~生殺与奪~
「ボクヲコロセル?」
この一言から全てが覆った。
「な、なに言ってんだよ、、」
「ボクヲコロセル?」
「同じ言葉を聞きたいんじゃない!充希!どうしちまったんだよ!!」
「ボクヲコロセル?」
「………」
彼は突如静かな空間が生成されるとこう口にした。
「必ず、僕を殺してね。」
そのまま彼は意識が朦朧として血を大量に流し恐らく、、死んだ。
「お、おい……しっかりしろよ…充希…っつき…充希ぃぃぃぃ!!!!」
依然として静かな放送室。隣には校長室、職員室がある間取りになっている。
何かがおかしい。。。。。
僕が部屋を出ると先程まで賑やかだった空間が信じられないくらいの静けさに変わっていた。
それが本当に静かな学校というだけで済む問題であれば良かった…
「………」
既にその口から余計な言葉を出す隙も無く、扉を開けたその時間から運命を掛けた闘いが始まる。
扉を開けたらそこはもう従来の学校の姿を保ってはいなかった。
血塗ろに塗られた廊下。何者かによって割られたと思われる窓。
そして、、
「み、充希…??」
おかしい。なぜだ。死んだはずの彼が今僕の前に立っている。
「これは幻覚なのか…」
「ううん。」
「じゃあ、ここはどこなんだよ…!」
一時の静寂の後、一言、彼は僕に言った。
「これは君の求めたセカイだよ。」
「…」
思い返すと、これは僕の大好きなホラーゲームのセカイに良く似ていた。
しかし、なぜだ。彼にそんな話をした覚えは無いのに…
「稑、君はまだ気づいていないのか」
「は?さっきから何言ってやがる…」
「…もうじき、君は死ぬ。僕に殺される」
「もう…わかんねーよ…そ、そんなの信じられるわけねーだろ!教えてくれ!充希!この状況は何なんだよ!」
「本当に、バカだな。」
そう、彼がそんな質問に答えるはずがない。
いや、答えられないのだ…
今答えたら…
彼はそう言って、僕に襲撃の刃を向ける。
「遅かったね。稑。」
そうして、僕は殺された。
恐らく原因は多量出血。首を絞められ気絶させられた後に無残にもその首を切断されたらしい。
どうして………
「うぐっ…」
気づくとそこは僕の部屋。見慣れた天井だった。
「俺は…死んだ…?」
「夢…だよな…」
僕が平常心を保てるはずがない。僕自身ズタボロなのだから。
しかし、傷跡ひとつない。さっきの悪夢から抜け出したのか。
いや・・・今いるこのセカイこそが夢なのか…
その悪夢は僕に余裕を与える隙もなく目前に
君臨した。
「ねえ、お兄ちゃん、お兄ちゃんってば!」
「ん...嗚呼、凛か。どうした、珍しくそんなに焦って」
「だ、だってぇ…」
その妹の姿は足元をもじらせて何やら僕に話したいことがあるかのように伺えた。
「なんかあったのか?」
「じ、実はね…」
「お、おう…」
「私、お兄ちゃんのこと好きなの。」
「ん…?」
「だからっ!私はお兄ちゃんの事が好きなのっ!」
僕は戸惑うに決まっている。一番の友人から殺され、それが現実か夢なのかも定かでないこの状況で妹に告白されたなど、もはや空想の世界が脳裏に描かれているという幻想を抱くに他ならない。
「でも、兄妹でそんな関係は良くないんじゃないか?」
「お兄ちゃんは私の事…女の子として、見てくれないの?好きじゃ、、ない…?」
「いいや、愛しているぞ。けど、それとこれとはわけがな…」
突然の拍子に妹の鋭い発言が空気を滞らせる。
「ふぅ〜ん…好きじゃ、ないんだ」
「好きだよ…けど、やっぱり兄妹でそういう関係はダメだ。」
「…くっ…」
何故だろう。いつもの凛なら兄の話を甘えん坊の子猫の様に近寄って話を聞きたがるはずなのだが今回は違う。凛はそっぽを向いてしまってこちらの発言をまともに聞き入れてはくれなかった。
-いや、まてよ…?
