皇太子への謁見
そして待つ事1時間。やっと門番が戻ってきた。門番に連れられて私は漸く建物の中に入れて貰えた。あ~っ、ちょっと先におトイレ借りていい?おしっこしたいんだけど。
事を済ませてすっきりした私は建物内の奥まった場所にある部屋に通される。そこには一人の偉そうなやつと護衛と思しき男がすでに居た。私は勧められた席に腰掛ける。うん、これも礼をもって進めたんじゃなくて警備上での対応よね。だって進められた椅子ってすごく重たいんですもの。抜かりないなぁ。
「で、剣士アイシャ・ゴルデニウムとやら。我が王に確かめたい事とはなんであるのか?」
正面の椅子に座っている偉そうな男が私に問い掛ける。私は門番に言った事を繰り返した。
「私は神からある啓示を受けた。それを確かめる為に王、もしくは皇太子に会わねばならぬ。残念ながら啓示の内容を貴公に話すことはできぬ。私の行動は神の意思に基づいている。それを断ることは神のご意思に仇なすことに等しい。如何に賢王と民に慕われる王であっても神の前では一介の赤子である。如何なる災いが降りかかるやも知れぬぞ。」
私の言葉に相手は暫し沈黙する。
「そうか、ではこうしよう。我こそはこの国の王、賢王と称えられしキリウス・グラミリアの第三子、皇太子サミュエル・グラミリアである。さすればお主の神への制約はなくなった、話せ。」
あっ、くそっ!そうきたか。参ったなぁ、ここで相手の素性を疑うと話が終わっちゃうからなぁ。しかもなんとなく偽者を匂わせている言い振りが逆に疑わしい。なんか面倒臭くなっちゃったな。もう帰ろうかなぁ、いや、帰して貰えないか。
「あーっ、実はですね、私ちょっと前に隣との国境で魔物退治をやっていたんだけどその時神さまが現れたのよ。そして神さまったら私の善行にいたくご満足されたらしくてご褒美をくれたの。でもほら相手は神さまじゃない?ぽいっとはくださらないのよねぇ。で、世界のどこかにご褒美を準備したから後は自分で探せって事になって、取り敢えず一番近場で可能性の高かったここに来たわけ。アンダスターン?」
私は敬語を止めいつもの調子で話し出す。相手が素性を誤魔化すんだからこちらもそれなりの対応をするぞと暗に匂わせるためだ。警護のあんちゃんたちは私の言葉使いに渋い顔をしたが男は意に介していないようだ。
「ほうっ、神が現れたか。それはまた運の良い事だったな。だがお主はそれを信じたのか?聞けば魔物との争い中の出来事とのこと。あやつらに幻でも見せられたのではないか?」
「あーっ、どうだろう。可能性は否定出来ないけど、鰯の頭も信心だからね。信じるものは救われるのよ。時々は。」
「はははっ、そうか。して、お主が望んだ褒美とは何ぞや。王の下を尋ねるとあらば相当高望みしたものであろう。話してみよ。」
なんだこいつ、随分な言い草だな。まっ、私も同じか。
「実はねぇ~、私が望んだものはベットなの。ベットの上での快適ふわふわ生活。朝起きてから夜寝るまでず~っとベットの上で暮らせる幸せ!この世のみんなが渇望する究極の生活!そんな天国みたいな楽園を希望しました。」
「・・・。」
おっと、反応が薄いな。ふんっ、お前らみたいな恵まれたやつらには私の夢なんて分からないだろうよ。でもそんな事では民に寄り添えないぞ!もっと勉強せい!
「財や権力ではなくベットだと?」
漸く男が口を開く。ほ~ら、やっぱり理解出来ていないよ。あんた指導者失格だ。出直して来い。
「まぁ、どちらかというと両方かな。ふわふわベットライフは無償では実現できないからね。ある程度の財や権力がないと続かないでしょう?私、まだ若いから少なくとも40年は続けて貰いたいからさぁ。」
「・・・。」
あれ?また黙っちゃったよ。私、そんなに変なこと言ってないよ?生涯保証なんて普通だよね?
「つまり、王の妾になりたいと言うことか?」
漸く男の口から出てきた言葉は陳腐なものだった。これだから男ってやぁねぇ。焦点がそこにしかいかないんだから。
「まぁ、そうゆう形も否定しないけど、それって40年も続けられるの?」
「くくっ、現王はお歳だからな。ちと難しいか。だが我なら可能だ。」
いやいや、あんただっていい歳だろう。何歳まで生きるつもりなんだ。
「うん、確かに王さまたちなら私の望みを叶えられるかもしれない。でも、私は神さまから頂いちゃったからさぁ。神さまが用意したベット以外で夢を叶えちゃうと罰が当たっちゃうと思うんだよね。」
「ほうっ、我にはその資格がないと申すか?」
「可能性はあるけど低いんじゃないかな。ほら、何たって神さまからのご褒美じゃない?いきなり当たりを引けるとは思わないんだ。だから申し訳ないけどここに来たのは練習だったの。当たりを見つけた時に失敗しないようにね。」
私は本音を話した。向こうは気に触ったかもしれないけど繕ったってしょうがないからね。いざとなったら一目散に逃げるわよ。
「うむっ、中々面白い話であった。如何いたしますか皇太子。」
「へっ?」
男は私の後ろで待機していた門番に問い掛ける。
ちょっと~っ!そんなベタな展開はやめてよね!何で皇太子が門番をしてるのよ!経費削減か!罰ゲームだったのか!それともこれも引っ掛けか!
「はははっ、これだから門番は止められぬな。しかし、こんな面白い話は久しぶりだ。これ娘、今晩は泊まってゆけ。わしはお前に興味を持った。もっと話をしよう。」
門番が私の後ろから話しかける。気付けば先に皇太子を名乗った男は椅子を立ちこちらに向かって頭を垂れている。ぎょえ~っ、演技じゃないのかほんもんかい!
「ろっ、牢屋で取り調べなんてオチじゃないでしょうね。」
「おっ、それは思い付かなかったな。うん、それも面白そうだ。そうするか?」
「勘弁してください。」
お茶目な皇太子に何故か気に入られ、その日私は王宮に泊まることとなった。
う~んっ、朝起きた時、鎖に繋がれていたらどうしよう。