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英雄は三度死して何を想うか  作者: 花山 玄水
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第一話

 冒険者ギルドの一角で、大剣を背負った男が険しい顔をして一人の少女を相手に詰め寄っている。

 ギルド規定の制服姿の少女は、男の鋭い剣幕に完全に委縮してしまっている。


「お前、いい加減にしろよ!」

「はぅ! す、すみません!」


 怒りに任せるまま少女の顔の数センチ横の壁に手を当てて、怒号を飛ばす男をパーティーメンバーが宥める。


「まぁ、その辺にしとけよガイ。何事も無かったんだからさ」

「俺達はこのガキのせいで死に掛けたんだぞ!」


 パーティーメンバーに宥められ、壁から手を放したが怒りが収まらないと言わんばかりに一つ小さな舌打ちをするガイ。


「でもでも、ビックリしたよねー。あたし達はアイスラットの討伐を受けたつもりが、まさかレッドヒドラの巣に送られるなんて」


 とんがり帽子に黒いマントを羽織った魔法使いの少女は、怒りを通り越して呆れた様子。


「それもこれも全部、このガキがクエストの受理をミスったせいだろうが!」

「すみませんでした! 本当にすみませんでした!」

「すみませんでしたじゃ済まねぇだろうが!」


 魔法使いの少女の話を聞いて怒りがぶり返したガイをカウンターの中から見ていた男が、痺れを切らした様子で仲裁に入った。


「はいちょっと失礼、失礼しま~す!」

「なんだてめぇ!? お前もギルドの従業員か!?」

「そんな怒鳴んないでくださいよぉ旦那ぁ。ほら、笑顔でね? スマイルスマイル!」


 一転しておどけた雰囲気を見せる男は怯える女性とガイの間に割って入ると、両手で口をニィっと釣り上げてニヘラと笑った。

 その仕草にガイのパーティメンバーは呆然とし、あまりにふざけた態度だとガイの額には青筋が浮き出ていた。


「テメぇこら……覚悟できてんだろうな?」

「いや、いやいやいや! そんな困りますぅ。ギルド内での暴力行為は違反ですのでぇ、ええ。確かに今回の一件、私共に非はあります……が! そういった行為は、ね? 外でやりましょうよぉ」


 男は揉み手でガイに擦り寄り、意味深にカウンターの奥を見やると煽るように言葉を続けた。

 ついには堪忍袋の緒が切れたガイは男の首根っこを捕まえると持ち上げてそのまま外へと引っ張り出す。パーティメンバーがなにやら声をかけようとしているが、制止も聞かずに通りへと躍り出る。

 無抵抗のままにヘラヘラとした男はギルド前へと投げ出され、服についた砂埃を払うとガイと対峙した。


「おいガイ、まずいって! 相手はギルド員――」

「うっせぇぞバルトラ! このガキ、二度とそんな口を聞けねぇようにさせてやる!」


 もはや暴徒とかしたガイ。大剣をホルダーから取り出すと切っ先を男へと向ける。

 鈍く光る大剣を前にしても緩みきった顔を正そうとはせず、男はただ直立したまま微動だにしない。


「乱暴ですねぇ、生身の人間に大剣って。殺すつもりですか?」

「ハッ! 腕の一本や二本、構やしねぇだろ? 冒険者様に楯突くとどうなるかって見せしめにしてやるぜェッ!」


 ガイは大木の様な鍛えられた両腕で大剣を男めがけ振り下ろす。砂埃が再び舞い、視界が悪くなる中、ガイはにやりと下卑た笑みを浮かべる。


「――はぁ、本当に殺すつもりですか?」

「……あ?」


 砂埃が晴れると、そこにはやはりニヘラとしたまま、ただ片手を前に出し突っ立ってる男がいた。


「な、ど、どうして……!」

「はい天誅!」


 パンッっとなにかが弾ける音が辺りに響き、しばしの静寂が訪れる。

 するとガイは崩れ落ち、大剣と共に地に伏した。


「そんな乱暴ですからギルドに目をつけられるんですよ。ねぇ?」


 男は微笑んだままギルドへと戻っていく。

 呆れた様にパーティメンバー達はガイへと駆け寄る。


「おーいガイ、大丈夫か?」

「……あのガキ、何者だ?」

「だからマズイっていったじゃねぇか。あいつ、ギルド員なんかじゃねぇよ」


 パーティメンバーは歩いて行く男の背を眺めながら続ける。


「『戦争屋』……お前も聞いたことあるだろ?」


 そういえばとガイはふと思い出す。

 荒事が絶えない冒険者界隈、ギルド側にも及ぶその行為の対応策として世界各地にあるギルドへ配置された使徒。

 使徒の中で最も気性が穏やかで笑みを崩さないにも関わらず、不釣り合いなほど物騒な名前を持つ男がいると。


「戦争屋のクエルバス。あの西の流転竜を滅した大英雄さ」

某氏との共同作品です

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