

自分達の護衛役とパク・シルの力量を比べているのだろう。程なく支配人は道を開けた。

少しは人を見る目がある様だ。


「……坊ちゃん、明日もまたお待ちしていますよ」

「ああ、明日も今日の様に勝ちたいものだな」


俺は本日の勝ち金を巾着に詰めると闘銭房トウジョンバンを後にした。

 街を歩くと離れた餅屋で待っていたソン・ヨナが駆け寄ろうとしたが目で制する。

闘銭房トウジョンバンを出てから後をつけている奴がいるからだ。ソン・ヨナの顔を見られると後々リスクになりかねない。


「パク・シル、付いてきている『蝿』を始末してくれ」

「御意」


パク・シルが小さく合図をすると平服で護衛に付いていた連中が尾行していた奴らを取り押さえて連れて行く。バカな連中だ。殺す事はないだろうが暫くは俺の顔を見るのも嫌な位の目には合わされるだろう。例の刺客事件から後、俺は自身の性格が変わりつつある事に困惑していた。あの時、俺は前世も合わせて初めて人を殺した。


「あの時」は不思議な位に冷静だった。身体が小さい事を生かす為につばの付いた左文字の脇差を選び、刃を上にして構えた。刃物を刺した場合には刃物は刃の付いた方向に動いて行く。俺は初めから刺客の肝臓を狙っていた。

 狙い通り腰から脇差を突き刺し体重をかける事で上に向けた刃の方向に脇差は刺さって行き肝臓に達した。この時代、肝脂肪どころか皮下脂肪を貯める事ができるのは一部の人間だけだ。ただ俺の目論見通りに行ったのはここまでだった。暗闇の中だったのに俺は刺客の表情が見えた。驚いた表情と共に刺客…ペク・セックは最後にこう言った。


「……よかった……」


口が動いただけの様な小さな呟きが今も頭の中で繰り返される。奴は……刺客に仕立てられたペク・セックは任務に失敗して自身が命を落とす寸前に、俺を見て「よかった」と言ったのだ。死の寸前まで本当に王家への忠誠を保っていた男だった。


その男達を使い捨ての道具にした奴がいる。俺は自分の甘さが心底嫌になった。

生き抜く覚悟を決め「なんちゃって科挙」を乗り切った事でどこかで有頂天になって居たのだ。刺客の一件はそんな俺に冷や水を浴びせてくれた。それと同時にもう一段、覚悟が定まった気がした。そんな事を考えながらパク・シルと歩いていると護衛の連中が戻った様だ。俺は離れて付いてきていたソン・ヨナに合図を送る。

駆け寄ってきたソン・ヨナが当然のように尋ねてきた。


「……臨海君イメグン様、何をするおつもりなのですか?」


ソン・ヨナでなくとも聞きたいだろう。単純に金儲けだけなら初めから闘銭房トウジョンバン荒らしをしていれば良い。しかし俺は時間を少々かけて相手のいわばボスを引き摺り出した。


「帰ったら話すよ、パク・シルも聞いてくれ」


パク・シルは黙って頷いた。

 内殿に帰り着くと早速にソン・ヨナが聞いてきた。


「さて、臨海君イメグン様。何をなさるおつもりかお話くださいね」


ソン・ヨナの言葉は丁寧だが顔が笑っていない。もう少し愛想いい顔をしろよ。素材はいいんだから。パク・シルは流石、大人だ。口にはしないがチャキチャキ白状しろと目が言っている。元捕盗庁ポドチョン別将プジャンは伊達ではないな。あのまま捕盗庁ポドチョンにいても出世したかも。


「明日、あの闘銭房トウジョンバンを余の物にする」

「はあ?」


ソン・ヨナが変な声を出したのでもう一度言うことにした。


「明日、あの闘銭房トウジョンバンを余の物にする」


ソン・ヨナが可哀想な子でも見る目で俺を見る。


臨海君イメグン様、幾ら王世子ワンセジャに決まらないからって……ゴロツキになるのですか」


ヲイ!ちょっと待て。

何で闘銭房トウジョンバンを俺の物にすると言ったら「ゴロツキ」に転職する事になるのだ。俺にはこの国の「王子」と言う立派かどうか知らないが真っ当な仕事がある。なんで「ゴロツキ」に転職せにゃならんのだ。


「……ヨナ、何で余が「ゴロツキ」にならなくてはいけないのだ?」

「え?だって闘銭房トウジョンバン臨海君イメグン様の物にするならゴロツキにならないと賭場を開帳できないのじゃないですか?」

「誰が賭場を開帳すると言った。余は単に「余の物にする」と言ったのだ」


ソン・ヨナは理解できないと言う顔をしている。そんなソン・ヨナを見かねた訳ではないだろうが、パク・シルが口を開いた。


「……臨海君イメグン様は仁嬪インビン様のご親戚へ流れている賄賂を奪う御積りだ」


パク・シルお前も待て!それじゃ俺が『自分の権威』を嵩に来た連中と同じじゃないか。

二人が日頃、俺の事をどう言う目で見ているか一度じっくりと話し合う必要があるみたいだな。


「二人とも、余は闘銭房トウジョンバンの連中から賄賂を巻き上げるつもりはない」


二人揃ってじゃあどうやって?て顔をしている。


「金で縛るのだよ、連中をな。その上で余の為に稼いでもらう」


二人の顔には未だに「?」が張り付いたままだ。俺は明日決行する予定の作戦を詳しく「噛み砕いて」説明する事にした。


「彼奴らを金で縛るのだ」

「…? 臨海君イメグン様、ゴロツキに賄賂を渡すのですか?」


ソン・ヨナがぶっ飛んだ返答をしてくれる。何が悲しくて俺がゴロツキに賄賂を渡さなくちゃいけないのだ。一度、お前の頭の中を調べて見たいよ。


「なぜ、余が連中に賄賂を渡すのだ?」

「だって、臨海君イメグン様が「金で縛る」と御しゃったから賄賂かなあって」


この国は大丈夫か?親父……宣祖ソンジョ


「「金で縛る」と言うと賄賂しか思いつかんのか、お前は」

「ええっと……後はカネの鎖で縛るとか…」


良い所まで行っているが自分では言っている意味が分かって居ないだろうな。俺はパク・シルへ目を向ける、流石に大人だ目を外らす事はない。


「……金で縛るですか……借金漬けにでもなさる御積りですか」


流石だよ、生きている年数が違うよな。ソン・ヨナ、よく聞いておけ。


「明日、彼奴らでは払えない位の負けを背負わしてやる」



ここまでお読みいただけた事に感謝致します。

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