「そうやってまた私を誤魔化して私に寂しい想いをさせる稑…私、好きじゃ、ないな」
「ご、ごめん…。けど、なんか今日は随分と気が散っているんじゃないか?風邪でも引いたのか?」
そういって稑は、さっきの凛の発言をまともに聞いていなかったかのようにして、デリカシーの無さが現れるというべきか、、
-ぴたっ…
「ひゃぁっ…!」
「そ、そんな恥ずかしがらなくても良いだろう?僕たち、兄妹なんだし。」
「むぅ…」
頬を染めている僕の凛はやはり格別だ。可愛すぎる。そう、可愛すぎるのだ。それが凛の最大の武器であり、最大のキョウキと化することはまだ稑は知らなかった。
2回目の世界で稑が妹に逢えたのは何故だろう。それは恐らく(2話で出てこなかったからとかいうくだらない理由ではなく、、)この世界の決められたルールに則っている、或いは、俺の夢、幻覚なのでは無いかと稑は考えている。
でも俺は一度確かに殺された。俺の大事な、一番大事な友人に。。そのせいで2回目の世界に迷い込んだ、いや、これはループ世界…なのか…正直なところ稑自身はあまりにも無自覚すぎる上に日頃からあまり考えて行動をすることに慣れてはいなかった為、この瞬間の悲劇を見逃せば、1度目の世界とまた同じ過ちを犯してしまうかもしれない。
僕は確かに、少しずつ、成長している。
「あーあっ。やっぱり振られちゃったか〜」
「やっぱりって…そりゃ付き合うなんて、できないよ…僕には凛を支えて、凛の望む存在でいられる自信がないんだ。だから…」
「もういいよ、お兄ちゃん。」
また、兄妹の沈黙が1分ほど続いた。
「ねぇ、稑」
「どうした?」
「その背後にいる人、お友達?」
「え?何のことだ?背後には誰も…」
そこに映ったのはこのパラレルワールドに迷い込んで始めて僕を殺した殺人鬼、弥生充希だ。
「何故、お前がここにいる。」
「いきなり冷たいなぁ、稑は。」
「つまらない冗談はいい。もう一度問おう、何故俺を殺したはずの人間がここにいる。いや、人間じゃない…お前は鬼だ!!」
「……んーっと、さっきから稑は何を言っているの?かな?」
今までの敵対心が無くなったかのようにして今の状況を脳裏で確認したところ、出てきた結論は可愛いっていうのはずるい。
「は?(それに、ここでその上目遣いはダメだって…)」
充希は確かに俺を殺した相手。しかし、このセカイの充希は何処と無く、少なくとも俺が学校で日々馴れ親しむ関係を築けた第一の友人、弥生充希の姿だった。
覆るはずのないセカイ、僕の豊かで楽しい日常が再び訪れる日はいつになるのだろうか。
「…ぅ〜、稑〜!おーい?稑?」
「おっ、おおう!?……!?」
「もう、またぼーっとしてた。ところで、そんなに敵対視しているような眼で僕のことを見てきたらなんだか寂しいな。」
「だ、だって、、」
「稑の言いたいことは分かる…けど分からない。」
「(どういう事だ?でもこれは間違いなく以前遭遇した狂気に染まった充希ではなく、本来の充希に思える。)
…信頼しても、いいの、かな?」
「稑?今何て言ったの?」
「い、いや!こっちの話だ。わ、分かったよ、さっきはごめん。ところで充希は今何をしていたんだ?」
「それはまだ言えないんだ。。ごめんね、稑。でも、必ずいつか、僕の宿命を成すことができた証には、君に話すよ。」
「分かった。」
「うん、やっぱり僕、稑のことは大好き」
「うぐっ…ごほっ、ごほっ…!冗談が過ぎるぞ、充希!」
「むぅ……冗談じゃ、ないのに、、」
頬を染めてこちらを威嚇するオス猫の姿が目の前に伺える。しかし、どう見てもオスでは無くメスに見えてならない。何度も話すが、充希は見た目は完璧な女性だ。それもオスが故に胸も無い。つまり、完璧なロリ、、いやショタか?取り敢えず、色々と装備が違いすぎて、僕にはとても吊り合えないくらいの存在だということだ。少なくとも僕はそう、思っている。いや、思っていた。か。。
そんな時だった。このセカイの常識を一瞬たりとも忘れてはならない。そう、常に感じて、考えて、このセカイが求める行動を取らなければ元のセカイには戻れないということを…
「ねぇ、お兄ちゃん…その人、ダレ…?」
「ん、説明するよ!この人は僕の…」
「黙れッ!!!!」
「んぐっ…凛…?」
「お前は私が一番好きだって、私を一番愛している、私しか好きになることなんてないなんてこと一度たりとも言ってくれなかった。私はこんなにもお前を愛していたのに…ッ!
