無償のもてなしには裏があるのよ
その後、皇太子は城中のベットを私に見せてくれた。残念と言うかやっぱりと言うか、その中に私のベットはなかった。神さまがくださったベットがどうゆうものか私には分からないけど見れば分かるはずだ。多分私にだけきらきら輝いて見えると思う。だから私がその事を告げると皇太子は少し残念そうだったが、急ぐ旅でもあるまいと暫く城に滞在しろと言ってくれた。いや、ほぼ命令である。後ろで鯉口を切る音をさせながら言わないでよ。ちびっちゃうじゃない。
そして夕食をご馳走になりながら私は皇太子にこれまでの私の人生を語ることになる。だって聞いてくるんだもん。断れないわよ。相手、皇太子よ?
「ほうっ、そんな事があったのか。しょうがないやつはどこにでも居るのだな。まぁ、野良犬にでも噛まれたと思って諦めろ。どうせ憂さは晴らしたのだろう?」
さすがは皇太子である。大雑把だ。大局を見なきゃならない人は細部に拘らないのね。でも野良犬って・・、どこでそんな語彙を覚えたんだか。この人本当に皇太子か?
でも私の話を聞き終えた後、皇太子は自分の事も話してくれた。実は兄が二人いたがどちらも死んでしまったこととか、甥に当たる兄たちが残した息子のこと。そして自分の息子のことなど。そしてなんで門番なんかをしていたかなど実にバラエティーにとんだ内容だった。あんたそれ自伝として出版したら売れるわよ。半分以上嘘っぽいから読み手は大喜びだわ。なんで王子が勇者に憧れるのよ。いや、それはありか。うん、男の子だもんね。でも兄さんたちの件はひどいなぁ。さすが魑魅魍魎が蠢く王宮だわ。権力闘争がハンパないわ。私、庶民でよかった。
そしてワインが程好く回った所で王さまの話になった。
「悪いが王に謁見させるわけにはいかない。お前の身元は駐屯地の将軍が保証してくれたが個人の都合でおいそれとは会えぬのが統治者と言うものだ。どうしても会いたいと言うのなら・・、そうだな、何か手柄でも挙げて見せよ。」
「いえ、結構です。」
ここに私のベットが無いならわざわざ王に会う必要はない。
「そう言うな。お前は練習をしたいのだろう?他国の王とて簡単には会えぬぞ。なら会う為の方法をここで学んでゆけ。」
「う~・・。」
皇太子はさすがは統治者である。話を持っていくのが上手だ。でも手柄って言われても魔物をちょっと片付けた位では駄目でしょう?ドラゴン討伐は絶対に嫌よ。私、勝てない勝負は絶対にしないの。
「お話はありがたいんですけど、王さまに謁見できる程の手柄を挙げられる自信はないわ。」
「まっ、そうだな。今は対外的にも安定している。戦士や剣士が功名を挙げるにはちとつらい時期だ。」
こいつ、自分で振っといてそれかい!
「だがわしはお前が気に入った。だから少しズルをしてやろう。わしがある仕事を仕組んでやる。それを解決するがよい。どうだ、簡単だろう?」
でたよ、ヤラセだ、出来レースだ、事務所間取引だ。絶対私の為じゃないよ。でも断れないんだろうな。断ったら明日起きたら絶対牢屋で目が覚めるよ。
「トイレ掃除ですか?まぁ、それくらいならやってもいいかな。」
敢えて私はボケてみる。皇太子がただの気紛れで言ったのであればこれで察してくれるはずだ。
「うむっ、城内を清潔に保つのは骨が折れる仕事だからな。10年も続ければ王からお言葉を頂いてもおかしくない。やるか?」
くそっ、ボケ返しかよ。誰がやるか!
「あーっ、ちょっと考えさせてください。10年くらい。」
ボケにはボケじゃあ。こうなれば根競べだ。ネタが先に無くなった方が負けだぞ!
「ほう、良い心がけだ。だが無為に10年を過ごす事はあるまい。掃除をしながら考えろ。決心が付いた頃には年季も明けている。晴れて王に謁見できるぞ。」
あのぉ~、このネタまだ引っ張るんですか?しつこいなあんた。
「勘弁して下さい。」
私は早々に白旗を揚げる。
「さて、では本題に入ろう。実はお前にやって貰いたいことがある。」
あ~っ、出たな。そうだよねぇ、いくら気に入ったからと言って一介の剣士にこの待遇はないわな。くそ~っ、対価を前払いして断れなくしてから話を持ち出すなんて、やっぱり為政者って黒いわ。いや、私が人を疑うことを知らない可憐な乙女すぎたのか?