第三話
冒険者ギルドも営業を終え街全体が寝静まる深夜、水都ラグランシアまでの定期便に乗り込んだクエルバス。
真夜中の街道を走る馬車の中にはクエルバス以外にもう一人、老婆が乗っていた。 手に持った壺を大事そうに抱える老婆は、クエルバスを一目見て直ぐに目を伏せた。
王都ヴェルノーラから水都ラグランシアまでは馬車でおおよそ八時間、翌日の朝には到着する。
(魔技……こんな短剣一本で一体幾つの国が滅びたんですかね)
懐から取り出した短剣をぼうっと眺めると、短剣に埋め込まれた魔石が淡く輝いた気がしてクエルバスは直ぐに短剣を懐へしまった。
魔技一つで戦争が起こる。百万の兵よりも一本の武器が勝ってしまう。
遥か太古の時代に製造されたというそれらの武器は、それほどまでの力を秘めている。
過去、何度となく魔技使いと戦闘を重ねてきたクエルバスにとって魔技は嫌な思い出しか無い。 これ以上起きてても、嫌な事しか思い出さないと目を瞑ったクエルバスは揺れる馬車の中で眠りについた。
馬車が走り始めて四時間程経った頃、目を伏せていた老婆がゆっくりと慎重に動き始めた。
手に持っていた壺を置き、音を立てないようにクエルバスに近づくと息を止めて懐を探った。 クエルバスが懐にしまっていた短剣を指先で触れると、ゆっくりその柄を掴む。
同時に、老婆の腕をクエルバスが掴んだ。
「おやおや、馬車の中で盗みとはいただけませんね」
咄嗟の判断でクエルバスの手から逃れようとしたが、クエルバスの力は徐々に強まり老婆の腕をへし折る勢いだ。
「……っち、失敗した!」
本性を現した老婆が壺に向かって叫ぶと、壺の中から瞬く間にローブに身を包んだ三人の男女が現れた。
「警戒をさせない為に老婆に擬態したが、殺して奪うしか無さそうだな」
ローブの男の内の一人がナイフを持ってクエルバスに切りかかったが、クエルバスは老婆を馬車から投げ捨てると、ローブ男の攻撃を難なく躱して躊躇なくローブ男も馬車から蹴り落した。
瞬時に仲間が同時に二人もやられたローブの男達は、警戒してクエルバスから一定の距離を取る。
「一体誰の指示なのか、話して頂きましょうか」
狭い馬車の中、一歩一歩ローブの男達に歩み寄るクエルバス。
「くっ、それ以上近づくんじゃねぇ!」
ローブの男の一人がクエルバスに剣を向けるが、切っ先を指で触れられただけで刀身が粉々に砕け散った。
恐怖と驚愕に開いた口が塞がらないローブの男も、馬車から投げ捨てられる。
次はお前の番だと、クエルバスが最後の一人に目を向けたと同時にローブの女は両手を上げていた。
「まだまだ目的地に着くまで時間があります。ゆっくりとお話を聞かせて頂きましょうか」