助っ人登場
翌日、皇太子は私に一人の女の子を紹介した。紹介といっても今回の暗殺のパートナーとしてである。だから付き合ってくださいなんてボケは噛まされなかった。うん、私別に男が無性に好きな訳ではないけど、だからと言って女の子が好きな訳でもないから。私が好きなのは私だから。自分ラブ!私サイコー!
さて、話を戻すけど今回のターゲットはなんと魔王である。最近の魔王は分家が多すぎて、ひとつひとつの魔王はそんなでも無くなって来たんだけどそれでも魔王には違いない。勇者ならともかく剣士ひとりでは荷が重い。そこで皇太子は助っ人を用意してくれた。
その魔法使いは大きなトンガリ帽子を被り、魔法使い定番のマントで小さな体を包んで皇太子の脇にちょこんと立っていた。
「ご紹介に預かりました、魔法使い見習いのミーシャ・クリスタルです。」
なんかすごいワードが混じっていたぞ。聞き間違いか?
「見習い?今、見習いって言った?」
「はい、魔法使い見習いのミーシャ・クリスタルです。以後、お見知りおきを。」
うわっ、頭がくらくらしてきた。
「ちょっと、皇太子!あんた実は暗殺に失敗してほしいの!?今更怖気ついた?これはどうゆうことよ!暗殺って実戦なのよ!しかも失敗が許されない一発勝負なの!あんたやる気あんの!」
私は皇太子にくってかかる。いや、私じゃなくたって怒るわよ。
しかし、私の怒気に皇太子はちっとも揺るがない。というかなんか面白そうに笑っているわ。もしかしてからかわれた?
「剣士アイシャ。肩書きだけで人を判断するのは危険だぞ。3級戦士だって降格処分を受ければ2級だ。例え3級の実力があってもな。」
いや、その例えはどうかと思うぞ。ほら見ろ、女の子が機嫌を害して足を踏んづけているじゃないか。おっ、こいつ慣れているな。体重が軽いから足の甲じゃなくて小指に全体重をかけたよ。痛そぉ、ざまあみろ。いや、今の台詞は私が言うことじゃないな。
「ううっ、いや、ミーシャは降格なんかじゃないぞ。ただ師匠がちょっと偏屈でな。自分の後を継ぐのはミーシャだが、それは自分が死んだ後だとぬかしてミーシャに正魔法使いの称号を使うのを許さんのだ。」
ああっ、成る程。うん、魔法使いの世界では間々あるらしいわね。納得。
「となると実力としては2級?」
私の問いかけに少女がちょっとムッとする。おっと、これはもしかして。
「もしかして3級相当ですか?」
私の言い直しに、少女は無い胸を突き出して自慢げである。
「おおっ!」
私はリップサービスで大げさに驚いてあげる。いや、それが本当なら実際すごいことなんだけどさ。
「本来なら攻撃魔法で一瞬にて黒こげにしたいところですが、今回は暗殺ということですのでサポートに徹します。」
少女は事も無げに随分なことを言う。でも実際にこの目で確かめるまでは信用できないな。とんとん拍子にランクを駆け上がったやつって実戦で大ポカをかますからさぁ。ビビって自分を撃つやつなんかざらだからね。
「まぁ、言葉だけでは信用できまい。ではミーシャの実力を見て貰おう。」
そう言って皇太子は私を城の脇にある練兵場に連れ出す。おっと、城内だって結構広いところはあるのにわざわざ練兵場とは言葉通りにすごいのか?
「ではサポート系として迷彩魔法と結界魔法をお見せします。その後、攻撃系として爆裂魔法をご覧ください。」
そう言った途端、少女は掻き消えてしまった。呪文も初動も無しですか!あらら、すごいわ!2級の上位クラスじゃない!
「只今あなたの周りに結界を張りました。距離は約1メートルです。試してみてください。」
少女が居た辺りから声が聞こえる。うわっ、並列術式動作ですか、うん、彼女は口先だけじゃなかったわね。さすがは皇太子が連れて来るだけのことはあるわ。
私は腰から短剣を引き抜き剣先に闘気を乗せて何も無い空間を一気に切り裂いた。パンっという鋭い音と共に私が切り裂いた空間に一瞬だけ閃光が走る。手応えはあった。私は少し歩いてみて結界が無くなっている事を確認した。
後ろを振り向くと彼女は迷彩を解き姿を現している。
「申し訳ありませんでした。私はあなたを少し侮っていました。お許しください。」
彼女は自分の結界が私に破られて驚いたのだろう。それだけ自信があったのか。うわ~っ、全力でいっといて良かったぁ。危うく恥をかくところだったわ。
「では私の全力もご覧ください。」
「うわっ、待て!ここじゃ駄目だ!」
彼女の全力宣言に慌てて皇太子が制止に入る。ここって200メートル四方はあるわよ?それで駄目ってどんだけなの?
彼女は皇太子に止められてお冠だ。それでもしぶしぶ術式を唱え始める。
「絶対、駄目だからな!」
皇太子が再度念を押す。あらら、信用されてないのね。そんなにすごいのか?私、3級の本気って見たことないからなぁ。
「爆裂魔法!アトミックボンバー!範囲限定十分の一!」
彼女の掛け声と共に練兵場の上空に地獄の業火が現れた。真下にあった練習用の木材が業火に接していないにも関わらず一瞬で灰になる。地面もこんがり焼かれてあちこちにひび割れが生じる。ただ私たちや周りに影響が及んでいないのは彼女が何かしているのだろう。この距離であんな火球をまともに見たら全身やけどくらいじゃ済む訳が無い。火球が猛威を振るったのは1秒ほどであったが、練兵場の上空には空気中に含まれていた水蒸気だろうか大きなきのこ雲が天に向かって昇って行く。その影響で練兵場周りでは火災風が発生し竜巻のような突風が30秒ほど吹き荒れた。
「すごい・・。」
私はやっとそれだけを口にすることが出来た。これで全力じゃないなんて・・。やっぱり3級って化け物だわ。
「お目汚しでした。申し訳ありません。」
あれだけの魔法を放ったにも関わらず彼女は謙虚だ。しかもケロっとしているよ。普通あんな魔法を使ったら立っている事すら難しいはずなのに。私はため息をついて皇太子に話しかけた。
「彼女がいれば私の出番なんてないんじゃないですか?」
「壊すだけならな。だが魔王を倒す為だけにあんなのをぽんぽん放たれては町が無くなってしまう。ミーシャにあれを使わせてくれるなよ。」
成る程、魔王の居るところは町中なのか。ならあれは駄目だな。まぁ、良い物を見させて貰ったと思っておこう。う~ん、ちょっとちびったのは内緒だ。