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暗殺は段取りが全てです

さて、次の日私は皇太子から貰った息子魔王の情報を元に偵察に向かった。暗殺の基本は段取り99%である。時と場所さえ確定出来れば落とし穴ですら人は殺せるのだ。

皇太子の息子、つまり王子は町外れの今は使われていない砦に住んでいた。肩書きとしては王都の前衛守備隊の指揮官である。だがそれは建前で実際は息子魔王を軟禁する為に皇太子が用意した牢獄だ。だから指揮下の部下たちも全て皇太子直属の近衛隊員だ。彼らの任務は町や王子を守ることではなく息子魔王をこの牢獄に押さえ込む事である。だが主と慕っている皇太子のご子息を見張るなどという任務は辛いはずだ。故に砦を守備している物見ですらピリピリしているのが外からでも感じられた。


王子はこの砦の中なら行動に制限は掛けられていないという。そらそうだ。王子が魔王の生まれ変わりだと知っているのはごく一部のものだけである。近衛隊員たちですら本当のことは知らされていない。ただ王子に謀反の疑いありと言われているだけだ。いや、近衛隊の隊長だけは知っているとのことだ。そうだよな、でなきゃ部下からの疑問に答えられないもんな。中間管理職は大変だ。


私はぐるっと砦を一周してみる。うん、砦自体は普通だ。前面の壁は頑丈だが後ろは安普請である。あくまで敵の攻撃を正面から防ぐ為だけに特化した防衛拠点だ。篭城することは考えられていない。つまりこの砦は槍であり盾ではないのだ。こんな砦では息子魔王を押さえ付けておけるものではない。

ただ王子という立場柄辺境に飛ばす訳にはいかなかったのだろう。事が起こった時、王都内で一番被害が出にくい場所がここだったと言う事だけだ。それでももう何十年も敵の侵略を受けていない王都の砦である。隣町との街道もあることから周りには民家がびっしり建ち並んでいる。確かにこれではミーシャには任せられない。


砦を観察しながら私はあることに気付く。砦の四隅にある家から只ならぬ気配を感じたのだ。それは結界である。成る程、魔法使いに守らせているのか。さすがは皇太子だ、抜かりがない。でも逆に王子魔王は警戒しているだろうな。皇太子は撃退したものの次の手を打ってくるのは判りきった事だ。魔王に対しては勇者をぶつけるのがセオリーである。だから息子魔王も対勇者戦の用意をしているはずだ。そこに私が漬け込む隙がある。勇者は暗殺などしない。正面から堂々と敵を打ち負かしてゆく。勇者の強さは正しさにある。信じるモノの為に全てをかける。だから勝つ為とはいえ暗殺なんて考えも浮かばないのよ。ピュアなんだから、もぉ。


でも剣士は違う。特に戦場を経験した剣士は勝つためには、自分が死なない為にはどんな汚い手でも使う。これが道場剣士あたりだと覚悟に甘さが出てしまう。技量では遥か上をいく道場剣士が一介の野良剣士に敗れることがあるのはそんな理由からだ。故に道場剣士は野にくだった剣士より一段低く見られる。でも剣技だけならすごいんだけどね、あの人たち。でも死んじゃったら元も子もないじゃん。生きていてこそのものだねよ。


さて、あんまりうろうろしていても怪しまれる。今日はこれくらいにしておこう。

私が王宮に戻ろうと踵を返した時、一輌の馬車とすれ違った。前後には護衛の騎士たちが追従している。そのまま街道を抜けて行ったならどこぞの貴族のお出かけと気にも留めなかっただろうが、彼らは砦の中に入っていったのだ。

私の第69感が警報を鳴らす。う~んっ、私あの体位ってあんまり好きじゃないのよねぇ。なんか集中できないってゆうか、でも男の人は喜ぶのよ。まぁ、私の観音様を目の前にしたら喜ばない訳ないか。


私は近くの店に立ち寄りおやつを食べながら彼らが出てくるのを待つことにした。後で皇太子に調べさせてもいいけど情報は一次のオリジナルのものが大切だから。皇太子と言えど私に全部教えるとは限らないからな。王族に不利な事なら隠すかもしれないし。というか、普通隠しちゃうんだよねぇ。そして失敗する。気持ちは分かるけど情報の出し惜しみはしちゃだめよ。信頼があってこその暗殺なんだからさ。

「おじさん、さっきなんかすごい馬車が通ったわねぇ。さすがは王都。もしかして王様の馬車だったのかしら。」

私は店の主人にカマを掛ける。

「えっ、いや王様がお通りになる時は事前に通達があるから違うよ。どこかの貴族の馬車だったんだろう。」

「ふぅ~ん、でもお忍びとかされないの?あの砦に入っていったんだけど。」

「んっ、ああっ、それならデマンド伯爵の馬車だろう。あの砦の責任者だから。最近はちょくちょく来るよ。」


「へぇ~、伯爵様かぁ。貴族様といっても遊んでばかりではないのね。」

「はははっ、働くって言ったって俺たち庶民とは違うのさ。なんせ、抱え込んでいるものが違うからな。何かやらかして没落したらそれまでだ。跡継ぎができないだけでお取り潰しになった貴族だって少なくないんだぜ。」

「ありゃりゃ、そんな時は私を呼んでくれれば良かったのに。ぽんぽんぽ~んとお世継ぎを産んじゃうわ。」

「おっ、言うねぇ。何なら俺の子も産んでみるかい?」

「ふふふっ、おじさん、う・し・ろ。」

私は店の主人の後ろに立つおかみさんを指差して警告する。

「えっ、あっ!いや、うそっ!冗談だってば!待て!こら、話を聞け!」

おかみさんは顔を真っ赤にしながら店の奥に引っ込んでしまった。店の主人も後を追う。どっちゃんがらがらと大喧嘩の音が聞こえない所をみると一応話し合いで事が進んでいるのか。もしも、これがおかみさんの演技だったらすごいな。旦那は賠償金として何を買わされるんだろう。その後、私は二時間ほどをその店で過ごす。おかみさんは旦那から約束を取り付けた新しい服の話を私に聞かせる。あらら、やっぱり演技だったのね。やるな、おかおみさん。私も見習おう!

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