「神崎 昴」は変わらない 02
森の中で神崎は目を覚ます。
何度か瞬きして眠気を追いやると
そこは森林のようだった。
「なにが起こったんだ?」
目を擦りながら考える。
どうやら、大きな木の洞の中で眠っていたようだった。
少しの渇感を覚え、辺りを見渡した。
少し先に湖が見え、自然とそちらに足が向かう。
湖についた神崎は、景色の美しさに思わず立ち尽くした。
「これはすごいな。こんなの日本じゃ見れないぞ」
キラキラと陽を反射し、透き通った水は浅瀬なら底まで見えている。
水を手で掬い喉を潤す。
その行為を何度か繰り返してるうちに、ふと違和感を感じた。
「日本じゃなきゃ?」
自然と口に出していた言葉の違和感にふと考え込む。
(なぜここが日本ではないと俺は知っているんだ?それにどう考えても……。)
水面に写る自分を確認するように、見つめる。
湖に写る自分の姿に大きな差違があった。
学生時代の頃の自分の幼い顔に若返っている
先程は気づかなかったが、身長も少し縮んでいるようだった。
(夢じゃないとは、なんとなく理解できる
でも、夢じゃなきゃ納得できないことが多すぎる…。)
「だめだ。さすがに訳が分からん。」
一人湖畔で考えていると、不意に声をかけられる
「Zs※p0)pAq!?」
振り返るとそこには、青い柘榴のようなものを抱えている少女がこちらをみていた。
「;jdgR※p pAq!?」
(外国人ってわけでも無さそうだな。)
神崎がそう思う理由は、少女の姿にあった。
深い緑色の綺麗な髪に、柔らかそうな白い肌、小さな体躯。
その少女の頭に、覆い被さるように大きな綺麗な紅い花が咲いていたからだ。
「じゃ、じゃぱにーずぷりーず?」
伝わらないと確信めいてはいたが、やはり伝わらない。
「すまない。何を言っているのか解らないんだ。」
困った顔をしながら、神崎は伝わるはずもない日本語を話した。
少女にそう返すと、なにか伝わったのか
先程から抱えていた青い柘榴のようなものをこちらへと1つ差し出した。
「rrk※^#wll○uu?」
「これをくれるのかな?ちょーっと体に悪そうだけど。」
頭を掻きながら、困ったように少女に弁解する。
ニュアンスや雰囲気で伝わったのか
少女は、持っていた青い柘榴を少女自身が口をつけ
残りをまた差し出してきた。
(わざわざ毒じゃないことを教えてくれたのか。)
そう思いながら神崎は勇気をもって、差し出されたそれを口にした。
少女から悪意を感じなかったことや、少しの飢餓感があったのも事実だ。
1つ口にして神崎は今日何度目かの驚きを表す。
「うまいなこれ!」
苺のような食感のそれは、果物特有の甘さに加え、少しの酸味があり
食べれば食べる程に旨味を感じ、気づけばアッと言う間になくなっていた。
「も、もう1つ食べますか?まだ、あ、あるので落ち着いてくださいっ」
「言葉がつうじ…」
そう言いかけ神崎は言葉を止めた。
頭の中に、直接語りかけるように聞き覚えのある機械的な声が響く。
――言語ノ加護ヲ取得シマシタ――
「キィの実はそんなに珍しくないのですが…。」
少し不振な眼差しで紅いはなの少女が話す。
「いや、珍しいとかそういう問題じゃなくてさ…。」
急に言葉が通じたこと、さっきの機械染みた声音。
頭に綺麗な花を咲かせた少女、そもそも突然ここにいる事実。
疑問が疑問をさらに膨らませる。
神崎は極めて冷静に。
淡々と湖に来るまでの経緯をざっくりとバンシーに説明した。
話すにつれ、先ほどまで警戒していたバンシーは
うってかわったように柔和な態度でこちらを見つめる。
「旅人様だったのですね!!わたくし、初めて旅人様とお会いしました!!」
そう言いながら、バンシーは先ほどまで掴んでいた神崎の両手をブンブン振り回した。
(駄目だ。次から次へと新しい疑問がでてきて、処理しきれん。)
そう言いながら、神崎は最初の疑問から解決していくことにした。
「とりあえずさ、君は人間なのかな?」
そう言った途端、バンシーは少し哀しげな目をし
誤魔化すように、笑って答える。
「失礼しました。わたくしは魔人族 哀叫のバンシーと申します。」
およそワンピースと呼べない粗雑な布の両端を掴み
それとは反して優雅な自己紹介をした。
そう優しい笑顔でいう少女は、夕焼けが反射した湖のせいか
とても美しく、神々しくさえみえた。
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