第二話
「あの、クエルバスさん! 先程は本当にありがとうございました!」
冒険者ギルドのカウンター内に戻ったクエルバスに深々と頭を下げる少女。
「いえいえ、これが私の仕事ですので。お顔を上げてくださいミシアさん」
「はい、ありがとうございます!」
「と、言いたいところですが……クエストの受付受理のミス、今月で何件目ですか?」
「はひぃ! えっと、すみません!」
「何件目ですか?」
「ひぃ! 笑顔ですけど目が笑って無いです!」
「十を超えた辺りで私も数えるのは止めましたよ。そんなにミスばっかりしてるとこの仕事クビにされてしまいますよ?」
「はぅ、このお仕事が出来なくなったら私……」
一つ小さな溜息を吐くと、しゅんと目を伏せるミシアの頭を撫でるクエルバス。
「でしたら、もう同じミスはしてはいけませんよ?」
「は、はい! 挽回するために頑張ってきます!」
クエルバスにもう一度軽く頭を下げた後、笑顔で受付に戻ったミシアを手を振って見送るクエルバス。
「昔に比べて随分と丸くなったじゃないか、ほら報酬だ戦争屋さん」
クエルバスとミシアのやり取りを柱に背を預けて立ち聞きしていた女性は、銀貨を一枚クエルバスに向けて指で弾いた。
「はて、昔から私はこんな感じですよ?」
それをいつも通りの笑顔で受け取るとポケットに突っ込むクエルバス。
「冗談はその面だけにしとけ。一体何人の冒険者が貴様に仕事を奪われたか……まぁ、今となってはそんな事はどうでもいい、一つ貴様に頼みたい事がある」
改まった彼女の態度に、クエルバスは笑顔で首を傾げた。
女に連れられギルドの二階へと赴き、階段を登ってすぐの部屋へとはいる。
「それでギルドマスター、今回は討伐系ですか? それとも攻略系?」
クエルバスが尋ねるとギルドマスターは無言のまま一本の短剣を取り出しクエルバスへと放った。
慌てる様子もなく受け取ったクエルバスは短剣を眺め品定めを始める。
一切の乱れのない白刃模様に少し反りのある刀身。ひと目で分かるほどの業物、その柄頭には血よりも濃い魔石が埋め込まれていた。
「これは……魔技ですか?」
「ああ。それも特一級、古代王国遺跡から出土した代物だ。今回はその護衛移送を頼みたい」
「失われし技術体系の聖遺物ですか。いやはや、これ一本で小国が買える代物ですよ」
「そんな物を一介の冒険者には頼めないからな。日数は問わない、ここから南にある水都ラグランシアの技術屋へと渡してくれ」
技術屋という名を聞いた途端、クエルバスは露骨に嫌な顔をした。
それを見たギルドマスターはプッと噴き出し、笑い声を上げる。
「アッハッハ。君でも渋い顔をするものだな」
「……アイツのことはあまり得意ではなくてですね、ええ。本当に得意ではないんです」
「すまないな。今回の件、おそらくは奴らも一枚噛んでくるだろう。戦争屋であるお前以外には務まらんよ」
「……本当、一枚岩ではないですねぇ」
何かを察したのか、クエルバスは苦笑いを浮かべながら短剣をしまい込む。
それと同時に女から小袋が投げ渡され、その重みからクエルバスはギルドマスターへと視線を向けた。
「戦争屋、前金代わりだ。旅支度するのに使え」
「これはどうも。では、今日の夜にでも出立しますよ」
「ああ、分かった。あとで使いをやるから、なにか困ったことがあればそいつに言付けておいてくれ」