お前はそんな状況を自ら創っておきながら、他の男、いやお前の目には女として映っているのだろうな。ふっ、だが、お前はどちらにせよ間違えた。お前は私を、私の中の稑を目の前のお前が殺した。それも無惨に…許さない…許さない…許さない許さない許さないユルサナイユルサナイッッッッッ!!!!!」
「なん、、で……確かに僕は凛を愛することはできない。けど、それは兄妹だか…」
「うるさいうるさいうるさいッッ!!お前なんか、私が、私の手で、殺してやるッ!!」
このセカイは決して、正常ではなかった。この第二のセカイで知った知識、それは、一度目で出会って僕を殺した弥生充希が敵では無くなったということ。そして、最も重要視すべき目の前に起こっている悲劇こそ妹が前回のセカイの充希のような狂気に染まってしまっていること。
そして、ソレを阻止しなければならないということ…
「稑っ!!避けて!!!!!」
「んぐっっ…!?!?」
「ちっ、、余計な真似を…」
「悪いね。僕の目的…宿命は、稑を守り通さなければ成し得ないモノなのでね。」
「ふふふっ…ならば、貴方も殺すだけ…今の私は誰も止められないのよ…ふふっ…」
「稑は先に行って!僕はこのバケモノ…おっと一応妹さんか!これは失礼♪でも、これをくい止める。それとほかに一つ仕事をやり終えたら、また必ず稑の元に戻る。それまでは僕も稑も死んじゃダメだからね?」
「(こいつ、絶対謝る気ないな…だが、)わかった」
「ほら!早く行って!!!」
そんな会話をしている暇も隙も彼女、凛は見計らっていたかのように攻めてくる。その速さは一瞬で、瞬きする隙も与えてくれはしなかった。
-「うっ……」
凛の持っている武器は自身の手であり、それは人以外にもあらゆる用途に要されるが故に人の身体をも貫通させる能力を持つ。
そして、凛、彼女の異名は紅い人刃。
凛は、腹を抉ることで快感を得るのだろうか。しかし、それなら脳でも似たような感触を得れる、それに即死させるには首元と様々な手段があるはずだ。
「性癖…か。」
逃げようとした稑に対し攻めてきた凛の全身が止まった。
「ねぇ、お兄ちゃん…稑お兄ちゃん…」
「…」
「私のこと、好き?」
「…」
「愛してる?」
「…」
「そうだよね…何にも言えるはずないよね…」
「…」
「お兄ちゃんは、さ、神様を信じる?」
「何故今そんなことを聞く?」
「いいから。」
「信じている。」
「そっか、ごめんね。」
その言葉を何故今のタイミングで発したのか、また、意味があるのか、稑には理解ができなかった。
「この闘いは終わりだね。」
「…」
「さよなら、稑お兄ちゃん。大好きだよ。今も、これからも…ずっと…」
-……
凛はその一言を残して自害してしまった…自分の腕で自分の首を抉り、大量出血により死んだものと思われる。その姿はあまりにも無惨で、人間がその姿を見ていられる様な状況では無かった。血みどろのその姿をすぐさま稑は抱きしめた。目から溢れる血の涙と共にして…
「死ぬな…おい…起きてくれ…そんなっ…凛…凛…凛…凛ッッッッッッッッッ!!!!!」
「仕事の途中ではあるけど、この様子だと、仕方がないね。」
「何が仕方がないんだ!?」
彼は怒り以外の感情を忘却の間に置き忘れてきてしまったかの様に狂っている。そう、彼には見えなのかもしれない。
「さっき話したよね?僕のもう一つの目的、そして宿命。それはね、僕が凛を殺し、そして、君をこのセカイから連れ戻して、、」
「…最後…最後はなんて言ったんだよ…」
「向こうのセカイ…つまり、元のセカイに連れ戻して原因を突き止める。そして君を確実に殺す。」
「…なら、今殺せよ…」
「それはできない。」
「何故だ!?凛がこんなにも無惨に死んで、俺にどんな生き甲斐を持ってこれから先過ごせと言うんだ!!」
「気持ちは分かる。けど、今はダメだ。その時ではない。……がそう言っているから」
「ん…なんて言ったんだ…」
「(ううん、稑が今これを知ったら、君は間違いなく僕には着いてこない。だから…)やるべきことが終えたら、また、2人でゆっくりお茶でも飲みながらお話をしよう。」
「僕は、、」
言葉喉から出てきそうで出てこない。
言いたい…言いたい…けど、ここはぐっと堪えて…
「分かった。」
「うん、じゃあ、元のセカイに戻る為の準備を始めよう。」
そうしてまた、充希と行動を共にする事になった。が、彼についているからといって良い結果ばかりが生まれるわけではない。それは稑が一番理解していた。
僕の求めるセカイを取り戻す…
その日までは僕は死ねない。そう心に決めた。