闘銭房乗っとり 【その 1】
本日は二話投稿をさせて頂きます。
時間が立つのは早い。
俺が朝鮮王国の王子として覚醒して3年がたった。
俺は8歳になった。
さすがの仁嬪も焦って刺客騒ぎを起こした事で表向きは大人しくなった。王世子の柵封は受けていないが最短距離にいるのは俺だ。その俺が宮殿内で刺客に命を狙われた。表沙汰になれば警備担当は当然の事として、国王たる親父……宣祖の顔にも泥を塗る事件だ。
義禁府は当然に草の根を分けても犯人を割り出そうとした。結果は分けた草の根を元通りに戻して「担当尚宮」が犯人として幕引きを計った。
優秀な捜査官の誰かが仁嬪に行き当たったのだろう。捜査が打ち切られる前に大体の事情は読めていた。この時代の宮廷では洋の東西を問わず良くあった事だ。
俺はあの事件以降、パク・シルに徹底的に鍛えて貰った。刺客騒ぎの時は運よく回避できた。しかし次もそうなるとは限らない。俺は初撃だけでも回避できるように成らなくてはだめだと自分に命じた。儒学を尊ぶ朝鮮では武芸より座学を重視する。
当然に俺にも風当たりがあってしかりだが、例の「なんちゃって科挙」のおかげで親父……宣祖は何も言わない。
時折、読書堂でイ・イやチョン・チョルと議論をするのが俺の座学だ。俺は今年から新たな座学を加える事にした。相変わらず上手くサボっている女官見習い…から昇格して女官になったソン・ヨナに両班のバカ息子が着る様な服を用意してもらった。
この時代、染料は高価だった事もあり庶民の服は殆ど生成りだった。そんな街中を派手な色合いの衣装を着て彷徨くのは大体、両班のばか息子と相場は決まっている。俺はその衣装に着替えるとパク・シルとソン・ヨナを伴って宮殿を抜け出した。
日暮れまでに帰れば大した事にはならい。俺は手始めに気になっていた家を訪ねた。
俺を狙った刺客の家だ。各々豊かではないが生活は成り立っている。少し肩の荷が降りた気がした。特に俺を狙ったペク・セックの家は妹の目も回復した様だった。
俺は街を彷徨きながら昼間から仕事もせずにうろうろしている奴が目につく事が気になった。
「……ヨナ、あいつらはなんだ」
聞かれたソン・ヨナは顔をしかめて教えてくれた。
「イメ……坊っちゃま、あいつらは「ゴロツキ」ですよ」
要は前世の日本で言う所の「暴力団」のチンピラと言う所だろう。合法的な人足集めの様な仕事から非合法な仕事まで色々やるらしい。ソン・ヨナの実家の商店も小銭をタカリに来られているそうだ。
「あの連中は最近、闘銭房で儲けているらしいですよ。かなり派手にやっている様です」
後ろに有力な両班がついているな……俺の思いが分かったのかパク・シルが教えてくれた。
「……仁嬪様のご親戚です」
なるほどね。確か仁嬪の親父は元々が下級官吏だし金があるわけがないか。仁嬪の威光を盾に役所を黙らせている様だな。だめだ……悪戯の虫が騒ぎ始めた。
「……ヨナ、その闘銭房の場所を知っているか?」
「まあ、場所くらいは知っていますけど」
心配するな、今から行こうなんて言わないから。その日はそこで帰る事にした。
丁度、宮殿に帰るには頃合いの時間だ。帰る途中で俺は、闘銭の札を買って帰った。当然にソン・ヨナはブツブツ言うしパク・シルも渋い顔をしていたが、相手を知らなければ勝負に成らない。
俺は部屋に帰って早々に札を広げて見る。案の定、工業製品ではないために微妙に違いがある。普通の人間だったら気づけないし気づいてもさして役に立たないだろう。
しかし、俺は違う。
俺の完全記憶なら僅かな違いで全て裏返した札でも言い当てる事ができる。
闘銭のルールは単純だ。
引いた5枚の札のうち3枚を10、20、30……となる様に組み合わせて捨てて残った札で勝負する。組み合わせの強さは前世の日本にもある、「ジュンジュン」などと呼ばれる賭け事と同じでゾロ目の10が一番強く順にゾロ目が続く。その次は「9」から順に小さい数字の組み合わせになり最悪は10になる組み合わせだ。地域によっては10と1などの役がある。単純な賭け事だけに場の回転が早く故に依存する可能性が高い。
下級官吏を中心に顧客が溢れているだろうね。前世日本のパチンコ、パチスロみたいなものだ。勝ったら次また勝てると思うし負けると負けを取り戻したくなる。
一発逆転があるから賭け事だし当然にそこに依存が発生する。
何より「賭け事」で「胴元」が負けることはない。だから闇資金に繋がって行く。
俺は自身の目的の為に手元に資金と使える人材が必要だ。双方を入手するために俺は街へ出た。そして『鴨』を見つけた。
さて…ソン・ヨナの機嫌取りをしながらパク・シルを連れて明日から両班のばか坊ちゃんになりますか。
翌日、俺はさっそく闘銭房に向った。
闘銭房に似合わない子供の来場に怪訝な顔をしていた連中もパク・シルを連れていること、そして俺が『隙だらけ』だと言う事に喰いついてきた。子供の俺にも遊ばせてくれたのだ。賭博場の常で今日はビギナーズラックで少々勝たせてもらった。明日から毟り取るつもりだろう。
翌日は案の定毟り取りにかかってきた。
その日はあまり大金を使わず悔しげに帰った。次の日には俺は先日の負けを取り戻すべく少々掛け金を大きくして行く。そして『予定通り』負ける。
さらに次の日も俺は懲りずに闘銭房に顔をだす。五日ばかり繰り返すと相手の俺を見る目が完全に『カモ』を見る目に変わってきた。当然に俺の席も片隅のボロ卓から、中央付近の高級卓から個室へと変わる。さて、ではそろそろ予定の行動に移ろうか。
俺はその日、並みの両班では持ち歩かない金額を用意しておいた。ただし餌を撒くのは昨日まで。今日は回収して帰る。パク・シルにも指示は出してある。
さて……「楽しい」遊びの時間と行きますか。
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後、一話投稿いたします。




