夢
ここに来てから十数日経ち、ルーフェの傷は次第に治りつつあった。
トリウスはその後姿を見せていないが、代わりにラキサが部屋へと訪れ、食事や傷の手当と言った面倒を見てくれた。彼女はとても優しく献身的にルーフェに尽くし、時には話し相手にもなった。
ルーフェは無愛想で、ほとんど話すことは無かった。しかし彼はラキサを無視したりせず、無愛想ながらも話もしてくれた。
そして彼女と接するうちに、初めのころの顔の険しさや目つきの鋭さは次第に薄れ、かつて失った人間らしさを取り戻しつつあった。
そしてあの夢以降、彼は眠るたびに同じ夢――――かつてルーフェがまだ幸せであった頃の夢を、何度も見るようになった。
初めは十才程の幼い少年だったルーフェは夢を見る度に成長し、そしてこの夢では十六才と、年頃の少年に成長した。
手元に一冊の本を持ち、いつものように、彼は庭園のあの場所へと向かう。
中庭の隅にある、大木の下…………。エディアはそこで待っている。
夢の中ではいつもエディアと共に過ごし、一緒に遊んで話して笑ったり…………、全てがかつての幸せな思い出だった。
昨日の夢では、親に気づかれないようにこっそり屋敷を抜け出し、彼女と共に下町へ遊びに出かけた。よく買い出しに行くエディアに案内されながら下町を廻り、途中で寄った店でドレスを買った。
貴族の着るような豪華絢爛なドレスではない、普通の庶民でも着る小綺麗なものだったが、エディアはとても喜び、ドレスを着るとオルゴール人形のように、得意げにクルリと回った。
この夢では、同じく彼女も年頃の少女として成長しており、主な特徴には変わりないが、その年齢特有の色気や魅力も、今では備えていた。
エディアはルーフェに気づくと、笑って手を振った。
「こんにちは、ルーフェ様。またこの場所で貴方と会えて、私はとても幸せです」
ルーフェも、僕も君に会えて良かったと伝え、同じく笑みを見せる。
だがその笑いには僅かに、寂しさが込もっていた。
彼女の話し方はいつも、召使が主人に対するもののそれである。それがルーフェには、少し辛かった。
だが本来ならば、こうして互いに親しくしている事自体が、許されない行為である。
エディアは召使で、階級は劣っている。もしこの事が知られたら家の名誉に傷をつけると、ルーフェは知っていた。そしてそれが、貴族の名誉を重んじる、両親の激しい怒りを買うことも。
ルーフェは、彼女の隣に座った。
「それでルーフェ様、今日はどんなお話を、私に聞かせてくれるのですか?」
話し方は召使のそれだが、エディアはルーフェに対して強い好意を抱いていた。
幾ら階級が違えども、何年もの歳月を共に過ごした絆、それは確かに存在していた。
そんな彼女に、ルーフェは自分の持って来た本を見せる。
「まぁ! これは私の一番大好きな、あの話ですね」
エディアはその本を見ると、目を輝かせる。
その本は、今までルーフェから読み聞かされた本の中で、一番のお気に入りだった。
ルーフェは、じゃあ始めるねと一言いうと、本を読み出した。
物語は長く、読むにも時間が掛かるものだが、彼が読み聞かせている間ずっと、エディアは一言も聞き漏らすに、本を読むルーフェを見つめている。
やがて本を読み終えると、彼はエディアに、どうだった? と感想を聞いた。
すると彼女は……
「何度聞いても、良い話ですね。有り難うございます…………ルーフェ様」
そう言ってエディアは、嬉しそうに微笑んだ。




