「神崎 昴」は変わらない 08
赤いバンシーに案内され、村長邸へと到着した。
遠目から見えていた一際大きな大樹。
その樹を見守るように聳えるログハウスの中へと招かれる。
「神崎さまおはようございます。」
しなやかにお辞儀をし、村長は椅子へ引き
温かい紅茶をそれぞれに手渡した。
村長、ハイロ、赤いバンシーの四人が
それぞれを見渡せるようにかけた。
神崎一晩考え、これからのことをみんなに伝えた。
「まず、確認も込めて二つ聞きたいことがある。」
神崎の声が部屋に反響し、少しの緊張感が走る。
村長は頷きながら、続きを促す。
「旅人って言うのは、特になにかを強制されたり、明確な行動目的がある訳じゃなんだよね?」
真面目な顔で神崎は話す。
これは昨日確認して、予想外だったことの1つだ。
バンシーたちの。ひいては魔人族のたちの現在の(隷族化され、虐げられている)状況を
変革するために利用される存在だと神崎は認識していたが
それは間違いだった。
最も、隷族の首輪の存在がある時点で、当初懸念していたことは、心配していなかったが。
「もちろんです。」
村長のバンシーははっきりと口にした後、悲しげに言葉を続けた。
「普通の人族様と同じように接すると思います。
外見では、旅人様と人間の違いは私たちには解りかねますから」
「ん?外見以外で正体がバレる可能性は他にもあるのか?」
「はい…。いくつかございます。例えば、神崎さまは私たちが作った
キィの実を食べられましたが、普通の人族様は私たち縁のものなどは
口にしたりしません。」
(あんなに美味しいのにな…。魔人族のものは食べません的な感じか?)
「もちろん、人族様にとって毒になるといったわけではなく
単純に。魔人族そのものが軽蔑され、それと同じ理由で
魔人族原産のものは普通は口にはされません。」
「そうか。」
神崎は静かに頷いた。
「他にも、魔人族と同室されたり、食事を囲むなど
正直、同じ人族様では考えられないことを神崎さまはなさっています…。
なにより。あなたは魔人族に優しすぎます…。」
神崎の左手を見つめながら、か細い声で村長は答えた。
(お前たちが思ってるほど、俺は優しくないさ…。)
そう思いながら、神崎はそれを口にはしなかった。
「もう1つ聞きたい。俺はもう少しここに滞在したいんだけど迷惑かな?
もちろん、出来ることがあれば手伝うし、なにかあれば直ぐにでも出ていくからさ。」
頭を掻きながら、申し訳なさそうに神崎がそう言った瞬間
「迷惑なわけないだろ!!」
以外にも声の主はハイロで、言い終わると
顔を赤面させながら、俯いた。
突然の大声に神崎が驚いていると
村長は笑いながら、神崎を迎い入れてくれた。
「村のみんなにも説明してきますね。」
そう言いながら、温かい紅茶を飲み干した。
「神崎さま。」
村長は姿勢を正し、改まって話す。
「なにかお力になれることがありましたら、何なりとお申し付けください。」
そう言い残し、村長は外へと向かった。
「さて。これから忙しくなるな。」
神崎は、そう言いながら
冷め始めていた紅茶を飲み干した